今週の"ひらめき"視点

2018 / 12 / 07
今週の”ひらめき”視点
COP24、スタート。パリ協定の実現に向けて国際社会は自らの行動を変えることが出来るか

2日、国連の気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)がポーランドで始まった。会議は市民代表として演壇に立った英国の動物学者D・アッテンボロー氏の「気候変動の放置は文明の崩壊を招く」との警告から始まった。
今回の会議について関係者は一致してその重要性を指摘する。世界のCO2の排出量は4年ぶりに増加に転じた(国連環境計画)。取り組みの遅れはもはや後がない状況にある。加えて、米国がパリ協定からの離脱方針を崩さないなど国際協調体制も揺らぐ。会議日程は2週間、はたしてCOPはパリ協定の枠組みを維持できるか、まさに正念場である。

とは言え、一時的な反動はあっても環境負荷軽減に向けての流れは変わらない。11月30日、ファーストリテイリングはユニクロの主要素材工場のリストを公開した。同社はこれまで世界の取引先縫製工場を順次公開してきたが、サステナブル・アパレル連合(SAC)が開発した環境評価基準(HIGGインデクス)をベースとした環境負荷対策を2次取引先にも拡大、適用してゆく方針である。
世界持続可能投資連合(GSIA)によると、ESG投資は総投資額の26%、22.9兆ドルに達する(2016年)。つまり、環境対策はあらゆる企業にとって株式価値向上のための戦略要件であり、また、社会的な存続条件でもあると言えよう。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると「地球温暖化を+2℃未満に抑えるためには2075年前後までにCO2の排出量をゼロにする必要がある」という。“脱炭素”は低炭素の延長線上にはない。テクノロジー、経営思想、ライフスタイル、社会システムの根本的なイノベーションが求められる。
こうした問題意識のもと、当社はこの度、脱炭素をビジネス・イノベーションの視点から構想する新組織「カーボンニュートラルビジネス研究所」を設立した。脱炭素をキーワードに既存の枠組みを越えた新たなビジネスを創発、創出したいと考える。業種業態、業歴、専門分野は問わない。多くの企業、研究者、ビジネスマンに参加いただきたい。

「カーボンニュートラルビジネス研究所」のご案内はこちら

2018 / 11 / 30
今週の”ひらめき”視点
ゴーン氏、失脚。しかし、日産、三菱自はかつての経営体質への退行を許してはならない

26日、三菱自動車工業は臨時取締役会を召集、カルロス・ゴーン氏の会長職と代表取締役の解任を決めた。
2004年、三菱自は2000年のリコール隠しに続き、新たな品質不正が発覚、当時、提携関係にあったダイムラー・クライスラーから支援を打ち切られた。この時、同社は三菱グループによる全面支援のもとで再建をはかったが、2016年には燃費不正問題が発覚、3度目の経営危機に陥る。三菱自が国交省内で「不正の事実」を公表したのが4月20日、三菱グループ各社が追加支援に逡巡する中、5月12日、日産は資本提携に正式合意、10月20日、2370億円の出資が完了、三菱自は危機を脱する。果たして当時の三菱グループにこのスピード感での投資判断が可能であったか。

その日産は1990年代末、国内シェアが3位に転落するなど販売不振が常態化、2兆円を越える有利子負債を抱え、経営破綻の危機にあった。1999年3月、仏ルノーが6430億円の出資を表明、もはや選択肢がなかった日産はこれを受け入れざるを得なかった。その後の経緯はご承知のとおり、ルノー傘下で生産拠点の再編、資産売却、人員削減、系列子会社や取引先の見直しを断行するともに車種の整理、新車投入など営業面でのてこ入れをはかった。結果、国内販売は2位を回復、有利子負債は2003年に完済、日産は“日産”として存続した。

ゴーン氏が逮捕されて一週間、日本中がこの話題で溢れかえる。ルノーとの経営統合を巡る陰謀説からクーデター説に至るまで、識者と称する人々が声高に持論を語る。テレビはリストラで職を奪われた元派遣社員の方を登場させ、ゴーン氏の人間性と高額な報酬に疑義を投げかける。

犯罪であれば罰せられて当然であり、巨大なグローバル企業グループを築いた“創業者”としての「驕り」があったことも事実であろう。しかし、それらと報酬の妥当性とは論点が異なるし、ここへきて逮捕容疑そのものに対する異論も出始めた。
真偽は分からない。司法に委ねるしかないだろう。しかし、唯一明確なこと、それは日産と三菱自、かつて両社を破綻寸前まで追い込んだ「責任の所在が曖昧な経営、問題を先送りする経営、身内の論理に閉じた経営」に再び立ち戻るならば、世界で戦い続けることは出来ない、ということだ。

