今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2023 / 02 / 24
今週の“ひらめき”視点
次世代大型ロケットH3、打ち上げ延期。ドンマイ、再チャレンジに期待!

2月17日、午前10時半を回った、H3ロケット初号機の打ち上げまであと数分、筆者もあわててJAXAの特設サイトへ駆け込んだ。カウントダウンは既に始まっている。10,9,8,7,6,,,,10時37分55秒、あれ? どうした?
同日、JAXAは「メインエンジンLE-9は着火したが、1段機体システムが異常を検知、固体ロケットブースタSRB-3への点火信号を送信しなかったため、打ち上げを中止した」と発表、「早急に原因を解明し、3月10日までの予備期間内に打ち上げを目指す」と声明した。

大型ロケットH-ⅡAの後継機、H3の開発が始まったのは2014年、需要が急増する宇宙の商用衛星市場での競争優位の獲得を目指す。課題だった高コストは民生部品の転用やシステムのモジュール化によってH-ⅡAの約半分、50億円レベルに押さえた。また、多様な打ち上げニーズに対応すべくLE-9、SRB-3の基数も選択可能だ。LE-9は最大で3基、ジャンボジェット機のエンジン15基分のパワーで7トン級の衛星を静止軌道へ打ち上げることが出来る。

当初の打ち上げ目標は2020年度中、2度の延期を経ての今回だった。それだけにJAXAやプライムコントラクター三菱重工業をはじめとする開発チームの悔しさは察して余りある。また、搭載された陸域観測技術衛星「だいち3号(ALOS-3)」も同2号機が既に設計寿命を越えているだけに、こちらの関係者も嘆息を漏らしたことだろう。ただ、“予備期間” に拘る必要はあるまい。先代H-ⅡAの打ち上げ成功率は国際水準95%を上回る97.8%である。再チャレンジはこれと同レベル以上の信頼性への確信が得られてからで十分である。

2022年10月、IHIエアロスペースがプライムコントラクターを務めるJAXAの小型衛星打ち上げ用のイプシロン6号機が打ち上げに失敗した。今月7日には三菱重工業が国産ジェット(旧MRJ)の開発中止を正式に発表した。宇宙航空分野における国家プロジェクトの “悲報” が続いた直後だけに官民連携における構造的な問題を指摘する声も小さくない。とは言え、宇宙航空産業の育成に官の支援は不可欠である。したがって、これを機にあらためてプロジェクトの体制、予算、官による事業への関与の範囲、国の産業支援の在り方について検証し、次へつなげていただきたい。

2023 / 02 / 17
今週の“ひらめき”視点
深刻化する途上国の債務問題、中国を取り込みフェアな財政再建スキームを

2月17日、新興・途上国の債務問題に関する円卓会議がオンラインで開催される。会議は国際通貨基金(IMF)、世界銀行、G20の議長国インドの3者が共同議長となり、“持続不可能な債務” の解消に向けて協議がなされる。会議にはG7、中国など主要な債権国とザンビア、エチオピア、ガーナなどの債務国、国際金融協会(IIF)、国際資本市場協会(ICMA)や民間金融機関などが参加する。

会議開催のきっかけはザンビアの債務問題だ。ザンビアは銅価格の高騰を背景に対外借入によるインフラ投資を加速、とりわけ2015年に大統領に就任したルング氏が対中債務を膨張させた。結果、2020年にはユーロ債の利払いに行き詰まり、実質的なデフォルト状態に陥る。経済が混乱する中で行われた2021年の大統領選挙でルング氏は敗北、野党指導者ヒチレマ氏が勝利する。新政権は中国資本を頼った国家プロジェクトを凍結するともとに債権国に対して債務再編の要請を行う。2021年末時点での対外債務は170-200億ドル、うち対中債務は60億ドル、焦点は対中債務の処理だ。

