今週の"ひらめき"視点

2019 / 04 / 26
今週の”ひらめき”視点
ルノー、日産、経営統合問題。日産は統合交渉から逃げるな

ルノーが日産に再び経営統合を打診した。昨年11月、両社をバランスさせてきた“カリスマ”の突然の不在を受け、両社の主導権争いが表面化する。4月12日、ルノー、日産、三菱自は、3社のトップで構成される新たな会議体を設置、グループの最高意志決定機関とすると発表した。ルノーのスナール会長も合議体によるグループ運営への移行を支持、経営統合問題は棚上げされた、はずだった。

しかし、実際には上記会議の前後にルノー側からあらためて経営統合が提案されていた。日産経営陣はこれを拒否、あくまでも独立企業としての提携関係を維持したい考えだ。
一方、ルノーにとって統合は言わば悲願である。2018年9月、ルノーはカルロス・ゴーン元会長を通じて経営統合を日産に提示した。今年1月にも大株主である仏政府から日本政府に統合の意向が打診されている。そして、4月というタイミングでの再提案は定時株主総会を前にした日産への牽制であることは言うまでもない。
確かに現時点における2社のポジションは業績、技術力ともに日産が上である。しかし、だからこそルノーは破綻した日産の“将来”に投資したとも言える。議決権ベース43.4%の資本の意味は軽くない。

国交省、経産省は2030年度までに2020年度目標から3割の燃費改善を義務付けるとともに次世代低燃費車の普及目標を引き上げる方針だ。環境規制、次世代自動車では欧州、中国勢が先行する。2018年3月期の研究開発投資は日産が4,958億円、ルノーが3,800億円、2社を合わせてもトヨタに及ばない。フォルクスワーゲングループの研究開発投資は1兆5千億円を越える。
今、未来の競争優位の確立に向けて、自動車市場は新たな提携、再編の波の中にある。主役はCASEを牽引する大手ITや新興ベンチャーだ。そうした中にあって“仏、日本、それぞれの国益”などと言う議論に両社の利はない。競争に取り残された時、次の買収者はもはや自動車メーカーではないだろう。日産は未来を生き抜くための統合シナリオの構築をこそ急ぐべきだ。資本の問題は統合戦略を主導し、結果を残してゆく中でいずれ解消できる。

2019 / 04 / 19
今週の”ひらめき”視点
日銀のETF残高、膨張。株式市場の正常化とリスク回避に向けて

15日、OECDは「対日経済審査報告書」で日銀のETF(指数連動型上場投資信託)の買入について「市場規律を損ないつつある」との懸念を表明した。これに対して、日銀の黒田総裁は「2%の物価安定目標を達成するための施策の一環」であるとしたうえで、「目標達成に向けて大きな役割を果たしている」と語った。
翌16日、衆議院財務金融委員会にて同様の懸念について問われた黒田氏は「さまざまな意見があることは承知しているが、“株価安定”の実現に向けての必要な措置である」と回答、直後、「株価ではなく物価」と言い直す一幕があった。

日銀が「物価安定目標」を“消費者物価の前年比+2%”と定めたのは2013年1月である。しかし、2019年4月にあって目標の達成は依然として遠い。もはや異次元緩和への期待が色褪せつつある中で問われた“副作用”に対する反論として、目に見えるポジティブな成果としての“株価”が黒田氏の頭を過ぎったのだろうか。もちろん、発言は直ちに修正されたが、本来の目標達成が見えて来ない現状にあって、市場の歪みと副作用に対する懸念が黒田氏の中でも大きくなりつつあるのかもしれない。

2018年、日銀によるETFの買入れは年間6兆5040億円に達した。同年12月における保有残高は23兆5497億円、これは東証一部上場会社の時価総額の約4%を占める。年明け以降も残高は増え続け、この3月末には28兆円を越えたとみられる。日銀のETF買入は黒田氏が繰り返し説明したとおり物価の安定が目的である。市場介入による株価操作が目的ではないし、ましてや純投資ではない。したがって、目標が達成されるまで売却はできない。ゆえに企業価値が適切に反映されるべき株価に歪みが生じる。

問題はこれだけでない。万が一、相場が急落し、時価が取得価格を割り込んだ場合、日銀は大きな含み損を抱えることになる。つまり、円の信任そのものが毀損する可能性がある。このリスクを回避するには残高を減らす必要がある。しかし、売却は相場の下落を誘発する恐れがある。まさに退くに退けない。
とは言え、日銀は実効性の高い出口戦略を準備し、一定の条件下で政策を転じる意志を表明すべき時期に来ているのではないか。それは金融政策における“手持ちのカード”を増やすという意味においても有効であるはずだ。

