“真珠の首飾り戦略”に潜む危うさ、覇権主義はコストに見合わない


スリランカ南部のハンバントタ港の運営権が99年間にわたり中国に譲渡されることが正式に決まった。
「中国による植民地化」に対する国民の反感や周辺国からの懸念もあり、港湾警備の権限は最終的に中国側ではなくスリランカ政府へ変更されたが、港は実質的に中国政府の管轄下に入る。「一帯一路」構想の実現に向けて、また、南アジアからアフリカ東海岸を見据えたインド洋の要衝として同港の戦略的価値は大きく、海洋進出を国策とする中国にとって大きな成果と言える。
2010年、スリランカ政府は中国から建設費用の85%を借款して同港の建設に着手する。しかし、建設を請け負ったのは地元企業ではなく中国の国有企業、そのうえ開港後の利用率は計画を大きく下回り、結果的に巨額債務が残った。債務不履行の危機を見透かした中国は債務免除と引き換えに運営権を要求、労せずして同港を手中に収めた。危機はここだけではない。スリランカではマッタラ国際空港も同様の状況にある。建設費200億円の9割を中国から借り入れ、建設はやはり中国企業が受注、2013年に開業したものの定期便は1日1便程度、平均利用客も1日数十人程度という。

同港の事例が「仕組まれた罠」であったかは不明である。ただ、中国から資金を受け入れたアフリカ、中南米、アジア新興国の多くは政治的にも財政的にも不安定な状況にあり、したがって、債権者たる中国の戦略的優位は揺るがない。とは言え、その中国もまた自身の財政リスクが顕在化しつつある。人民元の国際化を標榜し海外進出、金融規制緩和を進めてきた中国であるが昨年以降、政策を反転させる。対外貸付や対外直接投資を制限するとともに外貨建て債務の繰上げ返済の禁止など人民元の海外流出を押さえ込む。
外部の拡大と統制強化による成長の維持は膨大な資金と政治的エネルギーを要する。言い換えれば、自滅と対立の可能性を伴う戦略であり、今、リスクは拡大しつつある。

今週の”ひらめき”視点 07.30 – 08.03

代表取締役社長 水越 孝

 

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