今週の"ひらめき"視点

2021 / 09 / 17
今週の“ひらめき”視点
多核種除去設備、運用への信頼揺らぐ。東電と行政は“神話”の時代に決別を

9月9日、東京電力は、増設多核種除去設備(増設ALPS)の排気フィルタ25箇所のうち24箇所で損傷が確認されたこと、作業員に身体的汚染がなかったこと、周辺環境への影響は確認されていないこと、引き続き原因調査を行うことを発表した。
これに対して原子力規制委員会は、同様の損傷が2年前にもあったこと、それが公表されなかったこと、原因分析や対策が取られないまま運転が継続されていたことを問題視し、東京電力の安全に対する姿勢をあらためて批判したうえで、再発防止を指示した。

東京電力は、2002年に発覚した点検記録の不正問題を受けて、情報公開、透明性の確保、企業倫理の遵守、社内監査の強化を公約した。東日本大震災も経験した。それでも社風は変わらない。今年3月には柏崎刈羽原子力発電所でテロ対策の不備が発覚、原子力事業者としての適格性が再び問われた。この時、筆者は本稿で
「原子力産業に根付いた安全神話という“聖域”の除去こそが最優先課題である」(2021年3月19日)と書いた。東京電力もまた「高い緊張感をもって安全に対する文化を再構築」したはずだった。

5月、会計検査院は、環境省が実施してきた除染モニタリング事業について、「福島県内56万地点のうち1万3千地点で除染効果を確認できなかった」と発表、同省に測定方法の改善を要請した。本来、測定は除染作業終了後、半年から1年内に実施されるべきとされていたが、測定間隔は90日未満から700日以上までと大幅な差異が生じており、1年以上の地点も全体の22%に及んでいた。
​また、汚染土壌の保管台帳にも事実と異なる記載が見つかっている。汚染土壌の埋設地に住宅が建設されるなど、不適切な管理実態も浮き彫りになった。

福島第一原子力発電所の処理水や汚染土壌の問題はもっともデリケートな事案であるはずだ。風評被害の問題も、その根底にあるのは情報の正確性と透明性に対する不信だ。にもかかわらず事業者も行政もどうしてここまで、そして、いつまでも杜撰かつ不誠実であり続けるのだろうか。かつて“聖域”であったがゆえの驕りなのか、あるいは、安全神話の残像への妄信なのか。いずれにしても発表される情報の正確性はもちろん、“すべての情報が公開されている”ことに対する信任を社会が取り戻さない限り、フクイチはいつまでたっても“科学”の議論になってこない。

2021 / 09 / 10
今週の“ひらめき”視点
離島にドローンの定期貨物便が就航。過疎とテクノロジーの親和性は高い

8月30日、香川県三豊市の須田港と粟島を結ぶドローンによる定期貨物便の運航がはじまった。運航を担うのは離島が抱える物流課題の解決に取り組む高松市のベンチャー「株式会社かもめや」、この6月に三豊市と協定を締結し、定期運航の実現に向けて準備を進めてきた。
須田港の沖合4.2キロに位置する粟島は、132世帯、216人の島民が暮らす。高齢化率は83%、人口は10年前と比べると4割減少し、高齢化率は10ポイント増えた(平成27年国勢調査)。定期船の航路はあるが、過疎化が進行する中にあって生活インフラの維持が大きな課題だ。

スタートしたばかりの定期便の積載量は1㎏まで、購入できるのは提携コンビニの商品に限定される。運行は週5日、1日3便、手数料は500円、午前に注文すれば午後には商品が届くという。品物はスタッフが戸別配送、注文は電話や専用の注文票で行えるなどITに不慣れな高齢者に配慮した事業モデルとなっている。
計画では年度内に雨天でも運航できるよう機体の防水化をはかるとともに、来年中には積載量を5㎏まで増やすという。将来的には医薬品の輸送や無人操縦船の導入も視野に入れる。

