今週の"ひらめき"視点

2019 / 06 / 21
今週の”ひらめき”視点
6次産業化「農水ファンド」、累損拡大。制度設計の根本から見直すべき

農水省が所管する官民ファンド「農林漁業成長産業化支援機構」(A-FIVE)の累積損失が2019年3月期時点で92億円に達した。
2013年、政府は農林漁業の6次産業化の推進を政策決定、市場規模を当時の1兆円から「2020年度には10兆円へ」との目標を掲げた。こうした中、A-FIVEは財政投融資資金300億円に民間からの19億円を加えた319億円の出資金でスタート、農林漁業者の所得向上と1次産業の新たな雇用創出を目指した。しかし、この3月までの投融資実績は111億円と事業計画はもとより当初の出資金にさえ届かない。地銀を主体に設立された53の投資組合(サブファンド)も既に10組合が解散、投資案件の1/3が減損処理を強いられるなどパフォーマンスは一向に上がらず、昨年4月には会計監査院から業務改善を求められるに至った。

A-FIVEの損失問題に関連してメディアは、出資金323百万円、資本性劣後ローン323百万円を投じた「食の劇団」の破綻と本件に関与した役員の報酬や退職慰労金の在り方を批判する。しかし、問題の本質はそこではないだろう。確かに「食の劇団」については事業計画やガバナンスに甘さがあった。A-FIVEの側の事業評価力や経営支援体制が十分でなかったことも否定できない。しかし、直接投資の失敗がこの問題の本質ではないし、成果に連動しない役員報酬の問題は別の次元での議論である。

そもそも不振の要因はその制度設計にある。農林漁業者を守る立場にある農水省は、生産者の意思を6次産業化事業体の経営に反映させるべく25%を越える議決権を生産者に持たせようとした。つまり、A-FIVE(サブファンド)が50%を引き受けた場合、2次、3次産業のパートナーの出資比率は25%未満に押さえられるということだ。例えば1億円の資本を必要とする事業プランを策定した場合、生産者は25百万円の元手が必要になる。ここに無理が生じる。生産者の資力を鑑みれば事業構想は縮小せざるを得ない。結果的に1件あたりの事業規模が小さくなるのは必然であり、投資効率の低下は避けられない。もちろん、A-FIVEも改善に動く。無議決権株式や資本性劣後ローンの活用、一定の条件下でのサブファンドの出資比率の引き上げ、といった策を講じる。しかしながら、制度の骨格が生産者第1主義である以上、制度要件をクリアしつつ事業本位の投資スキームを組み立てることは容易ではない。

そして、何よりもA-FIVEは“ファンド”である。ファンドである以上は資本コスト、出資リスクに見合う投資収益を求めるのは当然だ。しかし、民間ファンド並みのリターンを要求するのでは官製ファンドであることの大義が毀損する。加えて、エグジットに際しての制約もある。生産者支援を掲げるA-FIVEは持分売却に際して資本の論理に徹することが出来ない。エグジットの原則は出資を受けた生産者自身による株式の“買い戻し”である。一方、制度融資の金利を上回る株価での買い戻しが出資の前提となるのでは生産者にとっては単に“使い勝手の悪い高利貸付”と同じである。メリットは小さい。つまり、双方にとって中途半端であるということだ。
赤字の先行が問題ではない。まずは6次産業化の促進という政策目的を達成するために“ファンド”というスキームが適切であるのか、制度の根本から問い直す必要がある。

2019 / 06 / 14
今週の”ひらめき”視点
「年金2000万円不足」問題の本質と浮き彫りになった政治の不誠実さ

金融庁は3日、「金融審議会 市場ワーキンググループ報告書」を発表した。内容は「夫65歳以上、妻60歳以上の無職の夫婦世帯の毎月の不足額は平均5万円、今後20年から30年の人生があると仮定すると1,300万円から2,000万円が不足する。したがって、老後に向けた資産形成が必要である」というもの、これが炎上した。
もとより一人一人が求める生活の質やライフスタイルによって不足額の大きさは異なる。よって、平均値を一律に適用することは適切ではない。また、「赤字になるから投資で備えろ!」では証券セミナーのちらしと同じだ。しかし、現役世代と受給者の人口構成を調整要件とする現行制度を将来に延長してゆけば年金の減額は避けられず、これに一人一人が向き合う必要があるとの指摘については何らの誤解も異論もないはずだ。

制度が100年間維持されることが「安心」ではない。世代間の不公正を是正することで「安心」が担保されるわけでもない。国民にとっての本質的な関心はそれが生活の基盤足り得るか否かにある。膨張する社会保障費の問題は現行の財源規模を前提としたやりくりでは解決しない。税体系はもちろん財政全体の中で根本から再構築する必要がある。まさに国の未来の在り方を問うことと同義である。創造的でオープンな政策論争に期待したい。選択するのは主権者である私たちである、はずだ。
しかし、聞こえてきたのは「われわれは選挙を控えている。そうした方々に迷惑をかけぬよう党として厳重に注意する」、「不安を煽る、不適切である、受理しない」、「受理しなかったのだから、報告書はもうない」など、自らに不都合な存在はなきものに出来ると言わんばかりの不遜な声ばかりである。こうした中、当初6月に予定されていた「将来の公的年金の財政検証」(厚生労働省)の発表も“選挙後”になる可能性が高まる。

