今週の"ひらめき"視点

2019 / 03 / 08
今週の”ひらめき”視点
対立する本部と加盟店、持続可能なビジネスモデルへの転換が求められるFC業界

人手不足による過労と運営難を理由に時短営業に転じた加盟店オーナーとセブンイレブン・ジャパン(本部)の対立が収まらない。とりわけ、契約の解除と1700万円もの違約金請求を盾に24時間営業の再開を求めた本部側の強硬姿勢に批判が集まる。
本部サイドも「人員の一時派遣」や「時短営業の実験」といった改善に向けての対策を表明したが、その一方でコンビニ加盟店ユニオンとの団体交渉を「労使関係にない」ことを理由に拒否するなど、あくまでも“原則”を貫く。

2018年2月期、㈱セブン-イレブン・ジャパンは営業総収入849,862百万円に対して営業利益244,110百万円を稼ぎ出した。高収益の源泉は24時間営業を前提に構築された精緻なチェーンオペレーションシステムと店頭売上高から仕入れ原価を差し引いた粗利を本部と加盟店とで分配するビジネスモデルにある。この粗利分配方式では店舗スタッフの人件費は加盟店側の販管費として計上される。つまり、深夜営業は店舗にとっては赤字の営業時間帯であっても、分配された粗利が営業収入となる本部にとっては費用がかからない増収ということだ。
しかしながら、セブンイレブン本部の営業収入を支えるのは国内コンビニ売上の98%、4,575,931百万円もの店頭売上をつくる加盟店のオーナー達である。加重労働による彼らの疲弊は本部にとっても看過できまい。

今、4月1日から施行される「働き方改革法」を前に経産省は中小企業の「働き方改革を阻害する取引慣行」の是正を呼びかける。契約上、FC加盟店は“下請け”ではないし、ましてや加盟店オーナーは“従業員”ではない。
しかし、例え本部と加盟店との契約関係が法的に対等であっても実質的に加重労働や不公正な費用負担を強いるのであっては、本部の側にとっても潜在的な経営リスクとなり得る。そして、これはコンビニ業界だけの問題でなく、学習塾や外食などFC業界全体に共通する課題である。まずは加盟店の経営実態を正確に把握すること、そのうえで、持続可能性と不公正取引の排除という視点からビジネスモデル全体の再点検が必要であろう。

2019 / 03 / 01
今週の”ひらめき”視点
過渡期にある指定金融機関制度、問われる地方自治体との“蜜月”の在り方

2016年6月、三菱東京UFJ銀行(当時)は国債の入札等において国から特別な優遇措置が受けられる「国債市場特別参加者」(プライマイリー・ディーラー)を返上した。当時は「3大メガバンクの最大手が日本国債の長期保有を経営リスクと判断した」と話題になったが、要は民間金融機関としての経済合理性を優先させたということである。
その三菱UFJ銀行が兵庫県芦屋市の指定金融機関を辞退した。

従来、芦屋市は輪番制を採用、三菱UFJと三井住友銀行が交互に業務を受託してきた。現在は三井住友が担当、三菱UFJは2019年7月1日にこれを引き継ぐ予定であった。しかし、昨年3月、三菱UFJは同市に対して指定受託の条件変更の申し入れを行う。これまで7万円だった行員派遣費用について、行員2名の人件費800万円と警備費700万円を要求するとともに1件あたり10円の口座振替手数料や市庁舎内に設置したATMの維持費を市側の負担として欲しい旨の要望書を提出した。
三菱UFJは同様の条件改訂を他の自治体にも提案、今回、芦屋市や埼玉県所沢市など要求に応じなかった約10自治体の指定金融機関を返上したという。

地方自治体の公金収納や支払い事務を一手に引き受ける指定金融機関は、公金を預金として確保できるとともに信用力の向上につながるとして、かつては指定獲得競争も起こっていた。しかし、低金利、低い手数料率、ほぼ無償の行員派遣義務などにより採算は悪化、今や銀行サイドに指定を継続するための積極的な動機は見当たらない。

27日、公正取引委員会はネット通販の大手事業者に対して一斉調査を行なう方針を固めた。国は、ポイント還元の原資を出品者に負担させるECモールのビジネスモデルが独禁法の「優越的地位の乱用」に抵触する可能性があると判断、実態把握に乗り出すという。その通りである。そして、“市場を歪める”という点においては公的セクターもまた同じである。もはや「お上」に優越的な立場を維持するだけの権威やパワーはない。民間に不当な負担を強いることが行政の合理化ではないはずだ。金融を取り巻くテクノロジーが革命的に変化しつつある中、指定金融機関制度の在り方そのものが見直されるべき時期にある。

