トルコ通貨リラ、急落。自国第一主義の対立に世界が軋む


2016年のクーデター未遂に関与したとされる米国人牧師の拘束を巡る問題でトルコと米国の対立が収まらない。トルコ通貨リラの対ドル下落率は5割近くに達しており、もう一段の混乱とその長期化による金融危機の連鎖が懸念される。
2017年のトルコの経常赤字はGDPの5.6%、外資金融機関のトルコ向け債権の総額は2233億ドル(約24兆5千億円)に達する。主要債権国はスペイン、フランス、イタリア、ドイツ。NATOの同盟国であるトルコと米国の対立はEUにとって座視できない状況となりつつある。

リラの急落に拍車がかかったのは、10日、トランプ氏がトルコに対して鉄鋼・アルミ関税の倍増を発表したことによる。しかし、これが問題の本質ではない。そもそもトルコの輸出総額における米国向け鉄鋼・アルミのシェアは1%にも満たない。通貨下落の最大の要因は、エルドアン大統領の強権的な政治手法を警戒した欧米企業がトルコ向けの直接投資を控えたこと、そして、ばらまき政策に象徴される財政規律の緩みにある。
こうした中、エルドアン氏は近隣の湾岸諸国から断交されているカタールと通貨スワップ協定を締結、更には中国からの金融支援も取り付けた。
憲法を改正し、批判を封じ込め、言論を統制することで権力基盤を強化したエルドアン氏、米国に対して一歩も引かない構えである。

13日、独メルケル首相は「ドイツはトルコ経済の繁栄を望んでいる」としたうえで「中央銀行の独立性を確保するためにあらゆる手段を尽くさなければならない」と発言、“金利は悪”と公言するエルドアン政権に阿り、一向に引き締め策を講じないトルコ中央銀行に苦言を呈した。
さて、一方のトランプ氏も同様だ。中間選挙を直前に控えた今、トルコへの譲歩などあり得ないだろう。そして、彼もまた「低金利が好ましい」とFRBに圧力をかける。
独善的な権力者の対立が世界の軋みを拡大させる。同時に独立性を失った中央銀行が“市場”を歪め、積み上がった金融リスクが先送られる。これはこの2国だけの問題ではない。

今週の”ひらめき”視点 8.12 – 8.23

代表取締役社長 水越 孝

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