第二次ナノテクブームの到来?


ナノテクノブームの行き詰まり

「ナノテクノロジー(以下ナノテク)」という用語が注目され始めてすでに10年ほどの年月が経つ。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によると、”ナノテク(nanotechnology)は、物質をナノメートル(nm、1nm = 10-9m)の領域において、自在に制御する技術のことである”としている。ナノテクノは、2001年に米国のクリントン大統領がナノテクを国家戦略目標としたことから世界的に注目されるようになった。わが国でもナノテクは経済産業省、文部科学省を中心に重要科学技術分野として位置づけられ、産学官においてこれまでに多くの研究開発投資が行われ、いくつかの国家プロジェクトが立ち上がった。「ナノ」と名が付けば、なんでも企画書が通る。いわゆるナノテクブームの到来である。

繰返しになるが、ナノテク技術は物質をナノレベルの大きさで制御するもので、この微小な物質をデバイスとして使うことで、各種電子機器の大幅な小型化を可能とし、さらに量子効果と呼ばれる特殊な効果の発現も期待することができる。しかし、このナノテクが一般的に認知され、本格的な研究開発が始まってまだ10年程度ということもあるが、今のところ一部の新素材やコンピュータプロセッサで実用化が図られている程度で、今ひとつ実用化のテンポは遅い。また、現状の研究開発の進捗状況がなかなか見えにくくなっているようにも見受けられる。ナノテクブームも一巡し、このまま行けばこれまで蓄積してきた技術の全てが無駄になってしまうようなテーマ分野も中には出てくる可能性がある。

ナノテク応用を加速化させるナノクリスタル

このようなナノテク技術を取り巻く研究開発において、新しい動きが最近になって出てきた。キーワードは「ナノクリスタル」である。このナノクリスタルは、ナノサイズの微小物質の一つ一つが独立した単結晶であることと定義付けられている。

ナノサイズの微小物資は凝集しやすく、この凝集状態を制御することは難しく、これがナノテク技術の実用化において多くの課題となっていた。これに対してナノクリスタルは単結晶であり、結晶性の高いナノクリスタルでは自形(多面体、立方体、球状など、任意にその形態を制御する)を備えた自己組織化機能を持っていることが特徴である。その他に、ナノキューブ、自己集積、エピタキシャル接合、方位配列、コロイド結晶、フォトニック結晶、巨大物性など、ナノクリスタルには注目すべきキーワードがいくつかある。

現在、結晶成長・合成、ハンドリング、配列に注目したナノクリスタル研究開発が急速に進もうとしている。ナノクリスタルをテーマとしたシンポジウムなども、各地で開催されるようになってきている。

ナノクリスタルで広がる未来

ナノクリスタル技術の応用で、セラミックコンデンサや圧電材料、磁性材料、半導体、センサといった電子デバイスの飛躍的な性能向上はもちろんのこと、新たな触媒や光電変換材料、電池材料などの開発も期待できる。その応用展開の広がりと、期待される経済効果は計り知れないものがある。

この「ナノクリスタル」をキーワードとした研究開発は、日米欧のみならず、中国、韓国においても注目され、開発競争がすでに始まっている。「ナノテク」から「ナノクリスタル」へ、研究の流れは確実に変化してきている。ナノテクに関心のある方は、是非この「ナノクリスタル」に注目していただき、今後の動向をウオッチングされることをお勧めする。

2010年1月 主席研究員 杉本武巳


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