今週の"ひらめき"視点

2019 / 02 / 22
今週の”ひらめき”視点
世界の実体経済、不確実性高まる。最大リスクは中国構造改革の遅れ

19日、トランプ氏は米中貿易交渉の順調ぶりをアピールするとともに3月1日を期限とした協議の延長可能性を示唆した。輸入拡大や市場開放については中国が譲歩する形で交渉が進展、一方、国営企業の優遇、技術移転問題、知財侵害等における対立は依然厳しいという。
JPモルガンが発表した最新のグローバル製造業購買担当者景気指数(PMI)によると11月のPMIは52.5、12月が51.5、1月には50.7へ低下した。低下は9ヶ月連続、2016年10月以来の最低レベルである。世界の実体経済の不確実性は高まっており、米中貿易戦争に伴う中国経済の減速が懸念材料であると指摘する。

しかし、中国経済の低迷は米中問題が主因ではない。米中問題の本質はむしろ“政治”であって、根本的な課題は中国経済そのものの脆弱さにある。2017年8月、国家発展改革委員会は海外直接投資の抑制に舵を切る。当局の狙いは緊急対策としての“民間資産の海外移転の押さえ込み”にあった。つまり、既にその時点で対内直接投資と対外直接投資のアンバランスが看過できない水準になっていた、ということである。先月末の外貨準備高は3兆1千億ドル、ピークを3割下回る。対米輸出における制約も加わって外貨流出リスクは更に高まる。

外需から内需へ、世界の工場から製造強国への道のりが不透明となる中、当局は3月の全人代を前に大規模な財政政策を打ち出すだろう。6%台の成長は維持されるはずだ。しかし、結果的に構造改革は遅れ、中間層の拡大は頭打ちとなる。資金の供給者であり年間輸入額1兆8千億ドルという“買い手”としての中国の失速は国際社会における影響力の低下を意味するとともに、権力基盤の脆弱化を招く。対外的な強面ぶりと内部統制は更に強まるかもしれない。

16日、毛沢東の元秘書で、大躍進と文革を批判し、天安門で失脚した趙紫陽の名誉回復を主張し、「棺に党旗をかけるな」と言い残した李鋭氏(101歳)が逝去した。民への不信がある限り、構造改革の成就はない。当局は無数にいるはずの市井の“李氏”たちの声に耳を傾けることが出来るか、“核心的利益”の再定義が求められる。

2019 / 02 / 15
今週の”ひらめき”視点
岐路に立つ「ふるさと納税」、地方創生と公正さの両立を

ふるさと納税をめぐって自治体からの異論が噴出する。まず、ふるさと納税によって歳入の減少が続く自治体から悲鳴があがる。世田谷区は新年度の予算策定に際し、「ふるさと納税による2019年度の減収見通しは53億円にのぼる」と発表、「行政サービスの低下は避けられない」として制度の改善を訴える。
2018年度、ふるさと納税による税の控除、すなわち税の流出は市町村民税と道府県民税を合わせて2,447億円を越えた。とりわけ、2016年度に寄付金控除の上限引き上げと“ワンストップ特例”が実施されて以降、流出は都市部を中心に急拡大、世田谷区では2016年度が保育園5園の新設費用に相当する16億5千万円、2017年度は31億円、2018年度には41億円へと流出額が膨らんだ。

一方、泉佐野市は国の方針に真っ向から挑む。国は返礼品の高額化と過度な競争を抑制すべく、「返礼品は地場産品に限定、返礼割合を3割以内、この条件を満たさない自治体を制度の対象から外す」ことを決定、4月から手続きを開始する。これに対して泉佐野市は「地方分権の理念に反する」と反発、そして、「もはや法制化が避けられない情勢であり、そうであれば、、、」として、“2月、3月限定。100億円還元閉店キャンペーン”と銘打ってアマゾンギフト券の配布を開始した。泉佐野市は「関空」という国策に左右され続けてきた自治体であり、“りんくうタウン”など都市基盤への過剰投資の結果、2004年には「財政非常事態」を宣言するまで追い込まれた。厳しい構造改革を経て、2016年になってようやく「財政健全化団体」から脱却、“反骨”の基底にはこうした経緯があると推察する。とは言え、当然ながら国も黙っていない。「4月以前の取り組みも指定自治体の選考に際して考慮する」と泉佐野市を牽制する。

