今週の"ひらめき"視点

2021 / 06 / 18
今週の“ひらめき”視点
東芝、経済産業省、株主総会への不正介入問題。信任回復に向けて説明責任を果たせ

東京証券取引所によると3月期決算会社の株主総会集中日は6月29日とのことである。とは言え、集中率は26.9%と過去最低、かつては9割が特定日に集中していたことを思うとまさに様変わりである。運営形式も変わった。招集通知の早期web開示、ネットでの議決権行使も一般化した。コロナ禍を背景にバーチャル総会へのシフトも進む。この17日に施行されたバーチャルオンリー型株主総会の開催を認める「改正産業競争力強化法」がこうした流れを後押しする。

運営形式だけでない。東京証券取引所の市場再編を前に、機関投資家の議決権行使基準の厳格化も進む。例えば、取締役会における独立社外取締役の比率は1/3以上、在任期間は12年未満、政策保有株式は対純資産比10%未満、といった具合だ。買収防衛策、気候変動対策、役員報酬はもちろん、バーチャル株主総会に対しても厳しい目が向けられる。バーチャルオンリー型への定款変更を提案した企業に対して、「公平な質問機会の喪失」「議事運営の透明性の低下」が懸念されるとして反対推奨を表明した助言会社もある。

上場会社と投資家はせめぎ合いながらもガバナンスの向上と対話による信頼関係づくりに取り組んできた。しかしながら、公正、透明であるはずの資本市場への信頼を揺るがしかねない事態が発覚した。10日、東芝は株主選任の弁護士による株主総会運営に関する調査報告書を発表した。中身は衝撃的だ。東芝は人事案を巡って対立した海外ファンド対応への支援を経済産業省に要請、経済産業省は改正外為法の発動をちらつかせて株主提案の取り下げを求めるとともに、別の海外投資家に対して議決権の行使を控えるよう働きかけたという。

株式会社制度の根幹を軽視する一連の行動にはあきれるばかりであるが、一方、「防衛や原子力に関わる企業への国の介入はやむを得ない」とする向きもある。しかし、そもそも「上場」維持を目的に海外投資家に出資を要請したのは東芝自身であり、株主が有する正当な権利を、権力の威を借りて封じようとする行為は資本市場への裏切りと言っていいだろう。法の支配を前提とする資本市場からの信任の喪失もまた日本の安全保障にとって重大な損失であると認識すべきた。
当時の官房長官として報告書に名前が登場する菅氏は「まったく承知していない」と言う。現職の経済産業大臣も「本件は東芝のガバナンスの問題」などと突き放す。しかしながら、これは国内の政治問題ではなく、ゆえに政権への忖度などあり得ない。資本市場に対して速やかに事実を公表するとともに、信任回復に向けての意思と具体策を早急に表明する必要があろう。

2021 / 06 / 11
今週の“ひらめき”視点
ミャンマー、混乱長期化。国際社会は軍政の既成事実化に加担してはならない

ミャンマー情勢が懸念される。軍事クーデターから130日余り、市民に対する残虐行為は止むことなく、経済活動も低迷したままだ。
大規模な抗議デモは押さえ込まれた。しかし、抵抗は続く。民主派が「統一政府」の設立を宣言、少数民族と連携し “国民防衛隊” を発足させると声明したのが4月16日、軍事政権は直ちにこれをテロ組織と認定、以後、少数民族の勢力地域を中心に軍事攻勢を強める。国軍と民主派の対立はもはや「内戦」の体を帯びつつある。

一方、政権の “既成事実化” を急ぎたい国軍と域内の不安定化を懸念するASEANが接近する。6月4日、議長国ブルネイの代表が国軍司令官を訪問、7日に重慶で開催された外相会議も国軍が任命したワナ・マウン・ルゥイン氏を “外相” として受け入れた。これに対して「統一政府」は軍事政権を追認するものとしてASEANを非難、対立の図式は少数民族問題や国際社会を巻き込みつつ複雑化しつつある。
こうした中、軍事政権は国民に対する監視体制の強化、徹底をはかる。通信の傍受、遮断はもちろん、市井の協力者たちを組織化、民主派の動きを探り、摘発を促す。

筆者は公開中の映画「グンダーマン 優しき裏切り者の歌」(アンドレアス・ドレーゼン監督)を観た。主人公は “東ドイツのボブ・ディラン” と呼ばれたミュージシャン、炭鉱労働者として働きながらバンドを率いて歌う。しかし、彼にはもう一つの顔があった。秘密警察 “シュタージ” の協力者として、反体制思想を持つ者を探り、密告する。そして、そんな彼もまた仲間からスパイされていた、、、。
独裁や強権を志向する政治がもたらす社会は常にこうなる。批判、反論、異説は封じられ、ねじ曲げられ、隠蔽され、排除される。

