今週の"ひらめき"視点

2020 / 02 / 07
今週の“ひらめき”視点
新型肺炎問題、世界経済に暗雲。今こそ企業は長期戦略にもとづく果敢な投資を

新型肺炎による影響が深刻化しつつある。暦上は1月30日までであった春節休暇が明けた2月3日、上海総合指数は休み前の株価指数に対して8%下落、1日にして42兆円もの資産が失われた。しかし、その上海市はいまだ “春節” の最中である。上海だけではない。重慶市、広東省、浙江省、江蘇省など、多くの自治体が10日まで休暇を延長、感染の中心地とされる武漢を含む湖北省では “少なくとも” 14日まで休暇が続く。人の移動が極端に制限され、社会活動が停止したままの中国主要都市は実質的な機能不全状態にある。

封鎖された武漢は長江、漢口が合流する交通の要衝であり、鉄鋼、自動車、半導体、電機、素材産業が集積する製造業の一大拠点である。中国企業はもちろん、GM、ホンダ、ルノー、日産、PSA、ボッシュ、鴻海、シーメンス、ファイザー、コーニング、GEをはじめとするグローバル外資が拠点を構える。生産停止の長期化と物流の停滞は、中国経済はもちろん、世界のサプライチェーンに影響を与える。売り手として、買い手としての貿易総額が500兆円を越える中国経済の混乱が世界経済のリスクを高める。

感染拡大の収束に見通しが立たない状況にあって各国は出入国制限など水際対策を強化、影響はまずインバウント業界を直撃する。春節期間における百貨店の免税売上は軒並み前年割れを記録、三越伊勢丹では伊勢丹の新宿、三越の日本橋、銀座の3店の免税売上が前年比2割減になった。これから春にかけて新たに中国人団体客40万人分がキャンセルされるとの見通しもある。

一方、4日付の日本経済新聞は、日本電産がEV用駆動モーターの中国における生産投資を当初計画の550億円から1,000億円に引き上げる、と報じた。新工場は2021年の稼働を目指すという。無論、目の前の事態を鑑みれば中国外への移転も正しい。すべての企業が同社に倣う必要はない。しかし、企業は短期的なリスク対策と同時に、構造変化を見据えての戦略的投資を間断なく実行する必要がある。その意味において、新型肺炎の拡大、米中貿易摩擦、EV購入補助金の削減など、最悪と言っていい外部環境下での同社のブレない方針表明は見事である。

百貨店も同様である。免税売上の減少が経営に与えるインパクトは軽くはないだろう。とは言え、免税売上は百貨店全売上高の6%に過ぎない。百貨店の構造問題の本質はこの30年間でピークの4割、4兆円もの売上を失ったことであり、その要因は免税売上の減少でも、暖冬でも、消費増税でもない。未来を自身に引き寄せるために何をすべきか、まさに本業における戦略性と覚悟が問われている。百貨店だけではない。危機こそ経営者がその本領を発揮するチャンスであり、試されているのは企業の真価そのものである。

2020 / 01 / 31
今週の“ひらめき”視点
老舗百貨店の破綻と楽天の“送料無料”問題。“おもてなし”はタダではない

1月27日、山形の老舗「大沼」が自己破産を申請した。大沼の創業は元禄13年(1700年)、名実ともに老舗中の老舗である。しかし、近年は経営不振が常態化、2017年には創業家からPEファンド「マイルストーン ターンアラウンド マネジメント」に経営権が譲渡される。しかし、ファンド側の不透明な資金運用が発覚するなど経営は混乱、再建計画の遅れに業を煮やした従業員と地元財界が株式を買い戻し、EBOによる再建を目指していた。

記者会見で長沢光洋代表取締役は「昨年10月の消費増税以降、売上が前年比3割以上減少、資金繰りが急速に悪化し、1月末の支払債務4億円の目途が立たなかった」と突然の破産理由を説明した。要するに百貨店業態の競争力の低下、地方における総需要の縮小、そして、実質賃金が伸びない中での増税、これらを前に320年の名門企業が力尽きた、と言うことだ。
一方、長沢氏は「高コスト体質の是正が進まなかった」とも述べた。高コストの象徴は百貨店固有の接客サービスを担ってきた “人” に対する費用である。つまり、これまで顧客に対して無償で提供されてきた「おもてなし」のコストを吸収するだけの余力が失われていたということであり、言い換えれば、サービスを捨てる、あるいは、サービスに投下された販促費用を新たな収益原価に振り替えるという意味での改革が出来なかった、ということだ。

昨年、コンビニエンスストア業界では24時間営業を巡って本部とFCが対立した。日本のコンビニ業界のサービス水準の高さは言うまでもない。それを支えてきたのはセブンイレブン方式に象徴されるビジネスモデルである。しかし、本来、利益共同体であるはずの両者の対立は、サービスの担い手である “人” に対するコスト配分の有効性、すなわち、従来型ビジネスモデルが限界に達したことを意味している。業界全体の成長が鈍化する中にあって、サービスをタダで提供し続けることは出来ない、という単純なことである。

