新規事業についての考察

2010年7月
主任研究員 石井 利彦

新規事業は何故必要か?

人間の成長過程と同様、産業にもライフサイクルというものがある。
現在成長分野で展開している企業であっても、その産業分野が永続的に発展成長するという事は残念ながらあり得ない。

企業会計で使われるゴーイングコンサーンという言葉には、「企業は継続し続ける社会的責任がある」という意味もある。従来展開してきた事業領域で活動をしていけば、リスクも低く取り敢えず安全である。ただし、何ら対策を講じず、そのまま事業活動を継続していけば、いずれジリ貧状態に陥る可能性が極めて高い。
よって、企業が継続的に発展・成長していくためには、従来とは異なる、成長が見込める産業分野に経営資源を投じるといった事をどこかの段階で考える必要が出てくる。

新規事業のテーマ選定

企業の戦略分析を行う上で、SWOT分析がよく使われるが、新規事業を検討する場合は、この中の「S」(Strength:強み)と「O」(Opportunity:機会)を掛け合わせて事業テーマを考える必要がある。
新規事業のテーマ選定の流れは、ブレスト等によるアイデア出し ⇒ 評価 ⇒ 絞込みという形になるが、この中で、「アイデア出し」というのがやはりキーになる。
この「アイデア出し」を行うに際しては、まずは今まで展開してきた事業領域の周辺からテーマを考えるという事になるが、そこからやや離れた分野での検討を行う場合は、“比較的幅広い業界知識/知見”というものが必要になってくる。
また、「アイデア出し」に際しては、“視点を変えて考えてみる”という事も必要になってくる。例えば、物事を真正面から見るだけではアイデアはなかなか出てこないが、それを真横や斜めから見てみる、あるいは、それ単独では難しいアイデアも別のアイデアと組み合わせて考えてみる等すると、もしかするといけるかもしれないというアイデアが意外と出てきたりするケースがある。

新規事業検討に際して必要なこと

新規テーマを絞り込んだ後、実際にそのテーマの実現可能性を見極めるため、市場調査を行う必要が出てくるが、例えばある製品を開発するという事を新規事業として考えた場合、この段階で実際のモノ(試作品など)を作ってしまうケースが意外と多い。
市場調査を行う際、試作品があった方が実際の製品のイメージを伝えやすいのでやりやすくはなるが、試作品等を作らずとも、どんなコンセプトの製品を考えているのか等を記載したペーパーを用意するだけでも市場調査は十分可能である。
当初検討したアイデアがそのまま事業(製品)として具現化すればよいが、残念ながらそのまますんなりいくケースは殆どない。コンセプトの一部見直しや、大幅な軌道修正が必要となるのが一般的である。
試作品を作るのも事前にコストが出て行く話しになるので、これをやるだけでも、全体的な投資効率はだいぶ良くなるのではないかと思う。

不景気到来=新規事業検討のチャンス到来

「ソブリンリスク」という言葉が最近よくでるようになってきた。「ソブリンリスク」とは、国家への融資における国の信用リスクの事をいうが、ギリシャ問題が表面化したあたりからよく聞くようになった。
これを受けて最近日本でも、借金の多さがマスコミ等でクローズアップされ、財政再建論議が活発化する兆しも出ているが、いずれ近い将来、この問題が日本にも飛び火してくる時期が来るのではないかと懸念している。
また、今や世界の景気のリード役としてその地位を築きつつある中国であるが、一般的に半年~1年先の景気動向を反映すると言われている株式市場の動きが冴えない。
この原稿を書いている2010年6月時点で、上海株価指数は、リーマンショックの世界同時株安で2008年10月に安値を付けた後反転し2009年8月に戻り高値をつけたものの、その後その戻り高値を更新できずに低迷するという動きが続いている。
このような動きは、これから景気が再び弱含むという先行きの動きを暗示しているような気がしてならない。

ただし、新規事業を検討する上では、不景気になるのはチャンス到来とも言える。
例えば新規事業実行の手段としてM&Aを考える場合も、景気低迷期は「買い案件」(こういう企業を買いたいという要望)よりも「売り案件」(この企業を売りたいという要望)の方が多くなる。また、会社を売却する際の株価評価も、基本的に株式市場と連動する傾向が強いので、全体的な株価が上昇し、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が上がれば、売却対象となる会社の株価評価も高くなる。従って、景気低迷期よりも景気が好調な時にM&Aを実行する方が当然それに伴うコストは嵩むという事になる。
株式市場の有名な相場格言に、「人の行く裏に道あり、花の山」という言葉がある。
これは、人と同じ事をやっていても儲からないという意味合いの言葉になる。新規事業の実行を考える場合も、この考え方に共通する部分はあると思う。

以上のような点も踏まえて、仮にこれから景気が低迷し、2番底を探るような動きを見せる事になったとしても、マインドが悪化して皆が投資を絞っている時にこそ新規事業の検討を始めるには好期なのだと、是非考えるようにしていただければと思う。

研究員紹介

石井 利彦(主任研究員)

矢野経済研究所入社後、新規事業の企画立案に関するコンサルティング支援、ビジネスマッチングに関する支援業務(大手企業と中堅中小・ベンチャー企業とのビジネスマッチング、M&A対象先のファインディング、企業が保有している産業財産権のライセンスアウトに関する業務など)、中堅中小・ベンチャー企業のマーケティング支援等を手掛ける。