今週の"ひらめき"視点

2018 / 07 / 13
今週の”ひらめき”視点
出光創業家、昭和シェルとの経営統合に合意、業界再編に区切り

10日、出光創業家の賛同が得られず膠着状態にあった出光興産と昭和シェル石油の経営統合が最終合意に至った。創業家の説得には旧村上ファンドの村上世彰氏が一役買ったとのことであるが、石油業界の再編は我が国産業政策の悲願でもあり、元通産官僚の村上氏にとっては投資家の立場を越えた“使命感”もあったのだろう。1985年、昭和石油とシェル石油の統合からはじまった業界再編は33年を経てようやく完結、当時15社あった石油各社は国内市場の5割を押さえるJXTGエネルギー、3割を占めることとなる出光+昭和シェル、そして、コスモ石油の3グループに集約される。

統合は2019年4月1日、株式交換により出光興産が昭和シェル石油の全株を取得、完全子会社化する。昭和シェル石油は3月29日付けで上場廃止、統合後のブランドは“出光昭和シェル”。
両社は会見で「2015年11月の統合発表から最終合意まで3年を要した。この間、実務レベルでの交流を着実に進めてきた。無駄な時間ではなかった」としたうえで、「経営資源を統合し、アジア屈指のリーディングカンパニーをつくる」、「今後5年間で純利益500億円のシナジーを創出する」と今後の方針を語った。

かつて国内に6万店あったSSは3万1千店に減少、市場縮小は構造的だ。「5年で500億円の統合効果」の内訳は不明である。しかし、この数字が単に“縮小市場における合理化効果”を意味するのであれば、直近決算で売上高5兆7766億円、経常利益3193億円、当期純利益2050億円というスケールを有する新会社としては物足りない。
2030年代には欧州、中国、インドなど世界の自動車市場の主力がEVに置き換わる。「士魂商才」を銘とし、「努めて難関を歩め」と語り、「事業の利益を社会に立脚せん」とした出光佐三氏の精神を承継するのであれば、2030年のその先を見越した「難事業」への挑戦を表明していただきたい。

2018 / 07 / 06
今週の”ひらめき”視点
スタートトゥデイ、PB販売開始。ZOZOSUITが目指す世界観と既存業界とのギャップが拡大

3日、ファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイは、初のプライベートブランド“ZOZO”のメンズスーツとドレスシャツのセット販売を開始した。同社初のPBであること、また、セット価格2万4800円(税込)という上代設定だけでも注目されるが、最大の特徴は採寸用スーツ“ZOZOSUIT”で計測した体型データを活用したオーダーメード製品であることに尽きる。改良型“ZOZOSUIT”の配布数は3日時点で55万着超、今期末までに1000万着を無償配布、あわせてPBの品目数も10~20品目へ拡大、PB事業で200億円を目指す。2019年3月期の通期連結業績は取扱高3600億円(前期比133.1%)、売上高1470億円(同149.3%)、営業利益400億円(同122.4%)を見込む。

同じ3日、オンワードホールディングスとストライプインターナショナルは「次世代ビジネスモデルの共同開発を目的とする戦略的パートナーシップをスタートさせる」と発表した。
顧客ターゲットや主力チャネルが重ならない両社にとって協業によるリスクは少ない。一定の成果は期待できるだろう。ただ、提携の中身が①両社がそれぞれ運営するECモールへの共同出店、共同販促、②リアル店舗における業態開発、相互送客、③オンワードの企画生産プラットフォームとストライプの商品企画力を活用した共同マーチャンダイジングの推進、というレベルに止まるのであれば、“新しいタイプの従来型ビジネス”以上のインパクトはない。そこで表現されているのはあくまでもベンダーサイドにとっての都合であり、言い分に過ぎない。

一方、スタートトゥデイのメッセージはシンプルだ。「ファッションに自信がない人に勇気を持たせる」、「誰もがサイズが合う服を着ることができる」、「興味がない人に好きになってもらう」、中期経営計画ではこれらを実現するための“やるべきこと”として施策が説明される。
サプライチェーン改革、新業態開発、時代に適応したビジネスモデルの構築、、、その通りだ。とは言え、共同出店(商品補完)、相互送客(顧客共有)、効率化(原価削減)では新しい需要は生まれない。オンワードそしてストライプの両社には需要創造に向けてのストレートなメッセージともう一歩踏み込んだ経営統合を期待したい。