2019 / 04 / 12
今週の”ひらめき”視点
EC事業者への規制圧力、強まる。成長を維持するためにはルールへの適合と“フェアネス”が条件

10日、アマゾンジャパンは、5月からの実施を予告していた「全商品で購入額の1%以上をポイント還元する施策を撤回する」と発表した。
同社は、2月に同施策について出品企業に通知していたが、公正取引委員会はポイントの還元原資を出品者側の負担とするビジネスモデルが“優越的地位の濫用”にあたる可能性があるとして、同社を含む主要ECサイトへの一斉調査を準備していた。これに対して同社は公取委による独禁法違反認定リスクを事前回避した形だ。

同じ日、公取委は大手旅行サイトがホテルや旅館との契約において「宿泊料金の最低価格」と「客室数の最大割当」を保証させる所謂“最恵待遇(MFN)条項”を要求していたとして、楽天、ブッキング・ドット・コム、エクスペディアの3社に対して一斉立ち入り検査を実施した。大手サイトによるMFN条項は新規参入企業に対する障壁となるとともに、宿泊価格の高止まりなど消費者への不利益を招く恐れがある。公取委は検査結果を分析、行政処分の必要性を判断するという。

支配的な地位を確立しつつあるIT事業者に対する規制強化が進む。国境を越えて巨大化し、市場を寡占化してゆくIT企業に対してようやく各国の法令の側が追いつきはじめたということだ。
所謂プラットフォーマー規制では欧州が先行する。個人情報に関する規制(GDPR)は既に施行済みだ。デジタル課税こそアイルランドをはじめとする低税率国の反対を受け合意できなかったものの、フランス、英国、スペインは単独での実施を表明している。

一方、低税率国を活用した“税逃れ”に対して、独仏は新たな規制をG20に提案する。グローバル企業が低税率国を活用して得た利益が国際社会における税負担の最低水準を越える場合、これを不当利益とみなし本国で課税させるという。デジタル課税で欧州と対立する米国も独仏の提案を支持するという。
取引条件、情報管理、著作権、利用者保護、課税問題など、あらゆるアプローチでグローバルIT企業への規制が進む。テクノロジーと自由な発想で世界経済の成長と構造変化を牽引してきたプラットフォーマーは、果たしてnation-stateとの共生の道を見出せるか。もう一段の成長と自由を獲得するための鍵はここにある。

2019 / 04 / 05
今週の”ひらめき”視点
ジャパンディスプレイ、台中連合の傘下へ。国主導のオールジャパン戦略の限界

官民ファンドINCJ(旧産業革新機構)のもとで経営再建をはかってきたジャパンディスプレイ(JDI)は、3日、台湾中国連合3社から最大800億円規模の金融支援を受け入れることで合意した(同社のリリースでは正式合意は週明け以降になるとのこと)。JDIはあわせてINCJによるリファイナンスを実施、総額で1,100億円の資本増強を行う。これによりINCJの議決権は25%から半減、代わって台中勢が5割弱を押さえ筆頭株主となる。国の支援を背景に“オールジャパン”としての復活を期待されたJDIであるが、今後は外資企業として再建の道を歩む。

かつて世界シェアの過半を押さえ、「液晶王国」と呼ばれた日本であったが、2000年代に入ると韓国、台湾勢が台頭、一気に国際競争力を失う。2012年4月、経産省はソニー、東芝、日立の中小型液晶ディスプレイ事業の戦略的統合を主導、産業革新機構を通じて2,000億円を出資、JDIを発足させた。しかし、それ以降、国策会社であるにも関わらず、否、であるがゆえにと言うべきか、「だらしない」経営が続く。
2014年には上場を果たすが赤字体質は常態化する。産業革新機構は2016年から2017年にかけて750億円、2018年にも200億円の追加資金を投じる。しかし、結局、自主再建の道筋を自ら描くことは出来なかった。2019年3月期の業績見込みについて同社は「売上は前期実績7,175億円から10%減、営業損益は200億円超の赤字」としたうえで、「通期最終利益の黒字化は困難と判断」とコメントしている(2019年2月14日付け、3Q決算の説明資料より)。

スマートフォン向け需要の急減、米アップルの不振、有機ELへのシフトなど、競争環境に劇的な変化があったことはその通りである。とは言え、市場構造変化の見誤りと対応の遅れは、すなわち経営者の失態そのものである。要するに、責任をとらずに済む者たちが主導した「選択と集中」戦略が、変化を起こすことで競争優位を獲得した海外勢に敗北した、ということである。

