今週の"ひらめき"視点

内航海運、主要航路活性化の背景にある構造問題

1月10日、三菱造船は阪九フェリー向けのカーフェリー2番艦「やまと」の進水式を行った。「やまと」は総トン数1万6,300トン、トラック277台、乗用車188台を積載、排ガス浄化装置 “スクラバー” を搭載する。昨年8月に進水した一番艦「せっつ」とともに神戸-新門司航路に投入される。
昨年末には宮崎カーフェリーも1万4,200トン級2隻、名門大洋フェリーも1万5,400トン級2隻の新造を発表、いずれもスクラバーを搭載し、関西と九州を結ぶ瀬戸内航路に2021年から2022年に投入する計画である。

トラック業界のドライバー不足や一段と強まる環境規制を背景に物流業界ではモーダルシフトが進む。こうした構造変化を捉え、内航海運大手はトラックやトレーラーが自走出来るRORO船や長距離フェリーの輸送能力を強化する。
商船三井フェリーは東京-苅田(九州)航路のRORO船を2隻から3隻体制とし、週4便から週6便に切り替える。SHKグループも新たに横須賀-北九州航路を開設する。近海汽船も敦賀-博多航路の増便を発表した。

しかしながら、内航海運全体でみると総輸送量は頭打ち傾向にある。日本内航海運組合総連合会の内航主要オペレーター輸送動向調査によると2019年10月は鉄鋼、原料、燃料、自動車など主要8品目すべての輸送量が前年割れとなった。同連合会はその要因を「台風による一時的な輸送障害」と分析しているが、2018年11月から2019年10月の1年間の総輸送実績は前年比99%、需要環境は厳しい。
加えて、業界は隻数の8割を占める小規模事業者の高齢化に伴う事業承継と船員の人手不足問題を抱える。根底にあるのは抑え続けられてきた運賃と用船料だ。つまり、問題の本質はトラック業界と共通であり、要するに課題解決の前提となるのは “物流費の適正化” ということである。


今週の“ひらめき”視点 1.12 – 1.16
代表取締役社長 水越 孝