サービスはタダではない、近年の物流業界を見ても一目瞭然である。サービスに対する対価、すなわち、費用は誰が、どういう形で負担するのか、そして、対価に見合う便益、費用に見合う利益とはどうあるべきか、ここが根本である。つまり、三木谷氏がどんなに声高に叫んでも送料の “無料” など、そもそもあり得ないのである。

2020 / 01 / 24
今週の“ひらめき”視点
映画「わたしは分断を許さない」、世界と“私”の関係を再考する

ジャーナリスト 堀潤氏の監督作品「わたしは分断を許さない」を一般公開に先んじて観させていただいた。
香港、福島、沖縄、シリア、ガザ、北朝鮮、、、、堀氏はこの5年間、国内外のあらゆる場所に「分断された世界」の存在を意識したという。作品の主張はタイトルが示す通りであるが、饒舌な解説も挑発的な言説もない。主題は「分断」の現場を生きる登場人物(被取材者)一人ひとりの現実の “物語” として表現される。
堀氏は「主語を小さくする」ことが大切である、と語る。ゆえに香港のデモはアニメが好きな陳逸生さんが向き合う民主主義の問題であり、沖縄の問題は久保田美奈穂さんが感じる基地への違和感を通じて描かれる。故郷を離れた深谷敬子さんの無念と生き難さの中に福島の問題を捉え、将来は小児科医になりたいというシリアの少女ビサーンさんの屈託のない笑顔と、難民キャンプで活動する松永晴子さんの涙が難民問題の重さを象徴する。

小さい主語への拘りは市場調査を生業とする当社にも通じる。当社は自身の活動について「日々変化する市場のダイナミズムを個々の企業活動の視点から捉える」、「机上の空論を排し、徹底して現場にこだわる」と表明している。しかし、実際の活動は本当にそうなっているだろうか。
成長産業はどこだ? 技術革新の経済インパクトは? 地方創生の経済効果は? 単純で刺激的なテーマを設定して、安易に答えを導いていないか。私たちもまた経済活動における個々の「現場」を見失うことのないよう常に留意し続ける必要がある。

私たちの社会、経済、産業、業界、、、いやいや “主語は小さく” である。そう、私たちの会社、そして、私自身もグローバル経済の一構成員である以上、堀氏が突きつける「あなたも分断に加担していませんか」という問いの前にたじろがざるを得ない。何らかの形で、どこかを介して、直接、間接を問わず「分断」をする側のシステムに組み込まれているのだろう。映画はそれを意識することの大切さを思い起こさせてくれる。と同時に、遠く、そして、どれほど小さくとも、何らかの形でつながっているのであれば、11歳のビサーンさんの未来への希望に関与することも出来るはずだ。日常を越えられない日々の中で何が出来るのか、そんなことも考えさせられる。一般公開は3月から、是非、ご覧いただきたく思う。

2020 / 01 / 17
今週の“ひらめき”視点
内航海運、主要航路活性化の背景にある構造問題

1月10日、三菱造船は阪九フェリー向けのカーフェリー2番艦「やまと」の進水式を行った。「やまと」は総トン数1万6,300トン、トラック277台、乗用車188台を積載、排ガス浄化装置 “スクラバー” を搭載する。昨年8月に進水した一番艦「せっつ」とともに神戸-新門司航路に投入される。
昨年末には宮崎カーフェリーも1万4,200トン級2隻、名門大洋フェリーも1万5,400トン級2隻の新造を発表、いずれもスクラバーを搭載し、関西と九州を結ぶ瀬戸内航路に2021年から2022年に投入する計画である。

トラック業界のドライバー不足や一段と強まる環境規制を背景に物流業界ではモーダルシフトが進む。こうした構造変化を捉え、内航海運大手はトラックやトレーラーが自走出来るRORO船や長距離フェリーの輸送能力を強化する。
商船三井フェリーは東京-苅田(九州)航路のRORO船を2隻から3隻体制とし、週4便から週6便に切り替える。SHKグループも新たに横須賀-北九州航路を開設する。近海汽船も敦賀-博多航路の増便を発表した。

しかしながら、内航海運全体でみると総輸送量は頭打ち傾向にある。日本内航海運組合総連合会の内航主要オペレーター輸送動向調査によると2019年10月は鉄鋼、原料、燃料、自動車など主要8品目すべての輸送量が前年割れとなった。同連合会はその要因を「台風による一時的な輸送障害」と分析しているが、2018年11月から2019年10月の1年間の総輸送実績は前年比99%、需要環境は厳しい。
加えて、業界は隻数の8割を占める小規模事業者の高齢化に伴う事業承継と船員の人手不足問題を抱える。根底にあるのは抑え続けられてきた運賃と用船料だ。つまり、問題の本質はトラック業界と共通であり、要するに課題解決の前提となるのは “物流費の適正化” ということである。