日本の有人離島数は416島、うち離島振興法の対象は254島、そこに37万6千人が暮らす(平成27年国勢調査)。急速な過疎化と定期航路の縮小が続く中、医療体制や日常生活における利便性の維持は共通の問題である。ドローンによる定期貨物便の就航は他の島民にとっても大きな希望となろう。

問題はいかに事業を継続させるかという点にある。言うまでもなく需要量そのものの安定した確保が不可欠である。定住人口の拡大は容易ではない。まずは観光振興、そして、地域特性を活かした関係人口づくりが求められる。そのためには自然や歴史、暮らし、文化など地域資源の再発見にもとづく島の魅力の再定義が必須であろう。
その意味で先端テクノロジーの活用はそれ自体が新たな地域資源になるはずだ。単なるコストや効率化とは異なる視点で、豊かな自然と共生する「過疎」におけるテクノロジーの新たな可能性を引き出して欲しい。

2021 / 09 / 03
今週の“ひらめき”視点
金融庁、経済安全保障室を新設。既存組織との戦略的統合と機能連携が不可欠

金融庁は令和4年度予算案の概算要求に「経済安全保障室」の新設費用を盛り込んだ。国際化した金融取引と複雑化する国益の対立構造を踏まえ、安全保障の観点から金融機関への指導体制を強化する。具体的にはシステム関連機器の調達先、基幹系システムへのサイバー攻撃に対する対策、金融取引情報の管理体制などが監督対象となる。
言うまでもなく、背景には米中対立の深刻化、国際情勢の緊迫化がある。とりわけ、こうした状況にあって制裁措置の強化をはかる米国ルールへの対応も課題の一つだ。

米国は財務省外国資産管理局(OFAC)による規制の実効性を高めるべくその適用範囲を厳格化する。規制の目的は米国が制裁対象とした国家、法人、個人の資金の流れを断つことだ。したがって、制裁対象のみならず取引相手も規制の網にかかる。例え、子会社を介した間接取引であっても、多額の罰金や資産凍結、米金融機関との取引停止といった制裁が科される。つまり、外国企業との取引や、M&A、投融資等に際しては、相手側の資本関係や取引関係まで確認する必要があるということだ。新組織には“監督”業務に止まらず、リスク情報の収集、評価など“攻め”の危機管理サービスを期待したい。

2015年、習近平氏は「軍民融合発展」を宣言、外国企業からの技術移転政策を強力に進める。もはや輸出品目を管理するだけでは手に負えなくなりつつある現実を受け、経済産業省は、2019年6月、「経済安全保障室」を新設、先端分野を中心とした重要技術の流出防止体制を強化する。一方、2020年8月には外務省も総合外交政策局内の組織改編を実施、「経済安全保障政策室」を立ち上げた。

8月31日、外務省の経済安全保障政策室が職員募集の案内をHPにアップした。職務内容は「各国における産業、科学技術、情報通信、貿易、投資、サイバーセキュリティ等における経済安全保障政策に関する情報の収集、分析、政策の企画・立案」(一部)である。外務省、経産省、金融庁、それぞれの「経済安全保障」チームの役割と権限は異なるのだろう。とは言え、少なくとも外務省の職員募集要項を見る限り、機能重複の懸念は拭えない。
経済安全保障に関する上位機構は内閣官房の国家安全保障局であろうか。であれば、このレベルにおける戦略的司令塔の強化が必要である。外交、産業、金融、教育・研究分野において一貫性のある施策を迅速に展開するためにも意思決定の一元化と責任主体の明確化が求められる。

