医療機器業界の方向性


1.医療機器業界の市場環境

医療機器は、材料費と請求できる特定保健医療材料、手技料・処置料に包括されるディスポーザブル製品、更に手術料・処置料・画像診断料の診療報酬点数の収入で購入される治療機器や診断機器などによって市場形成されている。

このうち、特定保健医療材料はインプラント材料や体外循環製品に代表される生体機能補助・代行機器に、経皮的血管内治療用(IVR製品)、非血管系治療材料、診断用カテーテルなどがあり、分野として心臓血管・循環器、整形外科、泌尿器、消化器領域など特有の製品が採用されている。

国民医療費は34兆円強の中、この特定保険医療材料は約8,000億円(医療用医薬品7兆円)と推測され、手術症例数増加のプラス要因はあるが、償還価格制度導入以来、改定毎の下落と機能区分の見直しが行われ、来年度(2010/4)の改定では、欧州との価格比較が行われる可能性があることで、更なる価格下落と厳しい市場環境が予測される。また、昨年の原油価格や中国などの海外人件費高騰によるコスト上昇、施設側の値引き要望など、国内メーカー:製造販売業にとっては厳しい市場環境下にある。

2.新たな提携による企業戦略

国内市場における医療機器市場は、人工透析や血液浄化、セラミック製品、診断用カテーテル、X線CT、内視鏡など国産メーカーが高シェアを保持している製品もあるが、主たる治療用デバイスや治療用装置の多くは海外製品の高シェアが続いており、しかもグローバル展開を行っている上位企業の寡占化傾向も強まってきている。

国内メーカーにはテルモ、オリンパス、東芝メディカルシステムズなど、グローバル展開が出来る大手企業も存在するが、多くの国内メーカーでは技術力の特長はあるものの規模は小さく、コンシューマ製品や民生用のように生産ロットが多くないことで、1点当たり付加価値は高いものの、開発費用の償却は長期化傾向になっている。

このような中、医療機器:医療材料においては、ここ数年技術力のある国内メーカーと販売力で優位性がある国内大手企業、あるいは外資系日本法人とのアライアンスが活発化している。

その一例として、痛くないインスリン自己注射針を開発した岡野工業と国内最大手のテルモの提携、カテーテル開発を行った川澄化学工業の外資系日本法人へのOEM供給、人工骨製造を行っている日本特殊陶業製造の国内企業と外資系日本法人への供給など、生産効率・販売効率のための新たな販売提携が行われている。

3.国内市場における新たな競争力

上記のような提携以外に、国内の医療機器業界では特定領域における提携と企業合併も進んでいる。

心臓手術時に使用される人工肺関連製品のうち、回路ビジネスではパーツ毎の承認問題(緩和される可能性がある)があるものの、競合企業間でのパーツ販売、あるいはオールインワンパッケージ戦略のための部材調達などが行われ、外資系のソーリンは自社ルートでの人工肺ビジネス以外に、心臓血管外科での実績がある日本ライフラインへの人工肺、JMSへは遠心ポンプを供給している。このソーリンは、人工肺回路では国内メーカーのJUNKEN MEDICALと提携、そのJUNKEN MEDICALは、人工血管の製造販売業であったが、日本ライフラインに統合されている。

これにより人工肺ビジネスの固有の競争力・提携のみならず、人工肺ビジネスでは競合関係にあるが、人工弁や人工血管では販売提携を行うなど、心臓血管外科製品群としては競合・提携が入り混じった市場になっている。

同様に、不整脈(CRM)関連製品でも、経皮的カテーテル心筋焼灼法(カテーテルアブレーション)において、国産でNo1シェアを保持している日本ライフラインが、外資系Medtronic社製品の販売元になっているセンチュリーメディカルへの供給など、製品毎の競合と提携が入り混じった市場形成になっている。

4.医療機器業界は効率化と集中化への時代へ

医療機器業界は、上記のように企業間の提携と競合が混在した市場であるが、これは償還価格の下落などの要因により、製造、販売面における効率化を追求しているためである。

つまり、製造段階ではロット数を増やすことでのコスト低減、販売面では1症例あたりの販売単価アップによる営業効率を追及している。

また、これらの提携により新製品サイクルの短縮や機能区分のマトリックス戦略も構築している。

その一方、開発・承認コスト、販売コストで採算性が合わない製品に関しては、撤退が相次いでいることで、集中化の傾向も顕著になってきている。

今後、再生医療を含め医療技術はますます進化する中、製造メーカーにとっては開発費用の早期回収のため、自社ルート販売のみならず、新たな提携と合併が鍵になる。

2009年11月 主席研究員 杉山正樹


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