2019 / 02 / 22
今週の”ひらめき”視点
世界の実体経済、不確実性高まる。最大リスクは中国構造改革の遅れ

19日、トランプ氏は米中貿易交渉の順調ぶりをアピールするとともに3月1日を期限とした協議の延長可能性を示唆した。輸入拡大や市場開放については中国が譲歩する形で交渉が進展、一方、国営企業の優遇、技術移転問題、知財侵害等における対立は依然厳しいという。
JPモルガンが発表した最新のグローバル製造業購買担当者景気指数(PMI)によると11月のPMIは52.5、12月が51.5、1月には50.7へ低下した。低下は9ヶ月連続、2016年10月以来の最低レベルである。世界の実体経済の不確実性は高まっており、米中貿易戦争に伴う中国経済の減速が懸念材料であると指摘する。

しかし、中国経済の低迷は米中問題が主因ではない。米中問題の本質はむしろ“政治”であって、根本的な課題は中国経済そのものの脆弱さにある。2017年8月、国家発展改革委員会は海外直接投資の抑制に舵を切る。当局の狙いは緊急対策としての“民間資産の海外移転の押さえ込み”にあった。つまり、既にその時点で対内直接投資と対外直接投資のアンバランスが看過できない水準になっていた、ということである。先月末の外貨準備高は3兆1千億ドル、ピークを3割下回る。対米輸出における制約も加わって外貨流出リスクは更に高まる。

外需から内需へ、世界の工場から製造強国への道のりが不透明となる中、当局は3月の全人代を前に大規模な財政政策を打ち出すだろう。6%台の成長は維持されるはずだ。しかし、結果的に構造改革は遅れ、中間層の拡大は頭打ちとなる。資金の供給者であり年間輸入額1兆8千億ドルという“買い手”としての中国の失速は国際社会における影響力の低下を意味するとともに、権力基盤の脆弱化を招く。対外的な強面ぶりと内部統制は更に強まるかもしれない。

16日、毛沢東の元秘書で、大躍進と文革を批判し、天安門で失脚した趙紫陽の名誉回復を主張し、「棺に党旗をかけるな」と言い残した李鋭氏(101歳)が逝去した。民への不信がある限り、構造改革の成就はない。当局は無数にいるはずの市井の“李氏”たちの声に耳を傾けることが出来るか、“核心的利益”の再定義が求められる。

2019 / 02 / 15
今週の”ひらめき”視点
岐路に立つ「ふるさと納税」、地方創生と公正さの両立を

ふるさと納税をめぐって自治体からの異論が噴出する。まず、ふるさと納税によって歳入の減少が続く自治体から悲鳴があがる。世田谷区は新年度の予算策定に際し、「ふるさと納税による2019年度の減収見通しは53億円にのぼる」と発表、「行政サービスの低下は避けられない」として制度の改善を訴える。
2018年度、ふるさと納税による税の控除、すなわち税の流出は市町村民税と道府県民税を合わせて2,447億円を越えた。とりわけ、2016年度に寄付金控除の上限引き上げと“ワンストップ特例”が実施されて以降、流出は都市部を中心に急拡大、世田谷区では2016年度が保育園5園の新設費用に相当する16億5千万円、2017年度は31億円、2018年度には41億円へと流出額が膨らんだ。

一方、泉佐野市は国の方針に真っ向から挑む。国は返礼品の高額化と過度な競争を抑制すべく、「返礼品は地場産品に限定、返礼割合を3割以内、この条件を満たさない自治体を制度の対象から外す」ことを決定、4月から手続きを開始する。これに対して泉佐野市は「地方分権の理念に反する」と反発、そして、「もはや法制化が避けられない情勢であり、そうであれば、、、」として、“2月、3月限定。100億円還元閉店キャンペーン”と銘打ってアマゾンギフト券の配布を開始した。泉佐野市は「関空」という国策に左右され続けてきた自治体であり、“りんくうタウン”など都市基盤への過剰投資の結果、2004年には「財政非常事態」を宣言するまで追い込まれた。厳しい構造改革を経て、2016年になってようやく「財政健全化団体」から脱却、“反骨”の基底にはこうした経緯があると推察する。とは言え、当然ながら国も黙っていない。「4月以前の取り組みも指定自治体の選考に際して考慮する」と泉佐野市を牽制する。

そもそもふるさと納税については多くの問題点が指摘されてきた。全国の自治体の予算総額は返礼費用分だけ実質的に目減りする。そして、流出超過があった自治体にはその75%が国庫から補填される一方、世田谷区など地方交付税の不交付自治体は補填の対象とならないといった不公正もある。また、流出額が多い自治体ほど納税義務者一人当たり課税所得の水準が高い。純粋な“寄付”であれば当然と言えるが、任意に選択できる納税方式に逆進的な要素が内在されているのであれば公平性を欠く。もちろん、メリットもある。地元物産の広報宣伝には効果があるだろう。故郷や母校など縁の深い自治体を応援する喜びもある。被災地の復興や地方の特定事業への支援など税の使い道に関与できることの意義も大きい。しかし、“お得感”によって選択される返礼品が地方の生産者や企業の市場競争力を高めるとは思えないし、全国レベルで通用する名産品を持たない地域にとっての恩恵は小さい。地方間競争は奨励されて然るべきだ。しかし、返礼品による税の争奪競争の歪みが顕在化しつつある中、ふるさと納税は根本から見直すべき時期にあると言える。

