今週の"ひらめき"視点

副業容認への流れは止まらない。しかし、それが唯一の正解ではない

15日、ヤフー株式会社は副業人材を活用する新たな人材戦略を発表、募集を開始した。名称は「ギグパートナー」、経営企画など経営の意思決定をサポートする戦略アドバイザー職と特定業務に高度な専門スキルを有する事業プランアドバイザー職を募集、業務委託契約を結ぶ。
キャリア要件は、「より創造的な便利を生み出す」ために自律自走して業務を進められる方、またはそのためのスキルや経験を有する方(同社HPより抜粋)。他社との雇用関係の有無は問わない。勤務形態は原則テレワーク、専門人材であれば週に1日以上、月額5万から15万円程度の報酬を想定、新規事業の立ち上げや業務提携仲介など高度な業務経験のある人材の確保を目指す。

グローバリゼーションを背景に大手企業やIT系企業を中心に日本企業においても “多様な働き方” への模索は従前から始まっていた。昨年4月に施行された「働き方改革関連法」の施行も転換点の一つであったと言えるが、新型コロナウイルスがこの流れを一挙に加速させ、決定づけた。
当社が緊急事態宣言下に行った調査でも新型コロナを契機に「働き方の多様化、副業の容認」への取り組みを開始した企業が10.6%、「今後、検討すべき施策」との回答率は48.9%に達した。

実際、副業人材を含む10万人のビジネスパーソンをネットワークする、株式会社ビザスクのビジネスナレッジ提供サービスの2020年3月~5月期の取扱高は前年同期比41%増と急成長している。副業、ジョブ型雇用、リモートワーク、同一労働同一の賃金など、多様な働き方への流れに後戻りはないだろう。
政府も “ギグワーカー” の雇用環境整備に向けて検討を開始した。かつてのように社員(国民)の生活をまるごと引き受ける余力が企業(国)にない以上、この流れは必然である。

ただ、新型コロナは “多様な働き方” を後押しする一方で、企業の行動基準も変えた。世界の機関投資家の視線は、短期的な株主還元ではなく社会そして地球の “持続可能性への貢献” に向けられる。
労働市場の流動化と副業の容認、言い換えれば、個人と企業それぞれの時間当たり生産性の最大化だけが “正解” ではない。島津製作所の田中耕一エグゼクティブ・リサーチフェローや旭化成の吉野彰名誉フェローといった人材は “副業” からは生まれないだろう。また、個人の絶対的な能力差による収入格差は分断を固定化させる社会的リスクも孕む。
今、個人、企業、社会、それぞれの関係における個別最適と全体最適の在り方について、それぞれがしっかりと問い直すべきだろう。

「アフター・新型コロナウイルス~日本産業の構造変化と成長市場」(7月10日発刊)より。


今週の “ひらめき” 視点 7.12 – 7.16
代表取締役社長 水越 孝