2020 / 01 / 10
今週の“ひらめき”視点
大学再編時代の幕開け、個性ある人材を育てるための改革を

昨年12月18日、山梨大学と山梨県立大学は「一般社団法人大学アライアンスやまなし」を共同で設立、授業科目の共同開設、合同講義の開講、教養科目の相互補完、大学院特別プログラムの共同運営など修学環境の充実をはかるとともに、共同購買や人事交流など運営面における連携を通じて大学経営の効率化を目指すと発表した。
国立大学と県立大学による共同法人の設立は国内初、これは2018年に中央教育審議会が答申した「国公私立の枠組みを超えた大学間連携推進のための法人」の流れに沿うものであり、新法人の島田代表(山梨大学学長)も「全国初の認定を目指す」と表明した。

両大学の取り組みは文字通り、大学の連携・再編時代の到来を予感させるものである。しかし、課題も大きい。この4月からは低所得世帯を対象とした高等教育の支援制度がはじまるが、国公私を超えた連携が進むと自ずと費用負担の公平性の問題が浮き彫りになる。また、学位プログラムの編成に際しては「自ら開設する科目」と「共同開設科目」との設置基準に関する規定が不可欠だ。加えて、単位互換を含む多分野における連携は事務方サイドの業務増につながる懸念もある。
一方、連携が経営不振大学の延命に利用される可能性もある。文科省は「赤字大学の安易な救済策とはしない」と明言しているが、いずれにせよ教育、研究、経営における個々の大学の主体性と責任の範囲を明確化させる必要があろう。

2019年、政府が進めてきた一連の大学入試改革が頓挫した。不本意とも本音ともとれる文科大臣による「身の丈」発言をきっかけに2020年度の導入を予定していた英語の民間試験は見送られ、国語と数学で予定されていた記述式問題の採用も無期限延期となった。
居住地や経済状況による受験機会の不平等、50万を超える大量の記述式解答をミスなく短期間に処理できるか、といった問題は当初から関係者が指摘してきたことである。改革ありきの改革の進め方に根本的な問題があったと言わざるを得ない。

外国語4技能の重要性に異論はない。大学が「社会」の要請に応えていないとの背景も理解できる。しかし、社会とは「経団連」だけではないし、社会のどこにどう貢献するかはまさに大学の個性であるはずだ。画一化された選抜方式と画一化された教育プログラムから輩出された画一的な人材からはイノベーションも独自の文化も生まれない。

2019 / 12 / 27
今週の"ひらめき"視点
日産の新経営体制、揺らぐ。退任する副COOの選択は正しかったか?

スタートしたばかりの日産自動車の経営体制に早くも亀裂が入った。12月25日、日産は副代表執行役兼最高執行責任者(副COO)の関氏が同職を辞任、日産を退職する、と発表した。報道によると同氏は次期社長含みで日本電産入りするという。
関氏は生産技術部門出身、言わば “現場を知る” トップであり、また、前CEO西川氏のもとで策定された “パフォーマンスリカバリープラン” の推進責任者であった。それだけに経営への影響は小さくない。

12月2日、CEOに就任した内田氏は記者会見で、「COOのグプタ氏、副COOの関氏と議論を尽くして経営にあたる」と新体制の運営方針を語った。“ゴーン体制からの脱却” を強く意識したのであろう。スピーチではとりわけ “議論を尽くす” ことが強調された。
尊重・透明性・信頼が大切、広く社内外の声を聞く、部下を信頼する、権限を譲渡する、異論や反論が許される風土、、、内田氏は言葉や表現を変えて風通しの良い、フラットな会社を目指す意志を繰り返しメッセージした。筆者はそこに何とも言えない頼りなさを感じたが、それはさて置き、新体制発足からわずか3週間、盟友であるべき副COOの退任表明である。内田氏の忸怩たる想いが察せられる。

12月23日、米の新興EVベンチャー「リビアン・オートモーティブ」社が13億ドル、約1,400億円のファイナンスを行った。同社の資金調達は今年に入って4回目、既に22億ドルを調達済みだ。
設立は2009年、従業員1,000人、創業者でCEOのR.J.スカリンジ氏は36歳である。出資者にはアマゾン、フォードをはじめ、住友商事も名を連ねる。2017年には米国生産から撤退した三菱自工のイリノイ工場を取得、2020年内に量産体制を整え、2021年からグローバル販売を開始するという。

起業率が低い、起業家精神が乏しい、ユニコーンが育たない、これらは日本停滞論の定番フレーズだ。関氏は「サラリーマン人生の最後をCEOとして挑戦したい」と語ったとされるが、先端技術を知り、生産現場に通じ、トップマネジメントを経験し、人脈もある。しかも、フィールドは「100年に一度の大変革期」にある成長市場だ。永守氏という新たな “カリスマ” の元への “転職” ではなく、もっとチャレンジングなCEOへの道もあったのではないか。引き受けるべきでなかった職をこのタイミングで辞するのである。せめて大人のブレークスルーの手本となって欲しかった。