2018 / 11 / 23
今週の”ひらめき”視点
危機に直面するグローバル・リサイクルチェーン、行き場を失うプラスチックごみ

15日、日本はシンガポールで開かれた日中韓+ASEAN首脳会議で「廃プラスチックによる海洋汚染のモニタリングや汚染防止に向けた国別行動計画の策定を支援する」と発表、20日には経産省主導の官民組織「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス」を立ち上げた。6月、カナダサミットで採択された“海洋プラスチック憲章”を機にマイクロプラスチックによる海洋汚染問題が世界的に再認識される中、米国とともに署名を拒否した日本も巻き返しをはかる。

こうした中、環境分野における先進性をアピールすべく流通、消費財、外食関連のグローバル企業がこぞって“脱プラ”に向かう。もちろん異論はない、賛同する。しかしながら、“プラスチックから紙へ”のシフトは当然ながら木材資源の需要増につながる。世界の温室効果ガス排出量の2割は森林の減少が原因であるという。“資源のトレードオフ”がすべてを解決するものではないという環境問題の難しさがここにある。

一方、今、廃プラのリサイクルシステムが深刻な危機に直面しつつある。1年間に日本で廃棄されるプラスチックは約900万トン、うち約200万トンがリサイクルに回る。リサイクル率は高い。しかし、その7割、約150万トンが海外へ輸出されており、香港、台湾経由も含めるとほぼすべてを中国が受け入れてきた。
昨年12月31日、世界中から年間700万トンもの廃プラを輸入してきたその中国が「海外ごみの輸入禁止」に踏み切った。だぶついた廃プラはタイ、ベトナム、マレーシアへ流れた。しかし、急激な輸入増に処理能力が追いつかず、結果、これらの国々でも輸入制限措置を講じざるを得ない状況となっている。

環境に対する意識の高まりは新興国も同様であり、それはすなわち“新興国への輸出を前提とした従来型リサイクルチェーンの限界”を意味する。このままでは2030年に世界で1億トンもの廃プラが滞留するという。とすれば我々は新たな資源循環システムの構築に大きな資金を投じる必要がある。つまり、先進国は自身が享受する便益に対するコストの一切を自身で引き受けなければならない、ということである。

2018 / 11 / 16
今週の”ひらめき”視点
スペイン、2040年までにガソリン、ディーゼル車の国内販売を禁止。脱ICE(内燃機関)は新たな成長機会を創出する

13日、スペイン政府は2040年までにガソリン、ディーゼル、ハイブリッド車の国内販売を禁止すると発表した。現在準備中のこの法案では2050年には二酸化炭素を排出するすべての乗用車の走行を禁止するとともにマドリードなど人口5万人を越える自治体には2023年までに自動車の走行を制限する特別エリアを設けることも義務付けるという。
与党が1/4議席にとどまるスペイン下院の状況を鑑みると法案の成立は不透明である。しかし、既に英仏も2040年をターゲットとするEV化政策を発表済みであり、欧州のEVシフトが加速することは間違いない。昨年時点でのスペインの乗用車登録台数は123万台、EVは4千台、充電スタンドも3千箇所に満たない。2040年に向けてスペイン市場のポテンシャルは大きい。

市場機会は“クルマ”だけではない。最大の課題は電力供給網の構築である。とは言え、運輸部門のCO2排出を抑えるために発電部門の排出量が増えるのでは本末転倒である。とすれば負荷追従能力の高い分散型電源ネットワークの構築が必要となる。
この分野では日本もノウハウがある。2013年にはスペイン南部のリゾート都市マラガ市で、スペインの政府系機関CDTIとNEDO が連携、EVと再生可能エネルギーをネットワークした“スマートコミュニティ”のモデル実験を行なった。このプロジェクトには三菱重工、三菱商事、日立製作所が参画、急速充電設備の整備やEV管理センターの構築を支援した。設備機器はもちろんオペレーション分野における日本の技術力は高い。

一方、新車販売市場が次世代パワートレインに置き換わる2040年時点においても公道を走る自動車の半数はICE(内燃機関)のままである。自ずと環境規制は更に強まっているはずだ。
排ガス浄化装置トップの日本ガイシは2020年までに自動車排ガス浄化用セラミックスの生産ラインに新たに500億円を投資、石川工場やタイ工場を拠点にインドなどアジア新興国向けに「粒子状物質除去フィルター」事業を強化する、と発表した。ガソリン、ディーゼル車向けの環境装置はまさに成長産業ということだ。
脱ICEの流れに後戻りはない。HVの営業計画も変更を余儀なくされるだろう。既存産業の多くが構造転換を強いられる。しかし、それゆえチャンスはそこにある。

2018 / 11 / 09
今週の”ひらめき”視点
「中国、輸入博」と米中間選挙。“予測不能”な世界への適応力が問われる

10月18日付けの本稿では「輸入博」の国家としての戦略性について言及したが、5日、いよいよその幕が開いた。既に多くのメディアが報じており重なるところもあるが、当社上海現地法人と日系企業に同行した当社コンサルタントからの現地報告を紹介する。


