電子書籍 つながる作者と読者


遂に2兆円割れとなった出版市場、構造的凋落の状況

出版市場の縮小が止まらない。2009年の出版物推定販売金額は21年振りに2兆円の水準を割り込んでいる。
出版市場は1996年をピークに13年間縮小を続けてきた。数年前まではハリー・ポッターがあるとはいえ書籍は1年おきにプラスの年もあった。雑誌も10年以上マイナス成長が続いてはいたが広告収入はそれほど減らず、増刊号、別冊で売上をカバーしてきた。何より読者離れは週刊誌中心だったといえよう。書店も中小書店が年に1,000店消えても大型書店の進出拡大で床面積は確保され、委託制度・再販制度を中心にした出版業界はそれほどダメージを受けずに回ってきた。
しかし、ここ数年、雑誌メディアの凋落の深まり、コミックの変調、4割に近づく返品率拡大、新書など低価格商品へのシフトと各指標は出版界の構造的凋落の状況を示している。

インターネットの普及で雑誌のターゲット人口はピークの2割へ

出版市場の縮小は、若年層の文字離れ、ゲームや携帯電話の登場など、新しいメディアに興味がシフトされてきた部分があった。新しい作家が育たない等、出版社がテレビやゲームに負けない魅力的なコンテンツを提供し続けられなかったという面もある。しかし、ここにきて人口減も出版市場の減少に直接影響するようになってきた。電子書籍の台頭やリーマンショック後の広告モデルの崩壊など新たな構造変化も出てきている。
構造的変化でいえば、インターネットが2000年以降急速に普及した。この過程において、人間の紙に対する親和性がどんどん薄まっており、当時20歳以下、現在30歳以下のひとたちは雑誌に対する愛情がほぼ無くなっている状態といえよう。今までは人口の7割が雑誌購読者、いわゆる出版社のターゲット層だったが、人口減と雑誌離れでターゲット層はピークの20%という見方もある。

本格的拡大の時期を迎える電子書籍

このように出版市場が苦境を迎えているなか、2010年4月に登場したiPadを契機に、電子書籍が大きな話題となっている。電子書籍については、既存の業界制度を壊すという懸念が大きい反面、ネット世代の読者予備層を取り込めるのではないかとの期待もある。2009年に3度目のブームを迎えた北米の電子書籍市場は、いよいよ本格普及の段階に入ってきている。電子書籍市場を牽引するアマゾンはもともとコンテンツショップであり、コンテンツは豊富。電子書籍化に押される形で端末を開発し、配信形態における垂直統合、一体型運営を築き上げてきた。ネット販売の影響力を活かしてアマゾンが作家を囲い込み、定価を安く設定しても印税7割の衝撃がある。一方、日本は端末先行の気配はあるものの、本格的普及は2011年以降か。筆者もiPadを所有したが、電子書籍としてはまだ物足りない。コンテンツが少ない、本にしては重い等々。しかし、将来性は大きいと感じる。

電子書籍 つながる作者と読者

日本の出版会において、出版社、編集者の役割は大きい。企画やプロモーションを含め編集者が作家を育ててきた経緯もある。難解な海外文学を噛み砕き、読者に紹介してきたことも編集力といえよう。一方、電子書籍が進めば、読者と作者の?がりがより強くなり、編集者の存在は薄れていくことも考えられる。村上春樹流の読者との直接対話も他の作家に広がっていく。あるいは作家自身が編集力を身に付けていかなければ、膨大なタイトル数のなかに自身の作品は埋もれていってしまう。編集者も作家をプロモーションする海外型のエージェントへの変質を余儀なくされてくる。電子書籍のポイントは流通の中抜きや置き場所(在庫)の解消(絶版が無くなる)等もあるが、出版社と作家、読者との関係を根本的に変えていく可能性にあるといえるだろう。

2010年10月 主任研究員 上野 雅史


コメントを残す