今週の"ひらめき"視点

2021 / 04 / 16
今週の“ひらめき”視点
迷走、東芝。市場からの信任と統治能力の回復に向けて

英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズが東芝に対して非上場化を前提とした買収提案を行ってから1週間、東芝は車谷社長の辞任と綱川会長の社長復帰を発表した。
会見では「あくまでも本人の意思による辞任」と説明されたが、“物言う株主” との対立や社内における求心力低下に業を煮やした取締役会から何らかの圧力があっただろうことは想像に難くない。また、車谷氏の “元CVC日本法人会長” という経歴が「古巣のファンドを使った資本市場からの逃避」との批判につながったことも無視できなかったはずだ。辞任は実質的な更迭と言っていいだろう。

東芝の転落は2015年の「会計不正問題」が起点となる。ここから歴代3社長の辞任、米原発子会社の巨額損失、債務超過、東証2部への降格、と迷走が続く。そして、2017年12月、債務超過を解消し上場を維持すべく6千億円の増資を実行、約60社におよぶ海外ファンドが株主に加わった。その陣頭指揮に立ったのが当時のトップ、綱川氏である。
翌2018年、経営を引き継いだ車谷氏は不採算部門からの撤退など構造改革を断行、業績回復に道筋をつける。2020年11月、こうした流れの中で氏は新たな中期計画と資本配分政策を発表、この1月には東証1部への復帰も果たした。しかし、株主還元より戦略投資に軸足を置いた新たな経営戦略が「物言う株主」との対立を先鋭化、それが今日の導火線となる。

その東芝を再び綱川氏が率いる。就任に際して氏は「ステークホルダーと良好な関係を築く」とコミュニケーション重視の姿勢を表明、社内外からの信頼回復を目指したい、と抱負を語った。とは言え、ステークホルダーの利益は一様ではない。それぞれの意向を組みとるだけではいずれの側にも不満が残る。「原子力や国防を担う東芝が外資の傘下に入っていいのか」など政治の声も聞こえてくる。改正外為法の問題もある。産業革新投資機構、日本政策投資銀行といった政府系金融も何らかの役割を担うことになるだろう。それぞれの思惑が交差する中、東芝は真に独立、自立した企業として成長戦略を描くことが出来るか。すべてのステークホルダーを納得させ、統治能力を自らの手に取り戻すにはこの1点しかない。

綱川氏は、東芝メモリの買収を巡って日米韓連合と米半導体ウエスタンデジタルが争った際、「決められないトップ」と揶揄されたことがある。件の増資の折には「東芝を外資に売った」とも評された。会見では「反省すべき点は反省し、社風も変え、次世代につなぎたい」と述べた。「経営陣も株主も同じ目線」との発言もあった。ただ、信頼回復は目標ではない。結果だ。“目線”は徹底して「東芝ファースト」であってほしい。綱川氏の覚悟に期待したい。

2021 / 04 / 09
今週の“ひらめき”視点
2021年の世界経済見通し、上方修正へ。回復軌道に潜む不均衡が新たなリスクとなる

4月6日、国際通貨基金(IMF)は2021年の世界成長率予測を1月発表の+5.5%から+6%に上方修正した。IMFは「コロナ対策関連の大規模な経済対策効果もあり、経済の崩壊は阻止された」と声明、ワクチン接種の進展によってこれまで押さえられてきた累積需要が顕在化すると予測する。また、米バイデン政権による210兆円規模の追加経済対策も米国内のみならず貿易相手国への波及効果が大きいと評価した。

その1週間前、世界貿易機関(WTO)も2021年の世界貿易について「欧州、北米、中国を中心に貿易量は回復、前年比+8%を見込む」と発表、景気回復に自信を見せた。しかし、新型コロナウイルスの変異種の拡大など感染終息の見通しが立たない状況を踏まえ、「財政出動だけでは危機は終わらない」との懸念も表明、「新興国、途上国を含むワクチンの公平な普及が最良の経済策である」と指摘した。この点はIMFも言及しており、低所得国、新興国の感染対策への支援を先進諸国に強く要請する、としている。

一方、IMFは増大した財政支出の圧縮や増税など財政再建に向けての急激な政策転換による景気後退懸念も表明、各国にソフトランディングを求めた。財政問題については、米イエレン財務長官も別の視点から言及した。イエレン氏は危機対応には大型の投資が不可欠であり、そのためには十分な財源が必要であると指摘したうえで、「法人税率の過度な引き下げ競争は止めるべき、国際的な最低税率の導入を」と呼びかける。