・開幕式には習近平氏が来場、「中国は今後15年間で世界から40兆ドル(4500兆円)を輸入する」と演説
・5日、6日は政府機関、国営企業をはじめ公的セクターは振替休日、市内や展示場の治安維持に動員
・10万人の来場者枠に35万人が応募、入場者数は40万人を越える
・約180の国・地域から約3600社が参加。米国からは約180社が参加
・東欧、南米、アフリカなど途上国の参加が目立った。これらの国は参加費用を免除、輸入品の97%に免税措置を適用
・日本勢は磯崎経産副大臣、石毛JETRO理事長、片山上海総領事を招いて結団式を挙行、“日中経済協力新時代”への期待を表明
・日本企業は480社以上が参加、展示面積2万㎡が割当られた


上記は現地からの速報の一部であるが、とにかく“スケールの大きさは規格外”とのことである。バイヤーである中国企業には“大手であれば10億円、20億円”といった単位で買付けノルマが課されているとも言われ、出展した企業からは想定を大きく上回る受注額に驚きの声があがっているという。
実際、中国EC大手アリババは「今後5ヵ年で2000億ドルを海外から買い付ける」とし、傘下のティーモール(天猫)やティーモールワイド(天猫国際)等のECチャネルを通じて中国の消費者に提供する、と表明した。
9月、そのアリババのジャック・マー会長は天津で開催された経済フォーラムで “米国との経済対立はトランプ以後も引き継がれる。少なくとも20年間は続くだろう”としたうえで、トランプ氏と約束した米国での100万人雇用構想を撤回するとともに、「海外事業の軸足を東南アジア、アフリカに移す」語っている。戦略のベクトルは当局の方針と完全に一致する。

6日の米中間選挙は上下院が“ねじれ”となった。今後、トランプ政権は“より強硬になる”とも“停滞する”とも言われる。いずれにせよトランプ氏の“予測不能”状態は続く。
一方、中国は “開かれた大国”づくりを加速、「一帯一路」戦略にもとづく自由貿易圏の実現を目指す。日中関係も“政熱経熱”が演出される。日系企業にとって事業機会は大きい。しかし、“経熱”が政治から完全に自立することはなく、民意に政権選択の機会はない。つまり、こちらも常に“予測不能”である。したがって、企業は米中それぞれの戦略オプションとその組み合わせによる米中関係の変化をシナリオに織り込んでおく必要がある。スピードと柔軟性、何よりもリスクを受け止め、投資を決断する独自の基準と覚悟が求められる。

2018 / 11 / 02
今週の”ひらめき”視点
「製造2025」戦略の実現へ。先端技術投資を加速する中国の可能性とリスク

27日、中国の宇宙ベンチャー「ランドスペース(藍箭航天)」が自社開発ロケット“朱雀1号”を打ち上げた。搭載した国営テレビCCTVの小型衛星の軌道投入には失敗したものの飛行は正常だったとのことであり、「創業3年、初めての打ち上げ」であることを鑑みると事業化スピードの速さに驚かされる。
31日、中国検索大手「バイドゥ(百度)」と米フォードモーターは、自動運転車の共同実験を北京市内で年内にも開始すると発表した。百度の自動運転プロジェクト「アポロ計画」にはホンダ、ヒュンダイ、BMWも参加しているが、AI分野でも百度と提携したフォードが実証実験で先行する。

先端産業の育成、内需主導、製造大国から製造強国へ、今、中国経済は構造改革の最中にあり、これを達成すべく民間活力の導入が国家戦略化される。航空宇宙分野における“軍民統合”の方針は既に2015年の「国防白書」に明記されており、民間企業であるランドスペース社の事業戦略もここが起点となる。北京における自動運転車の公道実験も規制当局の迅速な認可があってのものだ。

一方、ブレーキも突如踏まれる。シェアエコノミーのニューウェーブとして急成長し、一時は100社を越える企業が参入したシェア自転車ビジネスはオッフォとモバイクの2強を残して昨年末までにほぼすべてが倒産、廃業、撤退した。未登録業者の乱立と社会問題化した放置自転車に対して当局が一挙に規制強化をはかったことが要因である。業界のパイオニアであるオッフォの創業は2014年、事業をスタートした2015年からわずか3年、業界としての成長は終わった。
改革開放の波に乗りアジア屈指の財閥となった大連万達集団(ワンダグループ)も深刻な経営危機に直面する。当局は同社の海外投資に伴う外貨流出と過剰債務を問題視、同社グループへの融資禁止を金融機関に通達した。同社はこの1年で2兆円規模の資産を売却、中国版ハリウッドも中国版ディズニー構想も夢と消えた。

中国企業の事業展開力の驚異的な速さは、事業家たちの傑出した才能と巨大なリスクマネーによるところが大きい。しかし、いかなる企業、投資家にとっても国家の方針すなわち党の意志が絶対的な経営条件となる。13億人の内需、6%台の成長ポテンシャル、中国市場の魅力は中国固有の“異質さ”と常にトレードオフの関係にある。