今週の"ひらめき"視点

2019 / 04 / 12
今週の”ひらめき”視点
EC事業者への規制圧力、強まる。成長を維持するためにはルールへの適合と“フェアネス”が条件

10日、アマゾンジャパンは、5月からの実施を予告していた「全商品で購入額の1%以上をポイント還元する施策を撤回する」と発表した。
同社は、2月に同施策について出品企業に通知していたが、公正取引委員会はポイントの還元原資を出品者側の負担とするビジネスモデルが“優越的地位の濫用”にあたる可能性があるとして、同社を含む主要ECサイトへの一斉調査を準備していた。これに対して同社は公取委による独禁法違反認定リスクを事前回避した形だ。

同じ日、公取委は大手旅行サイトがホテルや旅館との契約において「宿泊料金の最低価格」と「客室数の最大割当」を保証させる所謂“最恵待遇(MFN)条項”を要求していたとして、楽天、ブッキング・ドット・コム、エクスペディアの3社に対して一斉立ち入り検査を実施した。大手サイトによるMFN条項は新規参入企業に対する障壁となるとともに、宿泊価格の高止まりなど消費者への不利益を招く恐れがある。公取委は検査結果を分析、行政処分の必要性を判断するという。

支配的な地位を確立しつつあるIT事業者に対する規制強化が進む。国境を越えて巨大化し、市場を寡占化してゆくIT企業に対してようやく各国の法令の側が追いつきはじめたということだ。
所謂プラットフォーマー規制では欧州が先行する。個人情報に関する規制(GDPR)は既に施行済みだ。デジタル課税こそアイルランドをはじめとする低税率国の反対を受け合意できなかったものの、フランス、英国、スペインは単独での実施を表明している。

一方、低税率国を活用した“税逃れ”に対して、独仏は新たな規制をG20に提案する。グローバル企業が低税率国を活用して得た利益が国際社会における税負担の最低水準を越える場合、これを不当利益とみなし本国で課税させるという。デジタル課税で欧州と対立する米国も独仏の提案を支持するという。
取引条件、情報管理、著作権、利用者保護、課税問題など、あらゆるアプローチでグローバルIT企業への規制が進む。テクノロジーと自由な発想で世界経済の成長と構造変化を牽引してきたプラットフォーマーは、果たしてnation-stateとの共生の道を見出せるか。もう一段の成長と自由を獲得するための鍵はここにある。

2019 / 04 / 05
今週の”ひらめき”視点
ジャパンディスプレイ、台中連合の傘下へ。国主導のオールジャパン戦略の限界

官民ファンドINCJ(旧産業革新機構)のもとで経営再建をはかってきたジャパンディスプレイ(JDI)は、3日、台湾中国連合3社から最大800億円規模の金融支援を受け入れることで合意した(同社のリリースでは正式合意は週明け以降になるとのこと)。JDIはあわせてINCJによるリファイナンスを実施、総額で1,100億円の資本増強を行う。これによりINCJの議決権は25%から半減、代わって台中勢が5割弱を押さえ筆頭株主となる。国の支援を背景に“オールジャパン”としての復活を期待されたJDIであるが、今後は外資企業として再建の道を歩む。

かつて世界シェアの過半を押さえ、「液晶王国」と呼ばれた日本であったが、2000年代に入ると韓国、台湾勢が台頭、一気に国際競争力を失う。2012年4月、経産省はソニー、東芝、日立の中小型液晶ディスプレイ事業の戦略的統合を主導、産業革新機構を通じて2,000億円を出資、JDIを発足させた。しかし、それ以降、国策会社であるにも関わらず、否、であるがゆえにと言うべきか、「だらしない」経営が続く。
2014年には上場を果たすが赤字体質は常態化する。産業革新機構は2016年から2017年にかけて750億円、2018年にも200億円の追加資金を投じる。しかし、結局、自主再建の道筋を自ら描くことは出来なかった。2019年3月期の業績見込みについて同社は「売上は前期実績7,175億円から10%減、営業損益は200億円超の赤字」としたうえで、「通期最終利益の黒字化は困難と判断」とコメントしている(2019年2月14日付け、3Q決算の説明資料より)。

スマートフォン向け需要の急減、米アップルの不振、有機ELへのシフトなど、競争環境に劇的な変化があったことはその通りである。とは言え、市場構造変化の見誤りと対応の遅れは、すなわち経営者の失態そのものである。要するに、責任をとらずに済む者たちが主導した「選択と集中」戦略が、変化を起こすことで競争優位を獲得した海外勢に敗北した、ということである。

