今週の"ひらめき"視点

合意なき離脱へ、リスク高まる。企業の英国離れが加速

3日、日産は欧州向けSUVの次期モデルの生産工場を英サンダーランド工場から国内(九州工場)へ移管すると発表した。
BMW、ジャガー・ランドローバーなど自動車勢は既に一定期間の操業中止を決定済だ。製薬メーカーも不測の事態に備え医薬品の在庫を積み増す。英バークレイズ銀行は24兆円にのぼる顧客資産をアイルランドに移すと発表、英仏海峡フェリーを運航するP&Oは全船籍を英国からキプロスに変更する。ソニーもオランダに新会社を設立、3月29日付けで欧州本社機能を移管すると発表した。

従来、多くの企業は最悪のシナリオを想定しつつも、2年間の移行期間が与えられる「合意あり」に軸足を置いた対応を準備してきた。しかし、政府と強硬派の対立が先鋭化、合意なき離脱へのリスクが高まりつつある中、1月15日、英議会は政府がEUと合意した離脱協定を否決、これを機に企業は「合意なし」を見据えたオプションに一挙にシフトする。企業は既に動きだした事業計画を簡単には変更しない。一時は“自立”に浮かれた離脱支持者もここへ来て“現実の影響”を受け止めはじめた。混乱回避に向けての流れが英国内で醸成されるか、ここが鍵だ。

政府案を否決する一方でメイ氏への不信任を可決することができない英議会の内弁慶ぶり、それをまとめきれないメイ氏の指導力、いずれにせよもはや一刻の猶予もない状況にあってようやく議会も修正案に同意した。7日、メイ氏はこれをもってEUとの交渉に臨む。とは言え、EU側は「再交渉は受け入れない」との姿勢を変えていない。唯一残された安全策は政治決着による「離脱時期の延期」か。
昨年、EUとの交渉期限が迫った頃、シェイクスピアの「There is nothing either good or bad, but thinking makes it so.」を本稿に引用させていただいた。今、贈るならこの言葉だろう。「I have to embrace something which can’t be avoided.」。


今週の”ひらめき”視点 2.3 – 2.7
代表取締役社長 水越 孝