多くの国で感染は未だ進行形である。欧州や日本も再拡大の只中にある。一方、世界経済の回復もまた確かなものになりつつある。世界はパンデミックを押さえ込むために更に大きな資金と強い規制を必要としつつ、一方で出口戦略に向けて歩みを速める。
こうしたちぐはぐさとワクチンをめぐる利権と国力差が、新たな不均衡と分断を生み出す。分断は否が応でも大国の対立構造に組み込まれる。アフターコロナの世界にとっての最大リスクがここにある。

2021 / 04 / 02
今週の“ひらめき”視点
自動車産業、長期化する半導体不足にみる構造変化の一断面

3月30日、ルネサスエレクトロニクスは火災により生産停止中の那珂工場について「1か月以内に生産を再開する」としつつも、被害を受けた製造装置の台数を11台から23台に修正、「火災前の出荷水準の回復には3-4か月かかる」との見通しを発表した。しかし、使用不可となった製造装置の納入時期は「現在、交渉中」とのことであり、世界的な半導体不足の中、大幅な生産調整を余儀なくされている自動車業界の不安が解消されたとは言い難い。

そもそも自動車メーカー向けの世界的な半導体不足はなぜ起こったのか。原因の一端は、やはり米中対立と新型コロナウイルスである。米国は中国の半導体受託生産メーカーに制裁を適用、これにより注文は台湾メーカーに集中した。一方、台湾メーカーは世界的な感染拡大を受けて自動車需要の低迷を想定、社会のリモート化や5G投資の拡大を見込んだ生産計画を立てた。ところが、中国市場がけん引する形で自動車向け需要が急回復、結果、極端な需給ひっ迫状態に陥った。そこに北米の寒波、停電が追い打ちをかける。

こうした状況を受け、米国や日本、ドイツなど各国政府も外交ルートを通じて、台湾政府経済部に車載半導体の増産を要請、台湾側も半導体受託生産メーカーに対応を指示してきた。メーカー側もこれに応じ、「生産能力のフル稼働を維持するとともに自動車向けを優先する」と表明している。とは言え、最大手の台湾積体電路製造(TSMC)でも自動車向けの比率はもともと数%程度に過ぎない。主力の需要先はスマートフォン、ゲーム機、PC、データセンター向け高性能サーバーである。そもそも取引条件が厳しく、利幅の薄い自動車メーカーは彼らにとって “上顧客” ではない。自動車メーカーに先んじて発注をもらった大事な顧客を後回しには出来ない、というのが本音であろう。

電気自動車(EV)、先進運転システム(ADAS)など、テクノロジーの進化とともに自動車産業は大きな構造変化の渦中にある。変化とは、単に内燃機関の技術をもった下請企業がエレクトロニクス関連のそれにとって代わるだけではない。やがてサプライチェーンにおける最上位の地位そのものが危うくなるということだ。半導体不足による減産はクルマを頂点とした産業ピラミッドの “綻び” と言って良いだろう。トヨタは、2018年のアニュアルレポートで「クルマをつくる会社から、モビリティカンパニーに変革する」と宣言、「CASE、MaaSの時代の競合相手はGAFA」と明言した。「100年に一度の大変革」とはつまりそういうことであって、今、目の前で起こっている事態は決して一過性のものではない。

2021 / 03 / 26
今週の“ひらめき”視点
矢野経済信息諮詢(上海)から最新の中国報告、“経済回復は本物”。一方、経済の枠組みを越えたリスクも高まる

2020年、主要国で唯一プラス成長(+2.3%)を達成した中国は、2021年の成長目標を「6%を上回る水準」に設定した。はたして中国経済は当局の発表どおり回復しているのか。実態はどうなのか。当社上海現地法人から最新の報告が届いた。報告書は「個々の産業や企業活動において相違はある」「当社現地法人のネットワークの範囲内での見解」としつつも、「中国経済は確実にV字回復している」と結論づけた。以下にその一部を紹介させていただく。