2018 / 06 / 29
今週の”ひらめき”視点
“アメリカ・ファースト”の猛威に置き去りにされる米国の自由経済

米トランプ政権による鉄鋼アルミ関税問題の波紋が広がる。EUは報復の一環として22日、米国製自動二輪やウイスキーに25%の追加関税を実行した。米はこれに対抗すべくEU製自動車に25%の追加関税を課すと表明、一方、カナダは米国に阻まれた安価な鉄鋼製品の自国市場への流入を防ぐため追加関税の検討に入った。

26日、トランプ政権は11月4日を期日にイランからの原油輸入を停止するよう世界に要求、イラン中央銀行と取引した金融機関には基軸通貨ドルの決済システムから除外する、と威嚇する。
中国は今年の3月から上海市場で取引を開始した人民元建ての原油取引を活用、米国の要請を拒否する構えだ。EUは域内企業が第3国による経済制裁に従うことを禁じた「ブロッキング規則」の発動準備に入った。インドもルピーによるイラン原油の取引実績がある。オバマ政権による経済制裁下にあってもイランとの取引を維持した日本もこれを受け入れる利はない。

対米外国投資委員会(CFIUS)の権限強化も懸念材料である。CFTUSは安全保障上の理由があれば大統領に投資中止を勧告する権限を有する。新法案では買収・合併のみならず合弁やマイノリティ出資も審査対象に加えるという。中国を念頭においた措置と言われるが、対象は中国企業に限定されない。鉄鋼アルミ課税と同様に「適用除外はない」だろう。

報復の連鎖は米国内の軋みも拡大させる。米自動車工業会はEU車への追加関税は米消費者にとって年間5兆円の負担となると発表した。知財侵害に対抗した中国ハイテク製品の輸入制限は部材や生産を中国に依存する米国の自動車、医療機器、EMS企業のバリューチェーンを毀損する。
こうした中、売上の2割弱を欧州に依存する米ハーレー・ダビッドソンが「生産拠点を米国外へ移転せざるを得ない」ことを表明した。アメリカを象徴する同社の方針にトランプ氏は「耐えろ。さもないと高額の税金を課す」と恫喝した。常軌を逸したトランプ氏の振る舞いに市場経済は行き場を見失いつつある。

2018 / 06 / 22
今週の”ひらめき”視点
海洋国家日本、世界に対してイニシアティブをとるべき機会を逃すな

15日、参院本会議は「改正海岸漂着物処理推進法」を可決した。洗顔料やボディソープといった化粧品や歯磨き粉には「マイクロビーズ」というプラスチック粒子が使用されており、こうした製品の廃棄物が河川や海に流れ込むことによる生態系への影響が懸念されてきた。本法案はこうした微細なプラスチックの使用制限について企業側に努力義務を課すものである。罰則規定は盛り込まれず、数値目標も書き込まれていない。業界サイドの取り組みによって使用制限が既に強化されている現状を鑑みると、法的対応における“周回遅れ”は否めない。

貿易問題における米国との対立がクローズアップされたG7首脳会議であったが、プラスチックごみによる海洋汚染の問題も討議された。6月9日には世界各国に対策を促す「シャルルボワ・ブループリント」を採択、更に、英、仏、独、伊、加とEUは自国でのプラスチック規制の強化と海洋生態系の保護を謳った「海洋プラスチック憲章」をまとめ、これに署名した。日本は米国とともに憲章への署名を見送っている。
欧州の対応は早い。英国はこの1月、数値目標を書き込んだプラスチックごみの削減目標を発表、EUも5月には使い捨てプラスチックの制限を規定した新たな制度を議会に提案した。トランプ政権による環境問題からの後退が顕著である米国ではあるが、マイクロビーズについては2015年12月、オバマ大統領が「マイクロビーズ除去海域法」に署名、昨年7月に製造が禁止された。P&G、ユニリーバ、マクドナルドといったグローバル企業もプラスチックごみの削減に対してそれぞれ対策を講じつつある。

