今週の"ひらめき"視点

2022 / 01 / 21
今週の“ひらめき”視点
中国経済、減速。2022年1-3月期、コロナ対策の成否が鍵

17日、中国国家統計局は2021年10-12月期の国内総生産が実質ベースで前年同期比4.0%増であったと発表した。4-6月期の同7.9%増、7-9月期の同4.9%増からのもう一段の失速は中国経済の停滞をあらためて印象づけた。背景には不動産不況やIT業界への統制に象徴される “先富論” から “共同富裕” への国策の転換、急進的な環境政策に伴う電力不足、地方政府の過剰債務、米中対立などの構造問題がある。加えて、経済の大きな足かせとなっているのが、新型コロナウイルスの封じ込め政策である。

中国のコロナ対策の原則は「ゼロコロナ」政策である。人口500万人都市であれば2日内に全住民のPCR検査を完了させる体制を全土に構築済みだ。“封じ込め” は成功したかに見えた。しかし、昨年夏以降、散発的に新たな感染が確認され始め、年末には人口1300万人を擁する西安市がロックダウンされるに至った。長距離バスの運行は停止され、幹線道路が封鎖される。年が明けると人口1400万人の天津市、550万人の安陽市でも感染が拡大、当局は間髪入れずに行動規制を敷く。モノや人の流れは実質的な制限下にあり、企業活動や市民生活への影響は軽くない。

実は当社の上海現地法人の社員もこうしたコロナ対策を、身をもって体験することとなった。1月11日、彼は河北省石家庄市へ出張したが、現地に到着するとスマートフォンの健康コードの色が緑から黄色に変わっていた。そのため、当局が指定するホテルに強制隔離、2回のPCR検査を受けることとなった。理由はその日、天津で新たな感染が確認されたためである。しかし、石家庄と天津は300㎞以上離れている。では何故? 実は、12月29日、彼は出張で天津を訪れていた。つまり、2週間前の行動履歴に遡及して隔離された、ということだ。幸いにして陰性が確認され無事上海へ戻ることが出来たが、あらためて「ゼロコロナ」の徹底ぶりに驚かされるとともに、小説「1984年」(著者:ジョージ・オーウェル)に描かれた世界を想起せざるを得ない出来事であった。
※健康コード:感染リスクを緑・黄・赤で表示するスマホアプリ。当局の身分証明システムと連携、公共施設、交通機関、オフィスビル、ホテル等への実質的な通行証として運用されている。

今、中国は北京冬季オリンピックに向けての厳戒態勢下にある。そうした中、旧正月を祝う春節の連休がはじまる。コロナ前、期間中の旅行者は延べ30億人に達していた。しかしながら、今年は移動の自粛が求められており、また、帰省先、観光地、自宅エリアが旅行中に突然封鎖されるリスクもある。春節需要は大幅な縮小が避けられない。旅行、飲食、小売、レジャー業界への打撃は小さくないだろう。それでも事前の予想では12億人が国内を移動する。感染拡大のリスクは高まる。そうなると行動制限は更に強化される。まさに “負のスパイラル” だ。20日、中国人民銀行は先月に続き2か月連続で政策金利を引き下げた。状況次第では、“共同富裕” の一時的な棚上げもあるかもしれない。とすると政治の不安定さも強まる。1-3月期、2022年の中国経済にとって正念場だ。

2022 / 01 / 14
今週の“ひらめき”視点
古本屋さんの新たな業態“ブックマンション”、シェア型店舗で個性を発信

“ブックマンション” という新しい本屋さんのカタチをご存知だろうか。仕掛人は24時間無人営業の古書店「BOOK ROAD」(三鷹)を経営する中西功氏、「本をシェアする文化を広めたい」との想いから2019年7月、吉祥寺に第1号店をオープンした。ビジネスモデルはシンプルだ。要するに店内の本棚、1棚1棚を売り場単位とするインショップ型のショッピングモールである。

インショップのオーナー(棚主さん)は自身の愛読書やみんなに勧めたいと思う本を自由に棚に並べ、販売することが出来る。つまり、棚主さんは「世界にたった一つのセレクトショップの経営者」ということだ。と言っても、約30㎝四方の1棚であって、大きな売上が期待できるものではない。棚は自分の価値観や想いを伝える表現の場であり、そこに共鳴した人との出会いや共感の連鎖こそ棚主さんが獲得する資産である。小さな1棚から発信されるメッセージは地域や人とのつながりを創造するための無形の資本ということが出来よう。

