今週の"ひらめき"視点

2019 / 02 / 01
今週の”ひらめき”視点
大学の再編・統合が本格化、長期的視点に立って高度で多様な人材育成を!

総合研究大学院大学は、国立天文台、核融合科学研究所、統計数理研究所など17の研究機関を擁する4つの“大学共同利用機関法人”と2022年度に運営を統合する。総研大は、共同利用機関法人傘下の研究機関とJAXAを拠点に博士人材の育成を担う教育機関であるが、新たに設置される法人に各機関の管理業務を一元化し、効果的な資源配分と経営の効率化をはかる。
また、名古屋大学と岐阜大学も新法人“東海国立大学機構”を設立、「2020年度に新法人の傘下に入る」ことに合意した。大学の独立性を保ちつつ、研究施設の共同利用、教育課程の相互補完、事務部門の合理化、法人としての全体戦略を推進するという。
既に私立大学の半数以上が定員を割り込み、赤字経営を強いられる状況にあって、大学・研究機関の再編、統合が具体化する。北海道、静岡、奈良でも大学の統合に向けた協議が進んでいると言う。

29日、内閣府は2019年度の科学技術関係予算が4兆2377億円になると発表した。政府の政策目標GDP比1%に届かないものの、“前年比1割増、過去最大規模”の予算は評価できよう。とは言え、問われるべきは質である。歴代ノーベル賞の受賞者は一様に日本の研究、教育体制の劣化を指摘する。とりわけ、基礎研究における国際競争力の低下は科学技術の基盤喪失に直結するだけに看過できない。短期的な経済効果に偏重した研究評価への流れは再考されるべきであろう。
一方、文系における高度人材の育成も急務である。社会課題を発見し、解決の道筋を制度設計し、新たな価値を社会に提案し、既存のルールに囚われないビジネスを構想するための知性と創造力の育成は必須である。経済、法律、歴史、心理、文学、哲学、芸術など、“人を自由にするための学問(リベラルアーツ)”への投資不足が “ユニコーン”が育たない要因の一端にある。

大学改革の目的は単なる交付金の削減ではない。ましてや苦境にある大学の救済ではあるまい。世界水準の研究環境をどう整備し、維持してゆくのか、多様な高度人材をいかに発掘し、育成し、活用するのか、学術成果をどのように社会に還元してゆくのか、改革の主題はここにある。文科省は2019年度の通常国会に国立大学法人法の改正を検討しているという。長期的かつグローバルな視点から大学と社会との関係性を問い直す絶好の機会である。

2019 / 01 / 18
今週の”ひらめき”視点
「毎月勤労統計」不正問題、数字と言葉への信頼、失墜

賃金や労働時間の実勢を把握する国の基幹統計「毎月勤労統計」(厚労省)において重大な不正が発覚した。本来、従業員500人以上の事業所は全数調査とすべきであるが、東京都内の調査では対象事業所1464ヶ所に対して1/3程度しか調べていなかった。不正は小泉政権下の2004年に始まり2017年まで続いた。この間、都内の大企業およそ1000社が調査対象から外れたため統計上の賃金水準は実体より低く算出され、結果的に雇用保険の失業給付等の支給額が不当に抑えられたという。過少給付の総額は567億円を越え、影響は延べ1900万人に及ぶ可能性があるという。

「毎月勤労統計」は昨年、2018年1月以降の賃金伸び率が突然高くなったことを受け、“恣意的な操作があったのではないか”と疑問視された。厚労省はこれを「定期的な標本入替え」と「入替え手続きの変更」の影響であると説明してきた。しかし、驚くべきことに、標本の入替えと同じタイミングで今回発覚した不正を統計的に補正するための措置を講じており、それを隠し続けた。自らの過ちを隠蔽、矮小化し、非公表で済ませようとする姑息さと不誠実さには呆れるしかない。不正を把握した時点でまずなすべきことは国民に対する事実の公表、不利益者に対する追加給付の実行、長期におよぶ不正の全容解明、責任者の処分、加えて不正期間中の統計データの信頼性の検証であったはずだ。

上記不正の波紋が広がる中、10日、総務省は「消費動向指数」の調査対象者の年齢集計に誤りがあったと発表した。年度の切り替え時に実施すべき調査対象者の年齢更新を怠ったという。こちらは発表のとおり単純な“ミス”なのであろう。しかし、政策判断の根拠となるべき公的統計、行政文書における過誤、不備は致命的である。ましてや不正、改竄、隠蔽、虚偽など、もってのほかである。宝島社が発表する新年恒例の企業広告、2019年のメッセージは「敵は、嘘。」だった。残念ながらまったくその通りである。