・2020年、素材関連企業の出荷量は前年水準を回復、出荷金額は前年比30~40%増
・大型工作機械や生産ラインの自動化など生産部門における投資が活発化、日系の現地法人の中には受注が満杯で納期遅延を余儀なくされるところも出てきた。
・船便、コンテナ輸送の需給がひっ迫、海上輸送費は2019年比200~250%へ高騰
・輸出型のローカルアパレルの業績は低迷、一方、百貨店も苦戦、ECへのシフトが加速している。
・国民の一人当たり可処分所得は名目32,189元、前年比104.7%(実質102.1%)。一方、一人当たり消費支出額は名目21,210元、前年比98.4%(実質96.0%)
・物価は衣料品を除き軒並み上昇、この2月は新型コロナウイルス拡大前の2019年2月比で、食材150~170%、タクシー代110~115%、光熱費110~120%
・上海市内の日常生活はほぼ正常化したが、会食や旅行の自粛は続いている。しかし、5月連休には需要は大幅に戻るものと予測する。
・感染対策は依然として強力。ある団地で感染者が発生すると団地全体を2週間ロックアウト(封鎖)し、政府費用で住民全員にPCR検査を受診させる。封鎖期間中は食料品など生活必需品に対して補助金を出すなど一定の補償策を講じることで隔離の徹底をはかっている。
・上海では3月25日から高齢者向けのワクチン接種がスタート、4月1日からは上海在住の外国人向け接種もはじまる予定。上海市の区体育所には突如テントが設置され、わずか1日でワクチン接種会場に早変わりした。

新型コロナウイルスはグローバル・サプライチェーンのリスクを露呈させた。チャイナプラスワンの流れは加速するだろう。一方、“市場” としての中国への投資は今年に入ってからも旺盛だ。武田薬品工業は2031年までに中国を含む新興国売上を現在の2倍、1兆円に引き上げると表明した。既に海外売上高の5割を中国に依存する大王製紙は新たに生理用品市場へ参入する。高級品市場への「選択と集中」を発表した資生堂の戦略市場は中国である。ファナックは260億円を投じて中国国内向け産業用ロボットの生産強化をはかる。トヨタもまた中国におけるEVの生産能力の増強を発表、更にFCVの基幹システムの現地生産も視野に入れる。

米EV大手、テスラも中国に積極投資してきた一社だ。市場での人気は高く、購入予約は常に満杯状態である。2020年には世界の販売台数の3割を中国市場が占め、同社初の黒字化に貢献した。中国側も用地取得や融資などを通じてテスラを優遇してきた。しかし、19日、米中が真っ向から対立したアンカレッジでの米中外相会談の直後、中国当局は「軍人と政府職員のテスラ車利用を禁止、制限する」と発表した。理由は軍事機密、国家機密の流出懸念である。ただ、一般消費者はこれを冷静に受けて止めており、現時点では市場の動きに変化はない。

22日、米、英、カナダ、EUは中国によるウイグル族への人権侵害を理由に、新疆ウイグル自治区当局者に対する制裁措置を発表した。中国は直ちに反発、報復を表明した。米バイデン政権は「同盟国との連携」を対中政策の基本とする。今、G7で態度を留保しているのは日本だけである。一方、中国も「中日関係の破壊」に対する懸念を表明するなど名指しで日本を牽制する。早晩、日本は決断を迫られるだろう。その時、日系企業は新たなリスクに向き合うこととなる。

2021 / 03 / 19
今週の“ひらめき”視点
汚染水の海洋放出問題、原子力政策に対する信頼の回復が鍵

東日本大震災による原子力災害から10年、日々増え続ける膨大な放射性汚染水の処分が課題だ。現時点では海洋放出が有力視されているが、風評被害を懸念する漁業者がこれに反発する。
汚染水は多核種除去設備(ALPS)によってトリチウムを除く62の放射性核種が取り除かれる。一方、トリチウム水の海洋放出は世界の原発で半世紀以上にわたって行われており、したがって、ALPSで処理された汚染水の安全性は国際的に認められるという。トリチウム水の安全性判断は専門家に委ねるとして、懸念されるのは、そこに他の放射性物質が “本当に” 含まれていないか、ということだ。

2018年、東京電力はALPS処理水の8割強で基準値を越えたトリチウム以外の放射性核種が検出されたことを公表した。ALPSの性能が不安定な時期があったこと、吸着材等の交換が適切に行われていなかったことなどが原因の一つであると説明された。そう、問題はここだ。設備や機器は正しく運用されるのか、情報は遅滞なく公開されるのか、ということである。

