ビル管理市場の現状と未来

2011年2月
主任研究員 品川 郁夫

2年連続でマイナス成長となった市場規模 ~需要は頭打ち!?

事務所ビルなどの一般建築物を対象として、建築物の保全・維持管理に寄与するビル管理業は、戦後近代の都市部を中心としたビル建設ラッシュとともに成長してきた。バブル崩壊後、建設に係る市場規模は急速にシュリンクしていったが、ビル管理業については、業務単価は下落傾向が続きながらも、ストックビジネスであるが故に市場規模は緩やかながら成長が続いていた。

2000年代に入っても相変わらず業務単価の厳しさは続いたが、首都圏を中心とした大規模な再開発ラッシュが到来、市場環境は少しずつ改善の方向へとシフトしていった。これを受けて、長期にわたり必要以上に下落していた業務単価について、有力なビル管理業者ではビルの所有者、すなわち顧客に業務価格の改善を求める姿勢を強めようとしていた。

しかし、その矢先にサブプライムローン問題やリーマンショックが発生、市場環境は再び急速に悪化していき、改善どころかさらなる価格低下の圧力が再び強まることとなった。これら景気悪化のインパクトは相当大きく、バブル崩壊後もプラス成長を維持し続けてきたビル管理市場も、ついにマイナス成長へと転じることとなった。

図表1<ビル管理市場の市場規模と前年度比の推移>

マイナス成長は2期連続で続いたが、ストックビジネスであるが故にこのような大きな落込みは一時的なものであり、景気の回復とともに、依然としてしばらくは緩やかな成長が期待できるという見方もある。しかしながら、現在は確かに必要以上に需要が縮小していると捉えることができるものの、今後、従来のビル管理市場の領域において最早ピーク時の2007年度の市場規模の水準を超えて成長していく可能性は小さいものと推察される。

いまや国内の産業、業界、企業の多くが主戦場をアジア圏中心とするグローバルと捉えており、拠点を含めたリソースの拡充についても海外が中心となりつつある。反面、国内リソースは拠点の統廃合を含めた集約化の流れにあり、これらトレンドは一時的なものではないと判断されるためである。

したがって、国内における建築物ストックが急速に減少(滅失)することはないものの、これまでのように活用されるストック量が毎年新設される建築物により積みあがっていく(増加していく)という構図が成立しなくなっていく。

結果、ビル管理市場に対する需要量も積み上がっていく可能性は小さくなるであろう。加えて、業務単価においても“一度下がったものを上向かせることは容易でない”という事は、バブル崩壊後に経験済みであり、余程のことがない限り当面は期待できないであろう。これらのことからビル管理に係る市場規模はもはや頭打ちになっている可能性が高く、今後、2007年度の水準を越えて拡大していくようなシナリオは想定し難いものとなっている。

ビル管理市場の将来像 ~持続的成長のためには第4の柱の育成が急務

このような市場環境の中、ビル管理業界や参入プレイヤーが持続的成長を遂げるために必要なことは、従来の事業領域である“清掃”、“設備”、“警備”の事業3柱に加え、早期に第4の事業の柱を育成することとなる。

現在想定される最も有望かつ現実的な第4の事業柱の候補としては、建築サービス(リニューアル、建物保全)がある。2000年ごろより有力プレイヤーやゼネコン系プレイヤーにおいては、リニューアル等の工事領域の事業を育成すべく注力してきているが、いまだ第4の事業の柱と呼べるほどには至っていない。これはゼネコンやサブコンなどの強力な競合企業が存在していることや、技術力・建築エンジニアリング能力を求められるため、比較的参入障壁が高いことなどが成長の阻害要因となっている。しかしながら今後のストック社会においては、そのポテンシャルは高く、十分事業の柱となり得る領域であろう。

また、周辺業務として各種のファシリティサービスやマネジメントサービスなどを志向する方向性や、まったく異なる方向性を見出そうとする動向もみられるようになってきた。このような新たな事業の柱を育成する必要性については、主要プレイヤー各社とも認識を強めている。現在のビル管理市場は過渡期の真っ只中にあり、当面はプレイヤーの統廃合や各種の提携、M&Aなどを含めて、業界全体における様々な模索が続くものとみられる。

研究員紹介

品川 郁夫(主任研究員)

矢野経済研究所入社以来、主に住宅・建築・物流業界を担当。
近年は、非住宅建築物のストックマーケット(ビル管理、ビルリニューアルなど)を中心に調査・研究を実施。