アナリストeyes

全体から部分に落とし込む能力こそ不可欠

2011年12月
主任研究員 松井 和之

ここ10年以上、百貨店やGMSなど大型商業施設が伸び悩んでいる。これに対し、駅ビルやファッションビル、郊外のショッピングセンターは堅調に推移してきた。ごく最近はこれらショッピングセンターも厳しいが、どちらが順調かといえば、それはショッピングセンターである。 ショッピングセンターと百貨店、GMSの違いはどこにあるか?それは収益源が違うところにある。ショッピングセンターは賃料、百貨店、GMSは商品の販売額である。すなわち前者は不動産賃貸管理業、後者は小売業である。
一般にチャネルというと、百貨店やGMS、専門店などの小売販路を指す。ではショッピングセンターはどこのチャネルに該当するかというと、実はチャネルではない。ショッピングセンターは専門店チャネルの集積であり、チャネルでいうと、専門店といわざるを得ない。ショッピングセンターの捉え方が難しいのは、このように不動産管理と小売業の二面性を持っており、業種では不動産賃貸管理業、利用者から見たら小売業に見える点だ。
百貨店、GMSとショッピングセンターは、業種、ビジネスモデルがそもそも違うことはわかったが、ではなぜ百貨店、GMSは苦戦し、ショッピングセンターは堅調に推移してきたのか?まず両者が違っている点を挙げるなら、次のようになろう。すなわち、扱っているブランドが違う、立地が違う、扱っている商品の価格が違う、利用者の年齢が異なる、○○フロアというのがショッピングセンターはほとんどない、リニューアルがわりと頻繁、歴史が違う、百貨店はもともと呉服屋…など、結構ある。
わかりやすいのは商品、ブランドが違うことだろう。とすると、必然的に利用者の年齢が違うことにたどり着く。利用者の年齢は百貨店、GMS>ショッピングセンターということになり、ショッピングセンターの利用者の方が総じて若い。衣料品は若い女性の方が消費意欲は旺盛だから、ショッピングセンターは元気なのだろう、そういう推論も成り立つ。また大型商業施設の約5~6割は衣料品が占めることが多いから、若い女性ターゲットのショッピングセンターが好調であるともいえる。

では、事業戦略的に見てどこが違うのか?ここに好不調の大きな要因があると考えている。それはショッピングセンターは全体最適、百貨店、GMSは部分最適しか見ていない点、この点が大きく影響しているのだ。
ショッピングセンターは館全体の価値を上げることが目的であり、そのために館のコンセプト設計からショップ構成を落とし込む。館全体の価値を上げれば集客力も向上し、テナントとデベロッパー双方ともに良い状況になる。
これに対し百貨店は、フロアごとで稼ぎ、これを積み上げて売り上げを最大化させる。フロアとは「紳士服」「婦人服」など、自らの管理体制ごとに売り上げの最大化を図る。ところが部分最適を積み上げたところで全体最適になっていない。各部分の売り上げが最大化しないことにも要因はあるが、全体から部分に落とし込む考え方と部分を積み上げて全体に持っていく考え方の違いが業績に現われていると思えてならない。言い換えるなら、部分最適をつなぎ合わせて全体を最適にしようとするところに無理がある。
 とはいうものの、ショッピングセンターは新規開業するケースが多いため、スタートから設計可能だ。ショッピングセンターはコンセプト設計をして開業することがほとんどなのに対し、百貨店はもともとは呉服店で創業して100年を超えるケースがざらにある。いまさらコンセプト設計といっても現実的には難しいだろう。となると、次にショッピングセンターと違う点、すなわちリニューアルの頻度を上げ、館の鮮度を保つことが重要になる。これも館の価値向上という全体の目的があって出てくる考え方だ。
 ショッピングセンターでは概ね物販で3~5年、サービスで5~7年の契約期間のタイミングで大規模なリニューアルを行なう。現在百貨店で旗艦店レベルの増床、リニューアルをしているが、ショッピングセンターほどのサイクルで行なってはいないだろう。
 運営の現場から考えると、館の鮮度を保つためにはフロア(個別)の利害に絡まない第三者が全体を管理しなければ、公平な判断はできない。館にとってもブランド、ショップの双方にとっても売り上げが伸びず良いことがなければ退店、撤退することが最良の戦略なのに特例が生まれては困る。ここでも常に全体の最適を追求する必要がある。

全体から部分に落とし込む考え方は、スピード感が必要なビジネス環境にあっても求められている。部分から、個別の状況から積み上げていたのでは意思決定に時間がかかる。全体を把握し、そこから部分に落とし込んだ方がはるかに早いし、全体を理解してからの方がスタッフ間あるいは社内において、誤解を最小限にとどめることができる。全体がわかっていれば判断や行動に予測もつく。部分からスタートしていたのではその部分の捉え方が個人の価値観によって異なることがあり、相互の理解を妨げる。
このように、百貨店、GMSとショッピングセンターの業績の違い、ビジネス環境における意思決定に至るまで、現在求められているのは、問題、対象の全体を把握し部分に落とし込む思弁力といえる。全体から個のつながり、関係を理解、落とし込む能力こそ、今を生きるビジネスマンに必要不可欠だと思う。

研究員紹介

松井 和之(主任研究員)

アパレルから商業施設、小売流通を幅広く調査、研究対象とする。創業以来53年継続する調査レポート「ヤノニュース」の編集にも携わる。