「グローバル人材育成」って何だ?そしてその将来は?

2011年9月
主任研究員 松島 勝人

もう、随分と昔から、名立たる評論家諸氏、並びにマスコミ各媒体が、経済や産業界を解説する際に「グローバル化」というキーワードを頻繁に用いている。

そして、筆者が見るに、ここ1~2年「グローバル化」の解説に付随するものとして、急激に「グローバル人材」という言葉が使われる頻度が高まり、学校教育関係者、民間教育サービスの関係者の多くが「グローバル人材」の「育成」について語るようになってきている。曰く、国内産業が衰退し、経済がグローバル化している昨今、日本の将来を支えるのは「グローバル人材」だと。よって、日本社会全体で「グローバル人材」を「育成」しなければならないのだと・・。

この1~2年の動きを振り返ってみると、確かに「グローバル人材育成」が注目されるような社会の動きがあった。

2009年11月には文部科学省、経済産業省が共同で「グローバル人材育成委員会」なるものを立ち上げ、産学連携で育成システムを検討、次いで2010年にはユニクロ、楽天が英語を社内公用語化しそのための語学教育支援を整備、2011年4月からは小学校で英語の授業が必修化される等、確かに世間は「グローバル人材育成」の風潮を肌で感じたろう。果ては2013年には、高校の英語授業が「オールイングリッシュ(英語で英語を教える)」になることが決まっており、「英語を英語で教えられない英語教師が民間の語学スクールに通う」という、面白い?現象も起こっている程だ。

国家、企業、教育機関をあげての「グローバル人材育成」が始まっている・・・ように見えるが、さて、そこで、素朴な疑問を感じるのは筆者だけだろうか?一体「グローバル人材」とは誰のことなのだろうか?どんな人のことを差すのだろうか?漫然とこの用語を使っている人が多いが、実はこれほど曖昧な概念は無く、そのはっきりしないグローバルな人材を「育成」する、というのは、一体どんなことなのだろうか、と・・。

日本人にとっては、英語や中国語を話せる人が、「グローバル人材」なのだろうか?海外で活躍する人が「グローバル人材」なのだろうか?移民で構成されるアメリカ人はみんな「グローバル人材」なのだろうか?ヨーロッパの小国や、インドやシンガポールで英語を話すビジネスマンは「グローバル人材」といっていいのだろうか?では、そのような人材は「育成」できるのだろうか???

私の答えは・・・「『育成』は『殆ど無理』で『ムダ』である。」
仮に「グローバル人材」という概念を、「日本も外国も関係なく往来しながら仕事ができて、外国語を最低1ヶ国語、2ヶ国語は話せて、国際事情に明るく、異文化を理解し、外国人とのコミュニケーションができる人」と定義してみる。

そのような人を「育成」するとして、英語、中国語などの「外国語」はスキルなので教育が可能であろう。国際事情の理解、外国人との接し方、マネジメントの仕方、これらもスキルなので教育が可能ではあろう。故に、「スキル」というレベルでは教育は可能である。でも、国や教育機関でこれをすすめたとして、実際にスキルを身につけられる人は、ごく僅かであろう。(とすると、ひょっとするとこれはかなり無駄な投資ではないか??)

「環境が人を育てる」という格言があるように、「グローバル人材」を増やしたいのであれば、「育成」ではなく、「グローバル人材」が増えざるを得ないように環境と制度を整備した方が余程効率的だと思う。そして、日本にはその環境と制度が圧倒的に欠けているのである。どういうことか?

幼いころから隣人が色んな言語を話す外国人で、お互い英語でなければ何も通じないような環境下では、生きるためのスキルとして、皆が「グローバル人材」になってゆくだろう。(=政府が多くの外国人を受け入れれば、自ずと「グローバル人材」が増える。)

海外留学で取得した単位が、国内の大学の単位と同等の扱いになったり、海外留学が就職に圧倒的に有利になったり、インターナショナルスクールで学位をとった人が、日本の学位としても認められれば、みんな「グローバル人材」になってゆく。(=学校制度をもっと自由化すれば、自ずと「グローバル人材」が増える。)

現在、外国人受け入れの政策や学校の自由化等という、制度の改革は全く進んでいない。(また政府も国民も望んでいないように見えるし、むしろ抵抗しているようにも見える。)一方で、効率の悪い「育成」には積極的である。そこが、矛盾なのである。「結果としてグローバル人材がそれ程増えないのに、制度ではなく、育成に力を入れている」という点で。(本当は皆「グローバル人材」なぞ増えて欲しくないのでは?)

そうして「歴史は繰り返す」の格言どおり、日本の「グローバル人材育成」は、戦後の英語教育のように、結果を伴わない、浪費に終わる危険を孕んでいる。(即ち、グローバル人材育成の教育を十年受けても、全くグローバル人材になれない・・と。但し、「消費されるサービスの市場」として、「育成」には莫大な金銭と時間が注がれ、サービス産業としての「グローバル人材育成」市場は今後、大幅に拡大してゆくことになるだろう。

消費される市場は育つが、人が育たない・・・。シニカル過ぎるものの見方かもしれないが、私はそう見る。

研究員紹介

松島 勝人(主任研究員)

矢野経済研究所入社後、主に玩具業界、教育業界の調査・研究を担当。特に企業人教育分野での調査に精通。事業者リサーチとともに、各種事業提案、コンサルティングも行っている。