2021 / 08 / 27
今週の“ひらめき”視点
医療ひっ迫の解消に向け、平時から非常時の体制へ。政治は今こそリーダーシップを

新規感染者の急拡大に伴い、医療危機が進行する。病床使用率は、33都府県で国が定める区分で“感染爆発”に相当する「ステージ4」の基準を越えた。感染者数がもっとも多い東京都の自宅療養者すなわち“医療難民”は2万5千人、入院調整中の言わば「難民予備軍」も1万人を越えた。
2日、政府は、“軽症、無症状は宿泊療養、中等症以上は原則入院”としてきた方針を転換、“重症者と重症化リスクの高い患者以外は原則自宅療養”とする旨、閣議決定した。従来方針の事実上の撤回は、予見された変異種への対策が後手に回ったことへの追認と言わざるを得ない。はたして、病状の経過観察体制が整わない中での方針転換は、懸念されたとおりの混乱と不幸を招いている。

こうした状況を受け、厚生労働省と東京都は改正感染症法にもとづき、病床の確保と感染者の受け入れを全医療機関に要請した。正当な理由なく応じない場合は「勧告」、それでも拒否すると病院名が「公表」される。つまり、「増床に協力しない医療機関は悪」というわけである。しかし、そもそも2014年にスタートした「地域医療構想」が維持されたままであることも指摘しておく必要がある。これは2025年時点における機能別の必要病床予測数に合わせるべく医療機関の再編統合を推進する制度で、病床削減に対して補助金が支給される。言わば医療版の“減反”政策であり、昨年度、そして、今年度も予算が計上されている。

この夏、当社でも若い社員が自宅療養を強いられた。容態急変への恐怖に「死を意識した」とのメールも受け取った。
専門家は変異種による第5波の状況を「これまでに経験したことのない災害レベル」と指摘する。そうであれば、非常時の体制が求められる。現状の追認は後退である。国民の命を守ることが国家の使命であれば病床確保こそ最優先事項である。選手村という都内最大規模の病床転用可能施設の活用は間に合わなかった。しかし、9月中旬以降は選択肢になり得る。他に候補施設はないか。少なくとも平時の長期戦略は一端停止し、医療再編予算の全額を臨時病床の増設に回すべきだ。それが医療機関、ひいては国民へのメッセージとなる。

2021 / 08 / 20
今週の“ひらめき”視点
非常事態の解消こそ最優先の政治課題であり、最大の経済対策である

16日、内閣府は2021年4-6月期の国内総生産が2四半期ぶりに前年同期比プラスに転じたと発表した。成長率は実質プラス0.3%、民間企業の設備投資プラス1.7%がこれを牽引した。脱炭素、デジタル化に向けての積極的な投資がこれを押し上げた。
一方、個人消費に勢いはない。確かに家計消費支出も前年同期比0.8%のプラスとなった。しかし、そもそも比較対象が“自粛”にそれなりの効力があった1回目の緊急事態宣言期間であることを鑑みると、“成長” を実感するには心もとない。非耐久財についてはその前年同期に対して0.3%のマイナスである。

背景には、効果と出口が見えない中で長期化する “自粛” による社会の疲弊がある。2021年4-6月期の雇用者報酬は同1-3月期に比べ1.4%のマイナスだ(国民経済計算、内閣府)。事業所規模5人以上の事業所の6月の賃金は前年同月比マイナス0.1%、賞与は同マイナス2.3%、とりわけ、教育、生活サービス、飲食、運輸、建設、医療、福祉業界のマイナス幅が大きい(毎月勤労統計調査、厚生労働省)。4-6月期の失業者は平均233万人、前年同期比109%、うち失業期間が1年を越える失業者は74万人、同135%、失業の長期化が進む(労働力調査、総務省)。

全国の新規感染者、重症者の数が日々「最多更新」される中、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の対象地域が拡大され、期間の延長が決定された。
個人消費への影響は避けられない。しかしながら、損失額の推定は困難だ。“自粛” や “協力” は政策への信頼があってはじめて有効となる。果てしない迷走とダブルスタンダードの中、既に信頼は失われた。施策の有効性や実効性が見えなければ試算条件は固まらない。自粛疲れへの反動もあるだろう。実際、緊急事態宣言による経済損失は回を追うごとに小さくなっている。一方、爆発的感染拡大(オーバーシュート)という危機を前に、企業も個人も自衛策を強化する。個人消費は、1回目の緊急事態宣言を越える規模で縮小する可能性もある。

