アナリストeyes

百貨店に関する考察

2012年3月
主任研究員 秋吉 千晴

多くの人は毎日、新聞を読み、ニュースを見、それ以外にも多くの情報を得ている。それをどう処理・活用しているだろうか。
弊社の社長が社員に紹介した学習方法として、「1つの事象・データを掘り下げて考える」というのがある。読んでおしまいではなく、自分なりにその背景や数値を捉えなおすことで、自分のものにするのである。

この「アナリストeyes」への掲載依頼の連絡が来た日、「2012年1月31日でそごう八王子店が閉店した」というニュースを目にした。昨日で閉店したのかと思うとともに、百貨店不振の背景について考えた。
百貨店不振の理由として、ファッションビルや駅ビルに顧客を奪われ、またECも主要なチャネルになってきたこと等が頭に浮かぶ。はたして百貨店の競合はファッションビルや駅ビルなのだろうか?

百貨店は小売の中心的な担い手として、総合化・大型化の道を歩んだ。委託や派遣販売制など特有の取引慣行がこれを支えた。出店する方も、百貨店の集客力や固定客を利用し、売上を伸ばしてきた。百貨店の成長、専門店の成長をお互いに支えていたのである。
しかし、バブル崩壊後、流通構造が大きく変化する。商品開発においても消費者の視点が重視される。SPAが台頭し、同時に低価格志向も進んだ。また、この時期は大店法改正による規制緩和で、ショッピングセンター(以下、SC)の開発が相次いだ。これまでの取引先もSC向けに業態開発を行い、出店を進めた。これまで共存共栄を図ってきた専門店が競合となったのである。

専門店はその後、SCへの出店を進め、店舗数を拡大する。また、ECの取組みにも積極的で、自社サイトやファッションブランド専門サイトに出店し、業績を伸ばす。
しかし、リーマンショック後、SC全体の売上も低迷、陰りが見え始めた。
新しい出店先として注目を集めているのが、駅ナカ、サービスエリア(以下、SA)、空港などのトラフィックチャネルである。これらのチャネルは、弁当や土産を中心に販売してきたが、近年、色鮮やかなスイーツや惣菜、ご当地グルメなどを集積し、それらを目的とする消費者が急増した。
ファッション関連の専門店にとっても、膨大な人が行き来するこれらの立地は魅力的である。ディベロッパー側も他の施設と差別化を図ろうと新しいテナント探しに躍起である。両者の思惑が一致し、ファッション系専門店のトラフィックチャネル進出に繋がった。

2011年12月に東名高速・海老名SAに開業した「エクスパーサ海老名」は、NEXCO中日本が展開する新しいスタイルのSAで、レストランと土産物屋から構成される従来のSAからの脱却を図ったものである。「1.5日分のマイパートナー」をコンセプトに、立ち寄った際の「食べたい・欲しい」といったニーズだけでなく、帰宅後や翌日までのニーズにも応えるモノ・コトを揃えたサービスエリアを目指している。
輸入食品の品揃えが豊富な「成城石井」や、東京・赤坂の高級中華料理店「Wakiya」が手掛ける「上海DOLL BY WAKIYA」などが出店し、話題となった。ファッション系ではユナイテッドアローズ(以下、UA)が高速道路向けの新業態「ザ ハイウェイ ストア ユナイテッドアローズ」をオープンさせた。

UAは現在、「マルチビジネスモデル」構想を進めている。これは、ネット通販、テレビ通販、百貨店、空港・駅ナカ・高速道路といった新たな販売チャネルへの進出を強化、それによって新規顧客開拓を進めていくというものである。中でも、空港マーケット、駅ナカ市場、高速道路のSA/PAなど、集客力が高いトラフィックチャネルを新たなマーケットと捉え、出店を進めている。

2012年4月には新東名高速・御殿場JCT~三ケ日JCTが開通する。この区間内では一気に13箇所の商業施設(SA「ネオパーサ」7箇所、PA6箇所)がオープンする。中でも清水PAは、UAや「エフ・アール フリーズ ショップ ドライブイン」(FREE'S INTERNATIONAL)、「ハート ダンス+」(玉屋)が出店予定である。また、UAと同じセレクトショップのビームスもカフェとの複合業態「レムソンズ」を出店する予定である。

冒頭に、「百貨店の競合はファッションビルや駅ビルなのだろうか?」と問題提起したが、皆さんはどう考えるだろうか。
売上不振に悩む百貨店は、その原因がSCに顧客が流れたためとし、対SCとして低価格ブランドの誘致、取り込めていない若い層への訴求力強化を図った。しかし、思うような成果があったとは聞かれない。
三越伊勢丹が2012年3月、ルミネ新宿にラグジュアリーコスメ編集ショップをオープンする。また、2012年4月、羽田空港第1ターミナルに伊勢丹メンズ館のノウハウを活用した小型店をオープンするという。
もはや百貨店という既成概念にとらわれる必要はなくなったのかもしれない。

研究員紹介

秋吉 千晴(主任研究員)

ファッション・小売流通を担当する。特にインナーウェア、ジュエリー・アクセサリーの分野の調査に精通。