2019 / 02 / 08
今週の”ひらめき”視点
合意なき離脱へ、リスク高まる。企業の英国離れが加速

3日、日産は欧州向けSUVの次期モデルの生産工場を英サンダーランド工場から国内(九州工場)へ移管すると発表した。
BMW、ジャガー・ランドローバーなど自動車勢は既に一定期間の操業中止を決定済だ。製薬メーカーも不測の事態に備え医薬品の在庫を積み増す。英バークレイズ銀行は24兆円にのぼる顧客資産をアイルランドに移すと発表、英仏海峡フェリーを運航するP&Oは全船籍を英国からキプロスに変更する。ソニーもオランダに新会社を設立、3月29日付けで欧州本社機能を移管すると発表した。

従来、多くの企業は最悪のシナリオを想定しつつも、2年間の移行期間が与えられる「合意あり」に軸足を置いた対応を準備してきた。しかし、政府と強硬派の対立が先鋭化、合意なき離脱へのリスクが高まりつつある中、1月15日、英議会は政府がEUと合意した離脱協定を否決、これを機に企業は「合意なし」を見据えたオプションに一挙にシフトする。企業は既に動きだした事業計画を簡単には変更しない。一時は“自立”に浮かれた離脱支持者もここへ来て“現実の影響”を受け止めはじめた。混乱回避に向けての流れが英国内で醸成されるか、ここが鍵だ。

政府案を否決する一方でメイ氏への不信任を可決することができない英議会の内弁慶ぶり、それをまとめきれないメイ氏の指導力、いずれにせよもはや一刻の猶予もない状況にあってようやく議会も修正案に同意した。7日、メイ氏はこれをもってEUとの交渉に臨む。とは言え、EU側は「再交渉は受け入れない」との姿勢を変えていない。唯一残された安全策は政治決着による「離脱時期の延期」か。
昨年、EUとの交渉期限が迫った頃、シェイクスピアの「There is nothing either good or bad, but thinking makes it so.」を本稿に引用させていただいた。今、贈るならこの言葉だろう。「I have to embrace something which can’t be avoided.」。

2019 / 02 / 01
今週の”ひらめき”視点
大学の再編・統合が本格化、長期的視点に立って高度で多様な人材育成を!

総合研究大学院大学は、国立天文台、核融合科学研究所、統計数理研究所など17の研究機関を擁する4つの“大学共同利用機関法人”と2022年度に運営を統合する。総研大は、共同利用機関法人傘下の研究機関とJAXAを拠点に博士人材の育成を担う教育機関であるが、新たに設置される法人に各機関の管理業務を一元化し、効果的な資源配分と経営の効率化をはかる。
また、名古屋大学と岐阜大学も新法人“東海国立大学機構”を設立、「2020年度に新法人の傘下に入る」ことに合意した。大学の独立性を保ちつつ、研究施設の共同利用、教育課程の相互補完、事務部門の合理化、法人としての全体戦略を推進するという。
既に私立大学の半数以上が定員を割り込み、赤字経営を強いられる状況にあって、大学・研究機関の再編、統合が具体化する。北海道、静岡、奈良でも大学の統合に向けた協議が進んでいると言う。

29日、内閣府は2019年度の科学技術関係予算が4兆2377億円になると発表した。政府の政策目標GDP比1%に届かないものの、“前年比1割増、過去最大規模”の予算は評価できよう。とは言え、問われるべきは質である。歴代ノーベル賞の受賞者は一様に日本の研究、教育体制の劣化を指摘する。とりわけ、基礎研究における国際競争力の低下は科学技術の基盤喪失に直結するだけに看過できない。短期的な経済効果に偏重した研究評価への流れは再考されるべきであろう。
一方、文系における高度人材の育成も急務である。社会課題を発見し、解決の道筋を制度設計し、新たな価値を社会に提案し、既存のルールに囚われないビジネスを構想するための知性と創造力の育成は必須である。経済、法律、歴史、心理、文学、哲学、芸術など、“人を自由にするための学問(リベラルアーツ)”への投資不足が “ユニコーン”が育たない要因の一端にある。

大学改革の目的は単なる交付金の削減ではない。ましてや苦境にある大学の救済ではあるまい。世界水準の研究環境をどう整備し、維持してゆくのか、多様な高度人材をいかに発掘し、育成し、活用するのか、学術成果をどのように社会に還元してゆくのか、改革の主題はここにある。文科省は2019年度の通常国会に国立大学法人法の改正を検討しているという。長期的かつグローバルな視点から大学と社会との関係性を問い直す絶好の機会である。