6月23日、日産自動車の定時株主総会が開催された。役員選任議案はエスピノーサ社長を含む11人が可決されたもののメインバンクであるみずほFG出身の社外役員候補2名のうち、永井素夫氏の再任が否決された。議決権の15%を保有するルノーが議決権行使を棄権、米議決権行使助言会社ISSとGlass Lewisも監査委員会委員長への再任が既定路線であった永井氏の独立性を疑問視、反対推奨を表明していた。
翌24日に開催されたヤクルトとあすか製薬の総会も役員選任議案が焦点となった。米投資ファンド「ダルトン・インベストメンツ」が独自の取締役候補を提案、会社側と対立した。しかし、結果は否決、会社提案の候補者が承認された。また、香港系投資ファンド「オアシス・マネジメント」による夏野剛社長の解任提案の行方が注目されたKADOKAWAの総会もこれを否決、夏野氏の再任が決まった。オアシスは京セラの総会でも山口悟郎会長の解任を提案、議決権行使助言会社2社もこれを支持したが、25日、否決された。
今年の総会シーズンも“もの言う株主”(アクティビスト)の動きが活発だ。旧態依然とした統治機構、資本効率の悪さ、低迷する企業価値を問題視し、経営陣の刷新、資産の売却、大規模な自社株買いを求める彼らの要求はある意味合理的である。しかし、極端に株主利益に偏重した要求は他のステークホルダーの利益を損なうとともに経営者から中長期的な経営視点を奪う。こうした懸念を踏まえ、今年3月、法務省法制審議会は株主提案の行使条件の厳格化や指名委員会の役員人事を取締役会決議で変更できるなど、言わば“会社側に寄った”会社法の改正試案を発表した。
とりわけ注目されるのは信託銀行やファンドの“金主”、すなわち実質株主の開示義務が盛り込まれた点にある。これは会社と実質株主との対話を促すとともに、複数の投資家が水面下で協調して株式を買い集め、一気に大株主として経営に圧力をかける“ウルフパック戦術”を牽制する狙いがある。大株主、支配株主の素性は経済安全保障の視点からも重要であり一定の監視と制約は必要だ。とは言え、“開かれた資本市場”を目指したこれまでの資本市場改革が企業の統治機構を鍛えてきたことも事実であり、少数株主の権限も不当に矮小化されるべきではない。株主と経営は企業の自立的で持続的な成長を実現するための両輪である。両者に健全な緊張関係をもたらす制度改革に期待したい。
6月12日、会計検査院は地方財政計画の検証結果を公表、ふるさと納税が地方団体の歳入歳出総額の見込み額と決算数値との乖離を拡大させていると指摘、総務省に対して影響を検証するよう要請した。ふるさと納税は応援したい自治体に寄付すると寄付額から2000円を引いた額が住民税や所得税から控除される。事業は2008年にスタート、初年度の受入件数5.4万件、寄付額81.4億円、以後、急速に事業規模が拡大、2024年の受入数は5800万件を越え、金額も1兆2727.5億円に達した(総務省)。
“官製通販”とも揶揄される返礼品競争のし烈化はご存じのとおり。総務省は返礼品の上限を寄付額の3割に抑えるなど制度の見直しをはかってきた。2024年度の返礼品総額は3,208億円、還元率は25.2%だ。とは言え、事務費、広報費、送付費用、仲介サイトへの手数料といった諸経費を加えると自治体の財源として残るのは53.6%に過ぎない(総務省)。結果、寄付した人が住む地域から他の地域へふるさと納税を介して税が移動することで自治体の歳入総額は減収となる。
流出超過自治体における減収は当然ながら行政サービスの質を低下させるとともに、行政サービスに要する費用を住民自身が負担する“受益と負担の原則”を揺るがす。加えて、高所得者ほど控除額の上限が高くなる現行制度は、住民税が本来持っている所得再分配機能を低下させる。そもそも国産ブランド牛、タラバガニ、シャインマスカットといった高級食品にふるさと納税ならではの“お得感”を感じて寄付をする世帯の多くは日々の暮らしに追われる層ではないだろう。
さて、筆者の住む世田谷区における住民税流出額は全国5位の134億円、これは耐震対策、トイレの洋式化、猛暑対策といった区立学校の改築・改修予算に匹敵する。流出額がもっとも大きい自治体は横浜市であるが、こちらは流出額の75%が地方交付税で補填される。一方、23区は地方交付税の不交付団体であり補填はない。それだけに区は「地方自治の根幹を破壊する不合理な税制」と手厳しい(令和8年度当初予算概要より)。ふるさと納税の理念、自治体間における一定の競争原理は理解できる。ただ、日本全体が縮小する中での“パイの奪い合い”は根本的な解決とはならない。地方自治とその財源について、あらためて問い直す必要があろう。
