今週の"ひらめき"視点

2018 / 04 / 20
今週の”ひらめき”視点
米中経済摩擦、貿易の停滞と混乱の回避に向けて

18日、財務省は「2017年度の中国向け輸出が過去最高の15兆1871億円(前年比18.3%増)を記録、6年ぶりに対米輸出額を上回った」と発表した(「貿易統計速報」より)。
とは言え、対米輸出も15兆1819億円(前年比7.5%増)とほぼ同水準を維持する。米中はいずれも日本にとって最大のお得意様であり、したがって、両国の貿易摩擦と対抗措置の応酬は日本にとって大きなリスクとして顕在化しつつある。

米国による鉄鋼・アルミ課税とそれに伴うEUのセーフガードは安価な中国製品をアジア市場へ流出させるだろう。中国による米国産大豆の輸入制限はロジスティクスを担う日系商社のビジネスを奪う。米国による華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)製品の調達禁止措置は両社へ部品を供給する日本メーカーの事業計画に影響を及ぼす。東芝半導体子会社の米投資ファンドへの売却も中国当局による独禁法審査の遅れにより見通しが立たない。そもそも貿易の停滞に伴う米中経済そのものの失速も懸念される。

こうした中、8年ぶりの日中ハイレベル経済対話と日米首脳会談が開催された。日本は中国と多国間自由貿易体制の維持で協調する一方、米国とともに「自由で開かれたインド太平洋戦略」で“一帯一路”をけん制する。米国は日本が要求してきた「鉄鋼・アルミ関税の対象国からの除外」を退けたうえで、二国間協定による“不公正な日米貿易”の解消を目指す、と言明した。

金融分野や自動車産業における外資規制の撤廃など中国側からの“メッセージ”も出始めた。しかし、まだまだ予断を許さない。両国の狭間にあっての対米、対中交渉は安全保障とも関連するだけに容易であるまい。しかし、それゆえに日本はTPP11を主導した立場において、自らの原理原則を貫いて欲しい。それがリスク回避に向けたシンプルかつ唯一の突破口である。

2018 / 04 / 13
今週の”ひらめき”視点
外国人労働者、受入れ拡大へ。ただし、問題の本質は先送り

政府は建設、農業、介護等の人材不足に対応するために新たな外国人就労資格を設置する。資格の名称は「特定技能」(仮称)、最長5年に制限された技能実習の修了者に対して、更に5年間の在留資格を与える。
本来“学んだことを母国で活かす”ための技能実習制度が実質的な外国人労働者の供給システムになっていることは周知の事実であり、不当な低賃金や違法な長時間労働が一部で問題化している。一方、単純労働市場における人材不足は深刻化しており、在留延長を求める声は雇用者側、実習生側の双方に多い。新資格はそのギャップを埋めるものである。

とは言え、技能実習の本来目的は形式上維持される。実習生は最初の5年間が修了した時点で一度帰国しなければならない。つまり、母国に一定期間滞在することが「特定技能」の資格要件ということであり、言い換えれば、永住権取得条件の一つである“10年以上の在留”が直ちに満たされないように制度設計されているということである。

アジアの賃金水準が急速に上昇している中、海外からの労働力を短サイクルで補填し続ける“都合の良い”制度で安定的に労働力を確保できるのか。
生産年齢人口の減少が避けられない日本にとって、外国人労働者の問題は「途上国の人材育成」を名目とした制度の枠組みで考えるべきではない。日本社会全体としての受け入れ態勢を長期的視点から議論してゆく必要がある。

2018 / 04 / 06
今週の"ひらめき"視点
フェイスブック、膨張するリスクと社会的責任

米議会は、フェイスブックから流出した8千7百万人の個人情報がトランプ氏陣営の英コンサルティング会社によって不正利用されたことについて、マーク・ザッカーバーグCEOに対して公聴会で証言するよう要請した。

この問題に端を発する抗議行動はハッシュタグ「#deletefacebook」で拡散、2014年に同社に買収されたワッツアップの共同創設者ブライアン・アクトン氏やテスラモータース、スペースXの創業者イーロン・マスク氏も賛同を表明、相次いで公式ページを削除した。また、アップルのティム・クック氏も「個人の生活を不正に売買することはプライバシーの侵害」と発言するなど、プライバシー保護の強化とフェイスブック批判の流れが急速に醸成されつつある。

一方、国連もロヒンギャの難民問題に関連してフェイスブックを「ヘイトスピーチの温床」、「暴力奨励を媒介」と名指しで非難、元幹部のバリハビティヤ氏も「社会の分断を助長している」、「自分の息子には使わせない」などと発言、Facebook社自身も「世界をつなぐことは良いことばかりとは限らない」と自らのミッションステートメントの負の側面を認めた。

世界20億人のユーザーを擁するフェイスブックは、今や一企業のガバナンスを越えた“力”を持ちつつある。テクノロジーとビジネスモデルの自立的な成長が巨大な社会的リスクとなりつつあるということだ。世界がフラットにつながるまでにはまだまだ時間を要する。

2018 / 03 / 30
今週の”ひらめき”視点
自動運転社会の実現にむけて。問われるのは運転“技能”の向上

2020年の実用化に向けて政府は自動運転に関する法整備の大綱案を取りまとめた。2018年夏までに装備や走行条件に関するガイドラインを策定すること、ドライブレコーダー等の走行データ記録装置の搭載義務化などが盛り込まれる。

