今週の"ひらめき"視点

2018 / 11 / 02
今週の”ひらめき”視点
「製造2025」戦略の実現へ。先端技術投資を加速する中国の可能性とリスク

27日、中国の宇宙ベンチャー「ランドスペース(藍箭航天)」が自社開発ロケット“朱雀1号”を打ち上げた。搭載した国営テレビCCTVの小型衛星の軌道投入には失敗したものの飛行は正常だったとのことであり、「創業3年、初めての打ち上げ」であることを鑑みると事業化スピードの速さに驚かされる。
31日、中国検索大手「バイドゥ(百度)」と米フォードモーターは、自動運転車の共同実験を北京市内で年内にも開始すると発表した。百度の自動運転プロジェクト「アポロ計画」にはホンダ、ヒュンダイ、BMWも参加しているが、AI分野でも百度と提携したフォードが実証実験で先行する。

先端産業の育成、内需主導、製造大国から製造強国へ、今、中国経済は構造改革の最中にあり、これを達成すべく民間活力の導入が国家戦略化される。航空宇宙分野における“軍民統合”の方針は既に2015年の「国防白書」に明記されており、民間企業であるランドスペース社の事業戦略もここが起点となる。北京における自動運転車の公道実験も規制当局の迅速な認可があってのものだ。

一方、ブレーキも突如踏まれる。シェアエコノミーのニューウェーブとして急成長し、一時は100社を越える企業が参入したシェア自転車ビジネスはオッフォとモバイクの2強を残して昨年末までにほぼすべてが倒産、廃業、撤退した。未登録業者の乱立と社会問題化した放置自転車に対して当局が一挙に規制強化をはかったことが要因である。業界のパイオニアであるオッフォの創業は2014年、事業をスタートした2015年からわずか3年、業界としての成長は終わった。
改革開放の波に乗りアジア屈指の財閥となった大連万達集団(ワンダグループ)も深刻な経営危機に直面する。当局は同社の海外投資に伴う外貨流出と過剰債務を問題視、同社グループへの融資禁止を金融機関に通達した。同社はこの1年で2兆円規模の資産を売却、中国版ハリウッドも中国版ディズニー構想も夢と消えた。

中国企業の事業展開力の驚異的な速さは、事業家たちの傑出した才能と巨大なリスクマネーによるところが大きい。しかし、いかなる企業、投資家にとっても国家の方針すなわち党の意志が絶対的な経営条件となる。13億人の内需、6%台の成長ポテンシャル、中国市場の魅力は中国固有の“異質さ”と常にトレードオフの関係にある。

2018 / 10 / 26
今週の”ひらめき”視点
外国人労働者問題、やがて来る社会の分断を避けるためのセーフティネットを

第197回臨時国会は外国人労働者の受け入れ拡大の是非が重要な論点の一つとなる。外国人労働者は昨年時点で既に雇用者の2%、128万人を越えている。高度人材の確保、人手不足の補完の両面において“開かれた雇用”への流れは必然である。一方、それに伴う新たな摩擦や差別の発生もまた必然である。

オーウェン・ジョーンズ氏の著書「チャヴ(CHAVS)」(依田卓巳訳、海と月社)に描かれた英国の現実は、外国人や移民に対する排斥がやがて社会の内側へ向かうことを示唆する。チャヴとは、向上心がなく、性にだらしなく、粗暴で、排外主義的で、アルコールや薬物に依存した白人下層階級の蔑称であり、製造業の衰退、規制緩和、民営化、緊縮財政といったサッチャー氏以降の構造改革に置き去りにされた人々を指す。
そして、彼らがそこから抜け出せない原因はまさに本人の向上心の無さ、つまり、本人の行動の結果であるとの認識が社会全体で共有されてゆく。貧困や失業といった社会問題が“自己責任”の問題に置き換わったということだ。

日本国内の就業における日本人の競争優位は日本語能力にある。しかし、その優位はバイリンガル、トリリンガルの外国人に容易に奪われるだろう。
「最下層の人々を劣等視することは、いつの時代にあっても、不平等社会を正当化するもっとも便利な手段」とジョーンズ氏は指摘する。外国人と最下層という二重の分断を避けるためにも少なくとも3世代先の日本を構想し、準備する必要がある。