1989年6月、天安門の民主化運動を機に失脚し、その後軟禁状態に置かれた趙紫陽氏は、その1ヶ月前、アジア開発銀行の総会で学生たちの行動を評価したうえで「民主的監察制度の不備が腐敗をもたらす」と一党支配の行方に警鐘を鳴らした。
翻って2019年の日本、政府の都合でいとも簡単に公的文書が “Delete” されるとするのであれば “民主的監察制度” が適切に機能しているとは言い難い。確かな検証にもとづく事実が共有されてはじめて、公正な選択が可能となる。科学的な根拠、正しい手続きによるフェアな議論を望む。これ以上の先送りは不安の増大にしかならないのだから。

2019 / 06 / 07
今週の”ひらめき”視点
言論の自由は危ういのか、トランプ氏訪日にみるメディアの弛緩

3日、米トランプ大統領は国賓として訪英、一連の公式行事を通じて米英の特別な関係を強調した。しかしながら、必ずしも国をあげての歓迎というわけではなさそうだ。人種差別、女性差別、環境問題におけるトランプ氏への反発は根強く、英国民の4割が“国賓待遇に反対”との調査結果も伝えられた。労働党、自由民主党の両党首は歓迎晩餐会を欠席、市民による大規模デモも連日発生した。オバマ前大統領に用意されたウェストミンスター宮殿での演説もない。

これに先立つ5月30日、独メルケル首相は米ハーバード大学の卒業式で講演、自由を阻害する保護主義と単独主義を批判したうえで、「無知と偏狭の壁を打ち破り、嘘が真実で、真実が嘘にすり替えられる世界にあって軽挙を慎み、高潔であろう」と学生たちに呼びかけ、大喝采を浴びたという。名指しこそ避けたが、批判の対象は言うまでもない。

さて、5月25日からの日本の4日間、政府の相も変わらぬ対米諂い外交には嘆息するばかりであるが、それ以上に驚かされたのはメディア、とりわけテレビの異様な高揚ぶりだ。単なるイエロージャーナリズムなのか、あるいは大衆目線を装った洗脳であるのか、いずれにせよ薄っぺらではあるが大量に投下される同調圧力に息が詰まる。

国連の “言論と表現の自由に関する特別報告者” デビッド・ケイ氏は、「日本のメディアの萎縮と独立性への懸念」を新たな報告書にまとめた。報告書は今月24日から開幕する国連人権理事会に正式に提出されるという。メディアではない。問われているのはそれを受け入れる私たちの民度そのものである。

2019 / 05 / 31
今週の”ひらめき”視点
賃貸アパート施工不良問題、経営トップの社会的適応力の欠落が問題の本質

29日、賃貸アパート大手レオパレス21は一連の施工不良問題に関する外部調査委員会の最終報告書を公表した。
報告書は2018年に表面化した界壁(=屋根裏に設置すべき延焼防止用の仕切り壁)の未設置問題について、「建築基準法にもとづく建築確認申請を不正に取得した」と断じ、違法建築と施工不備への長年にわたる組織的関与を認定した。
そのうえで、創業者によるワンマン体制が、順法意識の欠落と品質軽視の企業風土を招いた原因であると結論づけ、経営体制の刷新とガバナンスの強化を求めた。

同社は独自の製販一体型のサブリース商法を開発、「敷金・礼金ゼロの部屋探し」を掲げて事業拡大をはかってきた。一方、事業資金の不正流用や一括借り上げ契約を巡るアパートオーナーとの訴訟などトラブルも後を絶たない。そうした中で発覚した今回の問題を受けて、レオパレス21は創業家出身の現社長を含む7人の取締役の退任を決定、社内取締役と社外取締役を同数とするなどガバナンスの強化と再発の防止に努めるとする。とは言え、引き続き現社長が相談役として経営に関与するとのことであり、創業家の影響力が温存される中、企業体質の改善がどこまで進むか疑問が残る。

ここへきて賃貸アパート大手の不祥事が相次ぐ。2018年12月、札幌で起きた消臭スプレー缶による爆発事故を契機に「アパマンショップ」一部店舗のクリーニング役務の不履行が発覚した。大東建託では、契約成立前に受領した申し込み金について、契約が不成立となっても返金してこなかった実態が表面化した。これに対して同社は、5月24日、NPO法人「消費者機構日本」からの是正要求を受け入れてすべての対象者に返金する旨、発表した。一方、強引な営業手法、苛酷なノルマに対する批判も根強い。
業界は急激な成長と競争の熾烈化、そして、需要の飽和を経験した。短期間に変動した経営環境に対する唯一の打開策としての“拡大至上主義”、言い換えれば経営トップの独善と組織全体の思考停止が問題の根源にある。
今後、内需は縮小に向かう。経営は過去の成功体験を捨て、オーナーとユーザー本位の新たなビジネスモデルを構築できるか。ここが企業としての存続条件となる。