8日、衆議院本会議はミャンマーの軍事政権に対して、「暴力の停止、スー・チー氏を含む政治犯の解放、民主制の回復」を求める決議を採択、そのうえで政府に対してあらゆる外交的資源を使って問題の解決をはかるよう要請した。
これを受けて政府も「国際社会と連携しつつ、ミャンマー側に働きかけてゆく」と応じた。ただ、“国際社会との連携” の本意が “様子見” や “横並び” であっては残念だ。期待したいのは国際社会をリードする主体的な “働きかけ” であり、かつ「軍事政権の正統性は認めない」との毅然とした姿勢である。

2021 / 06 / 04
今週の“ひらめき”視点
メイドインジャパンの生き残り戦略、「リユース」は国内製造業にとって可能性の1つである

5月28日、政府は「2021年版 ものづくり白書」を閣議決定した。白書は、コロナ禍にあって製造業の先行きは依然として不透明であるが、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)、カーボンニュートラルの実現(グリーン)、DXの推進(デジタル)をアフターコロナ期の戦略の主軸とすべき、と提言する。とりわけ、2050年という目標年次が設定された “グリーン” は事業構造改革の一丁目一番地であると言え、イノベーションの実現に向けて一刻の猶予もない。

さて、その “グリーン” であるが、環境意識の高まりとともに中古品、リユース市場が活況である。とりわけ、アパレル、ブランド品、雑貨、貴金属などファッションリユース市場の成長が著しい。2020年の市場規模(予測)は8,200億円と推計され、この5年間で1.8倍に拡大した(当社
「ファッションリユース市場に関する調査を実施(2020年)」より)。
成長エンジンはデジタルネイティブ世代だ。所有に対する執着のない彼らはグリーン的な消費スタイルをごく自然に受け入れる。フリマアプリやネットオークションといったC2Cチャネルでの売買はもはや日常の光景である。

ただ、製造業との関係で言えば当然ながらリユースと新製品は相反する。2010年、環境省はリユースによる経済波及効果(生産額)を発表した。計算は2009年のリユース総市場からC2C市場を除いた中古品小売市場4,996億円を対象に、中古品がなければその商品を購入しなかった人の比率を1割と仮定して実施した。結果は中古品販売事業者の売上増500億円、新製品の生産抑制効果▲1兆6,240億円、消費者の中古品売却による所得増2,660億円、消費者の中古品購入による所得増7,850億円、総計▲5,240億円となった。生産抑制によって失われる製造部門の雇用は7万4千人、C2C市場を試算条件に加えれば生産抑制効果のマイナス幅は更に拡大する(環境省、第3回「使用済製品等のリユース促進事業研究会」より)。

一方、成熟市場となった新製品市場では大手流通による再編が進む。狙いは商品調達やPB生産におけるスケールメリットの追求である。これでは国内製造業の疲弊は止まない。
セカンダリーマーケットとしてのリユース市場の成長を前提とするのであれば、新製品市場こそ高付加価値に向かうべきだ。中古品小売の老舗、コメ兵は経営理念に「リレーユース」という言葉を掲げる。これは「再利用に止まらず、良質なもの、価値あるものを伝承してゆく」ことだと言う。製造、小売、リユースが全体最適視点において新たな流通システムとして再構築されたとすれば、これこそがイノベーションだ。将来、メイドインジャパンかつユーズドインジャパンが新たな価値の連鎖になるとすれば、製造業にも新たな未来が拓ける。

2021 / 05 / 28
今週の“ひらめき”視点
SDGsインパクト、世界基準を見据え事業活動全体の再チェックを

2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の取り組みは国際機関、NPO、そして、先進的なグローバル企業が先行する形でスタートした。そして、今や17のゴールをイメージしたカラフルなバッジを胸につけている人を見ない日はないほど世界の共通目標として認知されている。産業界においても同様だ。多くの経営者がSDGsへの賛同を表明し、貢献への意欲を語る。しかしながら、実際の事業戦略に落とし込み、ターゲットを設定し、その実績を公表している企業はまだまだ少数派である。

一方、環境対策や企業統治については、国際機関、行政、資本市場、業界団体などから様々な指針やガイドラインが発表されており、企業はそうした経営条件の中で事業活動を行っている。また、そもそも広義で解釈すれば企業活動それ自体もSDGsの17の目標、169のターゲットのいずれかにつながっていくと考える経営者も少なくない。しかし、それらとSDGsとの関係性を紐づける明確な基準はない。よってSDGsへの貢献という視点から自社の活動を客観的に評価することができないのが現状とも言える。

この意味において期待されるのが「SDGsインパクト」だ。国連は2021年内を目標に、SDGsの目標達成に対する効果(=インパクト)を評価する認証基準を策定、スタートさせる。やがてこの評価システムが国際的に認知され、適切な認証機関によって公正に運用されるとすればESG投資[環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資]の評価体系、業界団体等の行動指標、個々の企業活動の “貢献度” をSDGsインパクトとの関連付けにおいて説明することが出来るはずだ。評価基準の統一はSDGsに対する社会的な取り組みを加速させるだろう。

さて、企業活動が世界共通の基準をもって評価されるとなれば身内の論理やダブルスタンダード、ましてや「ノーコメント」は通用しない。
SDGsの理念は「誰一人取り残されない社会の実現」であり、すなわち、少数民族、女性、子供、貧困など弱者やマイノリティの人権保護がその核心である。ゆえに人権に対するネガティブ評価は他のいずれの項目でも相殺できない。企業は事業活動の全体を通じて、まずは法人としての “人格” そのものが問われるということだ。

