日本人とオフィス

2015年9月
理事研究員 野間 博美

私の学生時代の一つ上の先輩が、米国のオラクル社で財務関係の仕事をしている。彼女は男児2人を抱えるいわゆるシングルマザーなので、何かと働く上での不自由が多いのではないかと思うのだが、比較的自由に勤務しているとのことだ。その理由の一つが、彼女が実践しているテレワークという働き方にある。

現在の彼女の日常は、朝オフィスに出社した後、昼過ぎには子どもを学校へ迎えに行き、その後は帰宅して自宅で執務している。米国では、そういった働き方が普通に行われているということだ。

このテレワークは、オフィス勤務に制約されないワークスタイルのことで、サテライトオフィスや在宅勤務もその一つの形態である。日本政府も以前からテレワークを推進しているが、普及していないのが実態である。

彼女の話に戻ると、彼女は現在のような働き方を始めた当時、上司に、今からどこでどういった業務をするかといった報告を逐一していたらしい。だが、そのうち当の上司から「私はあなたがどこでどのように働こうが興味がない。仕事で成果を出してくれればそれでいい」と言われたそうだ。そもそも彼女のオフィス自体それほど人は多くなく、全米各州にオフィスが散在し、日常的なコミュニケーションは、インターネットやITツールを活用して行っているという。

現在の日本では、いまだに全員がオフィスに出社するスタイルが大半であろう。しかも東京のような圧倒的にオフィスコストの高くつく都心にオフィスを構え、大抵は雇用している従業員全員分のスペースを確保している。さらに従業員は、1日数時間の時間と労力をかけて家とオフィスを往復し、企業はその通勤代を負担している。このスタイルを維持するために企業が費やすコストは大きい。

そういった通常のオフィス勤務ができない人は、そもそも雇用しない。また、育児期間中の女性などに対しては、オフィスに出勤できる時間のみ就業させる時短制度を採用している。このことで、貴重な労働力を埋没させているといえるだろう。これらによる社会全体の機会損失は、どれほどだろうか。

そうしてまで維持しているオフィスの役割も変化している。負担している多額のコストを回収するだけの機能があるのか、あらためて考える必要がある。

今やほとんどのオフィスにITツールが広く採用され、パソコンが業務の中心になっている企業は多い。社内コミュニケーションもグループウエアなどのソフトウエアが担っている部分が大きく、メールと電話、グループウエアだけで1日の業務が済んでしまう日が多いという従業員も増えているだろう。

会議やミーティングもオフィスが果たす大きな役割だが、それもウェブ会議やテレビ会議で代替できる時代である。本当にオフィスがなければ実現不可能な業務というのは、想像以上に減少しているのだ。

オフィスへの労働力の集中は、突き詰めれば東京一極集中の原因にもなっている。地方創生や労働人口の減少が問題になる日本で、働き方に関しても、根本的に見直していくことが必要となっている。

株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2015年8月17日号掲載