今週の"ひらめき"視点

2019 / 09 / 20
今週の“ひらめき”視点
台湾、孤立と独立の狭間の中、2020総統選挙へ

国民党の予備選に敗れ、無所属での出馬を目指していた鴻海精密工業の郭前会長が出馬を断念した。これにより国民党支持者の分断は回避されることとなり、2020年1月の総統選挙は韓国瑜氏(国民党)vs 蔡英文氏(民進党)、すなわち、親中派 vs 独立派の一騎打ちとなる情勢だ。

9月17日、中国外務省は「ソロモン諸島の台湾との国交解消を歓迎する」との声明を発表した。中国は2016年に蔡英文氏が総統に就任して以降、執拗に台湾の外交的孤立をはかってきた。まずは中南米とアフリカをターゲットに5ヶ国を断交に追い込んだ。そして、今回のソロモン諸島、これで台湾と外交関係を維持する国は16カ国、うち5ヶ国が南太平洋の島嶼国となった。中国にとって南太平洋は対米、対豪の戦略的要衝であり、インフラ開発を軸とした経済支援と最大貿易国として影響力を高めてきた。残るはキリバス、マーシャル、パラオ、ツバル、そして、ナウルである。

ちょうど1年前、ナウルで開催された太平洋諸島フォーラム(PIF)で議長国のワガ大統領は中国代表団の会議での振る舞いを「傲慢だ」と批判、「中国は友人ではない。彼らは我々を利用するだけだ」と非難した。人口わずか1万2千人の小国ナウル、その元首が見せた「主権国家の意地」はまさに小気味よかった。しかし、そのワガ大統領は2019年8月の選挙で敗れ、退陣した。南太平洋の台湾からの離反が一気に進む可能性がある。

蔡氏が「断じて拒否する」と言明する “一国二制度”、今、その象徴である香港が重大な局面を迎えつつある。それはまさに「明日の台湾」を暗示する。
米国は香港、台湾問題において中国への牽制を強める。しかし、トランプ政権の外交は相対での “ディール” が基本であり、国際社会もまた自国第一主義に閉じる。台湾の未来はまさに台湾自身の選択に委ねられる。選択を担う国民の責任は重い。しかし、であればこそ、その大きな権利を次の世代へつないで欲しい。

2019 / 09 / 13
今週の“ひらめき”視点
最後のフロンティア、アフリカ。日本は“自立”に向けての継続的な支援を

9月4日、モザンビークの北部ナンブラ州農民連合の代表が来日、日本の援助のもとで進められている “熱帯サバンナ農業開発プログラム(プロサバンナ事業)” の見直しをJAICAに求めた。
日本はODAを活用し、日本の耕地面積の3倍におよぶ広大な土地の農場化を支援してきた。開発の狙いは「現金収入を増やし、外貨を稼ぐ」こと。しかし、こうした輸出型の大規模農業は、結果的に小規模農家の生活基盤である土地を奪ってゆく。彼らの主張は明快で、「モザンビークの土地はモザンビーク人の手で耕されるべき」ということに尽きる。何のための開発であるのか、誰のための支援であるのか、もう一度立ち止まって考える必要があろう。

8月末、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が横浜で開催された。日本は中国を念頭に “量から質” を重視した支援方針を表明、“債務のわな” に象徴される中国式開発援助との差別化を強調する。とは言え、多くのアフリカ諸国にとって “量” の重要性は無視できない。政府はあえて今後3年間の支援金額を提示しない一方、実績については「この3年間で200億ドルに達した」と誇示した。背景には支援が前回の会議で約束した300億ドルに及ばないことへ焦りと、その倍の支援額を表明している中国への対抗意識が見え隠れする。
しかし、“質” を問うことを第1義とし、“量” とは異なる土俵で勝負するのであれば、そこに徹すれば良いだけだ。集計方法を変えてまで “200億ドル” の実績を作る必要はない。

TICAD7に先駆けて開催された仏G7サミットでは「G7とアフリカのパートナーシップのためのビアリッツ宣言」が採択された。
宣言は冒頭で “サヘル地域” に言及、「日本の “サヘル同盟” への参加を歓迎する」としたうえで、「TICAD7に期待する」との文言が盛り込まれた。
マリ、ブルキナファソ、モーリタリア、ニジェール、チャド、所謂 “サヘルのG5” への日本の本格的な関与は2013年のアルジェリア人質事件の悲劇が契機となった。絶対貧困の解消、食糧危機の克服、治安の回復、安定した民主国家の確立に向けて、日本への期待は大きい。
「新興国の成長を取り込む」式の支援を越えた、“自立” のための基盤づくりこそアフリカに対する最大にして最善の投資となる。国の役割はそこにある。

2019 / 09 / 06
今週の“ひらめき”視点
地銀の出資規制緩和。地方からの、地域を越えた収益事業の確立を

8月28日、金融庁は今後1年間の金融行政方針を発表した。主題は「利用者を中心とした新時代の金融サービス」、FinTechによるイノベーションの加速、家計における安定的な資産形成、金融システムの安定を実現すべく金融改革を推進、金融庁から “金融育成庁” への機能転換をはかる。
とりわけ、金融システム関連では地域金融機関の持続性についてあらためて懸念を表明したうえで、これまで以上に踏み込んだ制度改革に言及している。