東京都の自宅療養者は2万人を越えた。実質的な医療崩壊だ。それゆえの不幸なニュースもあった。専門家からは「制御不能、災害レベル」との声があがる。一方、24日はパラリンピックの開会式だ。大会期間中は1日あたり500人を越える医療スタッフが配置され、選手と関係者向けに3,800部屋、1万8千床のベッドが用意されるという。
5月11日、宝島社は竹槍を構えた戦時下の女学生の画像を背景に「真面目に対応している一人ひとりが先の見えない不安に押しつぶされそうになり、疲弊するばかりです」、「このままじゃ、政治に殺される」との企業広告を朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞に打った。残念ながらそれが現実のものとなりつつある。パラリンピアンに罪はない。これは政治の問題である。

2021 / 08 / 06
今週の“ひらめき”視点
鉄鋼業界、資源高の功罪と脱炭素社会に向けての課題

鉄鉱石、銅、原油など資源価格の高値が続く。とりわけ、鉄鉱石の急騰が著しい。新型コロナウイルスが世界に拡散した昨春、国際相場は1トンあたり80ドル台まで低下した。しかし、中国経済の回復を受けて夏場以降は反転、次いで米国経済も急回復、米中の旺盛な鋼材需要を背景に今年5月にははじめて同200ドル台に乗せた。資源高は三井物産、三菱商事、丸紅など総合商社の利益を押し上げ、鉄鋼大手3社の業績を急回復させる。日本製鉄の2022年3月期は3期ぶりの最高益を見込む。

一方、建設業界では鋼材製品の値上げが経営問題として顕在化しつつある。輸入に100%依存する鉄鉱石の価格高騰は、鉄鋼生産の1/4を占める鉄スクラップからの再利用鋼材の需給ひっ迫を招く。旺盛な海外需要は鉄スクラップの価格にも連鎖、輸出価格が国内の市場価格を上回る状態が続いている。再利用鋼材の主力販売先は建設業界であり、業界からは木材市場における「ウッドショック」に次ぐ、「アイアンショック」を懸念する声も聞こえてくる。

さて、国際市況に直結し、景気に左右されやすい鉄鋼産業ではあるが、当面は世界的なアフターコロナ需要が期待できる。一方、採算性については楽観できない。最大の資金需要は「脱炭素」投資である。鉄鋼連盟は2050年のCO2排出量を実質ゼロにするとの業界目標を掲げた。各社は鉄鉱石とコークスを使う高炉方式からCO2排出量が少ない鉄スクラップを原料とする電炉方式へのシフトを進める。加えて、コークスの代わりに水素を還元剤として使う水素還元製鉄技術の開発を加速する。しかし、いずれも技術的な課題は多く、投資総額は個社単位で数兆円に達するとの試算もある。

鉄鋼産業のCO2排出量は国内の1割、製造業の4割に達する。政府目標の達成には鉄鋼産業のイノベーションが必須だ。しかし、個社の利益で巨額投資を吸収することは困難であり、一方、個別需要家への価格転嫁にも限界がある。要は社会全体として脱炭素コストをどう考えるかということだ。
脱炭素は今や競争要件だ。国別、業界別、企業別の目標設定は当然である。しかしながら、それが地球環境問題である以上、文字通り、グローバルサプライチェーン全体としての取り組みも不可欠である。2日、コマツは世界有数の鉱山会社Rio Tinto(英)、BHP(豪)、CODELCO(チリ)、Boliden(スウェーデン)と鉱山オペレーションにおける温室効果ガス削減に向けてのアライアンスを発表した。新たな取り組みのカタチのヒントがここにある。