2019 / 01 / 11
今週の”ひらめき”視点
トヨタ、開発中の運転支援システムを公開へ。KFSは“開く”と“拓く”

1月7日、トヨタは世界最大のIT見本市CESに合わせた記者会見で、開発中の安全運転支援システム「ガーディアン」を外販すると発表した。「ガーディアン」は自動運転分野におけるトヨタの中核技術の一つで、危険を関知するとシステムがドライバーから運転を引き継ぎ事故の発生を防ぐ。別の自動運転システムの誤判断を補正することも想定されており、「ガーディアン」を搭載することでより高度な安全システムが実現できるという。

自動運転の開発競争は大手自動車からGAFAやBAT、ITベンチャーに至るまで、国境や業界を越えて熾烈化している。そうした中、“後発”と評されてきたトヨタはソフトバンクグループやウーバーテクノロジーズと相次いで提携、巻き返しをはかるとともに、「ガーディアン」の外販で標準化競争におけるプレゼンスの拡大を目指す。

メーカーが開発途上にある中核技術の公開に踏み切るのは異例である。一方、大手ITもすぐに追随してくるだろう。そもそもシステムの外販は彼らの得意分野だ。OSを押さえることで市場を寡占化し、情報を占有するノウハウはプラットフォーマーたちの独壇場であり、PCがそうであったように“ものづくり”は急速にコモディティ化するはずだ。それでも自動車産業、すなわち、未来のモビリティ産業を生き残るためにはトヨタ自身が情報サービスベンダーとしての可能性を主導し、開拓しなければならない。「100年に一度の大変革期」とトップが語ったトヨタの危機感と可能性がここにある。

2018 / 12 / 28
今週の”ひらめき”視点
IWC脱退、未来に向けてのリスクは小さくない

26日、日本はIWCからの脱退を正式に表明した。IWCは1982年、資源枯渇を理由に商業捕鯨の一時中止(モラトリアム)を採択、日本はこれを不服として異議を申し立てる。しかし、86年には申し立てを撤回、商業捕鯨の中止を決定する一方、翌87年以降、南極海と北西太平洋で調査捕鯨を続けてきた。
従来、日本は「捕鯨は科学的調査が目的であり、鯨肉の販売は調査後の副産物利用」と説明してきた。しかし、反捕鯨国はこれを「調査の名を借りた実質的な商業捕鯨」と認定、溝は埋まらなかった。こうした状況の中、日本はIWCに見切りをつけ、排他的経済水域(EEZ)内での商業捕鯨再開を独自に目指す。

今回の政府決定に対して、国内の支持者は「他国の食文化に口を出すな。日本人は他人の伝統を否定したことはない。英断を歓迎する」と威勢が良い。もちろん地域の食文化やマイノリティの伝統産業は、「持続可能な社会」「多様性の尊重」という視点において否定されるものではない。しかし、仮にそこを論点とするのであれば「調査の副産物利用」などという“すり替え”ではなく地球環境の保全、希少生物の保護と同じ文脈において地域社会の文化と伝統を主張すべきだった。「商業捕鯨という名を捨て、調査捕鯨で実を取る」式の曖昧さを国際社会は受け入れなかった。つまり、そもそもの戦略の組み立て方に致命的な判断ミスがあったのではないか。自分の意見が認めてもらえないなら席を立つ、ではあまりにも幼稚過ぎる。

これまでの日本の主張は完全に色褪せた。国際社会からの不信と反発は避けられないだろう。一方、捕鯨は国連海洋法条約においても規制されており、EEZ内での商業捕鯨が認められるか疑問を呈す専門家も少なくない。加えて、一部の美食家や地方産品としての需要を越えて鯨肉マーケットは拡大するのか。ESG投資への説明責任を求められる外食や流通大手が積極的な拡販に動くとは考えにくい。
世界が自国第一主義に閉じ、多国間協調体制が揺らぐ今、日本はその“つなぎ役”としてプレゼンスを高めるべきではないか。決定の背景に国内向けのポピュリズムがあったとすれば、その代償は大きい。

