今週の"ひらめき"視点

2019 / 12 / 06
今週の “ひらめき” 視点
今治造船とJMU、資本提携。造船業界の再々編がはじまる

29日、国内造船1位の「今治造船」は同2位「ジャパンマリンユナイテッド」(以下、JMU)との資本業務提携を発表した。今治造船は資本比率3割を目処にJMUが新たに発行する普通株式を引き受けるとともに、既に三菱造船と協業関係にあるLNG運搬船を除く商船分野で共同営業設計会社を設立、将来的には生産体制の効率化も視野に入れる。

造船業界は慢性的な供給過剰状態にある。かつて “造船王国” と称された日本であるが、90年代後半以降、韓国、中国が猛追、現在、世界シェアの7割を中韓勢が占め、日本は2割に止まる。
中韓は業界再編でも日本に先行する。中国では国内1位「中国船舶工業集団」と2位「中国船舶重工集団」が統合、一方、韓国は経営が悪化した国内3位の「大宇造船海洋」を1兆2千億円の公的資金で救済、そのうえで同1位「現代重工」との経営統合を進める。
IHIとJFEの造船部門の統合によりJMUが誕生したのが2013年、それ以来、日本では大きな動きはない。当時、川崎重工と三井造船(三井E&Sホールディングス)の統合交渉も進んだが結果的に破談となっている。

その三井E&Sが苦境にある。2020年3月期は3期連続の最終赤字となる見通しで、11月11日には半年前に策定したばかりの事業再生計画の見直しを発表した。背景にはインドネシア火力発電事業の巨額損失がある。とは言え、祖業である造船事業の再建も遅れている。川崎重工との交渉決裂後、中国の揚子江船業と提携するなど事業の立て直しをはかってきたが、船舶部門の2019年3月期売上高は前期比156億円減の969億円、営業利益は71億円改善したものの81億円の赤字である。再建策では玉野工場での中小型商船事業への絞込み、大型タンカーの建造を担ってきた千葉工場の受注停止、工場用地の売却が表明された。加えて、三菱重工との提携も選択肢にあるとされるが先行き不透明感は拭えない。

今治造船とJMUの資本提携は歓迎すべきだ。それでも統合後の建造量は中韓トップに遠く及ばないし、現時点では造船所の再編、統廃合に関する発表もない。その意味でやや中途半端な感は否めない。
日本勢が唯一頼みとする技術優位は今後更に縮まる。とすると国を越えてのグローバル再編も現実味を帯びてくるだろう。今治とJMUの動きはその起点となる可能性がある。世界市場に対する攻撃的なM&Aに期待したい。

2019 / 11 / 22
今週の“ひらめき”視点
円滑化法から10年、地方経済と地域金融は大きな転換期にある

2019年4-9月期、上場する78の地銀・地銀グループのうち56行が最終赤字となった。収益悪化の主因はもちろん低金利である。しかし、貸倒引当や損失処理費用を含む “与信費用” の負担がこれまで以上に重くなった影響も大きい。日経によるとこの中間期における与信費用の合計は1,077億円(不祥事のあったスルガ銀行を除く)、前年比で2.2倍に拡大した。実際、中小企業の倒産はじわりと増えつつある。2019年7-9月期における倒産件数の前年比伸び率はリーマンショック後の2009年1-3月期の13.4%に次ぐ8.1%増に達したという(東京商工リサーチ調べ)。

2009年12月、国は中小企業金融円滑化法を施行、リーマンショックの影響で経営危機に陥った中小企業を救済すべく返済猶予など貸付条件の変更を銀行に要請した。円滑化法は2013年3月で期限を迎えたが、引き続き「法の精神の維持」が求められてきた。実は円滑化法施行の前年、金融庁は貸出条件緩和のための経営改善の計画期間を3年から5年(最長10年)に変更している。つまり、円滑化法適用会社は最長10年間の長期経営計画を銀行に提出しているということだ。
それから10年が経過した。計画どおり成長軌道を回復し、収益の改善が進んでいる企業ばかりではあるまい。ここへきての倒産件数増と地銀の与信費用の拡大は、円滑化法施行から10年を経た今、「法の精神の維持」の解釈に幅が出来てきた、ということだ。要するに「猶予期間は終わった。改善見通しが立たないのなら支援は打ち切る」ということである。