そんな “ブックマンション” スタイルの新たな店舗が京王線仙川の商店街の一角にこの春オープンする。店名は「1000+1BOOKs(センイチブックス)」、私事で申し訳ないが筆者の妻が代表を務める「万朶プランニング」が運営する。現在、3月のオープンに向けて第1期棚主をクラウドファンディングにて募集中、自分の読書歴を自慢したい、自分と同じ本を読んだ人と語り合いたい、自分を表現する拠点を持ちたい、ちょっとした副業にチャレンジしたい、なんて方であれば誰でも大歓迎、ご関心のある方は以下をご覧いただければ幸いである。
【仙川】自分本棚で個性発信!共同参加型誰でも本屋さんセンイチブックスプロジェクト - CAMPFIRE (キャンプファイヤー) (camp-fire.jp)

リアルからデジタルへのシフトはあらゆる業種業態で進む。そして、その攻防に決着がつきつつある中、今、リアル店舗の再価値化が進む。コト消費が注目されはじめたのは1980年代の後半、やがて、特定の時間や空間を共有することに価値を見出すトキ消費へ発展する。顧客満足(CS)から顧客体験(CX)への質的変化、と言うことも出来よう。要するに、今、店舗に求められる付加価値は、参加し、体験し、共感し、プロジェクトや社会への貢献を実感できる場、ということだ。ブックマンションはその一形態である。業態としてはまだ進化の途上だ。多彩なパートナーを巻き込んでの新たな創発に期待したい。

2021 / 12 / 24
今週の“ひらめき”視点
民主主義を前に進めるために。アフターコロナを見据え「今」を再点検しよう

19日、香港ではこの5月に導入された新たな選挙制度のもとはじめての立法会議員選挙が行われた。議席は親中派が独占、民主派はすべての議席を失った。そもそも新制度では「政府への忠誠」が立候補の資格要件とされており、結果に驚きはない。民主派の希望が過去最低の投票率に埋もれた一方、当局は「民主制度にはさまざまな形式がある」としたうえで、「愛国者による秩序の回復」と「一国二制度の安定」に胸をはった。選挙後、天安門の犠牲者を追悼する香港大学のモニュメント “国恥の柱” が撤去された。名実ともに香港は中国と一体化した。

香港の選挙の前日、台湾では重要な国策に関する住民投票が実施された。結果、米国産豚肉の輸入制限など国民党が提案した議案はすべて否決された。これについて蔡英文総統は「国民は国際社会との連携を選択した」旨の声明を発表したが、要するに台湾は中国寄りの中国国民党(国民党)ではなく、米との関係強化をはかる民主進歩党(民進党)の政策を支持したということだ。今、香港の変化を目の当たりにする中、台湾の存在感が高まる。10月には欧州議会が台湾との関係強化をはかるようEUに勧告、11月には米下院議員団の訪台もあった。

言うまでもなく狙いは中国の対外戦略への牽制である。加えて、世界的に進行する “民主主義の後退” に対する懸念と警戒を指摘したい。統治形態を自由民主主義、選挙民主主義、選挙専制主義、完全な専制主義の4つに分類し、世界の民主主義を分析しているV-Dem研究所(本部スウェーデン)によると、この10年間における顕著な変化は選挙民主主義の急減と選挙専制主義の拡大であるという。世界人口に占める前者の割合は30%後半から19%へ、後者は25%程度から43%へ、つまり、民主主義という衣を纏った専制主義化が進んでいるということである。

問題はそれが極めて自然な流れの中で進んでゆくということだ。同研究所は典型的な専制主義化へのプロセスを「選挙で合法的に政権をとった後、メディアや言論を統制し、社会の分断をはかり、やがて、選挙そのものをコントロールしてゆく」と説明する。
政権周辺への利益還流、公文書や公的統計の改ざん、フェイクニュース、排外思想、パンデミックのもとでの権威主義的な政策への期待、、、今、民主主義の側のどこかに綻びの予兆はないか。コロナ禍後の社会の在り方を考えるためにも我々自身の現在の立ち位置をしっかり検証し、点検しておく必要がある。

