今週の"ひらめき"視点

はやぶさ2、帰還へ。宇宙ビジネスの可能性とし烈化する開発競争への懸念

世界ではじめて地球重力圏外の天体からサンプルを持ち帰った “はやぶさ” 初号機の成功を受けて、“はやぶさ2” が打ち上げられたのは6年前の今日(12月3日)である。その “はやぶさ2” が50億㎞を越える旅を終え、3日後に帰還する。同機は小惑星 “リュウグウ” に着陸、人工的にクレーターをつくるミッションを成功させ、天体内部の物質を地球へ持ち帰る。リュウグウには太陽系が誕生した頃の有機物や水が残されていると考えられており、生命の起源に関する科学的成果が期待される。

従来、宇宙開発は国家による “閉じた市場” であった。しかし、今、新規市場参入のハードルは下がった。民間宇宙企業の代表格はもちろん米スベースX社であるが、日本でも新たな企業の参入が相次ぐ。JAXAの新型宇宙ステーション補給機に搭載する小型衛星のインテグレーションサービスを受託したのは2017年設立の宇宙商社「Space BD」社である。
そもそも “宇宙” における日本の貢献領域は小さくない。11月29日に43号機が打ち上げられたH2Aロケットの成功率は97.7%と世界最高水準であり、重力天体における離着陸技術は “はやぶさ” で立証済だ。野口聡一氏をはじめとする宇宙飛行士のノウハウ、国際宇宙ステーション(ISS)の運用経験も豊富だ。ADAS、センシング、ロボット、新素材、実験装置、環境制御、資源開発など非宇宙分野の適用可能性も大きい。

10月14日、日本は米、英、豪、伊、カナダ、ルクセンブルグ、UAEとともに米が主導する「アルテミス計画」を推進するための「アルテミス合意」に署名した。アルテミス計画は2017年12月、トランプ政権のもとで承認された宇宙開発計画で、官民の国際連携のもと2024年に有人月面着陸、2030年代に有人火星着陸を目指すというもの。こうしたビッグプロジェクトの進展も技術、資金、サービスにおける民間投資を促す契機となるだろう。

一方、中国も12月1日、無人探査機 “嫦娥5号” の月着陸を成功させた。同機は月面で数日間活動し、岩石や土壌を地球へ持ち帰る。米航空宇宙局(NASA)は直ちに祝意を表明するとともに採取したサンプルについて「世界の多くの科学者に研究機会が与えられることを願っている」と声明した。上記「アルテミス合意」では宇宙の平和利用の原則、宇宙開発における相互協力、宇宙資源の保全や利用に関する共通認識を8ヵ国で確認した。中国を念頭に宇宙開発の国際的なルールづくりを主導したい米の狙いが背景にあることは言うまでもない。健全な競争は歓迎だ。しかし、地上の対立を月に持ち込むことだけは是非とも勘弁願いたい。


今週の“ひらめき”視点 11.29 – 12.3
代表取締役社長 水越 孝