一方、地銀の預貸率は上昇基調にあり、低金利下にあって融資拡大に積極的だ。背景には自身が淘汰の危機にあるという事情がある。政府が主宰する “未来投資会議” は2019年の実行計画案の中に「地方銀行に対して向こう10年間で集中的な再編を促す」と書き込んだ。各行は10年内にやって来るであろうXデーに向けて自行のプレゼンスを少しでも大きくしたい。そのためには資産の健全化と地元優良企業との関係強化が必須だ。より良く選別されるための選別が進むということだ。

とは言え、闇雲な融資拡大がリスクであるように形式基準のみによる健全化は自らの未来の芽を摘むことになる。地域の中に可能性を見い出し、支援し、育成すること、つまり、地域密着型金融という地銀本来のノウハウこそが最大の資産であって、それが強固で、豊かであることが自行の企業価値を高めることになる。地方創生の担い手は地元企業であり地域金融である。淘汰を再生と創造につなげるための “選別” に期待する。

2019 / 11 / 15
今週の“ひらめき”視点
百貨店の閉店は地域の等身大の需要を掘り起こすチャンスである

1991年をピークに縮小を続け2000年代に再編淘汰された百貨店業界であるが、今、もう一段のダウンサイジングを余儀なくされつつある。今年は10店舗、とりわけ地方や郊外の象徴的な店舗の閉店が相次ぐ。函館の中合 棒二森屋にはじまり、米沢の大沼、ヤナゲン大垣本店、伊勢丹の府中と相模原、そごう神戸、甲府の山交、、、いずれも地域のランドマークとして地元経済を支えてきたかつてのエースだ。来年には西武大津、高島屋港南台、そごう徳島、、、も営業を終える。

2019年2月期、百貨店上位10社のうち増収は5社、需要を押し上げたのはインバウンドと富裕層である。特需の恩恵は地方には届かない。そこが明暗を分けた。しかし、地方にチャンスはないのか。ストライプインターナショナルとソフトバンクの合弁会社「ストライプデパートメント」はこの9月、地方百貨店向けの新サービス「ダース(Department EC as a Service)」を開始した。同社が提携百貨店のECサイトを開発し運営を代行、地方店はミニマムコストでECチャネルを構築できるとともにストライプ社が扱う1,000ブランドを自社サイトで販売できる。ストライプ社はサイトの会員増を、ベンダーは地方顧客を開拓できる。将来的には地方百貨店50店と契約、地方のF2層に向けて新たなチャネルで新たなファッションを提案する。

一方、総合大型店という小売業態がその役割を終えたわけではない。家電市場も一昔前に業界再編を経験した。総需要の大きな伸びは期待出来ない。価格競争も熾烈だ。EC市場も拡大している。それでも家電量販各社は  “大型” であり続けるために一等地におけるシェアに拘るとともに、新たな “総合” のカタチを模索する。ビックカメラが新宿三越アルコットを一括賃貸し、ファーストリテイリングとともに開発した「ビックロ」はその一例だ。ヤマダはエス・バイ・エル(旧小堀住建)を買収、住空間全体をビジネスドメインに取り込む。ノジマはスルガ銀行の創業家保有株式を取得、18%の筆頭株主となった。百貨店の跡地を引き受け、あるいはその集客力を補完できるのも唯一彼らだ。山交の土地建物はヨドバシが買収する。日本橋三越にはビックカメラが新たな高級業態で出店する。

