「地ビール」から「クラフトビール」へ

2015年11月
理事研究員 大仲 均

1994年の酒税法改正により、ビール製造免許を得るための最低製造数量が60キロリットルに緩和された。異業種企業や自治体もビール市場に参入し、各地で地ビールブームが起こった。この時は高品質の商品もあったものの、粗製濫造の感も否めず、2000年代前半でブームは沈静化した。最盛期に約250あった地ビール製造業者も200を割り込んだ。

その後、あらためて本格的な地ビール造りを目指す流れが起こり、ここ数年で状況は一変した。一製造業者当たり、および業界全体の販売金額も増加に転じた。呼称も「地ビール」から「クラフトビール」へと変わり、ブームが再来している。

そもそも、クラフトビールに明確な定義はない。アメリカでは醸造者団体ブルワーズ・アソシエーションが「規模(生産量の基準)」「独立性(企業の所有形態)」「伝統(伝統的な製造方法)」といった基準を設けているが、日本においては、「小規模」「職人(手づくり)」「高品質」がクラフトビールを表すキーワードといえよう。

実際に、現在では手間をかけた高品質なクラフトビールが増加しており、さらにブルワリーとパブを備えたブルーパブも多く出現し、新鮮さも消費者に提供できるようになった。

この流れを受け、大手ビールメーカー各社も、酒類カテゴリーの中で伸張しているクラフトビールに注力している。

キリンビールは14年にクラフトビールメーカーのヤッホーブルーイングと業務・資本提携した。ヤッホーブルーイングはキリンビールに一部製品の製造を委託する。キリンビールはイベントとインターネットを組み合わせたファンづくりなど、ヤッホーブルーイングが展開するマーケティング手法に関するノウハウ提供を受けている。

さらにキリンビールは15年に入り、スプリングバレーブルワリーを子会社として設立。「スプリングバレーブルワリー」ブランドでの店舗運営や、ネット販売を行っている。

サッポロビールも15年3月、100%子会社のジャパンプレミアムブリューを設立した。同グループの運営店舗や、ネット販売により「クラフトレーベル」ブランドのクラフトビールを展開している。

大手の製造するクラフトビールは「craft(手づくり)」ではなく「crafty(ずるい)」であるとやゆする向きもある。

確かに、これまで大手企業とクラフトビールというのは結び付かなかった。だが中小企業と比べれば、大手企業の方が、海外展開や、売り上げの変動に耐え得るコスト構造をつくるという部分では、優位に立つ部分もあろう。

現在では「大手企業対中小企業」「大手企業=大量工業生産」「大量工業生産のアンチテーゼとしてのクラフト」という構図ではなくなりつつある。大手も、子会社化による小規模性や手づくり感にこだわっている様子がうかがえる。

日本国内の総ビール市場で、クラフトはまだ1%にも満たない。海外を含めたクラフト市場が拡大していくには、参入企業の規模にかかわらず、日本のクラフトビール全体の認知度、信頼度の向上、ブランディングへの取り組みが必要である。

株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2015年10月5日号掲載