今週の"ひらめき"視点

毎月勤労統計調査、標本入替え問題。厚生労働省は標本誤差について丁寧な説明を

12日、西日本新聞は「給与所得、過大に上昇。政府の手法変更が影響、補正調整されず」との見出しで記事を書いた。骨子は“政府が発表する所得関連データの作成手法が変更された。これによって賃金の対前年比伸び率が大きすぎる状態が続いている。補正調整もなされていない。景気判断の甘さにつながる。専門家からも批判されている”というもの。

厚生労働省の毎月勤労統計調査は現金給与の支給実態を月次ベースで集計した基礎統計であり、経済の実勢を知るための重要指標の一つである。従来、調査対象事業所のうち30人以上の事業者は2~3年ごとに「総入替え」されてきたが、2020年から毎年1月に1/3ずつ入れ替える方式への変更を決定、今年はその経過措置として1/2が入れ替わった(4月20日付けの厚生労働省資料より)。
厚生労働省は“入れ替わっていない半分のサンプル”のみで集計した対前年比データを「参考値」として公表している。確かに「参考値」は変更後の正規統計を傾向的に下回る。6月の確報では正規統計の対前年比賃金上昇率+3.3%に対して参考値は+1.3%に止まる。2ポイントの差は小さくない。

この要因はどこにあるのか。まず入替え前の2017年12月と2018年1月のデータを比較してみる。多くの日本企業において1月は定期昇給の時期ではない。ところが、鉱業・砕石業の所定内賃金は前月比3%増、卸売・小売業も前月比プラスである。前述した6月のデータでは業種別の偏りが更に顕著となる。鉱業・砕石業は給与総額で前年比28%アップ、所定外(残業)が+21.6%、特別に支払われた給与(賞与)に至っては同+93.5%と倍増である。卸売・小売業、運輸・郵便業の賞与も2割以上アップ、総額も1割程度増えている。もちろん、人手不足等による待遇改善は想定できる。しかし、伸び率は過大で、すなわち業種ごとの標本の代表性が問われているということだ。

発表資料を見る限り厚生労働省が採用した新方式は納得できる。厚生労働省はサンプル入替えの影響を産業全体で“プラス0.8ポイント”と分析しているが、あわせてサブ母集団ごとの“歪み”の度合いも開示いただきたく思う。必要であれば補正も検討すべきだろう。
公文書の改ざん、隠蔽、そして、日本銀行による統計データの修正が問題になったばかりである。一方で計算方法の変更に伴うGDPの上方修正は“成長”にすり替えられる。余計な憶測を呼ばないためにも産業別、事業所別標本に関する統計検定の結果などもう一段の情報開示をお願いしたい。


今週の”ひらめき”視点 9.9 – 9.13
代表取締役社長 水越 孝