13日、アイリスオーヤマはテレビ事業への本格参入を発表した。目玉商品は “音声認識” テレビだ。しかしながら、最先端のIoT家電とはちがう。ネットに接続する必要はない。アプリのダウンロードも不用。つまり、完全オフラインの音声認識リモコン付きテレビである。方言にも対応、機能を単純化し、低価格化することで “ホームセンター” という言わば総合家電の廉価チャネルでの拡販を目指す。顧客が見えている、とはこういうことである。
百貨店という業態が全国一律に需給バランスを回復させることはないだろう。そもそも地方や郊外の活性化は既存の百貨店の存続と同義ではない。であれば、もう一段の再編は、本来そこにあった等身大の地域のニーズをもう一度、街の中心に引き戻すチャンスである。

2019 / 11 / 08
今週の“ひらめき”視点
RCEP、年内妥結見送り。世界貿易の行方は米中「部分合意」の成否にかかる

5日、上海で第2回中国国際輸入博覧会が始まった。昨年、米中貿易摩擦が深刻化する中、国家の威信を賭けて開催された第1回は世界151カ国・地域から3,617社が出展、来場したバイヤーは40万人を越え、成約見込み額は578億3,000万ドルに達した。1年後、米との対立が続く中での第2回であるが、主催者発表では参加国・地域は昨年を上回り、展示面積も30万平米から36万平米へと拡大、国内外から事前登録したバイヤーは50万人を超えたという。

第2回もきっと成功裏に幕を閉じるのであろう。しかしながら、足元の購買力はやや不透明感が増しつつある。この1-9月期の輸入額は前年を5%下回る。7-9月期のGDP成長率も前年同期比+6%にとどまった。これは1990年代前半以降でもっとも低い水準であり、とりわけ、固定資産投資が低調だった。党指導部としては構造改革を一挙に進め、先端分野への集中投資をはかりたいところだ。しかし、巨大な格差を内包したままの中国において “荒療治” は党への不満を誘発しかねない。不良債権問題とバブル懸念が限界に達しつつある中、施策は中途半端にならざるを得ない。

米国との対立が深まる中、2019年上期の中国からの対米輸出は25%減となった。金額ベースで3兆8千億円規模に達する。そして、その6割が中米、欧州、台湾の対米輸出増に振り代わる。外資はもちろん中国勢も続々と国外へ生産拠点を移す。グローバルサプライチェーンの構造変化はもはや後戻り出来ない段階まで進む。

4日、ASEAN10カ国に日中韓、印、豪、ニュージーランドを加えた16カ国によるRCEP交渉がインドを巡り紛糾、目指してきた年内合意が見送られた。巨額の対中貿易赤字を抱えるインドが最終局面で離脱を表明、インド抜きでの先行合意を主張したASEANとあくまでもインドを加えた自由貿易圏を目指したい日本などが対立した。

世界人口の半分、貿易総額の3割を占めるRCEPは、高度なルールへの適応が求められるTPPと比較すると新興国にも受け入れやすい “自由貿易圏” だった。ゆえに、合意の先送りは中国にとって景気反転に向けての政策オプションが一つ失われたことを意味する。残された突破口は11月中の決着を目指して協議が続く米国との「部分合意」である。ここが対米関係も含めた中国にとっての正念場であり、それはすなわち2020年の世界経済の行方そのものである。

2019 / 11 / 01
今週の“ひらめき”視点
未来のモビリティ社会に向けて、CASEに急き立てられる業界再編

開催中の「第46回東京モーターショー2019」を観た。“ひろげよう。思い描く明日を。” の一行から始まるステートメントのとおり「CASEが実現する未来のモビリティ」のプレゼンテーションに会場は溢れていた。
魔法使いの箒をイメージしたモビリティ「e-broon」やラストワンマイル物流を担う自動走行車「マイクロパレット」がテクノロジーの可能性をこれまで以上に “身近な未来” として感じさせるとともに、市販車を1台も置かなかったトヨタのブースが “脱・クルマ” に対する業界の危機感と可能性を象徴する。