2019 / 03 / 29
今週の”ひらめき”視点
中小企業の活性化に向け、親族外への事業承継機会の拡大を

22日、野村ホールディングスとカーライルグループが設立したSPC「オーシャン・ホールディングス株式会社」によるオリオンビールに対するTOBが成立した。オリオンビールは1月23日付けのプレスリリースで、「沖縄に根ざした企業としてのDNAを維持しつつ、新たな成長を目指したい」とTOBへの賛同を表明、今後は新体制のもとでビール事業の再構築とホテル・不動産事業の強化をはかる。ファンドのエグジットには「IPOも選択肢」という。
25日、敵対的TOBの成立を背景に石本氏の退任を含む経営陣の刷新を求められていたデサントは伊藤忠の要求を全面的に受け入れると発表、対立は決着した。デサントは経営戦略を修正、伊藤忠の主導下で中国事業を軸とした成長戦略を強化、韓国事業に依存した収益構造の改善をはかる。

一方、東北でも大きな動きがあった。業績低迷が続いた山形の老舗百貨店「大沼」は、2018年4月、事業再生ファンド「マイルストーンターンアラウンドマネジメント」(MTM社)の出資を受け入れ、同社の完全子会社となった。しかし、資金の不正流用やMTM社自身の経営不安説が取り沙汰される中、大沼の再建は一向に進まなかった。こうした事態に業を煮やした地元財界はプロパー従業員によるSPCの設立を支援、22日、大沼株を担保としたMTM社向け債権をSPCが取得し、大沼の経営権を取り戻した。
オリオンビールはファンドによる成長支援、デサントのケースは事業提携型、大沼はEBOによる事業再生、3つのM&Aはそれぞれ目的やスキームが異なる。オリオンについては経営陣によるMBOという側面もある。しかし、共通するのは外部資本をバックとした経営体制の刷新、成長戦略の再構築である。

今後10年間で70歳を越える経営者は245万人、うち128万人に後継者がいない。廃業せざるを得ない企業の半数は黒字であり、これらを放置すると2025年までに650万人の雇用が喪失、GDPの22兆円が失われるとの試算もある。
上記3事例は、規模や背景を鑑みると多くの中小企業にとって“他人事”かもしれない。とは言え、事業を未来へつなぐ、という意味において何ら変わりはない。事業承継は日本経済の活力を維持するための喫緊の課題であり、一方で親族内承継に限界があることも自明である。個人保証や相続の問題はある。しかし、それゆえに多様な事業承継ニーズに対応したファンドの組成など、新たな事業戦略を描き出せる外部人材にチャンスを与える仕組みが早急に求められる。

2019 / 03 / 15
今週の”ひらめき”視点
震災から8年、復興に向けて私たちは2つの現実に向き合う必要がある

3月11日、震災から8年が経過した。災害公営住宅は計画比98%、高台移転や地盤嵩上げによる宅地造成の進捗率も94%を越えた。道路、港湾、鉄道など公共インフラの復旧工事もほぼ完了した。震災発生直後、47万人を越えた避難生活者も5万人に減った。
とは言え、未だに5万人、であり、避難生活の長期化に伴う“震災関連死”も3700人を越えた。災害公営住宅における孤独死も増えている。そして、依然2533人もの方が行方不明のままである。
地域経済の低迷も深刻である。人口の減少が止まらない。とりわけ若い世代が戻って来ない。インフラ関連の復興事業が一巡した反動も大きい。NHKの調査によると被災者の63%が「復興は進んでいない」と回答したという。

3月7日、日本経済研究センターは福島第1原子力発電所の処理費用が最終的に80兆円を越える可能性があると発表した。この数字は経産省が試算した約20兆円を大きく上回るものとして注目された。しかし、このレポートの価値はそこではない。これまでタブー視されてきたチェルノブイリ方式を試算シナリオに加えた点にある。同センターは廃炉を見送り、「石棺」等による閉じ込め管理型を採用した場合の費用を35兆円と見積もった。金額の多寡ではない。あらゆる選択肢を排除しない、という当たり前のスタンスに敬意を表したい。生命(いのち)と生活(人生)を選択する根拠に政治的な恣意性は不要だし、ましてや改竄や隠蔽などあってはならない。

8年前、当社は「東日本大震災における経済復興プロセスと主要産業に与える影響」(2011年3月31日発刊)と題したレポートを発表した。「日本の中に温存されてきた古い体質、棚上げされてきた課題を一挙に解決し、産業の新陳代謝と社会経済構造の革新を加速させることをもって復興の道筋とすべき」と結論づけた。一方、被災地では、復興はおろか復旧の見通しすら立たない地域も少なくない。
東日本大震災は私たちの生活価値観を変えたはずではなかったのか。この8年間、何をしてきたのか、何が変わったのか、何を変えてきたのか。
被災は終わっていないという現実、そして、一向に解除の見通しが立たない「原子力緊急事態宣言」の中を生きる現実。私たちはこの2つの現実から目を逸らしてはならない。

