アナリストeyes

持続発展可能な国内ゴルフ産業の実現に向けて

2018年9月
主席研究員 三石 茂樹

2018年8月に新刊「2018年版ゴルフ産業白書」を発刊した。調査内容はゴルフ用品を中心とした国内ゴルフ産業の市場動向と将来展望が中心であり、今回は2017年の国内ゴルフ用品市場規模(メーカー出荷ベース)の実績値及び2018年の市場予測データを更新した。

2017年のゴルフ用品国内出荷金額は、対前年比101.6%の2,587億円となった。僅か1.6%ではあるが前年実績からのプラス成長を果たした格好である。ゴルフ産業に詳しくない人にとって日本のゴルフ産業はどのように映るだろうか。「若手女子プロの台頭、活躍による女子ツアー人気」といったプラスイメージを抱かれる方もいるかもしれないが、恐らく多くの方は「若者のゴルフ離れ(但し個人的には「離れ」という言葉が使われることに違和感を覚える)」やゴルフ産業を支えている「シニアゴルファーの加齢によるリタイア増加」、更には「国内男子ツアーの低迷」などといったネガティブ且つマイナスのイメージを抱いている方が多いのではないかと思う。実際、私の友人(ゴルフをしない)からは「ゴルフって斜陽産業なんでしょ?」「ゴルフは“オワコン”だよね」という辛辣な言葉を投げ掛けられることも少なくない。そのように一般的には厳しい産業として捉えられているであろうゴルフ産業であるが、上述したように用品市場が例え僅かとは言えプラス成長を果たしたことをどのように捉えるべきなのだろうか。「市場拡大」と解釈しても良いものなのであろうか。その検証のためには「対前年比」という尺度ではなく、もう少し長いスパンでの当該市場の推移を見る必要がある。国内ゴルフ用品市場の2010年から2017年までの市場規模及び対前年比は以下の通りとなっている。

2010年
258,930百万円
(対前年比99.6%)
2011年
242,410百万円
(同93.6%)
2012年
251,420百万円
(同103.7%)
2013年
262,960百万円
(同104.6%)
2014年
251,030百万円
(同96.5%)
2015年
259,590百万円
(同103.4%)
2016年
254,690百万円
(同98.1%)
2017年
258,700百万円
(同101.6%)

東日本大震災が発生した2011年に大幅な市場規模縮小を余儀なくされたこと、その2年後の2013年には震災前の2010年の水準にまで回復していることが分かるが、その他の傾向として、2013年以降一年おきに「増減」を繰り返していることがお分かり頂けると思う。具体的には「奇数年」にプラス成長となり、「偶数年」にマイナス成長している。こうして見ると2017年のプラス成長は比較対象となる前年(2016年)がマイナスとなったことによるもの、更に言えばプラス成長年である「奇数年」であったことが主たる要因であり、必ずしも「市場が拡大している」とは言い切れないということが分かる。一年おきに増減が繰り返されること、「奇数年」がプラスとなり「偶数年」がマイナスとなる要因については様々な点が指摘できるためここでは割愛する。興味がある方は「2018年版ゴルフ産業白書」にて詳細分析を行っているので、是非ご購入頂ければ幸いである。上述の数字から分かることは、この数年の国内ゴルフ用品市場は「成長が持続しないこと」、即ち「持続発展可能性の低い市場」である、ということである。また、プラス成長年である奇数年の「ノビシロ」が徐々に小さくなっているのも気掛かりなところであるが、これについては当該市場をこれまで支えてきた所謂「団塊の世代」を中心とした中高年齢層ゴルファーのリタイアによる総ゴルファー数の減少が顕在化していることによるものと推察される。

我が国の総人口が減少に転じ、少子高齢化が現実のものとなり始めたあたりから「サスティナビリティ」という耳慣れない言葉を多く聞いたり目にしたりすることが多くなった。直訳すれば「持続可能性」というような日本語になるようだが、こうした言葉が多用される背景には「これまでの日本は人口が増えていたから経済も循環していたけれど、これから先は人口が減少するので、昔の経済や産業成長のロジックは通用しない。人口が減少に転じる中での新しい“持続可能”なモデルの確立が必要になる」という発想の転換を促す狙いがあるのではないかと推察される。まさに今、ゴルフ用品市場だけでなく国内のゴルフ産業全体にこうした「人口(総ゴルファー)減社会の中での持続可能なビジネスモデルの構築」が必要になっていると言えるだろう。ゴルフ産業における持続可能なビジネスモデルの構築とは、国内ゴルフ産業の「多様化の実現」と言い換えても良いのではないだろうか。残念ながら、用品のみならず国内のゴルフ産業は未だにバブル時代の成功体験に立脚した「硬直的」な仕組みによって成り立っている面がある。勿論そうした仕組み全てが否定されるべきではないが、ある調査によればゴルフ未経験者の約30%がゴルフに興味を持っており、ゴルフをしてみたいという意向を持っているそうである。これを国民全体に置き換えると約2,000万人の潜在需要があるという計算になる。ちなみに、2017年に総務省が発表した「社会生活基本調査」では、2016年のゴルフ人口は890万人となっている。、そうした潜在需要がなかなか顕在化しない要因の一つとして、上述した「硬直的な産業構造」が指摘できる。しかしこれをポジティブに捉えるならば、日本のゴルフ産業が多様化すること、即ち今よりも多くの方が様々な「ゴルフ」の楽しみ方を知り、体験することにより日本のゴルフ産業が「持続成長可能な環境」を手に入れることはまだ十分に可能である、ということも言えるのではないかと思う。私も微力ながら「多様性豊かなゴルフ」の実現に向けてゴルフ産業の「側面支援」を行ってゆきたい。