低金利政策の長期化と地方の構造的な停滞を背景に地銀の経営環境は厳しい。この3月期は4割の地銀が本業レベルで赤字となった。金融庁の方針はシンプルかつ明快だ。要するに “再編” である。とは言え、ふくおかフィナンシャルグループと十八銀行の統合に際して公正取引委員会が一時待ったをかけた事例を引くまでもなく、寡占化は地域金融におけるサービス低下リスクを孕む。また、規模化による経営効率の向上とは重複機能の統合、店舗網の縮小といったコスト削減余力の一時的な確保に過ぎず、将来の成長を保証するものではない。
その意味で期待されるのは銀行の業務範囲に関する規制緩和である。金融庁は9月中にも事業範囲を明確化したうえで、原則5%に制限されている事業出資比率を大幅に緩和する。

地域に根付いた地銀にとって地元産品の販売支援や経営管理支援といった “地域商社事業” は本業とのシナジーが大きく、業態としての優位性も期待できる。それゆえ地銀各行は従来から販路開拓支援など “擬似商社” としての実績を積み上げてきた。法人顧客サービスの一環として年度予算化し、専門部隊を持った地銀も少なくない。弊社も「9行連携」スキームにおけるビジネスマッチングのハブ役としてこれを支援してきた。しかし、銀行法からの制約に対する各行のスタンスの微妙な差異が本格的な収益事業化の壁となっていた。
その意味で今回の規制緩和は地銀固有の人脈、情報、信用を潜在的経営資源としつつも、既存の枠組みを越えた新たな可能性を創出する絶好の機会であると言える。本業とのシナジー以上の成長戦略に期待したい。

2019 / 08 / 30
今週の“ひらめき”視点
形骸化したサミットとアマゾン森林火災から学ぶこと

26日、G7サミットが閉会した。仏ビアリッツで開催された今回のサミットは、参加7カ国の合意を前提とする首脳宣言があらかじめ見送られる異例の展開となったが、最後の最後、マクロン大統領自らが主導し、ようやく1枚の宣言書を発表するに至った。
自由、民主主義、人権、法の支配、国際協調主義を掲げる先進7カ国が、直面する世界の課題を共有し、解決に向けて足並みを揃えるはずの会議体の機能不全はもはや明白である。そして、結束の弱体化を加速させた張本人を排除出来ないジレンマが、貿易、イラン、ウクライナ、リビア、香港について簡潔に言及した1枚のペーパーに凝縮されている。

とは言え、形式的な合意文書の作成より首脳間の議論を優先させた運営に意味がなかったわけではない。
WTO改革、デジタル化、国際法人課税、不平等との戦い、アフリカ問題など喫緊の課題が共有され、「生物多様性憲章」の承認など気候・地球環境問題においても一定の前進があった。アマゾンの森林火災消火のための緊急金融支援に合意できたことも成果の一つだ。

、、、とここまで書いたところで、当のブラジル、ボルソナ大統領がG7からの緊急支援について“植民地主義的”と反発、これを「拒否する」とのニュースが伝えられた。
世界の生物種の1割が生息し、大量の二酸化炭素を固定することで“地球の肺”と称されるアマゾンの熱帯雨林が史上最悪の規模で失われようとしている。そもそも火災がここまで深刻化した背景には森林の伐採と先住民族保護区の開発を押し進めるボルソナ氏の政策がある。環境団体はこれを“環境犯罪”と指弾、一方、ボルソナ氏は「火をつけたのは環境NGOだ」と吹聴する。言動はまさに“南米のトランプ”の名に恥じない。

“本家” トランプ氏を頂点に “分家” たちが増殖、時代の空気が彼らを勢いづかせる。その意味で私たち一人一人も共犯者である。そろそろ立ち止まり、冷静さを取り戻すべきだ。今、あらためてアメリカ先住民(オノンダーガ族)、オレン・ライオンズ氏が残した言葉を読み返したい。

「わたしたちの生き方では、政治の決め事はいつも七世代先の人々のことを念頭に置きながら行なわれる。これからやってくる人々、まだ生まれていない世代の人々が私たちよりも悪い世界で暮らしたりすることのないように心を配るのが、私たちの仕事である。」
(「それでもあなたの道を行け」、ジョセフ・ブルチャック編、中沢新一、石川雄午訳、めるくまーる社より引用)

2019 / 08 / 09
今週の “ひらめき” 視点
INF廃棄条約、失効。核なき世界、再び後退

2016年11月の公開以来、異例のロングランを記録した映画「この世界の片隅に」(原作:こうの史代、監督:片渕須直)をご覧になった方も多いだろう。この12月には新たなシーンを加えて「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」として公開される。
昨年、上記と同様の書き出しで本稿を書いた。結局、“この12月” は1年遅れての12月となったわけであるが、映画の別バージョンの公開は、被爆者の体験を綴った書籍「この世界の片隅で」(山代 巴 編、初版1965年7月、岩波新書)に再び光をあてることになるだろう。繰り返しになるが同書を再度紹介させていただく。