2018 / 10 / 19
今週の”ひらめき”視点
中国、第1回輸入博、約束された成功ゆえの見えないリスク

9日、IMFは「世界経済見通し」を発表、世界経済の先行きに懸念を表明した。
同レポートは、米中貿易戦争による影響を5つのシナリオをもとに分析、最悪の場合、中国の成長率は1.6ポイント下振れし、年5%へ、米国も1.0ポイント低下し、年1.5%へ減速するという。日本への影響も避けられない。年0.9%と見込まれた成長率は年0.2%へ下方修正される。2つの経済大国の対立は世界経済にとっていよいよ大きなリスクとなりつつある。

その中国では、第1回の「中国国際輸入博覧会」が11月5日から10日にかけて上海で開催される。
中国側は、各省区市、中央政府直属の国営企業など38の取引チームを編成し、輸入促進をはかる。担当チームには目標数値(=ノルマ)もかけられているという。
日本からは自動車、商社など大手から中小企業まで「450社は参加するだろう」(JETRO上海)と見られる。ゼネラルモーターズやジョンソン・エンド・ジョンソンなど米企業も中国での販売拡大を目指す。来場者は16万人、バイヤーとしての中国企業は4万社、130カ国、2800社を越える企業が中国へ売り込みをかける。

輸入博初日には習主席も来場するという。5日と6日を休日にするとの通達もあった(民間企業は独自に判断)。11月6日は米中間選挙の当日である。つまり、輸入博は中国にとって最高レベルの政治的イベントということだ。
中国は国際社会に向けて、米の選挙結果を想定した高度に戦略的な2種類の声明を準備しているはずだ。そして、そのいずれかとともに“開かれた中国”と“巨大な購買力”をアピールするだろう。関税の引き下げ、知材保護の強化など中国の市場開放は進む。日本企業にとっては日中関係の急速な好転もチャンスである。しかし、そうした政治の振れ幅そのものがリスクであることは言うまでもない。政治を超えて市場に賭けるか、退くか、日本企業の戦略性が問われる。中途半端はこの国では通用しない。

2018 / 10 / 12
今週の”ひらめき”視点
グーグル、「Google+」の終了を発表。統合された情報ニーズのその先の未来について

米グーグルは「Google+」の消費者向けサービスを2019年8月末で閉鎖すると発表した。同社は「消費者の期待に応えられるサービスを開発し、維持することが出来なかった」と事業の失敗を認めるとともに、約50万人分の個人情報が流出した可能性を明らかにした。
グーグルがソフトの欠陥を把握したのは2018年の3月、同社は「直ちにソフトを修復、個人情報の悪用は確認されなかった。よって公表しなかった」と釈明した。

しかし、この3月という時期は、英国の政治コンサルティング会社が8700万人ものフェイスブック利用者の個人情報を不正利用していたことが発覚したタイミングと重なる。つまり、SNSの運営企業に対する社会的批判から逃れるために意図的に隠蔽したのではないか、との懸念が拭えない。個人情報の利用範囲の拡張に対する欲求がその管理責任に対する意識を上回ったと言っても良いだろう。

個人にひもづく情報を統合的に活用したいとの欲求は、AIの技術的進歩を背景に企業はもちろん、社会、国家において極大化する。それは使われる側の個人にとっても利便性の向上という意味において対立しない。ゆえに容認され易く、また、実損がない限り不正利用への感度は鈍くなる。

一方、個人情報の有償取引や個人情報の遮断をサポートするニュー・ビジネスも生まれつつある。欧州のGDPRに象徴される個人情報保護の制度的な強化も進む。利用価値が高まれば高まるほど資産としての価値は高騰する。結果、個人情報の運用と保全を狙ったビジネスや規制が準備されるということだ。
そして、こうした流れは他方でそこからの離脱を指向する新たな価値(=“mode”)を生み出すだろう。Gmailにひもづいた個人情報の一元的統合を目指した「Google+」の蹉跌は、「あらゆるものが効率的につながる世界」に対するアンチテーゼの“始まりの予兆”であるかもしれない。

