今週の"ひらめき"視点

ゼロックスのM&A戦略が事務機器市場の構造変化を加速する

3月2日、米ゼロックスは米HPに対してTOBを宣言した。これに即座に反応したのはキヤノンだ。同社会長の御手洗氏は、ゼロックスによるTOBが成立した場合、HPとの提携関係を終了させる可能性がある、とメッセージした。キヤノンはHPのレーザープリンターに基幹部品を納めるサプライヤーだ。HPとの取引額は売上の14%に達する。2019年決算が減収減益となったキヤノンにとって重要顧客を失うことのインパクトは大きいだろう。しかし、それでもゼロックス=HP連合の誕生はキヤノンにとってより大きな脅威になるということだ。

ペーパーレス化が進展する事務機器市場は成熟市場である。しかし、ITソリューションのプラットフォームとなる複合機市場とアジア市場は商品開発力、サービス提案力、営業力による開拓余地が残る。
従来、世界の複合機市場は、ゼロックス+富士ゼロックス連合、リコー、キヤノン、コニカミノルタの4グループがそれぞれ15-18%のシェアで拮抗してきた。しかし、昨秋、ゼロックスと富士フィルムが資本提携を解消、これによりゼロックスはアジア市場の独自開拓が可能となる。

とは言え、販路やアフターサービス体制の構築は容易ではない。そこでHPである。HPは企業向けサーバーやプリンターがアジアで伸長、日本を除くアジア大洋平エリアの売上は全売上の11%を越える。複合機以外の製品ラインアップが厚いHPと絶対的なブランド力を有するゼロックスの組み合わせは既存プレーヤにとって侮れない。キヤノンとしては敵の傘下となるHPに「塩を送り続ける」ことは出来ないということだ。

ところで、そもそもの発端は富士フィルムHDによるゼロックス買収の頓挫であり、当然ながら富士ゼロックスも戦略の修正を迫られる。昨秋の会見では、「富士フィルムグループ内のシナジーを加速する。富士フィルムの画像処理技術と富士ゼロックスの言語処理技術を応用し医療分野を強化する」ことが強調された。とは言え、商標使用や販売エリアを規定したゼロックスとの契約が終了する2021年4月時点での主力事業はやはり複合機を軸としたドキュメント関連事業である。ゼロックスブランドに依存しない戦略が問われる。

この1年間で市場環境はどう変化するか。現時点でHP経営陣はゼロックスの提案を拒否、「ポイズンピル」の導入、150億ドル規模の自社株買いで対抗する。TOBの成否は不明であり、また、例え成立したとしてもPMIで失敗する可能性もある。あるいは成否に関わらず今回の動きが京セラや東芝テックなど第2グループを巻き込んでの業界再編に発展する可能性もある。いずれにせよ業界再編の鍵はHPの既存株主が握っている。TOB、そして、総会に向けて本格化するプロキシーファイトの行方を注視したい。


今週の“ひらめき”視点 3.1 – 3.5
代表取締役社長 水越 孝