不信の根源は原子力技術への盲目的な信仰が「安全神話」という聖域を作り出したことにある。聖域ゆえに異論は封じられる。2006年12月、第165回国会で原発の安全性に関する議論があった。「巨大地震に伴って発生する津波によって冷却機能が失われる可能性がある」「大地震に備えたバックアップ電源の強化が必要」と野党議員から指摘された安倍氏は「我が国では過去にそうした事例はなく、安全には万全を尽くしており、そうした事態が発生するとは考えられない」などと答弁し、追加的な安全対策の必要性を否定した(平成18年12月、質問第256号、答弁第256号)。神話がそのまま現実に適用されたということだ。結果は指摘するまでもない。

また、繰り返されるトラブルの隠蔽やデータ不正も “聖域は不可侵” との驕りが根底にあるのだろう、美浜1号機の燃料棒折損事故の隠蔽(関西電力)、敦賀1号機の冷却水漏れ隠し(北陸電力)、福島第1、第2、柏崎刈羽の点検記録の改ざん(東京電力)、敦賀2号機のデータ書き換え(日本原子力発電)など、電力会社を問わずきりがない。そして、この16日、原子力規制委員会は柏崎刈羽のテロ対策の不備が長期間にわたっていたことについて「極めて深刻」との評価を下したうえで、「驚くような不具合、不始末、不正が続く東京電力の体質が問われる」と断じた。

福島第1の汚染水問題について、菅首相は「適切な時期に政府が責任をもって決断する」と述べた。おそらく、海洋放出が念頭にあるものと推察する。他に選択肢がなく、放出される汚染水の安全性が科学的に担保されるのであれば異論はない。しかし、漁業者、国民、世界を納得させるためにはまずは “聖域の除去” こそが最優先課題である。ムラ社会の閉じた因習を断ち、かつ、原子力行政の責任の所在を明確にしておくことが肝要だ。ここに対する信任がない限り、不信と分断、風評被害は終わらない。

2021 / 03 / 12
今週の“ひらめき”視点
自動運転の恩恵は地方に届くか。JR東日本、在来線で営業運転開始へ

3月8日、JR東日本は、常磐緩行線で自動列車運転装置(ATO)の公開試験走行を実施、13日から同線で営業運転を開始する。
自動列車運転は1981年、「ポートライナー」(神戸)が世界に先駆けた。以来、新交通システムや地下鉄で実用化されており、日本の技術は世界でもトップクラスである。

JR東日本については2018年に実施された山手線での実験が記憶に新しい。同社が目指すのは、その時々の運行条件変化に対応できる高度なシステムであり、緊急対応の添乗員のみが乗車する「ドライバレス運転」の実現が最終的なゴールである。
人口減少や社会のリモート化による人手不足、移動需要の縮小は避けられない。狙いはもちろん生産性の向上である。しかし、現行のシステムは自動列車制御装置(ATC)、踏切なし、ホームドアの設置が前提となっているため高架線や地下区間に限定される。つまり、地方の在来線は対象外ということだ。

都市の生産性は高まる。しかし、地方の疲弊は続く。ここに一石を投じたのが両備グループ(岡山)である。同社は県内全域で路線バスを運行するが、その多くは赤字であり、これを市内の黒字路線が支えることで事業を維持してきた。その黒字路線に新興の格安バス会社が参入した。同社はこれに対して「規制緩和による競争原理と公共交通に対する責任は両立しない」と訴えた(
本稿2018年2月23日)。
同社の問題提起を受けて国会も動いた。新規参入に際しては地方公共団体を中心とした協議会を設置すること、運行ダイヤや運賃については独禁法のカルテル規制の適用を除外することを盛り込んだ「地域公共交通活性化および再生法の一部改正」に関する法案が昨秋、成立した。

法改正の基本理念は「地域の公共交通は地域自身がデザインする」ことにある。規制緩和の全国一律適用の見直しは前進だ。しかし、国土全体の公共交通網をどう維持するかについては未だ答えが出ていない。JR北海道、JR四国を筆頭に地方の公共交通事業者の多くが経営難に直面している。もはや個々の事業者の「自助」では解決できない。人がいて、生活があって、文化があってはじめて “地方” が成り立つ。それを支えるインフラは健全に機能しているか。地方の生活基盤の問題はまさに国土政策の問題であり、言い換えれば、安全保障の問題でもある。東日本大震災から10年、被災地の復興も地方の再生も未だ道半ばである。