2019 / 03 / 29
今週の”ひらめき”視点
中小企業の活性化に向け、親族外への事業承継機会の拡大を

22日、野村ホールディングスとカーライルグループが設立したSPC「オーシャン・ホールディングス株式会社」によるオリオンビールに対するTOBが成立した。オリオンビールは1月23日付けのプレスリリースで、「沖縄に根ざした企業としてのDNAを維持しつつ、新たな成長を目指したい」とTOBへの賛同を表明、今後は新体制のもとでビール事業の再構築とホテル・不動産事業の強化をはかる。ファンドのエグジットには「IPOも選択肢」という。
25日、敵対的TOBの成立を背景に石本氏の退任を含む経営陣の刷新を求められていたデサントは伊藤忠の要求を全面的に受け入れると発表、対立は決着した。デサントは経営戦略を修正、伊藤忠の主導下で中国事業を軸とした成長戦略を強化、韓国事業に依存した収益構造の改善をはかる。

一方、東北でも大きな動きがあった。業績低迷が続いた山形の老舗百貨店「大沼」は、2018年4月、事業再生ファンド「マイルストーンターンアラウンドマネジメント」(MTM社)の出資を受け入れ、同社の完全子会社となった。しかし、資金の不正流用やMTM社自身の経営不安説が取り沙汰される中、大沼の再建は一向に進まなかった。こうした事態に業を煮やした地元財界はプロパー従業員によるSPCの設立を支援、22日、大沼株を担保としたMTM社向け債権をSPCが取得し、大沼の経営権を取り戻した。
オリオンビールはファンドによる成長支援、デサントのケースは事業提携型、大沼はEBOによる事業再生、3つのM&Aはそれぞれ目的やスキームが異なる。オリオンについては経営陣によるMBOという側面もある。しかし、共通するのは外部資本をバックとした経営体制の刷新、成長戦略の再構築である。

今後10年間で70歳を越える経営者は245万人、うち128万人に後継者がいない。廃業せざるを得ない企業の半数は黒字であり、これらを放置すると2025年までに650万人の雇用が喪失、GDPの22兆円が失われるとの試算もある。
上記3事例は、規模や背景を鑑みると多くの中小企業にとって“他人事”かもしれない。とは言え、事業を未来へつなぐ、という意味において何ら変わりはない。事業承継は日本経済の活力を維持するための喫緊の課題であり、一方で親族内承継に限界があることも自明である。個人保証や相続の問題はある。しかし、それゆえに多様な事業承継ニーズに対応したファンドの組成など、新たな事業戦略を描き出せる外部人材にチャンスを与える仕組みが早急に求められる。

2019 / 03 / 15
今週の”ひらめき”視点
震災から8年、復興に向けて私たちは2つの現実に向き合う必要がある

3月11日、震災から8年が経過した。災害公営住宅は計画比98%、高台移転や地盤嵩上げによる宅地造成の進捗率も94%を越えた。道路、港湾、鉄道など公共インフラの復旧工事もほぼ完了した。震災発生直後、47万人を越えた避難生活者も5万人に減った。
とは言え、未だに5万人、であり、避難生活の長期化に伴う“震災関連死”も3700人を越えた。災害公営住宅における孤独死も増えている。そして、依然2533人もの方が行方不明のままである。
地域経済の低迷も深刻である。人口の減少が止まらない。とりわけ若い世代が戻って来ない。インフラ関連の復興事業が一巡した反動も大きい。NHKの調査によると被災者の63%が「復興は進んでいない」と回答したという。

3月7日、日本経済研究センターは福島第1原子力発電所の処理費用が最終的に80兆円を越える可能性があると発表した。この数字は経産省が試算した約20兆円を大きく上回るものとして注目された。しかし、このレポートの価値はそこではない。これまでタブー視されてきたチェルノブイリ方式を試算シナリオに加えた点にある。同センターは廃炉を見送り、「石棺」等による閉じ込め管理型を採用した場合の費用を35兆円と見積もった。金額の多寡ではない。あらゆる選択肢を排除しない、という当たり前のスタンスに敬意を表したい。生命(いのち)と生活(人生)を選択する根拠に政治的な恣意性は不要だし、ましてや改竄や隠蔽などあってはならない。

8年前、当社は「東日本大震災における経済復興プロセスと主要産業に与える影響」(2011年3月31日発刊)と題したレポートを発表した。「日本の中に温存されてきた古い体質、棚上げされてきた課題を一挙に解決し、産業の新陳代謝と社会経済構造の革新を加速させることをもって復興の道筋とすべき」と結論づけた。一方、被災地では、復興はおろか復旧の見通しすら立たない地域も少なくない。
東日本大震災は私たちの生活価値観を変えたはずではなかったのか。この8年間、何をしてきたのか、何が変わったのか、何を変えてきたのか。
被災は終わっていないという現実、そして、一向に解除の見通しが立たない「原子力緊急事態宣言」の中を生きる現実。私たちはこの2つの現実から目を逸らしてはならない。