2021 / 12 / 17
今週の“ひらめき”視点
EV化、加速。目覚めたらすべてが変わっていた、と感じさせるスピード感が欲しい

トヨタは2030年までのEVの世界販売目標を200万台から350万台へ引き上げる。HVを含む電動化投資額は8兆円うち4兆円をEVへ、車載電池には別途2兆円を投じる。また、国内の市場開拓をはかるべく2025年までに全国の販売店に急速充電器を設置する。
一方、会見ではトヨタの基本戦略はあくまでもHV、FCVを含む「全方位」戦略であることを強調、「トヨタは多様な市場を相手にしている、優先順位はつけない、各国のエネルギー事情や市場動向に素早く対応することで生き残りをはかる」との考えを示した。

とは言え、上方修正は紛れもなくトヨタの “本気” を示している。欧州、中国勢に比べてEVに消極的と評されてきた日本勢であるが、ここへきて日産も2026年までに2兆円を投資、2030年までにEV比率を50%以上に拡大すると発表、ホンダも2040年までに世界で販売する全車種をEVまたはFCVにすると宣言している。12日、アブダビで開催されたF1最終戦の当日、ホンダは「Thank you MERCEDES, Thank you FERRARI、、、」とライバル達への感謝を新聞広告に掲載、“エンジン・サプライヤー” としての戦いの終わりを世界にメッセージした。

経済産業省もEV、PHV、FCVの購入補助金を42万円から80万円に引き上げる。しかしながら、閣議決定された令和3年度補正予算の要求額は、購入補助金に充電インフラ整備の費用を加えても375億円だ。GoToトラベルにはその7倍、2685億円が新たに計上されている。日本と同様、EV化に後塵を拝した米国は充電設備のネットワーク構築に75億ドルを投じる。自動車産業における競争優位の喪失は国際市場での敗退を意味する。2030年までにEV用充電スタンドを現在の5倍15万基、水素ステーションを同6倍1000基とする政府目標を達成するためにも、大胆かつ集中的な投資計画を策定いただきたい。

14日、東京都は板橋区と連携してEVバイクのバッテリーシェアリングの実証実験をスタートさせた。東京都は2035年までに都内で販売される二輪車の100%非ガソリン化を目指しているが、これはその一環である。具体的には個人と事業者向けにEVバイクを貸出、板橋区の施設やコンビニ店舗に交換スポットを設置し、バッテリーをシェアリングする。対象はバイクであり、実験の規模も限定されている。しかしながら、メーカーと行政がどんなに笛を吹いても、需要サイドが価値を共有しない限り市場の創造はない。その意味で、次世代モビリティ社会の一端を生活の中で体験することの意味は小さくない。取り組みの広がりと積み重ねに期待したい。

2021 / 12 / 10
今週の“ひらめき”視点
持続可能な漁業の実現に向けて、漁村振興の総合対策と国際社会におけるプレゼンス向上が求められる

マグロの資源管理を協議する国際会議「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」が7日に閉幕、日本近海を含む中西部太平洋におけるクロマグロの漁獲枠の15%増を決定した。先月には西大西洋でも16%の増枠が認められるなど、太平洋と大西洋が連携した資源管理の成果が国際的に認められたということだ。4年連続で増枠を求めてきた日本にとっては吉報であり、水産庁は各都道府県への割り振り作業に入る。

とは言え、漁業を取り巻く情勢の厳しさには変わりはない。新興国の需要拡大を背景とした資源の減少、温暖化による生息域の変化、コロナ禍による内需の急減など明るい話題は少ない。サンマ、秋サケ、するめいか等の不漁も続く。
自然を相手にする漁業にはそもそも不安定さがつきまとうが、それゆえ漁獲変動に伴う減収を補填する共済制度がある。しかし、今、その維持に不安が募る。制度は漁業者による積立金と国費による基金として運用されるが、漁獲制限と不漁が常態化する中にあって払い戻し超過が続く。2017年度末に743億円(うち国費相当額536億円)あった基金残高は2020年末には356億円(同83億円)まで減少している。

