次の10年の住宅産業

2010年12月
主任研究員 菅原 章

新設住宅着工が70万戸台に ~悪いのは景気のせい?~

2009年度の新設住宅着工は、約77.8万戸となった。要因としては、世界的且つ急激な金融市場の低迷を発端として、不動産開発への資金供給の低迷、購入者の買い控えなど様々な要因があってのことではあるが、住宅に携わる事業者においては大きなインパクトのある数値となった。70万戸台といったら1964年度(昭和39年度)以来45年前の着工数の規模である。
直近では2006年度を境にしてピークアウトしている。第一弾のターニングポイントは、2007年6月に施行された改正建築基準法の影響が大きく、責任転嫁をするわけではないが、ある一人の建築士によって引き起こされたものである。第二のターニングポイントは、2008年9月のリーマンショック。「対岸の火事」が世界を駆けめぐり世界的なリセッションとなった。この大きな二つのターニングポイントは、不確定要素による着工減である。「だから、悪いのは景気(情勢)である」という結論を頼りにしていると住宅建築業界の大きな地盤沈下を招きかねない。

図表1<住宅着工統計の長期時系列(年度計)>

次の10年は世帯数も減少フェーズへ ~住宅市場も萎む?~

総人口が減少局面に突入し、次の10年(2020年まで)では世帯数も減少局面に突入することになる。だからといって、「住宅を建てたい/買いたい」という人がいなくなるわけではないが、明らかに今までの住宅需要量よりは確実に減ることが予想される。むしろ問題はその「下げ幅」ということになる。
例えば、世帯数だけを単純にみていくと、次の10年の世帯純増数はわずか15.3万世帯である。1990年代611.1万世帯、2000年代350.4万世帯が世帯純増数であったのと比較すると、2020年までの世帯純増数が大きく減少し、さらにその後は純減局面となっていくことになる。
結果論にはなるが、住宅投資を促すために実施されている住宅ローン減税等による景気刺激対策によって、かろうじて住宅着工が維持されてきていた感がある。エコカー減税や家電エコポイントによって「需要の先食い」をしてしまったため、その反動が危惧されている。それと同じようなことが、住宅着工では既に起きていたのではないかと思う。直近に起きた住宅着工の減少は、「膨らみ続けた風船(バブル)」ではなく、もしかしたら「萎みかけていた風船」をさらに周りから萎ませてしまったのではないかと思う。

図表2<世帯数の増減と住宅着工数>

新築住宅の価格が高止まり、見直される中古住宅

次に、ヒトではなく家の数(ストック数)という視点でみると、既に1968年の統計調査以降、世帯数よりも住宅ストック数が上回る「住宅あまり」という状況が続き、2008年の調査時点では798.8万戸もの空家が存在している。先ほどの図表2を再度みると、住宅のストック数の増加率が、世帯数の増加率を上回っているため、住宅はどんどん余っていく。偶然か必然か、住宅あまりとなったのが1968年の住宅統計調査、年間着工数が70万戸台となった着工統計が1964年。1960年代半ばから住宅の大量供給が進み、現在に至っているということになる。
都市部のように通勤通学等の利便性の良いところに住宅を欲しいが、欲しいエリアには高くて住めないといった状況から、開発が進み住宅が増えていく一方で、地方では空家が増えるという二極化が進んでいる。もちろん都市部であっても、人口が増えている地区もあれば、高齢化(過疎化)してしまっている地区もある。
そこで注目されているのが、『中古住宅』である。中古住宅の売買は、今に始まったことではなく昔からあったビジネスである。いままでは、「中古住宅しか買えない」というマイナスイメージであったが、現在は「中古住宅をあえて買う」というプラスイメージの商品になってきているところが大きい。
特に新築住宅では、長期優良住宅・住宅性能表示・住宅保証など、この10年間で建築物としての「住宅の水準(構造・躯体)」に一定の基準ができた。さらに、原材料の高騰や、様々な住宅設備機器も省エネ対応であったり、利便性の向上のための機能が追加されたりしたため、地価が下がっているのにもかかわらず、年々住宅価格が高騰している。
このように、所得水準と新築住宅との乖離は、新築と比較すると価格的な割安感のある中古住宅に必然的に注目が行くようになっている。また、金銭的な問題ではなく様々な居住者のライフスタイルを実現するために、中古住宅を選ぶ人も増えてきている。実際、2009年度では新築で住宅を所有する(分譲)、家を建てる(持家)の合計値よりも、中古住宅の流通量が上回るといった統計もある。
「住宅が欲しい(買いたい/建てたい)」という需要に対して、新築しか選択肢がなかったところに、「中古住宅を買う」「中古住宅をリフォームして住む」といった選択肢が購買層に徐々に浸透してきている感じである。
したがって、今後中古住宅の流通量の拡大は、大きく新築の着工数にも影響を与えることになる。したがって、「いずれ住宅着工も回復するだろう」という楽観的な予測には少し疑念が残る。むしろ、「中古住宅+リフォーム」といった市場が今後大きく脚光を浴びる市場に成長していく予感がする。

産業構造の大きな転換期

住宅関連産業は、成長期から成熟期を迎えている。今後いずれは衰退期を迎えることになる。従来の大量供給型のビジネスモデルから早く脱却しないと、シェア争いどころか総崩れとなってしまいかねない。国内市場での成長を描くためには、中古住宅・リフォーム・戸別管理といった、どちらかというと建築業ではなくサービス業に近い形での新しい産業形態になっていくものと考えられる。
また、中古住宅の市場も脚光を浴びているうちに、市場や取引間の小さな問題点を解決し、マイナスイメージがつかないような対策が必要である。特にキーポイントといえるのがインスペクション(診断)である。住宅診断を経た上で売買されるような仕組みにしないと、取引間トラブルが購買層へのマイナスイメージを再び植えつけることになってしまう。
2011年からの次の10年で大きく住宅関連産業が変わっていくのではないかと考えられる。今までは、住宅を買う/建てるといった1点のみでの付き合い方から、居住者の成長とともに、住宅産業の成長があるようないい意味で長い付き合いができるようなビジネスモデルの構築が必要である。

研究員紹介

菅原 章(主任研究員)

矢野経済研究所入社以来、主に住宅・建築・物流業界を担当。
なかでも、住宅ストックのアフターマーケット(リフォーム・仲介・管理など)を中心に調査・研究を実施。