2019 / 03 / 08
今週の”ひらめき”視点
対立する本部と加盟店、持続可能なビジネスモデルへの転換が求められるFC業界

人手不足による過労と運営難を理由に時短営業に転じた加盟店オーナーとセブンイレブン・ジャパン(本部)の対立が収まらない。とりわけ、契約の解除と1700万円もの違約金請求を盾に24時間営業の再開を求めた本部側の強硬姿勢に批判が集まる。
本部サイドも「人員の一時派遣」や「時短営業の実験」といった改善に向けての対策を表明したが、その一方でコンビニ加盟店ユニオンとの団体交渉を「労使関係にない」ことを理由に拒否するなど、あくまでも“原則”を貫く。

2018年2月期、㈱セブン-イレブン・ジャパンは営業総収入849,862百万円に対して営業利益244,110百万円を稼ぎ出した。高収益の源泉は24時間営業を前提に構築された精緻なチェーンオペレーションシステムと店頭売上高から仕入れ原価を差し引いた粗利を本部と加盟店とで分配するビジネスモデルにある。この粗利分配方式では店舗スタッフの人件費は加盟店側の販管費として計上される。つまり、深夜営業は店舗にとっては赤字の営業時間帯であっても、分配された粗利が営業収入となる本部にとっては費用がかからない増収ということだ。
しかしながら、セブンイレブン本部の営業収入を支えるのは国内コンビニ売上の98%、4,575,931百万円もの店頭売上をつくる加盟店のオーナー達である。加重労働による彼らの疲弊は本部にとっても看過できまい。

今、4月1日から施行される「働き方改革法」を前に経産省は中小企業の「働き方改革を阻害する取引慣行」の是正を呼びかける。契約上、FC加盟店は“下請け”ではないし、ましてや加盟店オーナーは“従業員”ではない。
しかし、例え本部と加盟店との契約関係が法的に対等であっても実質的に加重労働や不公正な費用負担を強いるのであっては、本部の側にとっても潜在的な経営リスクとなり得る。そして、これはコンビニ業界だけの問題でなく、学習塾や外食などFC業界全体に共通する課題である。まずは加盟店の経営実態を正確に把握すること、そのうえで、持続可能性と不公正取引の排除という視点からビジネスモデル全体の再点検が必要であろう。

2019 / 03 / 01
今週の”ひらめき”視点
過渡期にある指定金融機関制度、問われる地方自治体との“蜜月”の在り方

2016年6月、三菱東京UFJ銀行(当時)は国債の入札等において国から特別な優遇措置が受けられる「国債市場特別参加者」(プライマイリー・ディーラー)を返上した。当時は「3大メガバンクの最大手が日本国債の長期保有を経営リスクと判断した」と話題になったが、要は民間金融機関としての経済合理性を優先させたということである。
その三菱UFJ銀行が兵庫県芦屋市の指定金融機関を辞退した。

従来、芦屋市は輪番制を採用、三菱UFJと三井住友銀行が交互に業務を受託してきた。現在は三井住友が担当、三菱UFJは2019年7月1日にこれを引き継ぐ予定であった。しかし、昨年3月、三菱UFJは同市に対して指定受託の条件変更の申し入れを行う。これまで7万円だった行員派遣費用について、行員2名の人件費800万円と警備費700万円を要求するとともに1件あたり10円の口座振替手数料や市庁舎内に設置したATMの維持費を市側の負担として欲しい旨の要望書を提出した。
三菱UFJは同様の条件改訂を他の自治体にも提案、今回、芦屋市や埼玉県所沢市など要求に応じなかった約10自治体の指定金融機関を返上したという。

地方自治体の公金収納や支払い事務を一手に引き受ける指定金融機関は、公金を預金として確保できるとともに信用力の向上につながるとして、かつては指定獲得競争も起こっていた。しかし、低金利、低い手数料率、ほぼ無償の行員派遣義務などにより採算は悪化、今や銀行サイドに指定を継続するための積極的な動機は見当たらない。

27日、公正取引委員会はネット通販の大手事業者に対して一斉調査を行なう方針を固めた。国は、ポイント還元の原資を出品者に負担させるECモールのビジネスモデルが独禁法の「優越的地位の乱用」に抵触する可能性があると判断、実態把握に乗り出すという。その通りである。そして、“市場を歪める”という点においては公的セクターもまた同じである。もはや「お上」に優越的な立場を維持するだけの権威やパワーはない。民間に不当な負担を強いることが行政の合理化ではないはずだ。金融を取り巻くテクノロジーが革命的に変化しつつある中、指定金融機関制度の在り方そのものが見直されるべき時期にある。