中国の高成長を支える消費者像

2010年2月
主席研究員 深澤 裕

消費の主役、80后、90后

日本の景気低迷と対照的に中国の成長がクローズアップされている。2010年の中国のGDP成長率は9%前後と予想されており、1%台の日本からすると羨ましい限りである。
しかも、今までGDPに占める実質消費のシェアの少なさが、成長の危うさを指摘されるところであったが、13億人の旺盛な消費意欲が、底堅い経済成長を支えるという健全な構造となってきた。
そしてこの消費拡大の背景には中国人独特の購買特性とモノに対する価値観がある。
中国の次世代の消費の主役は1980年代生まれの20代、80后(バーリンフォー)と1990年代生まれの10代である90后(ジョーリンフォー)と呼ばれる若者である。それぞれ約2.3億人(18%)と、約1.6億人(12%)で合計3割を占める。
彼ら(彼女ら)の消費スタイルはそれまでの改革開放前の30代以上と違い、両親や祖父母の小遣いが、一人っ子である彼らに集中するためお金を使うのを惜しまない。一方で、彼等が社会人になると激しい競争に晒され、理想とする就職が無く、結果として一部の成功者を除いてぐっと消費が抑えられる。お店で欲しいものの品番を控えてインターネットで少しでも安く買う「品番族」や友人と共同で買い物をして纏め買い割引をする「団購」といったグループも出現してきた。ある調査によると80后の6割がネットショッピングを利用しているという。
ネットショッピングと言えば中国で圧倒的なシェアを持つ淘宝網(タオバオ)。2008年の年間取引額約1,000億元、2009年が約2,000億元と驚異的な成長を誇る同サイトだが、運営する淘宝網社員も殆ど80后である。

中国人のブランド感

一方、中国人のブランド感はどうであろうか?中国で展開を目論む日系のアパレル企業が漏らすのは日本人と中国人のブランド感の違いである。日本人はブランドを「安心感」「品質の信頼性」といった基準で捉えているが、中国では「ステイタス」「優越感」といった意味合いが大きい。もちろん日本もかつてそうであったが、彼らのブランドに対する固執は日本よりも上回っているようだ。その背景には昨今の競争激化の中で、個人主義が主流となり、組織や社会の中で少しでも自分を良く見せようという意識の強さが根底にある。実際に中国向けの商品企画として持ち込まれる要望で“ブランドロゴを大きくして欲しい”とか、“裏にある商品タグを表に付け替えて欲しい”、といったことを聞く。中国では政府の役人が吸う1箱4000円の煙草から、低所得者向けの50円煙草まであるが、煙草でその人のステイタスを示すことは、中国人のブランド感に通じるものがある。

中国に横行するコピー商品

ブランドに対する欲求が強くなるのに比例して、中国で見かけるのはありとあらゆる高級ブランドのコピー商品である。その中には日本ブランドのものも少なくなく、日系企業が中国で事業展開をする上で最大のリスクの一つとして捕らえられている。深セン、羅湖の商業施設や、上海の七浦路などに行くとコピーブランドが堂々と販売されており、中には本物の直営店のように偽者のオンリーショップまである。ただ面白いことに一昔前の中国ではそれが何かのブランドをコピーしたものということも知らずに、ロゴもデザインの一部だと思って買っていた人が多かったという。つまりコピー商品を買っているという意識が無い。中国ローカルブランド企業の商品企画室を覗くと、海外のファッション雑誌が積まれていて、同じようなものを作れという指示のもとに次々と新製品が発表されていく。また弊社が時々実施する中国消費者調査の結果を見ると、“日本ブランドは大好き”といいながら、“好きな日本ブランドはミッキーマウス”といった回答もあり、まだブランドに対する認知や動機付けがされていない現状にある。

急速に変わりつつある消費者と小売

一方で、中国の小売店は今急速に変わりつつある。その一つが接客である。以前は国営ショップばかりで、“店員とは顧客の注文に対して商品を見せて伝票を書く仕事”という意識だったが、民間企業へ転身して“来店していただいたお客様に気持ちよく買い物をしていただく仕事”へと意識が変化した。また、接客技術だけでなく、小売ノウハウにおいて海外のビジネスモデルを参考にしているようだ。今まで中国に無かったファストファッションで伸ばす中国企業や、ドクターズコスメ、ツープライススーツストア、レンタルボックスなど新しい業態もどんどん出来てきた。

今、上海市内は万博に沸いている。地下鉄や商業施設など街中いたるところで今回のテーマにちなみ「万博を機に文化的生活の向上を目指す」ようなプロモーションが行われている。かつての車と自転車と歩行者が我先にと飛び出す交通マナーも少しずつ改善されてきている。消費の拡大が進むにつれて、“物欲から生活の質の向上”、“ブランドから本質的な価値観”へと消費構造の転換も進むに違いない。店頭からコピー商品が無くなる日もそう遠くないのかも知れないし、Made in Japanの良さが中国全土に浸透する日も必ず来ると信じたい。

研究員紹介

深澤 裕(主席研究員)

ファッション、リテール、宝飾分野などに多数の調査実績を持つとともに、国内外で講演活動を行う。特に2000年より同分野の中国での市場調査、コンサルティング活動や日系企業の中国進出支援にも注力している。2009年にはCHINA BRAND NEWSを立ち上げ中国のブランド動向を取材している。