この構図はまさに中国による “債務の罠” の典型である。中国の対外融資は融資条件が不透明で、また、公的セクターと民間セクターの線引きが曖昧であると言われる。債務問題に対しても当事国同士による交渉を優先させてきた。しかし、今回のザンビア問題では中国も国際金融の枠組みの中での協議に同意しており、その意味で前進だ。今後、引き続き顕在化してくるだろう同様の問題に対処するための先行事例となることに期待したい。

コロナ禍による観光収入の減少、ウクライナ問題に伴う食糧や資源の高騰、加えて、欧米当局の金融引締めによる通貨安が新興国の外貨流出と対外債務の返済負担を増大させる。IMFによると2021年末時点の中低所得国の対外債務は9兆3千ドルに達する。今、多額の債務を抱えたこれらの国家財政が危機に瀕しつつある。そもそも政情が安定しない中低所得国にあって格差と貧困の拡大は新たな紛争の火種となる。これ以上の分断はごめんだ。債権国は覇権的な思惑を捨て、債務国の自立再建に向けての債務整理と実効性の高い協調支援を実現いただきたい。

2023 / 02 / 10
今週の“ひらめき”視点
当社、西武信用金庫と業務提携。中小企業の可能性を引き出し、市場で輝かせる!

2月8日、当社は西武信用金庫(中野区、髙橋一朗理事長)と当社の「ビジネス原石を輝かせるプラットフォーム」事業について業務提携※1を締結した。ビジネス原石事業は、スタートアップから地方の中小企業まで、大きな可能性をもったビジネス原石を発掘し、当社が保有する市場情報、マーケティングノウハウ、人脈、信用を活用して市場で輝かせることを目的とする伴走型の成長支援サービス、埋もれたままの経営資源の利活用や新規事業の創出支援を通じて地域や産業の活性化を目指す。

一方、パートナーの西武信用金庫も1969年の発足以来、一貫して地域経済を支えてきた。67%を越える高い預貸率は信用金庫の中で常にトップクラス、創業支援から融資先の販路開拓、事業再生まで、ハンズオン型の体制で顧客をサポートする。とりわけ、多様なプロフェッショナルと連携した専門家派遣事業には定評があり、また、若手社員参加型の「地域みらいプロジェクト」や女性後継者の会「SEIBU LADY LINK」などユニークで実践的な取り組みも多い。

当社と西武信金とは中野区の産官学連携プロジェクト「一般社団法人中野区産業振興推進機構」(2013年-2022年)の理事メンバーとして9年間活動を共にしてきた※2。活動を通じて感じたことはスタートアップや中小企業に対する持続的な経営支援体制の脆弱さだ。今後、当社は西武信金の取引先企業の中から支援ニーズのある企業をご紹介いただき、支援企業とわれわれ3者間で経営戦略や支援方針について協議、支援企業の成長の実現をはかる。報酬は原則成果報酬、支援企業に寄り添った取り組みを通じて、確かな果実を共有出来ればと思う。

2月2日、政府の金融諮問会議は技術力やブランドなど事業全体を担保設定する「事業成長担保権」の創設を提案した。金融庁は早ければ2023年度内に法案を準備する方向で検討に入った。リスクマネーの少なさに加え個人保証や不動産担保に依存した日本の融資慣習は起業や成長投資の妨げになってきた。それだけに本制度が整備されることの意味は大きい。もちろん、そこでは無形資産や事業の成長可能性を評価する確かな能力が求められる。その意味において今回の提携は当社自身の事業評価能力の向上とそれを裏付ける事業創出力の強化に資するものと期待している。1件1件、しっかりと実績を積み上げてゆきたい。

※1
お知らせ 2023.2.9
※2「ICTCO解散、スタートアップの創出、育成には政策の継続性が不可欠である」今週のひらめき視点 2022.7.17 – 7.28

