改正薬事法施行から1年半、セルフメディケーションのゆくえ

2010年11月
主任研究員 生貫 彦三郎

セルフメディケーションの推進を狙った改正薬事法

2009年6月1日に、OTC医薬品の販売制度の見直しを柱とする改正薬事法が完全施行された。改正薬事法の主なポイントは、OTC医薬品をリスクに応じて第一類、第二類、第三類の3つに区分し、リスクの程度に応じた情報提供と相談体制の整備を図る。また、薬剤師とは別に登録販売者という新たな資格者制度を設けたことで、薬剤師が不在でも登録販売者がいれば第二類、第三類の販売が可能となった。これにより、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなど異業態小売業のOTC医薬品販売への参入が容易となった。施行前後におけるマスコミ報道でも、この話題が数多く取り上げられた。とくに、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどでも大部分のOTCが購入できるようになるため、消費者の利便性が向上する点に注目が集まった。
消費者の利便性向上では、1999年と2004年の二度に渡って医薬品販売の規制緩和が実施されたが、その際は医薬品のうち特に安全上問題のないものを販売規制のない医薬部外品に移行したものである。2009年の改正薬事法では、医薬品分類のままで販売チャネルの拡大が実現しており、さらに規制緩和が進展したと言える。ただし、改正薬事法の目的は、消費者の利便性向上以上に、適切な情報提供および相談対応のための環境づくりを図ることで、国民全体の健康意識やセルフメディケーションが推進され、ひいては医療費抑制に結びつくことを厚生労働省では期待している。厚生労働省でも、積極的に医療用医薬品で使用される有効成分をスイッチ化(転用)したスイッチOTC開発の後押しを図るなど、改正薬事法施行に合わせセルフメディケーション推進に向けた展開を図った。

2009年のOTC医薬品市場は前年比0.9%増の7,900億円

改正薬事法施行から1年半近くが経過したが、OTC医薬品を販売しているコンビニエンスストアやスーパーマーケットは限定的であり、実験的な展開に止まっている。これは、登録販売者の確保や採算面などの課題を抱えるためである。一方、ドラッグストアなどでは、薬剤師の説明が消費者に敬遠されるケースが多い他、リスクが高く書面を用いた情報提供が必須である第一類医薬品については、取扱い店舗の減少や販売方法の変更、薬剤師不在時間の対応など販売店側の機会損失などもあり、改正薬事法施行前と比較して売上高が減少する品目が多い。ここまでの状況を見ると、改正薬事法の施行がセルフメディケーションを推進すると同時に、OTC医薬品市場を活性化させることで、将来的な医療費抑制を実現するという図式通りには進展していない。
2009年におけるOTC医薬品(指定医薬部外品を含む)の市場規模は、メーカー出荷ベースで前年比0.9%増の7,900億円と推測される。2007年以降3年連続でプラス成長は記録しているものの、成長率はいずれも1%未満の微増に止まる。2009年は、新型インフルエンザの予防関連製品の伸長が目立つ他、育毛剤やメタボリックシンドロームなど生活習慣病予防を目的とした漢方薬などが好調に推移した。これに対し、ドリンク剤やビタミン剤、総合感冒薬など市場規模の大きな薬効が伸び悩んだ。ここ数年、OTC医薬品市場は伸び悩んでいるが、健康食品や特定保健用食品、健康機器など健康の維持や増進を目的とした製品の増加は顕著であり、さらにカロリーオフ食品の増加など健康に対する消費者の意識は確実に向上している。

自分自身の健康に責任を持つ時代に

ところで、最近、耳にすることが多くなったセルフメディケーションという言葉であるが、一般的には、自分自身で健康の維持や増進を図ったり、疾病を予防したり、軽い病気は自分で治療することとして用いられることが多い。世界保健機関(WHO)では、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義している。日常的な健康の維持・増進には、適度な運動、栄養バランスの良い食事、十分な睡眠時間をとるなど規則正しい生活習慣を心掛けることが大事であることは言うまでも無く、これにより人体に備わっている自然治癒力が高まる。しかし、規則正しい生活習慣を実践することは容易ではなく、不規則に陥った生活習慣のマイナス点をOTC医薬品、健康食品、健康機器などを利用することで補填している人も多い。とくに特定保健用食品やカロリーオフ食品などの需要が増加しているのは、本来のセルフメディケーションの定義とまではいかないものの、手軽にかつ日常的に摂取する食品を通じて、少しでも健康の維持・増進を図ろうとする意識の表れと言える。
今後、こうした健康に対する消費者意識はさらに強まっていくと同時に、より健康管理に留意し、さらには自分自身の健康に責任を持つという本来のセルフメディケーション意識が徐々に向上、浸透するものと見込まれる。これは、わが国では国民皆保険制度が導入されているため、ほぼ全ての人が医療機関を受診するのに、さほどの手間と費用(保険料負担は除く)がかからない。しかし、逼迫する医療財政を考慮すれば、将来的にはさらなる保険料や自己負担などの費用増加は避けられない見通しにある。また、給付可能なサービス内容にも制限が設定される可能性もある。

注目される「エパデール」のスイッチOTCは、2011年初頭にも発売の可能性

セルフメディケーション意識の向上、定着を図るためには、薬局やドラッグストア、薬剤の専門家である薬剤師の果たす役割は重要である。自分自身の健康に責任を持つためには、商品知識を含めた情報を収集し、それを見極めた上で的確な判断が必要とされる。健康関連商品の数や範囲、情報量が増大する状況の中で、的確な判断を下すためには、薬学的知識を持つ薬剤師の助言が不可欠である。セルフメディケーションが浸透すれば、OTC医薬品市場は拡大の可能性が高い。さらに、薬局やドラッグストアも新たな成長段階に進むものと予測される。セルフメディケーション浸透に向けた試金石の一つになると見込まれるのが、2011年初頭にも発売の可能性がある高脂血症治療剤「エパデール」のスイッチOTCの動向である。将来的な大型品の一つとして期待されており、OTC医薬品市場の拡大、さらにはセルフメディケーション浸透に向けた牽引的役割を担う。ある程度は時間を要したとしても着実に市場に浸透、定着させることが望まれる。

研究員紹介

生貫 彦三郎(主任研究員)

矢野経済研究所入社以来、主に医薬品業界を担当。医薬品、ドラッグストア、調剤薬局などに関する調査・研究を実施。