そもそもふるさと納税については多くの問題点が指摘されてきた。全国の自治体の予算総額は返礼費用分だけ実質的に目減りする。そして、流出超過があった自治体にはその75%が国庫から補填される一方、世田谷区など地方交付税の不交付自治体は補填の対象とならないといった不公正もある。また、流出額が多い自治体ほど納税義務者一人当たり課税所得の水準が高い。純粋な“寄付”であれば当然と言えるが、任意に選択できる納税方式に逆進的な要素が内在されているのであれば公平性を欠く。もちろん、メリットもある。地元物産の広報宣伝には効果があるだろう。故郷や母校など縁の深い自治体を応援する喜びもある。被災地の復興や地方の特定事業への支援など税の使い道に関与できることの意義も大きい。しかし、“お得感”によって選択される返礼品が地方の生産者や企業の市場競争力を高めるとは思えないし、全国レベルで通用する名産品を持たない地域にとっての恩恵は小さい。地方間競争は奨励されて然るべきだ。しかし、返礼品による税の争奪競争の歪みが顕在化しつつある中、ふるさと納税は根本から見直すべき時期にあると言える。

2019 / 02 / 08
今週の”ひらめき”視点
合意なき離脱へ、リスク高まる。企業の英国離れが加速

3日、日産は欧州向けSUVの次期モデルの生産工場を英サンダーランド工場から国内(九州工場)へ移管すると発表した。
BMW、ジャガー・ランドローバーなど自動車勢は既に一定期間の操業中止を決定済だ。製薬メーカーも不測の事態に備え医薬品の在庫を積み増す。英バークレイズ銀行は24兆円にのぼる顧客資産をアイルランドに移すと発表、英仏海峡フェリーを運航するP&Oは全船籍を英国からキプロスに変更する。ソニーもオランダに新会社を設立、3月29日付けで欧州本社機能を移管すると発表した。

従来、多くの企業は最悪のシナリオを想定しつつも、2年間の移行期間が与えられる「合意あり」に軸足を置いた対応を準備してきた。しかし、政府と強硬派の対立が先鋭化、合意なき離脱へのリスクが高まりつつある中、1月15日、英議会は政府がEUと合意した離脱協定を否決、これを機に企業は「合意なし」を見据えたオプションに一挙にシフトする。企業は既に動きだした事業計画を簡単には変更しない。一時は“自立”に浮かれた離脱支持者もここへ来て“現実の影響”を受け止めはじめた。混乱回避に向けての流れが英国内で醸成されるか、ここが鍵だ。

政府案を否決する一方でメイ氏への不信任を可決することができない英議会の内弁慶ぶり、それをまとめきれないメイ氏の指導力、いずれにせよもはや一刻の猶予もない状況にあってようやく議会も修正案に同意した。7日、メイ氏はこれをもってEUとの交渉に臨む。とは言え、EU側は「再交渉は受け入れない」との姿勢を変えていない。唯一残された安全策は政治決着による「離脱時期の延期」か。
昨年、EUとの交渉期限が迫った頃、シェイクスピアの「There is nothing either good or bad, but thinking makes it so.」を本稿に引用させていただいた。今、贈るならこの言葉だろう。「I have to embrace something which can’t be avoided.」。

2019 / 02 / 01
今週の”ひらめき”視点
大学の再編・統合が本格化、長期的視点に立って高度で多様な人材育成を!

総合研究大学院大学は、国立天文台、核融合科学研究所、統計数理研究所など17の研究機関を擁する4つの“大学共同利用機関法人”と2022年度に運営を統合する。総研大は、共同利用機関法人傘下の研究機関とJAXAを拠点に博士人材の育成を担う教育機関であるが、新たに設置される法人に各機関の管理業務を一元化し、効果的な資源配分と経営の効率化をはかる。
また、名古屋大学と岐阜大学も新法人“東海国立大学機構”を設立、「2020年度に新法人の傘下に入る」ことに合意した。大学の独立性を保ちつつ、研究施設の共同利用、教育課程の相互補完、事務部門の合理化、法人としての全体戦略を推進するという。
既に私立大学の半数以上が定員を割り込み、赤字経営を強いられる状況にあって、大学・研究機関の再編、統合が具体化する。北海道、静岡、奈良でも大学の統合に向けた協議が進んでいると言う。

29日、内閣府は2019年度の科学技術関係予算が4兆2377億円になると発表した。政府の政策目標GDP比1%に届かないものの、“前年比1割増、過去最大規模”の予算は評価できよう。とは言え、問われるべきは質である。歴代ノーベル賞の受賞者は一様に日本の研究、教育体制の劣化を指摘する。とりわけ、基礎研究における国際競争力の低下は科学技術の基盤喪失に直結するだけに看過できない。短期的な経済効果に偏重した研究評価への流れは再考されるべきであろう。
一方、文系における高度人材の育成も急務である。社会課題を発見し、解決の道筋を制度設計し、新たな価値を社会に提案し、既存のルールに囚われないビジネスを構想するための知性と創造力の育成は必須である。経済、法律、歴史、心理、文学、哲学、芸術など、“人を自由にするための学問(リベラルアーツ)”への投資不足が “ユニコーン”が育たない要因の一端にある。