6月8日、韓国の李在明大統領は、自衛隊と韓国軍との間で燃料や弾薬を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)の提携について慎重であるべきとの考えを表明した。李氏は東アジアの安全保障環境が対立する方向に進むことに懸念を表明しつつ、一方でACSAの必要性に言及。ただし、「国民感情として受け入れることは難しい」と述べた。
国民感情とは、植民地化(1910年)、同化政策、戦前戦中における労務・軍務動員、講和条約発効に伴う国籍喪失(1952年)、これらに伴う苦難の記憶である。今、政治的にも民間レベルでも両国関係はかつてなく良好だ。それでも「本当の韓日関係を築くためにも、いつかは必ず整理されなければならない」と現大統領に語らせる“集合的記憶”は軽くない。
筆者がこのニュースに接したのは、法政大学出版局から6月2日に上梓されたばかりの手塚治虫の『ながい窖(あな)』の復刻版を読み終えたタイミングであった。1970年に発表され、全集にも収録されなかった本作は戦後、過去を秘して日本で成功した在日朝鮮人の姿を通して両国間の負の歴史を描いた作品である。それだけに李氏が使った“感情”という表現が深く響くとともにあらためて「歴史」「移民」について考えさせられた。
明治以降、日本はその時々の労働力需給によって移民の送り出しと受け入れを繰り返してきた。江戸末期3千万人程度であった人口は近代化とともに急増、人口過剰に苦慮した政府は南米、北米、中国大陸、南洋諸島に百数十万人を送り出す。戦中は労働力不足となり植民地から動員、戦後、在外日本人の大量帰還がはじまると中南米への移民送出を進める。そして、今、「技能実習」「育成就労」「特定技能」の名のもと海外から労働力を補充する。送り出し、受け入れ、いずれであっても「その地」でマイノリティとしての運命を背負うのは個人である。56年前初出の手塚作品が「差別」「共生」の意味を令和に問いかける。
5月28日、世界気象機関(WMO)と英国気象庁は世界の気象予測に関する報告書を公表、2026年から2030年における世界の平均気温は「産業革命前に比べ1.3℃から1.9℃上昇し、この5年間に観測史上最高気温が更新される確率は少なくとも86%に達する」という。また、温暖化に伴う海氷の減少や海水温の上昇は高緯度地域の降水量を増加させる一方、南半球では降水量が減少、太平洋赤道域ではエルニーニョの発生可能性が高まる、と予測する。
実際、欧州はWMOの予測を先取りするかのような熱波に見舞われている。英国では5月の最高気温を更新、フランス西部では熱波警報が発令、スペイン、イタリアでも記録的な暑さが続く。日本の“春”も過去2番目の高温を記録、5月中旬には九州で猛暑日も観測された。もはや「平年」と比較することの意味が失われるほどに「異常」な暑さが世界で常態化している。
筑波大と北海道大は、「日本の上空には大量の水蒸気が流れ込む“大気の川”があって、この川の流れの強度が温暖化の進行とともに増大、過去42年間で8.3%強まった。そして、こうした変化が線状降水帯など極端に強い雨を降らす要因となっている」との研究成果を発表した(5月22日)。なるほど、“これまでに経験したことのない”と形容される局地的豪雨が毎年毎年多発する一因が、遠のくばかりのパリ協定と反比例するかのように増大する“大気の川”の流量にある、ということか。
2014年から2023年までの10年間、水害被害の総額は7兆5千億円をこえる。そのうち4割が下水道から雨水が溢れ出す内水氾濫で、とりわけ都市部では7割が内水氾濫による(国交省)。こうした状況を受け、国も下水道の排水能力の向上など都市浸水対策を強化する。しかしながら、事業の達成率は全国平均で62%に止まる(2022年時点)。とここまで書いたところで台風6号の接近により筆者の事務所近くを流れる神田川にもレベル4(氾濫危険警報)が発出された。日本気象協会によると「2026年は台風の日本列島への接近数が平年並みか平年より多くなる」とのことである。台風、豪雨による被害が最小の夏になることを願う。
5月26日、宇宙開発ベンチャー(株)ispace(アイスペース)とJALグループは、アイスペース社が2028年に予定している月面着陸ミッションにおけるペイロード(荷物)輸送サービス契約を締結したと発表した。“次世代へ受け継ぐ箱舟”(ARGO PROJECT)と名付けられた事業は、人類の文化や人々の営みの記録を災害や紛争によって失われることのない“月”で保管し、未来の人類に継承するプロジェクトで、JALグループは地域の特産品や時代を象徴する工業製品を月へ運ぶ輸送枠を自治体や企業に販売する。
