アナリストeyes

注目される『機能性表示食品』市場

2017年3月
主任研究員 飯塚 智之

拡大を続ける健康・機能性訴求食品

近年、健康・機能や美容を訴求したサプリメントや食品が市場に多く流通し、特に健康・美容への関心が高い中高年齢層を中心に摂取されている。ビタミンやミネラルなど、普段の食事では不足しがちな栄養素の補給から、全体的な健康維持・増進目的、美容・痩身など、幅広い機能・目的を持った食品が流通している。

1980年代頃までは、『健康食品』は一部の流通・ユーザーによる限られたマーケットであったものが、大学や研究機関などにおいて、食品や成分の生理機能が解明され、1990年代後半からの規制緩和の影響等により、消費者の健康・美容に対する意識の高まりの中で、科学的根拠を持った健康・機能性食品を中心に、中高年齢層において利用が広がった。

健康情報番組におけるデータ捏造問題など、消費者心理を冷え込ませる問題や事象が発生し、市場が一時的に縮小する年も見られたものの、長期的には健康・機能性を有した食品の市場は拡大を続けている。

健康・機能性を訴求する食品の制度と市場規模

食品において、機能性を表示出来る制度は、特定保健用食品(トクホ)や栄養機能食品が含有される保健機能食品制度と、機能性表示食品制度のみである。しかし実際には、上記制度の範疇以外の食品において、健康・機能、美容が期待される食品として、『健康食品』、『サプリメント』、『栄養補助食品』などの様々な名称で流通している。

矢野経済研究所では、『錠剤、カプセル、粉末、ミニドリンク等の医薬品形状をした、健康維持増進・美容等を目的とした食品』を『健康食品』として定義しており、2016年度の市場規模は7,500億円(見込値)と推計している。また、特定保健用食品の2016年度の市場規模は3,869億円(見込値)と推計しており、両市場を合算すると1兆1,369億円の市場規模である。

規制緩和で誕生した『機能性表示食品』制度

科学的根拠や安全性に関して国の審査が必要な特定保健用食品では、特に新規の成分や保健用途(機能性)にて申請する場合、開発コストで数億円、申請から許可までに数年かかると言われる。また、実際に特定保健用食品として認められるか否かも不透明であり、さらに、実際に特定保健用食品としての許可を取得したとしても、取得のために費やしたコストを回収出来る保証もない。そのような中で、企業側にとって、新規の関与成分や保健用途にて、特定保健用食品を取得するのはリスクが大きすぎるという課題がある。

食品の栄養・機能表示が保健機能食品に限定され、薬機法(旧薬事法)や景品表示法、健康増進法といった法律によって、食品の効果・効能表現が禁止されている中、2015年4月にスタートしたのが機能性表示食品制度である。機能性表示食品に関しては、事業者側の責任において科学的根拠、安全性などの必要な事項を消費者庁に届出を行い、受理されることで販売が可能な制度である。特定保健用食品に比べ、事業者側の負担が少なく、かつ、事実上、特定保健用食品での申請が困難であった生鮮食品でも届出が可能であることから、当該制度に対する事業者側の期待が高く、大手の食品・医薬品メーカー、健康食品メーカーのほか、中小企業や生鮮食品の生産者団体・企業等が機能性表示食品制度に対して積極的に取り組む姿勢が見られる。

拡大が見込まれる機能性表示食品市場と今後の課題

機能性表示食品は、消費者庁に届出が受理された品目が600品目を超えており、矢野経済研究所推計で、2016年度の市場規模は1,483億円に達すると見込まれる。

現在、届出が受理された機能性表示食品の機能性表示を見ると、特定保健用食品の表示と比較して幅が広がっており、消費者がより自身の身体状況に合った商品選択が可能になると見られる。

2016年12月上旬に実施した30代以上に対する消費者調査(回収数1,193名)の結果、機能性表示食品を知っており、かつ消費したことがあると回答した割合が21.6%、知っているが消費したことが無い割合が48.3%であり、認知率が7割程度に達する一方、消費経験は2割に留まった。

ただし、機能性表示食品の具体的な内容までは認知していない消費者も多く、消費者に対する機能性表示食品の更なる啓蒙により、消費拡大が期待されると共に、品目数の増加に伴って、事業者間、商品間の競合が激化することは想像に難くない。

今後、機能性表示食品の展開を目指す事業者は、商品設計・開発の段階から、マーケットインの視点に立った検討が肝要である。