アナリストeyes

待ったなしの次世代二次電池開発

2013年1月
主任研究員 日栄 彰二

これまでの二次電池の顔ぶれを時系列でみると、鉛蓄電池を筆頭に、1960年代初めに米国で開発されたニッケルカドミウム(Ni-Cd)電池がある。しかし、同電池に含まれるカドミウムは有害物質であったため、1990年代には代替電池の開発が進み、ニッケル水素(Ni-MH)電池とリチウムイオン電池(以下LIB)が台頭することになる。

これら“新型”二次電池の主要特性を振り返ると、基本的には容量増加の歴史となる。しかし、現在主力のLIBに対してはモバイル機器だけでなく、車両や蓄電池など多くのアプリケーションから更なる容量増加が求められている状況だ。LIBが実用化されてから約20年になるが、エネルギー密度は当初の3倍近くになるなど電池特性の改良は精力的に進められてきた。ただ、従来の金属酸化物を使った正極活物質に依存する限り容量の理論的な限界が近いとされている。

実際、様々な新系正極活物質を用いたLIBが提案されその一部が市場投入されているが、近年の容量増加カーブは鈍化傾向との見方も出来る。さらに、特性面では実用化レベルに達したとされる場合でも可燃性の有機溶媒を電解液として使用していることから自動車や電車のような車両、または住宅敷地内に配置される蓄電池には安全性面で必ずしも万全ではない、との指摘も繰り返されている。

このような中、その登場が期待される次世代二次電池には様々な種類がある。
全固体リチウムイオン電池はリチウムイオン電池の液体電解質を固体電解質に置き換えたもので、発火・液漏れの恐れがなく安全性向上が狙える。開発ステージは着実に進んでおり、車載用や住宅用定置型などの利用分野が視野に入っている。一方、極小容量品については固体電解質を薄膜化した全固体薄膜二次電池が実用化され、既に量産品出荷が始まっている。

金属-空気電池は負極活物質に金属リチウムを使用し空気中の酸素を正極活物質とするもので、エネルギー密度の理論値をLIBの15倍以上に高められる究極の二次電池とも言われ、EVに搭載されればガソリン車並みの走行距離を容易に実現する可能性がある。

有機二次電池は正極活物質に有機化合物を用いるもので、「有機ラジカル電池」の発表で注目度が高まっている。正極活物質には各種ありそれぞれエネルギー密度アップや高出力密度、急速充電性などの特徴を備えるが、今後1~2年の市場投入が期待できるものもある。

レドックスフロー電池は隔壁を挟んで2種類の電解液を循環、反応させるもので、大型化しやすい上、安全で形状の自由度が高い。既に実用化も始まっており、設置スペースの小型化や低コスト化に向けた取り組みが進められている。

ナトリウム-硫黄電池は負極に溶融ナトリウム、正極に溶融硫黄、電解質にアルミナ系材料を使うもので、寿命が長く自己放電が少ないため長期の蓄電に向いている。これも既に実用化は進んでいるが、同電池の課題である作動温度を下げた常温作動型の実現に向けた取り組みもみられている。

さらに、LIBと同等以上の特性と大幅な低コスト化が見込めるナトリウムイオン電池の実用化も3~5年内が見据えられている。

現在~今後の二次電池に求められることを3つに絞ると、
・低価格
・高容量(高出力)
・安全性
が挙げられる。現行LIBは上記3項が一定レベルに達しているものの、高次元での要求を満たしているのではない。例えばモバイル機器はディスプレイの大型化や多機能化が進展するにつれ消費電力が大きくなる一方であり、長時間駆動はユーザーからの大きなニーズであるが、現状は回路自体やバックライト(点灯設定など含め)による低消費電力化、高密度実装による筐体内電池スペース拡張などで間に合わせている面も強い。そして、これらがLIBの限界話につながっていく。

二次電池の進化は容量の進化とも言えるが、その決め手となるエネルギー密度は正極による部分が大きい。現行LIBの多くはコバルトとリチウムの化合物を正極に使うが、これから成長する中~大容量市場において同材料が主体となるのは難しい。これはその特性だけでなくコバルトが戦略物質と言えるレアメタルであり、大量に使用するには価格面や供給面でリスクが大きいことも要因だ。そのため検討・事業化が進むのはリチウムとニッケル、マンガン、コバルトなど複数の金属を含んだ化合物や、リチウムとマンガン、リチウムと鉄を組み合わせた化合物。マンガンや鉄は、エネルギー密度ではコバルトやニッケルに劣るが、コストや安全性の面では優れるとされている。

大きなタームで時間を捉えると、向こう10年、2020年頃まではLIBが主体の時代と思われるが、その先の10年、2030年に向かう中ではLIBより高性能で安価な全く新しい電池、すなわち次世代二次電池が本格的に市場導入されなければならない。境となる2020年は多くのエネルギーデバイスの研究者達が直近で目指すひとつの大きな節目であり、この時点での優劣が勝負を分けることになる。

2020年までの時間を長い年月とみることもできるが、実際の研究現場では毎年レベルで重い扉が待ち受けているイメージになる。次世代二次電池に関する取り組みの多くは各電池の特徴から正極材や電解質など特定部材が中心になることが多い。このため、それら部材についての材料探索~開発を終え、「電池」としての完成形を示し評価に進むことなども、前述扉の一つとしてその期日が目前に迫っている。これら扉を適時こじ開けた者のみが研究開発を続けられることになるので、その意味では既に差し迫った厳しい研究開発競争が始まっていることになる。

ただ、上記とは別に金属-空気電池など、さらに長いスパンの研究が必要なものもある。これに対しては逆に研究者の拡大と継続できる環境整備が必要になる。特に日本ではこの方面のプレーヤーが米国などに比べ少ない模様だ。このため、現在これら研究に取り組む国内プレーヤーは自身の研究成果を出すのと同時に関連領域の広がりに向けた先導、旗振り的な役割も負っている。このような有望二次電池に対してはその実現可能性を高めるべく種々の環境構築が必要だ。

研究員紹介

日栄 彰二(主任研究員)

各種電子デバイスや部材を中心としたエレクトロニクス、オプティクス関連市場に関する調査・研究に従事。