「今では “原爆を売りものにする” とさえいわれている被爆者の訴え、、、」と山代氏がまえがきに記した “今” とは原爆投下から20年後、すなわち、54年前の日本である。
そして、彼らの “訴え” が表面化するまでに「無視され、抑圧された長い時期があった」という。
当時、原爆の被害を訴えることは “占領政策への批判” とみなされ、そうした者は “沖縄に送られて重労働の徒役になる” との噂さえあった。広島の “個” の声は、復興を急ぐ広島の “公” によって封じられていたということだ。一方、その沖縄は、流球列島米国民政府が統治するThe Government of Ryukyu Islands(=琉球政府)であって、日本国とは切り離されていた。               

8月3日、米露の中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効した。2011年3月に発令された「原子力緊急事態宣言」は、今も解除の見通しが立たない。沖縄も基地が県民を分断し続ける。
同書の中に「ともかく問題は将来に残ります」という一節があった。新たに発生した問題も加え、残念ながらそれが現実である。
6月26日、EUのトゥスク大統領はG20大阪サミットを前に長崎と広島を訪問、「行動を起こす決意と勇気をもって欲しい。決して遅すぎることはない」と声明した。次の世代に何をつなぐのか、目先の “ディール ”とは異なる次元で世界は、そして、私たちはあらためて考える必要がある。

2019 / 08 / 02
今週の”ひらめき”視点
消費増税まで2ヶ月、転嫁拒否行為の新たな発生を防げるか

10月1日の消費増税までいよいよ2ヶ月となった。「再々延期論」も燻るものの実施は既に秒読み段階である。しかし、事業者側の準備は進んでいない。とりわけ、中小事業者の軽減税率対策の遅れは深刻だ。政府は複数税率に対応するレジや受発注システムの導入補助対象事業者を約30万社と想定し1,000億円を予算計上した。しかし、6月末時点での申請件数は約11万件にとどまる。一方、需要喚起策の目玉である「キャッシュレス決済のポイント還元」も目標の「100万店以上」に対して7月末時点の申請はわずかに24万件という状況だ。

準備の遅れも問題であるが、そもそも軽減税率という“ややこしさ”が事業者に与える影響は小さくない。東京商工リサーチがこの6月に行った消費増税に関する事業者調査によると、「売上の減少」に次いで「仕入先からの値上げ要請」、「会計システム変更による負担増」が懸念事項として指摘された。実際、複数税率が適用される今回の増税は品目ごとの税率仕分けなど事務作業の工数が増えるとともに、事業者間取引における転嫁拒否行為も発生し易い。

外食チェーン各社が軽減税率への方針を発表し始めた。対応は “本体価格を揃える” と “税込み価格を揃える” の二択である。後者は、つまり “本体価格の値引き” である。この場合、値引き原資のすべてを自社で吸収するのであれば問題はない。しかし、ここに “協力” という名の圧力が納入業者にかかる可能性は小さくない。
経産省の調査によると現状であっても事業者の12%が消費税を価格に転嫁できていない。理由の上位は「取引先を奪われる恐れがあるから」、「取引先に価格アップを受け入れる余裕がないと考えられるから」、そして、「立場が弱いから」である。多くの場合、明確な強要はない。そう、まさに “忖度” である。

キャッシュレス還元も問題を孕む。政府が負担する5%のポイント還元は中小事業者が対象であり、大手チェーン傘下のFC店はこれが2%となる。もちろん、チェーン本社の直営店は対象外である。しかし、これでは同一チェーン内でポイント還元率が異なることになる。よって大手チェーンは本部負担で還元率を揃える。
一方、ポイント還元の対象外である大手スーパーなどもコンビニや中小事業者との対抗上、自社負担によるポイント還元や販促キャンペーンを展開するはずだ。となると、ここでも納入業者による “自主的な営業協力”、すなわち “忖度” が発生し易い。

逆進性の緩和を目指した軽減税率や景気の腰折れ対策としてのポイント還元が原価率の不当な低下や消費税の転嫁拒否という形で事業者経営を圧迫するのであれば、結果的に本末転倒と言わざるを得ない。
経産省はこれまでも下請法の遵守、消費税の適正な価格転嫁を呼びかけ続けてきた。しかし、転嫁拒否に関する調査の着手件数は11,397件、指導・勧告件数は4,946件に達する。うち4,410件が “買い叩き” である(平成25年10月~令和元年5月末)。そして、この数字の背後には業種を問わず多くの “忖度” があるはずだ。小売や外食だけの問題ではない。消費増税が正当な価格体系、取引構造、税制度を歪めることになるとすれば、結果、成長もプライマリーバランスの黒字化もいずれも遠のく。税率、軽減税の適用範囲、加えて、益税や毎年発生する3,600億円を越える滞納の問題もある。課題は多い。法人税、所得税、そして、年金等の将来支出の問題も含め、抜本的に財政の在り方を問い直すべきであろう。現下の経済情勢はそのための立止りを促している。