2018 / 10 / 05
今週の”ひらめき”視点
英国、対EU硬化。「合意なき離脱」の危機、高まる

英国のEU離脱に向けての交渉期限が迫る中、「合意なき離脱」が現実のリスクとして高まりつつある。通関手続き、航空協定、動植物の検疫、農産物の表示法、医薬医療品の認可、自動車の形式認証、原子力協定、金融取引、年金給付、個人情報保護など、“第3国”となった英国は新たな規定と規制によってEUから分断される。産業面では自由貿易を前提に欧州に一体的なサプライチェーンを構築してきた自動車業界への影響が甚大だ。BMWは混乱が予想される2019年4月から1ヶ月間の英国での生産停止を決定、生産・輸出拠点のオランダへの一部移管も発表した。トヨタを筆頭に日本勢も対応の検討に入った。

7月、英メイ首相は与党内のEU懐疑派が反発を強める中、EUとの協調に軸足を置いた交渉方針を発表した。EUは9月19日、20日にザルツブルクで英国との非公式会議を開催、しかし、EU側はその場でメイ首相の方針を拒否、「良いとこ取り」と突き放した。EUのトゥスク大統領は、SNSに同氏がメイ首相にケーキを差し出す画像をアップ、そこに「ケーキをどうぞ。チェリーはありませんが」とのコメントをつけた(cherry-pickは英語で“つまみ食い”を意味する)。英国はこれを屈辱と受け止め、結果、“合意なき離脱も止むなし”の強硬論が一気に浮上した。

1日、バーミンガムで与党保守党大会が開催された。ジョンソン前外相をはじめ強硬派のボルテージはあがる。党内融和はほど遠いように見える。しかし、EUが示した冷遇は、逆に国内の分裂を“対EU”というベクトルに収斂させる可能性もある。「合意なき離脱」のダメージは短期的には英国に、長期的には双方に効いてくる。つまり、共倒れである。頑固でロマン主義的である一方、クールな現実主義者でもある英国人気質に期待したい。
There is nothing either good or bad, but thinking makes it so. (「ハムレット」より、シェイクスピア)。

2018 / 09 / 28
今週の”ひらめき”視点
国連総会、米の孤立、鮮明に。日米は2国間物品貿易協定(TAG)に向けて協議スタート

5月、米国はイラン核合意から一方的に離脱、対イラン経済制裁を再開、11月には原油を対象とする第2弾の制裁を発動する。こうした中、24日、EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表は「イランとの貿易を継続、促進するための特別目的事業体(SPV)を設立する」と発表した。イランとの貿易を合法的に行なえる体制をEU内に整えることで、核合意に関する国際的な枠組みを維持する。イランのザリフ外相も同席した会見で、同氏は「SPVは欧州の企業だけでなく他の国々にも開かれるだろう」と発言、米国と一線を画すEUの姿勢を明確にした。

翌25日、トランプ氏は国連総会で「グローバリズムの拒絶」、「米国第一主義の推進」、「貿易不均衡の是正」を明言するとともに、“歴代大統領より多くの成果を成し遂げた”と自賛した。会場からは失笑も漏れたが、トランプ氏の自国至上主義と国際社会を軽視する姿勢への懸念と反発が目立った。とりわけ、中国、ロシア、中東、欧州との対立が顕在化、仏のマクロン大統領は「我々の価値の普遍性を攻撃するために、国家主権を利用すべきではない。そのような国家主義者に主権の理念を委ねることはない。我々は強者の掟を信じない」と言い切った。

トランプ氏はその前日、対中制裁関税の第3弾を発動、中国からの輸入品2000億ドル分に10%の追加関税を課した。中国も600億ドル分の米国製品を対象に直ちに報復関税でこれに応じた。米中貿易戦争は中国をして「首にナイフを突きつけられている」(王受文商務次官)と言わしめる段階まで来た。今度は日本が矢面に立つ。体裁はTAGである。しかし、交渉の土台とすべきは主権国家としての普遍的な価値そのものである。