IWC脱退、未来に向けてのリスクは小さくない


26日、日本はIWCからの脱退を正式に表明した。IWCは1982年、資源枯渇を理由に商業捕鯨の一時中止(モラトリアム)を採択、日本はこれを不服として異議を申し立てる。しかし、86年には申し立てを撤回、商業捕鯨の中止を決定する一方、翌87年以降、南極海と北西太平洋で調査捕鯨を続けてきた。
従来、日本は「捕鯨は科学的調査が目的であり、鯨肉の販売は調査後の副産物利用」と説明してきた。しかし、反捕鯨国はこれを「調査の名を借りた実質的な商業捕鯨」と認定、溝は埋まらなかった。こうした状況の中、日本はIWCに見切りをつけ、排他的経済水域(EEZ)内での商業捕鯨再開を独自に目指す。

今回の政府決定に対して、国内の支持者は「他国の食文化に口を出すな。日本人は他人の伝統を否定したことはない。英断を歓迎する」と威勢が良い。もちろん地域の食文化やマイノリティの伝統産業は、「持続可能な社会」「多様性の尊重」という視点において否定されるものではない。しかし、仮にそこを論点とするのであれば「調査の副産物利用」などという“すり替え”ではなく地球環境の保全、希少生物の保護と同じ文脈において地域社会の文化と伝統を主張すべきだった。「商業捕鯨という名を捨て、調査捕鯨で実を取る」式の曖昧さを国際社会は受け入れなかった。つまり、そもそもの戦略の組み立て方に致命的な判断ミスがあったのではないか。自分の意見が認めてもらえないなら席を立つ、ではあまりにも幼稚過ぎる。

これまでの日本の主張は完全に色褪せた。国際社会からの不信と反発は避けられないだろう。一方、捕鯨は国連海洋法条約においても規制されており、EEZ内での商業捕鯨が認められるか疑問を呈す専門家も少なくない。加えて、一部の美食家や地方産品としての需要を越えて鯨肉マーケットは拡大するのか。ESG投資への説明責任を求められる外食や流通大手が積極的な拡販に動くとは考えにくい。
世界が自国第一主義に閉じ、多国間協調体制が揺らぐ今、日本はその“つなぎ役”としてプレゼンスを高めるべきではないか。決定の背景に国内向けのポピュリズムがあったとすれば、その代償は大きい。

今週の”ひらめき”視点 12.24 – 12.27

代表取締役社長 水越 孝

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