アナリストeyes

企業の農業参入

2016年2月
理事研究員 加藤 肇

2009年12月に改正農地法が施行され、農業生産法人以外の一般法人(企業)についても、新規参入の規制が大幅に緩和された。これにより、賃借であれば、農地の適正利用など一定の要件を満たすことで、全国どこでも参入可能となった。

一般法人の農業参入は、03年4月から法改正があった09年12月までの約6年半で436法人。これが改正後の09年12月から14年12月末までの約5年で1712法人へと大きく増加した。

09年の法改正を受けて、どのような一般法人が参入しているのであろうか。

農林水産省経営局が調べた1712法人の内訳を見ると、食品関連産業418(24%)、農業・畜産業317(18%)、建設業192(11%)、卸売・小売業85(5%)、製造業81(5%)、教育・医療・福祉(学校・医療・社会福祉法人)65(4%)、特定非営利活動(NPO法人)185(11%)、サービス業などその他369(22%)となっている。

このように多種多様な業種から農業へ参入しており、その背景や目的もさまざまだ。参入する企業は大きく分けて3タイプと考えられる。

まず、小売業・外食業を中心とした、販売における差別化を狙う企業である。

消費者の食に対する関心は高く「安全・安心」「新鮮」「健康」などさまざまな価値を求めている。その中で新たな事業として導入されているのが自社農場、一部出資を含む契約栽培、植物工場だ。GAP*や有機JASの基準に則った自社ブランド農産物や加工品の展開、トレーサビリティーの確保、農場直送・自社物流による高鮮度維持などさまざまな付加価値でしのぎを削っている。

次に農業を参入・成長余地の大きい産業と捉えている企業である。既存のフードシステムの非効率や陳腐化が指摘される業界だからこそ、情報通信技術(ICT)や自動化などによりテコ入れできる部分が多いにある。そこに新たな手法や技術で成長できる大きな余地があるとみている。産直などの市場外流通、生産・卸・小売までの情報インフラ整備、鮮度保持に効果的な資機材の導入など、従来の流通になかったものを各社が提供している。

そして三つ目は、農業をビジネスだけの視点でなく、CSR(企業の社会的責任)や遊休資産の有効活用と位置付けている企業だ。単体事業としては短期的な利益の確保が困難でも、連結経営の中ならば、企業の付加価値向上、地域社会におけるプレゼンス向上を目的とした事業展開が可能となる。

日本の農業は、従事者の高齢化がさらに進む今後の10年間で、大きな構造変革を迫られる。1947年にGHQの指揮の下、日本政府によって行われた農地解放によって、約480万人に上る自作農家が誕生し、戦後70年間の日本農業は、かかる個人営農者によって形づくられてきた。

しかし今後、農業が食糧生産基盤産業として永続するには、機能的な事業展開ができる法人(企業)との連携は不可欠な状況にある。企業による農業参入環境を整え、企業と農業の歩み寄りを促進する流れは拡大していくものと考えられる。

*GAP:Good Agricultural Practice(適正農業規範)

株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2016年1月4日号掲載