今週の"ひらめき"視点

医療ひっ迫の解消に向け、平時から非常時の体制へ。政治は今こそリーダーシップを

新規感染者の急拡大に伴い、医療危機が進行する。病床使用率は、33都府県で国が定める区分で“感染爆発”に相当する「ステージ4」の基準を越えた。感染者数がもっとも多い東京都の自宅療養者すなわち“医療難民”は2万5千人、入院調整中の言わば「難民予備軍」も1万人を越えた。
2日、政府は、“軽症、無症状は宿泊療養、中等症以上は原則入院”としてきた方針を転換、“重症者と重症化リスクの高い患者以外は原則自宅療養”とする旨、閣議決定した。従来方針の事実上の撤回は、予見された変異種への対策が後手に回ったことへの追認と言わざるを得ない。はたして、病状の経過観察体制が整わない中での方針転換は、懸念されたとおりの混乱と不幸を招いている。

こうした状況を受け、厚生労働省と東京都は改正感染症法にもとづき、病床の確保と感染者の受け入れを全医療機関に要請した。正当な理由なく応じない場合は「勧告」、それでも拒否すると病院名が「公表」される。つまり、「増床に協力しない医療機関は悪」というわけである。しかし、そもそも2014年にスタートした「地域医療構想」が維持されたままであることも指摘しておく必要がある。これは2025年時点における機能別の必要病床予測数に合わせるべく医療機関の再編統合を推進する制度で、病床削減に対して補助金が支給される。言わば医療版の“減反”政策であり、昨年度、そして、今年度も予算が計上されている。

この夏、当社でも若い社員が自宅療養を強いられた。容態急変への恐怖に「死を意識した」とのメールも受け取った。
専門家は変異種による第5波の状況を「これまでに経験したことのない災害レベル」と指摘する。そうであれば、非常時の体制が求められる。現状の追認は後退である。国民の命を守ることが国家の使命であれば病床確保こそ最優先事項である。選手村という都内最大規模の病床転用可能施設の活用は間に合わなかった。しかし、9月中旬以降は選択肢になり得る。他に候補施設はないか。少なくとも平時の長期戦略は一端停止し、医療再編予算の全額を臨時病床の増設に回すべきだ。それが医療機関、ひいては国民へのメッセージとなる。


今週の“ひらめき”視点 8.22 – 8.26
代表取締役社長 水越 孝