アナリストeyes

地方で頑張る中小企業の成功要因

2011年5月
主席研究員 須貝 利喜夫

コンサルティング業務を担当するなかで、中小企業の業務改善(下請けからの脱皮など)では、東北エリアの複数の企業と一緒に取り組んだ経験を持っている。その技術力に驚くことも屡で、商品開発力と販路等を確立すれば、地方の下請企業であっても、自社製品を世に送り出し、ヒットさせるのは十分に可能なことを信じているひとりである。

とはいえ、地方の中小企業が抱える課題も多い。例えば①メインとなるマーケットが遠い②地域のマーケットが小さい③資金調達の機会が少ない④優秀な人材確保が困難⑤事業を新しく起こしにくい、など条件的にも制約があるのが実態である。それらを一気に解決する手段を取るのは極めて難しいが、課題をひとつずつ克服していくことで、次の一手が見えてくる。

地方の企業が成長するには、どのような施策を打ったらいいのだろうか。ここでは、5つの提案をしたい。

一つ目は、創造を続けていくことに尽きる。換言すれば、新規事業にチャレンジすることである。自社の強みは何か、それが本当の強みになるかを常に検討して、強みを活かせるもので新しい価値を創造できる何かを探すことがスタートになる。それが把握できたら、チャレンジすべきかどうかをトップが決断する。トップが納得しない事業は、決して長続きしないことは明白である。

二つ目は、連携を強化・拡大することである。単独では成しえない事業もベストパートナーと共同歩調をとることで、成功している事例は多い。そのためには、コアとなる企業の存在が重要になる。自社がコア企業になれれば、チャンスは更に広がる。事業のコンセプトを構築して、参加企業が同じベクトルになるのが望ましい。

三つ目は、技術やサービスなどのノウハウをしっかり蓄えて、出口を見つけることである。現在展開している事業のポジションを把握して、近傍市場を広く捉えて活用先を探索することが必要である。出口が明確になれば、必要とされるノウハウにも確信が持てる。

四つ目は、マーケットを見直すことも検討すべきである。国内を対象としたマーケットの将来性を分析するとともに、海外進出も視野に入れるべきタイミングにある。中小企業に海外展開はリスクが大きすぎると考える経営者も多いだろうが、重要なのはリスクを事前に想定して対応策が練られ、手の届く、目配りのできるマーケットなら、国内でも海外でも同様という発想が求められる。

五つ目は、危機対応に強くなるということである。今回の震災では、複雑化しているサプライチェーンの回復の遅れ等により、事業の継続に困難をきたした企業が多数見受けられた。様々なリスクに対して、どのようにしたら事業を継続することが可能になるのか、今ほどマネジメント能力が問われている時期はないだろう。

矢野経済研究所が業務改善で支援した仙台市の中小企業は、BCP(事業継続計画)の策定など、全社員共通の意識としてきめ細かい対応がなされていたために、今回の震災においてもいち早く再開できたのは学ぶべき事例である。

このことを考えながら、見えてくるもうひとつのキーワードがある。それは、社員が誇りと自信を持って働ける職場をつくることが大事ということだ。セルフモチベーションを引き出した企業は、どんな危機をも乗り越えられることに私たちは気づいたからである。

研究員紹介

須貝 利喜夫(主席研究員)

矢野経済研究所入社後、幅広い分野での調査を経験したのち、新規事業の企画立案に関するコンサルティング支援、事業再構築支援、ビジネスマッチング支援業務などを担当する。
地方にある中小企業、ベンチャー企業のコンサルティング支援業務の実績も数多く手掛けている。