大学改革の目的は単なる交付金の削減ではない。ましてや苦境にある大学の救済ではあるまい。世界水準の研究環境をどう整備し、維持してゆくのか、多様な高度人材をいかに発掘し、育成し、活用するのか、学術成果をどのように社会に還元してゆくのか、改革の主題はここにある。文科省は2019年度の通常国会に国立大学法人法の改正を検討しているという。長期的かつグローバルな視点から大学と社会との関係性を問い直す絶好の機会である。

2019 / 01 / 18
今週の”ひらめき”視点
「毎月勤労統計」不正問題、数字と言葉への信頼、失墜

賃金や労働時間の実勢を把握する国の基幹統計「毎月勤労統計」(厚労省)において重大な不正が発覚した。本来、従業員500人以上の事業所は全数調査とすべきであるが、東京都内の調査では対象事業所1464ヶ所に対して1/3程度しか調べていなかった。不正は小泉政権下の2004年に始まり2017年まで続いた。この間、都内の大企業およそ1000社が調査対象から外れたため統計上の賃金水準は実体より低く算出され、結果的に雇用保険の失業給付等の支給額が不当に抑えられたという。過少給付の総額は567億円を越え、影響は延べ1900万人に及ぶ可能性があるという。

「毎月勤労統計」は昨年、2018年1月以降の賃金伸び率が突然高くなったことを受け、“恣意的な操作があったのではないか”と疑問視された。厚労省はこれを「定期的な標本入替え」と「入替え手続きの変更」の影響であると説明してきた。しかし、驚くべきことに、標本の入替えと同じタイミングで今回発覚した不正を統計的に補正するための措置を講じており、それを隠し続けた。自らの過ちを隠蔽、矮小化し、非公表で済ませようとする姑息さと不誠実さには呆れるしかない。不正を把握した時点でまずなすべきことは国民に対する事実の公表、不利益者に対する追加給付の実行、長期におよぶ不正の全容解明、責任者の処分、加えて不正期間中の統計データの信頼性の検証であったはずだ。

上記不正の波紋が広がる中、10日、総務省は「消費動向指数」の調査対象者の年齢集計に誤りがあったと発表した。年度の切り替え時に実施すべき調査対象者の年齢更新を怠ったという。こちらは発表のとおり単純な“ミス”なのであろう。しかし、政策判断の根拠となるべき公的統計、行政文書における過誤、不備は致命的である。ましてや不正、改竄、隠蔽、虚偽など、もってのほかである。宝島社が発表する新年恒例の企業広告、2019年のメッセージは「敵は、嘘。」だった。残念ながらまったくその通りである。

2019 / 01 / 11
今週の”ひらめき”視点
トヨタ、開発中の運転支援システムを公開へ。KFSは“開く”と“拓く”

1月7日、トヨタは世界最大のIT見本市CESに合わせた記者会見で、開発中の安全運転支援システム「ガーディアン」を外販すると発表した。「ガーディアン」は自動運転分野におけるトヨタの中核技術の一つで、危険を関知するとシステムがドライバーから運転を引き継ぎ事故の発生を防ぐ。別の自動運転システムの誤判断を補正することも想定されており、「ガーディアン」を搭載することでより高度な安全システムが実現できるという。

自動運転の開発競争は大手自動車からGAFAやBAT、ITベンチャーに至るまで、国境や業界を越えて熾烈化している。そうした中、“後発”と評されてきたトヨタはソフトバンクグループやウーバーテクノロジーズと相次いで提携、巻き返しをはかるとともに、「ガーディアン」の外販で標準化競争におけるプレゼンスの拡大を目指す。

メーカーが開発途上にある中核技術の公開に踏み切るのは異例である。一方、大手ITもすぐに追随してくるだろう。そもそもシステムの外販は彼らの得意分野だ。OSを押さえることで市場を寡占化し、情報を占有するノウハウはプラットフォーマーたちの独壇場であり、PCがそうであったように“ものづくり”は急速にコモディティ化するはずだ。それでも自動車産業、すなわち、未来のモビリティ産業を生き残るためにはトヨタ自身が情報サービスベンダーとしての可能性を主導し、開拓しなければならない。「100年に一度の大変革期」とトップが語ったトヨタの危機感と可能性がここにある。