日本の海岸線の総延長は3万5千㎞、そこに6300もの漁村があり、領海とEEZ(排他的経済水域)内に24万隻の漁船が操業する。国は “第3期海洋基本計画”(2018)で漁業振興の目的に国境監視機能を加えた。新漁業法では、漁村活性化に際して自然環境保全、地域文化の形成、親水性レクリエーションなど漁村の多面的な機能に配慮することが規定されている。漁村には水産資源の供給以外の国益があるということだ。しかしながら、厳しい経営環境の中、過疎化と高齢化のペースは全国平均を上回る。漁業の活性化、漁村の維持に向けた総合的な施策が求められる。

一方、漁業の問題は一国の施策では解決しない。気候変動が漁獲の不安定要因であることは指摘するまでもないが、漁業もまた生態系に対するネガティブな因子となる。国連食糧農業機関によると世界の漁獲資源の1/3が乱獲状態にあり、漁獲枠の余裕は1割未満にとどまる。規制を無視した違法操業者の漁獲量は全体の3割に達するとの報告もある。捕獲され、捨てられる商業価値のない魚や海鳥、ウミガメなど、所謂 “混獲” の問題も軽視できない。廃棄されたプラスチック製漁具による海洋汚染問題も周知のとおりである。すなわち、持続可能な漁業を実現するためには国際的な水産資源の管理、海洋生態系の保全に対する強いコミットメントが必須であるということだ。海洋国家 “日本” の国際社会におけるイニシアティブに期待する。

2021 / 12 / 03
今週の“ひらめき”視点
過去最大の経済対策、問われるのは中身だ。“縮小” に歯止めをかける大胆な予算編成を!

30日、総務省は2020年国勢調査の確定値を公表した。総人口は1億2614万6千人(前回2005年調査比0.7%減少)、世帯数は5570万5千世帯(同4.5%増)、外国人は過去最高の274万7137万人(同43.6%増)となった。人口が減少したのは39都道府県、市町村ベースでは全国1719市町村のうち82.5%がマイナスとなった。単身世帯は全世帯の38%、2115万1千世帯(同14.8%増)、その3割が高齢単身世帯(同13.3%増)である。生産年齢人口は7508万7865人、前回比226万6232人の減少(同3%減)、総人口に占める15歳未満の割合は世界でもっとも低く、65歳以上の割合は世界でもっとも高い。

この数字から読み取れる日本の将来像に齟齬はあるまい。ゆえに予見されるネガティブな事態を避けるための選択肢も明白である。人口規模を維持し経済大国として成長を目指すのか、縮小を受け入れ安定した中規模先進国としての道を探るのか、である。現時点における政策目標は “規模の維持” だ。とは言え、出生率が人口置換水準2.07を割り込んだのは1974年、昨年の同値が1.34であることを鑑みれば、あらゆる少子化対策が功を奏したとしても自然増に転じるのは私たちの世代ではない。とすれば、採るべき施策は単純だ。生産性の向上と外国人の受け入れである。

後者については、特定技能枠の拡大や在留期限の延長など前々政権から一貫して受け入れ拡大をはかってきた。とは言え、あくまでも「労働力不足への対応であって移民政策ではない」とのスタンスをとる。この中途半端さが外国人就労における労務問題や人権問題の根底にあると言えるが、いずれにせよ方針は定まっていない。徹底した議論と目の前の問題解決が急がれる。一方、生産性向上の必要性に異論はないだろう。取り組むべきは成長と効率化、つまり、脱炭素とDXだ。

19日、政府は財政支出55兆円、過去最大規模の経済対策を閣議決定した。しかし、いかにも総花的だ。COP26では世界の金融機関が脱炭素に向けて “今後30年間で100兆ドルの投融資” を表明した。米国は再生可能エネルギーのインフラ構築に7.4兆円、EVの充電スタンドに8600億円、EUも次世代エネルギー関連に5兆円規模の資金を投じる。翻って今回の補正予算ではEV化の推進に1375億円、再生可能エネルギーの導入加速に315億円、データセンターの地方拠点づくりとデジタル人材育成に85億円である。GoToトラベルへ1兆円、マイナポイントに2兆円であることと比較すると何とも小粒だ。果たしてこれで世界の競争フィールドで戦っていけるのか。各方面への目配りはもはや不要だ。産業構造の根本的な変革に向けての覚悟を “予算” として体現して欲しい。