2021 / 05 / 21
今週の“ひらめき”視点
銀行法改正、出資規制と業務範囲を大幅緩和。銀行が銀行であり続けることの意味が問われる

19日、地域金融機関の再編を支援する改正金融機能強化法、出資及び業務に関する制限を緩和する改正銀行法、そして、海外ファンドの参入要件を引き下げる改正金融商品取引法が成立した。超低金利、内需縮小、異業種参入という逆風の中、競争力を低下させてきた銀行の収益機会を拡大させるとともに地域金融の統合・再編を促すことで金融システムの安定と地域経済の支援強化を目指す。

まずは地域金融の立て直しだ。経営統合に際してのシステム投資や店舗網の再編に補助金を交付する。事業承継支援では顧客企業の経営体制の移行に際して最大5年までと限られていた株式保有期間が10年に延長される。経営再建支援でも民事再生企業に限定されていた出資条件が緩和される。地域活性化事業会社に対しては100%の出資を認める。出資条件の緩和は、支援企業の経営に銀行が当事者として参画するという意味において融資とは異なる責任を担うこととなる。

もう一つの目玉は業務範囲の拡大だ。債務保証、ファイナンスリース、M&Aといった従来の付随業務に加え、広範なサービスの提供が可能になる。具体的には自行で開発したシステムやアプリの販売、登録型人材派遣、見守りサービス、ビジネスマッチング、更には蓄積された顧客データの分析やマーケティング、広告業務への進出も可能となる。先月発表された三井住友フィナンシャルグループと電通グループによる共同出資会社の設立も今回の法改正を見込んだものである。

フィンテックを背景に金融ビジネスの規制緩和が進む中、銀行の側の規制緩和、言い換えれば、銀行の一般事業会社化もまた必然であろう。しかし、そうであれば、尚更、銀行はその存在意義を自ら社会に問う必要があろう。出資規制の緩和が単なるファンド化を意味するのであれば、必然として投資効率の高さが支援先企業の選別動機となるだろう。エグジットに対するプレッシャーが被支援企業の本来の事業戦略を歪める可能性もある。
そもそも銀行の規制緩和には、優越的地位の濫用や利益相反のリスクが構造的に内在している。顧客保護、顧客視点に立っての議論も不可欠だ。いずれにせよスルガ銀行や日本郵政グループを反面教師として、過度な利益追求によるコンプライアンスの逸脱がなきよう願う。

2021 / 05 / 14
今週の“ひらめき”視点
デジタル庁、始動へ。目先の効率化を越え、主権者本位の行政システムの実現を

5月12日、デジタル改革関連6法案が可決、9月1日付でデジタル庁が発足する。同庁は内閣府に直属、各省の関連予算を統括するなど強い権限をもって行政システム全体の標準化とクラウド化を推進する。
マイナンバーカードの電子認証化、銀行口座や健康保険証との連動、押印・書面交付の手続の省略、廃止などによる効用は多岐にわたる。もちろん、個人情報保護に関する厳正な運用が前提となるが、実現すれば生活の利便性は大きく向上するだろう。

それだけにリスクも巨大化する。先月20日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や国内の研究機関等に大規模なサイバー攻撃を仕掛けたとされる中国籍の人物が書類送検された。人民解放軍の関与も取り沙汰される。5月7日には米国東海岸の燃料パイプラインがサイバー攻撃を受けた。FBIはロシアのハッカー集団による可能性が高いと発表した。統合された行政システムは犯罪者集団にとって格好のターゲットとなりえる。意思決定、指示系統の一本化など関係機関と連携した非常時対応策の強化は必須だ。

さて、デジタル後進国とされる我が国であるが、決してITが軽視されてきたわけではない。2000年には「5年以内に世界最先端のIT国家になる」ことを目標に高度情報通信ネットワーク社会形成基本法を制定、2002年には行政手続オンライン化法が成立、「国と地方行政機関の5万2,000件の手続を2003年までにオンライン化する」ことが表明された。しかし、これらはやがて中途半端なまま “尻すぼみ” 状態となり、結果、昨年の “一律10万円給付” でIT化の現状が露呈する。長期戦略の欠落、縦割り行政、責任主体の曖昧さなど要因は複合的であるが、要するに場当たり的であったということだ。今度こそ長期的なビジョンと戦略性をもって成し遂げていただきたい。

最後にもう一点。行政のDX化とは単に現行の行政システムをITに置き換え、行政手続の効率化をはかることではない。組織、権限、役割、意思決定、働き方など行政機構そのものの在り方を再構築することにある。言い換えれば国民に対する責任と義務を再定義する作業と言ってもいいだろう。データの持ち方に際しての要件は「記録はすべて残すこと」、そして、「公開を原則とする」ことだ。“政府・行政機関の情報は主権者に帰属する” という原理原則を設計思想の根幹に据えていただきたく思う。