大手自動車、グローバルIT企業を筆頭に自動運転の実用化競争は熾烈化している。そうした中、3月18日、自動運転車によるはじめての死亡事故が起きた。米アリゾナ州はウーバーに対する実験認可の取り消しを発表、トヨタも北米での一時的な実験自粛を決めるなど業界に衝撃が走った。
とは言え、自動運転への流れが変わることはない。独アウディは世界ではじめて「レベル3」(条件付自動運転)を搭載した上級モデルを今年から市場投入する。技術は確実に今回の事故を乗り越えるだろう。

一方、走行基準に関するルールづくりの遅れは否めない。国内では「自動運転車両への免許制度」の提唱もなされ始めた。道交法を遵守し、交通安全ルールに従って運転操作ができるか、について最低限の基準を設けそれを公的に認証する、ということだ。一理ある。ただ、ハードウェアとしての技術基準と交通ルールやマナーなどソフトにおける技術的洗練をどのレベルで評価づけるのか、容易な作業ではないだろう。
いずれにせよレベル4(高度自動運転)は既に技術的には射程内にある。今後、問われるのはまさに“技能”の向上である。車両の外側にある運行支援システムはもちろん、社会全体での受け入れ体制づくりが必須であろう。レベル3のその先を見据えたレギュレーションや社会規範をどう作ってゆくのか、日本のイニシアティブに期待したい。

2018 / 03 / 23
今週の”ひらめき”視点
中国の民主化、遠のく。習近平モデルの拡散を懸念する

2月16日付の本稿でモルディブの非常事態宣言とその背景にある中国への懸念を伝えた。その非常事態が22日にも解除されるという。ヤミーン政権は反政府すなわち反中国派の排除に成功したということか。

その2日前、2期目がスタートした習近平氏は全人代で国家運営の基本方針を示した。「中国は永遠に覇に訴えず、拡張を図らない」と語る一方で、世界一流の軍隊を形成する、国際秩序に積極的に関与する、偉大な領土を一寸たりとも分割させない、すべては党が指導する、中華民族の偉大なる復興を実現する、とのメッセージを国内外に発信した。

1978年、改革開放に舵を切った鄧小平氏は最高指導部に定年と任期制限を設けることで権力の長期占有と個人崇拝の再発を封じた。経済発展はやがて中国に民主化をもたらすだろう、と世界は楽観した。しかし、独裁への歯止めは習氏によっていとも簡単に外された。

アラブの春は中東から安定を奪った。新自由主義は格差を助長した。分断された側、取り残された側の声が大きくなりつつある中、統制と排除の論理が拡散する。
民主化と人権を世界戦略の旗印に掲げてきた米国が自国第一主義に引き籠る中、習氏による一党独裁型の政治スタイルが新興・途上国の少なからぬ為政者たちを勇気づける。

2018 / 03 / 16
今週の”ひらめき”視点
両備グループ、バス路線の廃止届けを撤回。地域の未来は本当に見えたか

3月14日、両備グループ小嶋光信代表は2月8日に中国運輸局に提出した赤字31バス路線の廃止届けを撤回すると発表した。
この問題は2月23日付けの本稿でもとりあげた。“赤字路線の運行を支えている特定黒字路線への格安事業者による新規参入”が事の発端である。

両備は当初から「廃止そのものが目的ではない。地域の公共交通を守るための問題提起」とその狙いを説明してきた。会見では届出撤回の理由を以下のように語った。

・石井国交相が「各地域のバス事業の状況を把握・検証したうえで、公共交通維持に対する取り組みを支援する」と表明した
・運輸局、県および関係4市と路線維持に向けての協議の場を設けることで合意した

つまり、問題提起に対して一定の成果があった、ということである。とは言え、このタイミングでの撤回は「入学や入社の節目となる4月を前に、市民や利用者の不安や心配を取り除く」ことが優先されたものと推察する。
確かに岡山における関係者間協議の開催は一歩前進である。しかし、解決の方向性が定まったわけではないし、地方のみならず都市部を巻き込んだ全国的な議論になったかと言えば甚だ心もとない。

北海道ではJRが「単独での維持は困難」と公表した10路線13線区の沿線で関係者による協議が始まっている。バスによる代替輸送も選択肢の一つであるが、コストが移動するだけの“代替”で問題は解決しない。デマンドバス、貨客混載、乗合タクシー、コミュニティバス、上下分離、自動運転など、アイデアは一つではないだろう。しかし、需要そのものが構造的に縮小する中にあって、沿線当事者の地域リソースのみで問題を解決するには限界がある。
国交省は「国土のグランドデザイン2050」で“各地域が主体性を確立し、固有性を深め、多様性を再構築する”ことを理念に掲げた。異論はあるまい。であれば、まずは議論の土台となる地域の特性と問題を客観的に把握すること、そして、地域の可能性を引き出すためにすべての政策統合をはかってゆくことが肝要である。地域交通は国交省だけの問題ではない。国力の源泉たる地域の存続をはかるために何が出来るか、私たち一人ひとりが当事者である。