2018 / 12 / 21
今週の”ひらめき”視点
人手不足と働き方改革、もう一段のコスト増に向き合う中小企業

13日、内閣府は2012年12月から始まった景気拡大が高度成長期の「いざなぎ」を越え、戦後2番目の長さになったと発表した。しかし、中小企業の経営に余裕はない。要因の一つが人手不足だ。外食、小売、介護はもちろん製造業でも深刻さは増す。商工中金が実施した調査(※1)によると中小製造業の64.2%が人手不足の状況にあるという。省力化・省人化、待遇改善など手は打ってきた。それでも問題が解消しないのは対策が十分でないということであり、換言すれば、投資を継続する原資に限界があるということだ。同じ商工中金の調査によると、コストの上昇を価格に転嫁できた企業はわずか11.5%に止まる。メディアは経団連発表のボーナス額を好景気の証として報じた。しかし、夏季賞与で比較すると経団連調査の平均が953千円(前年比+8.6%)であるのに対して、厚生省データによる全産業平均は384千円(同+4.7%)、従業員5人から29人の企業は264千円(同▲0.9%)に止まる。経費増が売上増につながらない中小企業の現実が数字として表れる。
※1.「中小企業の人手不足に対する意識調査」(2018年7月、株式会社商工組合中央金庫)より

中小企業にとってもう一つの懸念材料は「働き方改革法」である。もちろん、残業の上限規制や有給休暇の取得義務は労働環境改善に向けての取組みとして肯定的に受け止めるべきだ。しかし、来年4月の実施を控え「取引における一方の側の改革が、もう一方の側に負担を強いる」ことが差し迫ったリスクとして懸念される。公正取引委員会も「働き方改革に関連して生じ得る中小企業等に対する不当行為」について注意を喚起しているが、下請法違反の指導件数が一向に減らない現状を鑑みると心もとない。加えて、中小企業自身も法令への対応が要請されるわけであり、経営負担のもう一段のアップは避けられない。

今、世界では“持続可能な社会づくり”という観点から、「サプライチェーン全体の環境対策や労働環境に対して大企業は一定の責任を果たすべき」という考え方が広まりつつある。重要な視点であり、賛同する。しかし、間接取引先を含むすべての取引先の責任を担うことになれば、当然ながら大企業は自身が引き受けるコストやリスクの低減をはかるだろう。つまり、より規制がゆるく、より賃金水準が低い地域に拠点を移すはずだ。残念ながらこれは如何ともし難い。いずれにせよまず取り組むべきは、下請け事業者に対する買い叩き、支払い遅延、不当な減額、極端な短納期、発注内容の一方的な変更、協賛金や役務提供の強制を全廃することであり、相手方の付加価値を公正に認め、適正な対価を支払うことである。そうあってはじめて“働き方改革”を実現するための条件が、取引における双方の側に整う。

2018 / 12 / 14
今週の”ひらめき”視点
ファーウェイ問題、際限なき報復と牽制。米中対立に落とし所はあるか

11日、カナダで拘束されていた華為技術(ファーウェイ)の孟副会長が保釈された。逮捕は米国からの要請にもとづくもので、容疑は対イラン制裁違反とのことである。4月、同様の嫌疑で中興通訊(ZTE)が米国から締め出された。しかし、インパクトの大きさはこれと比較にならない。ファーウェイの売上高は10兆円、通信基地局で世界シェア1位、スマートフォンの出荷台数はアップルを上回る世界2位、米企業との取引も大きい。クアルコムのファーウェイ向け売上高は18億ドル、インテルは7億ドルに達する。日本企業も同様だ。セラミックコンデンサー、CMOSイメージセンサーなど日本メーカーの納入額は5,000億円規模に達する。

7日、日本政府は「情報の窃取、破壊など悪意ある機能をもつ機器を調達しない」との方針を発表した。特定企業の名指しを避けつつも米国に追従したことは明白である。国内キャリア大手3社も政府に同調する。ファーウェイ排除の動きは官から民へ拡大する。
一方、中国ではアップル製品の不買運動がはじまった。世界市場の3割を占める中国におけるボイコットの拡大と長期化は、自ずとアップルの世界戦略に影響を与えるはずだ。それはすなわち同社の成長に依存する米、日、韓、台湾の電子部材、電子機器メーカー、そして、その取引先である中小企業を揺るがす。

ある米軍幹部は米中の現状を「戦争に至る前の段階」という意味で“Gray War”という言葉で表現した。ファーウェイを巡る対立はもはや“貿易戦争”の枠内のものではない。次世代先端技術における国家の覇権を賭けた攻防であり、したがって、双方とも安易な譲歩はないだろう。世界は再び2つの陣営に色分けされるのであろうか。しかし、地球そのものの容量が限界を迎えつつある今日、分断はそれぞれの側にとって“制約”にしかならず、まして民にとって利はない。
11日、トランプ氏は「安全保障で米国にプラスに働き、通商協議に利するのであれば介入する」と述べた。政治による司法への介入は法治国家の根本を歪める。しかし、Gray Warが一歩進むよりマシだ。ここは異形の大統領の本領に期待したい。