しかしながら、果たして「月」はARGO PROJECTが想定する「地球の紛争リスク」を回避できるのか。24日、中国は宇宙飛行士3人を乗せた「神舟23号」の打ち上げに成功、25日には宇宙ステーション「天宮」とドッキングした。中国は2030年までに有人月面着陸を実現、30年代半ばにはロシアと共同で月面基地を建設する計画だ。その翌日、米国は有人月探査プロジェクト「アルテミス計画」の工程表を発表、2029年までに建設地点の調査を進め、30年代には大型の居住施設を月面に建設すると発表した。
月面だけではない。宇宙空間における米中の競争も熾烈化しつつある。米国はスペースX社の通信衛星コンステレーション「Starlink」を含め既に7000機~9000機の人工衛星を運用、現在、1000機程度とされる中国も2030年までに1万5000機の低軌道衛星を配備する計画である。とは言え、そもそも天体を含む宇宙空間は1967年に発効された宇宙条約の第2条において「いずれの国家も領有権を主張することは出来ない」と定めている。ただ、国際法に対する信任が揺らぎつつある地上の現状にあって、ましてや宇宙だ。国際条約の有効性は心もとない。
2010年、英国の宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士(1942-2018)は地球外生命が存在する可能性は高いとしたうえで、もしも彼らが地球に現れるとすれば「自らの故郷である惑星の資源を使い果たした後、地球を新たな資源の供給地、新たな居住地とみなした時である。コロンブスの北米大陸への上陸が先住民にとって脅威となったように地球人にとって好ましくない結果となる」と警告した。「宇宙から国境線は見えなかった」とは日本人初のスペースシャトル搭乗員、毛利衛氏の言葉である。地球が氏の言葉通り本当に1つになれるのはホーキング博士の懸念が現実になった時でしかないのか。いや、私たちはもう少し賢くありたい。
5月18日、ニデック(旧日本電産)が「EV駆動装置E-Axle(イーアクスル)事業を大幅縮小、中国、欧州企業との合弁も解消へ」との報道があった。イーアクスルは創業者永守氏が推進してきた肝いり事業であり、会計不正、品質不正の温床となった永守路線からの決別を社内外に示すメッセージとしての意味は大きい。ただ、イーアクスルは5月13日にリリースされた「再生に向けて」と題した再建プランにおいて既に“構造改革・転換領域”の対象事業に区分されており、本質的には事業の継続リスクを精査したうえでの合理的な経営判断と言えよう。
イーアクスルはEVの駆動部であるモーター、インバーター、ギアを一体化することで小型軽量化と生産性の向上をはかる技術であるが、ご承知のとおり中国の車載モーター市場は激しい価格競争下にある。加えて部品のパッケージ化は更に進む。究極は駆動部、ブレーキ、ステアリング、バッテリー、制御ソフトをシャシーに一体化させたCATL(寧徳時代新能源科技)の“スマートシャシー”だ。クルマの下半分と車体上部との連携は信号で行われるとのことであり、つまり、シャシーに車室部分を乗せるだけでクルマが完成する。
今、世界の主要メーカーでEV戦略の見直しが進む。需要の停滞と最大市場である中国における供給過剰が背景にある。中国市場については巨大な補助金が公正な競争を阻害してきたことも一因だ。ただ、熾烈な競争の中、各社がテクノロジーにおける革新を競い合ってきたことも事実である。自動運転しかり、生産性の向上しかりである。シャシーと車体上部を独立して開発できる“スマートシャシー”は企画から量産までのリードタイムを12か月に短縮する。コストカットの積み上げで実現できるものではない。生産工程そのものに対するイノベーションが発想の起点にある。
厳しい競争が続く国内市場にあって中国EV勢はEVが伸び悩む海外市場の“隙”を狙う。BYDはこの夏、軽自動車規格のEVを日本市場に投入する。東風汽車はステランティスと提携、「プジョー」、「ジープ」ブランドのEVを生産、世界市場へ輸出する。2027年にはスマホ大手シャオミ傘下の小米汽車が欧州を皮切りに世界戦略を本格化させる。成熟市場におけるハードルは高い。自動車産業それ自体が発展途上にあるアジアにおける成功モデルは通用しない。とは言え、EV市場の未来と自社技術の可能性に賭ける彼らの姿に、恐らく日本電産の成長期にもあったであろう世界を目指す“創業者”魂の片鱗を見る。
