今週の"ひらめき"視点

好調インバウンド、旅行体験の多様化と免税制度の行方

10月6日、総合アパレルメーカー「三陽商会」はこの中間期(2025年3月~8月)の連結売上高が前期比▲3.1%の27,042百万円、営業利益は前期比▲812百万円、213百万円の赤字になったと発表した。同社は減収減益の要因を「インバウンド需要が急激に減退、高額品市場が落ち込み、主販路である百貨店市場が苦戦」と説明した。

同社の減益要因が需要サイドや販路だけの問題ではないことは「言わずもがな」であるが、円安を背景に好調だったインバウンド需要の反動があったことに異論はない。とは言え、そこにインバウンド支出の構造的な変化があることを見落としてはならない。今年上半期(1-6月期)のインバウンド消費額は4兆8053億円、前年同期比123%、4-6月期も同118%、2兆5250億円、宿泊、飲食、交通費、娯楽・サービスがけん引した(観光庁、1次速報)。一方、4-6月期の買い物消費は前年並みの6623億円、同100.2%にとどまった。結果、支出全体に占める割合は30.9%から26.2%へ低下した。

総消費額は伸びた。しかし、一人当たり支出額(23万8693円)は前年同期比▲0.1%、前年とほぼ変わらず、である。すなわち、インバウント市場の拡大は単純に客数の増加による、ということだ。実際、1-6月期の訪日外客数は2,151万8千人、前年を374万人上回り、過去最速で2千万人を突破した。ただ、そこに摩擦が生じる。一部の人気観光地における深刻なオーバーツーリズムは、特定自治体における外国人問題などとも呼応し、“日本人ファースト”を叫ばせる。「物価高に苦しむ国民からだけでなく、訪日外国人からも消費税をとるべき!」との声が免税廃止論を後押しする。

外国人による不正転売や免税店側の不正還付が後を絶たない。免税を廃止すれば「2千億円が国庫に入る」との声もある。しかし、不正対策としては出国手続き後に消費税分を還付する「リファンド方式」への変更が決定済である。爆買いブームは去った。しかし、「買い物」は依然として訪日目的の上位にくる。当然、免税というインセンティブがなくなれば消費額それ自体も減る。結果、“2千億円”は期待できず、関連業界からの税収も減る。今、観光立国推進基本計画(第5次)の策定に向け、新たな議論が始まっている。はたして、日本の未来はどうあるべきか。観光ニーズの多様化、地方創生、自然や生活環境の維持、税の公平性などを踏まえた、感情論とは一線を画した議論をお願いしたい。


今週の“ひらめき”視点 10.5 – 10.9
代表取締役社長 水越 孝