国連によると世界のプラスチックごみの発生量は3億トン、うち800万トンが海に流出しているという。日本人の1人当りプラスチック消費量は米国についで2番目である。北太平洋には総量1億トン超、米テキサス州の2倍以上の面積を持つごみの島が浮遊している。国土の12倍の領海を持つ海洋国家で、かつ、プラスチック消費大国である日本の責任は軽くない。

2018 / 06 / 15
今週の”ひらめき”視点
自由貿易とアジアの不確実性が拡大、TPP11の地政学的な戦略性高まる

13日、新協定「TPP11」の承認案が参議院本会議で可決された。衆議院は既に関連法案も通過させており、与党は今国会での成立を目指す。
TPP11にはタイが正式に参加を表明、韓国、台湾、英国、コロンビアも関心を示す。また、これまで参加に消極的であったインドネシアも米国の保護主義化を念頭に「アジアに保護主義を持ち込ませないために協調すべき」(ユスフ・カラ副大統領)と語り、参加への意欲を示した。

一方、マレーシアのマハティール首相はTPP11の枠組みを評価したうえで、「貧しい国と富める国との自由貿易はどうあるべきか」との問題を提起、再交渉の必要性に言及した。米国市場への参入を取引材料に自国市場の開放を余儀なくされた新興国にとって、米国の離脱は「公正さ」を取り戻すチャンスと映る。とは言え、知的財産権の保護や電子商取引のルールを含むハイレベルな多国間協定が11ヶ国で合意されたことの意味は大きい。ルールは硬直化すべきではない。しかし、RCEPなど他の広域経済圏構想を主導するためにも発効を急ぐべきだ。

自由貿易を率いてきたG7の協調体制が米国によって揺らぐ中、中ロが主導するSCO(上海協力機構)12ヶ国首脳会議が青島で開催された。習近平氏は「世界の統治を完全なものにするための重要な勢力」と宣言、“非西側陣営”の結束をアピールする。しかし、SCOが“公正な自由貿易”の模範足りえないことは言わずもがなである。
12日、今や世界の不確定要因となった米国とアジアの不安定要因である北朝鮮との“歴史的な首脳会談”が実現した。先は見えない。それゆえにルールにもとづく国際協調の基盤を構築しておくことの意味は大きい。米中ロから独立したTPP11の戦略的価値はこれまで以上に高まった。

2018 / 06 / 08
今週の”ひらめき”視点
貿易戦争下でのG7、米の「孤立への暴走」を止められるか

明日からG7首脳会議が開催される。しかし、通商問題における対立は深刻だ。サミットの前哨戦となった財務省・中央銀行総裁会議では、米国に対する「懸念と失望」が議長声明として発表されるなど、日欧加と米との亀裂は決定的となった。
とりわけ、欧州勢は鉄鋼・アルミ関税に関する協議で米側が「輸出数量規制」を持ち出したことに強く反発した。WTOルールを無視した米国の一方的な交渉姿勢に会議は紛糾、結果、米国の孤立が際立つこととなった。

一方、トランプ氏は「貿易戦争には負けない」との従来どおりの強硬姿勢を崩さない。「G7への不参加、つまり、ボイコットもあり得る」との声すらあがる。
パレスチナ、イラン、パリ協定、、、国際協調の前提が米国の単独行動によって揺らぐ中、G7内の決定的な亀裂は世界の混迷要因にしかならない。北朝鮮、シリア問題、対中国、対ロシアという文脈においても同様である。米国の孤立は世界にとって大きなコストとなる。シャルルボワ・サミット(カナダ)で試されるのはまさにG6側の「覚悟」である。

かつて、中国は“朝貢貿易”で繁栄を極めた。中国に貢ぎ、中国から恩寵を受け取るという特殊な貿易形態が成立した。貿易のコストは相手国側が負担した。それゆえ、中国は海運つまり海の覇権に関心を持つ必要がなかった。しかし、これが後の衰退につながる。
今、目先の貿易利益の拡大に奔走するトランプ氏、果たしてそれは将来の何と“トレードオフ”されるのか。米国もまた大きな岐路にある。