一方、海外勢の不在はやはり寂しい。参加企業はメルセデス、ルノー、アルピナなど4社5ブランド、前回の9社15ブランドから大幅減である。アウディ、ポルシェを擁するVWグループ、BMW、ボルボといった人気ブランドも出展を見送った。ピーク時の6割減まで落ち込んだ来場者数に対する広告効果という視点に立てば合理的な判断とも言えるが、まさにグローバル市場における日本市場のポジションを痛感せざるを得ない。加えて、“未来” の先端をゆく “もう一つの企業群” の不在も残念だ。もちろん、“日本自動車工業会” 主催イベントであれば当然とも言えるが、グーグル、アマゾン、アップル、百度が提案する未来も見てみたい。

30日、日立製作所とホンダは、日立系1社、ホンダ系3社の系列部品会社4社の統合を発表した。統合による新会社の売上規模は1兆7000億円規模、国内ではデンソー、アイシン精機に次ぐ第3位の部品メーカーとなる。
同日、米WSJ紙がFCAとPSAが統合に合意したと報じた。実現すれば伊フィアット、アルファ ロメオ、米クライスラー、仏プジョー、シトロエン、独オペルといったブランドを持つ世界第4位の自動車メーカーが誕生する。

産業の定義そのものが書き換えられる “100年に一度の変革期” は中途半端な覚悟では乗り越えられない。上記2つの統合の狙いが、巨額の研究開発投資が求められるCASEへの対応であることは言うまでもない。それでも部品ではデンソー、ボッシュ、コンチネンタル、完成車ではVWグループ、ダイムラー、トヨタといったトップランナー群に遠く及ばない。
今年6月、FCAはルノー・日産・三菱自グループへの統合提案を日産の反対で取り下げた。その日産は親会社ルノーとの関係について未だ逡巡したままである。ルノーもいつまでもそこに留まっているわけにはゆくまい。統合するFCA、PSAの2社にルノーの研究開発費を加えるとちょうどトヨタと並ぶ。もしもそうなれば置き去りにされた日産・三菱自の選択肢は再び狭まる。未来に先手を打つためにも早急に “ガバナンス改革” を決着させ、前へ踏み出していただきたい。

2019 / 10 / 25
今週の“ひらめき”視点
ソフトバンクG、「ウィーワーク」再建へ金融支援。本物のユニコーンはどこにいる?

ソフトバンクグループは、23日、米「ウィーワーク」の経営再建に向けて最大95億ドルの金融支援を行なうと発表した。ウィーワークは2019年内のIPOを目指していたが、成長性、収益性への懸念に加え、創業者アダム・ニューマン氏のガバナンス上の問題が決定打となり9月30日に上場を断念、予定していたファイナンスが閉ざされ資金不足が懸念されていた。
年初に470億ドルと評価された同社の株式価値は80億ドルに急落、ソフトバンクグループは上場撤回による投資収益の逸失に加え、有利子負債の拡大と数千億円規模の評価損を余儀なくされる。

従来、ソフトバンクグループは経営陣の自主性を尊重し、出資先企業を子会社化しないことを投資方針としてきた。発表された支援スキームにおいても種類株等を活用することで議決権ベースでの連結子会社化を回避している。とは言え、今回については発行済み株式の8割をもつ事実上のオーナー経営者としてウィーワークの再建に踏み込まざるを得ない。事業拠点の再編、人員削減といった構造改革から収益力に軸足を置いたビジネスモデルの再構築まで、ベンチャーキャピタリストとしての “目利き力” とは異なる総合力が試される。

一方、ウィーワークの躓きは、事業拡大を最優先に大量のマネーを繰り返し投下することで企業価値を一挙に高める大型ユニコーンの育成モデルに対する警鐘でもある。
未公開株の評価は投資家サイドの思惑で一方的に決定される。そして、起業家と出資者の一部には早期の“成功”を目指すあまり、短期の出口戦略のみを関心事とする者もいる。成功とキャピタルゲインがGOALであって然り。ただし、“上場” での実現を目指すのであれば事業の継続性を担保する確かな収益力と高い企業統治能力が必須であり、ファンドにはそれを客観的に評価する仕組みと投資家への情報開示が求められる。
本件を契機に起業家はこれまで以上に厳しい選別に晒されることになるだろう。そして、唯一それこそがもう一段の投資を自身に呼び込むための近道でもある。