2015年 「第3の矢」は、企業自身が自らの手から放て

株式会社矢野経済研究所
代表取締役社長 水越 孝

新年おめでとうございます。年頭にあたり謹んでご挨拶を申し上げます。

私たちは今、これまで以上にダイナミックな変化の中にあって、それゆえ市場創出機会はかつてないほど多様化しています。

昨秋、経産省は再生可能エネルギーの固定価格買取制度を見直すことを発表しました。また、原油の急落はロシアをはじめ資源国の通貨安を招くとともに、シェールガスなど新エネルギー関連の投資収益性に影響を与えつつあります。しかしながら、電力の規制緩和や再生可能エネルギーへの流れは、短期的な反動や一時的な政策調整があったとしても変わるものではありません。

日立は、送電設備大手ABB(スイス)との合弁会社の設立を発表しましたが、同社との連携強化は2016年4月の電力小売の自由化だけが狙いではないでしょう。ABBは太陽光発電向けインバーターや風力発電プラントの実績も豊富です。

電力改革におけるビジネスチャンスは大手重電だけのものではありません。電力需給予測サービスや顧客管理システムといったIT分野から制御系機器や計測器メーカー、更にはマンション管理会社に至るまで、新たなソリューションが必要とされます。高い精度、きめ細かなサービス、安定した運用管理技術、これらはそもそも日本の得意とする分野であり、このノウハウは新興国を含め世界で通用するはずです。

燃料電池車、電気自動車も然りです。自動車産業の裾野構造を変えるだけではありません。セブンイレブンは岩谷産業と提携し、今年から水素ステーションを併設した店舗を順じ出店すると発表しましたが、これはコンビニという小売業態の更なる進化を促すはずです。つまり流通業の業態間競争をもう一段加速させるということです。

自動車では衝突回避支援システムの標準装備も進んでいます。グーグルが勢いづかせているとも言えますが、誰もがその先にある自動運転の実現可能性を予感するに十分な現実が目の前にあります。こちらもセンサーやカメラなどのメーカーはもちろん、道路サイドのインフラや各種情報サービスとの連携、あるいは自動車保険商品のイノベーションなど、幅広い業種業界に新たな事業機会を提供することでしょう。

ロボットも日本の産業を牽引するはずです。無人航空機(ドローン)のレギュレーションは米国に先行されそうですが、実用領域が未知数であるだけにサービス開発で優位に立てれば日本も存在感を発揮出来るでしょう。産業用、防災、老朽インフラの点検・管理、介護、医療、教育、各種生活支援サービス、防衛、警備、レジャー、エンターテインメントなど、ロボット技術の適用可能性は無限です。それぞれの分野で実用化が進展すれば、あわせてソフトウェア開発、運用管理、メンテナンス・ネットワーク、オペレーター養成といったニーズも喚起されます。とりわけ、ヒューマン・コミュニケーション技術を中核としたサービスやコンテンツ・ビジネスにおける日本のポテンシャルは世界でもトップレベルにあると言えます。

昨年は訪日外国人が1300万人を越えました。2020年の東京オリンピックに向けて「インバウンド」市場の潜在需要も益々大きくなるでしょう。そして、これを確実に実需に結び付けるためにもムスリム対応力の強化、すなわちハラールへの理解が不可欠です。弊社はインドネシアのハラール認証機関LPPOM MUIと提携、昨秋から最新のハラール情報の提供とコンサル業務を開始しましたが、アウトバウンドも含めた日本企業の期待の高さに驚かされます。日本、中国、欧米の外側に、まったく手付かずの成長市場があることに日本企業もようやく気がつきました。遅きに失したとも言えますが、じっくり、丁寧に仕事と向き合う日本人気質そのままにムスリム社会に根を張ればよいと思います。おもてなしの国の真価は、むしろ、こちらから出向いた時にこそ問われるものです。クールジャパンの本質とはそういうものであって欲しいと願います。

上記は一例に過ぎません。すべての事業領域で成長分野が見出せるはずです。政策や景気からいかに自立した経営を実現するか。企業はそこが問われています。すなわち、第3の矢は、それぞれが自分自身で放つものでなければならないと私たちは考えます。

どうか本年もよろしくお願い申し上げます。