2019 / 05 / 24
今週の”ひらめき”視点
田舎の“産業資本”としての可能性は無限。地方創生のKFSは共生、分散、ネットワーク

20日、政府は2019年度が最終年度となる「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の第2期目の基本方針を示した。「民間との協同」、「人材の育成」、「ソサイエティ5.0」といったアプローチに加えて「関係人口の創出」が明記されたことを評価したい。
関係人口とは定住や観光ではなく、都市部の住民がボランティア等の能動的な活動を通じて地方と継続的な関係を構築することをいう。

2015年にスタートした第1期は、①地方に仕事をつくる、②地方へのひとの流れをつくる、③若者の結婚、出産、子育て支援、④時代に合った地域づくりと地域間連携、を戦略目標として掲げた(2018年改訂)。4月20日、内閣官房に設置された本部事務局は基本戦略の進捗に関する検証結果を発表したが、東京への一極集中が加速するなど政治的成果は決して満足できる水準にない。要因は地域によって異なるし、国の側や制度上の問題も指摘できよう。しかしながら、地方の側の企画力、戦略策定力、政策実行力の低さや首長の問題意識や資質によるバラツキが成果未達の背景にあることも否定できない。

もちろん、高い企画力と事業展開力に支えられた成功事例も多い。山梨県北杜市を拠点とするNPO法人「えがおつなげて」(代表:曽根原久司)はその好例。三菱地所グループのCSR部門をパートナーに限界集落地区の耕作放棄地を再生、収穫された米でオリジナル地酒を醸造し、販売する。やがてこの協業は県を巻き込んでの森林資源の活性化に発展、三菱地所ホームは山梨県産間伐材を2×4住宅の構造材として標準採用するに至る。また、同法人は全国で農村起業塾を運営、既に1千人規模の農村起業家を育成し、都市と田舎、田舎と田舎を結ぶ地域共生型ネットワークの構築を目指す。

地方再生のためには①地方と都市を分断させないこと、②行政区分の枠を越えて地方の資源や事業を構想すること、③未活用資源×無形資産(アイデア、経験、情熱)による新たな資本形成、が不可欠であり、第2期総合戦略ではこれまで以上に地方、地域、民間の独自性に軸足を置いた制度設計に期待したい。個々の地域、個々の事業に応じた権限や財源の移譲、そして、既存のルールや前例にとらわれない柔軟な事業環境づくりを望む。

2019 / 05 / 17
今週の”ひらめき”視点
攪乱される中東、米国一国主義のその先に落とし所はあるか

トランプ政権による対中貿易制裁のもう一段の強化に加え、米国の中東政策における強硬姿勢が世界の不確実性を高める。
米国は4月に発動したイラン産原油の全面輸入禁止措置に対する報復を警戒、空母や爆撃機をペルシャ湾に派遣するなど軍事的な圧力を強めてきた。そうした中、航行中のサウジアラビア、UAE、ノルウェーの船舶がイランに支援された武装勢力から攻撃を受けたと報じられた。また、14日にはイエメンのシーア派武装組織“フーシ”がサウジアラビアの石油施設を攻撃、こちらもイランの関与が取り沙汰される。

イランは米国の制裁強化に対してホルムズ海峡の封鎖を示唆していた。しかし、海上封鎖のリスクはイランも承知しており、今回の攻撃はそれゆえの限定的な威嚇行動とみることもできる。もちろん、イラン政府は武装組織への関与を否定する。とは言え、偶発的な軍事衝突も含めペルシャ湾の緊張は高まる。15日、米国は隣国イラクの米国大使館、領事館員の一部に出国を指示したという。
ホルムズ海峡の緊迫化はすなわち世界の原油供給体制にとってのリスクである。米国は振り上げた拳の落とし所を見出すためにも、イラン核合意にとどまり続ける欧州からの支持をとりつけたいところであるが、英仏独との隔たりは大きい。

一方、トランプ政権は6月のラマダン明けのタイミングで新たな中東和平案を発表するという。2017年12月にエルサレムを首都と認定し、昨年5月に大使館を移転、今年3月にはゴラン高原をイスラエル領と認定するなど、中東和平に関する国際協調体制を一方的に崩してきたトランプ氏が「究極のディール」と予告する和平提案の中身が注目される。
国際社会が“唯一の解決策”としてきた「2国家共存の原則は維持される」との見方もあるが、2期目を目指すトランプ氏にとってユダヤ票の取り込みも念頭にあるだろう。そもそも「2国家には拘らない」と繰り返し表明してきたトランプ氏だけに中東情勢は予断を許さない。