アナリストeyes

【電子産業】高色再現ディスプレイと量子ドット

2016年3月
主任研究員 日栄 彰二

“次世代ディスプレイ”という言葉が意味するものは時代によって異なるが、常に注目されてきた。近年ではOLED(有機ELディスプレイ)や3Dディスプレイ、フレキシブルディスプレイがある。映画では第3次3Dブームとなり、現在でも一定数の3D作品がリリースされている。だが、それに比べると3Dディスプレイの浸透は遅れ気味だ。一方でiPhoneやiPadへのOLED採用も取り沙汰される。

この中で、ディスプレイの基本的な課題に対応した次世代版ともいえるのが高色再現ディスプレイになる。これは「できるだけ自然に近い色を忠実に再現する」ディスプレイであり、特に国内では2020年東京五輪を見据えて、実現に向けた技術開発が多方面で進んでいる。

高色再現ディスプレイの規格として、ITU(国際電気通信連合)の無線通信部門(ITU-R)が12年4月に合意した「BT2020」がある。ITUは電気通信分野における国連専門機関の一つであり、超高精細度映像の標準化に取組んでいる。BT2020では映像アスペクト比や画素数、フレーム周波数、走査、表色系などが規定されている。

高色再現ディスプレイの用途は、デジタル放送やブロードバンドによる映像配信といった一般的なものにとどまらない。遠隔医療やバイオテクノロジー、電子商取引、美術品の映像保存などさまざまな分野での利用が期待される。

この高色再現ディスプレイを支える技術として、量子ドット(蛍光体)がある。

当初、量子ドットは発光ダイオード(LED)に応用されるとの期待が高かった。しかしLEDのハイパワー化に伴う製造上の課題やほかの技術の台頭もあり、この分野での優先度は下がっている。

現状で量子ドットの特徴を最大限に生かせるのはディスプレイだろう。BT2020規格を満たすため、量子ドットを活用する動きもある。ナノ結晶を利用して、必要な波長の光を高効率で得られる量子ドットを使えば、太陽光に近いスペクトルを低消費電力で再現できる。

これまで量子ドット市場は、米英勢のクァンタムマテリアルズ、ナノコテクノロジーズ、キュービービジョンなどがリードしてきた。ここに日本のベンチャー企業NSマテリアルズが参入しようとしている。

NSマテリアルズの量子ドットは、粒子の大きさを自在に制御することで、さまざまな色をつくりだせる。色の純度も他社より約20%高い。これを製造するには「マイクロリアクター」と呼ばれる、100万分の1メートルサイズの微細な流路を有する微小反応器を使って、超高精度な化学反応制御を行う。

さらに現在の先端材料である量子ドットの市場化を推し進めるため、次工程以降の低コスト化も視野に入れている。原料を金型内に射出するインジェクション成形も可能であり、これは他社にない大きなアドバンテージとなる。同社は今年操業予定の第1工場に続き、第2工場も年内に着工するとしている。

これまでは市場が話題に追いついていなかった量子ドットだが、実質的な市場化に向けた取り組みが進みつつある。

株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2016年2月1日号掲載