2023 / 02 / 03
今週の“ひらめき”視点
BYD、日本市場へ本格参入。国内EV市場の起爆剤となるか

2月2日、中国EVメーカーBYD(比亜迪)の国内正規ディーラー1号店が横浜にオープン、EV乗用車市場への本格参入を開始した。第1弾はスポーツ用多目的車「ATTO 3」、航続距離485㎞、出力150kw、欧州の安全基準「Euro NCAP」で最高評価を獲得、アルファロメオやアウディで実績のあるWolfgang Egger氏によるデザインの評価も高い。注目の価格は440万円、日産の「アリア」やテスラの「モデルY」などライバル車を2割下回る。2022年末までの累計販売台数は20万2千台、豪州やタイ市場にも参入済で欧州9ヵ国での販売も決まっている。まさに世界戦略車である。

同社EVの日本市場開拓は2015年の電気バスの販売に始まる。2020年には電動フォークリフト、2022年にはワゴンタイプの「e6」も投入、京都のタクシー会社が導入したことで話題となった。一方、乗用車ブランドとしての認知度はほぼゼロ、中国製品に対する固定観念の根強さや政治要因など不確実性も小さくない。そもそも日本のEV市場は欧米や中国に比べると圧倒的に小さい。したがって、短期的な苦戦は覚悟のうえでの参入であろう。オンラインを主力販路とせず、“2025年までに100店舗体制を構築する” との事業プランも長期戦を前提としたゆえのシナリオであり、同社の本気度を感じる。

2022年上期、BYDはテスラに次ぐ世界シェア2位に急伸した。世界のサプライチェーンが混乱する中、祖業である電池はもちろんモーターやパワー半導体など基幹部品の開発・製造を自社で手掛けるビジネスモデルによって供給の安定を維持できたことも背景にある。とは言え、乗用車としての完成度の高さが世界市場で認知されたことが最大の要因であり、世界のEV市場におけるプレゼンスは日本勢を大きく引き離したといって過言ではない。

1月26日、トヨタ自動車は、4月1日付で豊田章男社長が退任し、後任に佐藤恒治執行役員を昇格させる人事を発表した。豊田氏は「私はどこまでいってもクルマ屋、古い人間である」と前置きしたうえで、「未来のモビリティを考える新しい章に入ってゆくためには一歩引くことが必要だ」と述べた。30日、日産もルノーとの資本交渉が決着、双方が15%の相手方株式を保有する対等な関係となる、と声明した。カルロス・ゴーン氏が率いた規模の拡大による企業価値向上戦略の終焉である。言うまでもなく、背景には “100年に一度の大変革” への焦りがある。問われるのはイノベーションの創出力であり、圧倒的なスピード感だ。次世代自動車のテクノロジーはまだまだ転換の渦中にある。巻き返しに期待したい。

2023 / 01 / 27
今週の“ひらめき”視点
安全とルールに対する不誠実さが、原発問題を科学的議論から遠ざける

1月19日、東京電力は、運転開始から30年を経過する柏崎刈羽原発3号機の設備管理等の状況に関する審査書類に149ヶ所の誤りがあったと発表、原子力規制委員会に対して謝罪した。原子力規制委は記載された131ヶ所が既に審査を終えている同型の2号機のデータの流用などである点について「書類の信頼性に関わる重大な問題である」と指摘、再発防止を要請した。新潟県の花角英世知事は情報流用が組織の判断のもとで行われていたことを問題視、東電の原発運営能力についてあらためて疑念を呈した。

それにしても、である。なぜここまで安全そしてルールに対して不誠実であり続けるのか。自主点検記録の改ざん、隠蔽、最悪レベルと指摘されたテロ対策の不備、安全対策工事の完了を発表した後で発覚する未完了や不適切施行、、、問題が発生するその度に、経営幹部は頭を下げ、安全への意識改革を誓い、再発防止策を発表する。一体、いつまでこうしたことが繰り返されるのか。
東電だけの問題ではない。昨年12月には、日本原子力発電㈱敦賀原発2号機の安全審査においても不備が発覚した。敦賀2号機の審査は、資料の書き換え問題を受けて2年間中断していた。しかし、審査再開後に提出された新たな資料にも157ヶ所の不備が発覚、原子力規制委は再度の審査中断もあり得る旨、同社に注意喚起している。

昨年、国は原子力政策の転換を発表した※1。開催中の通常国会には原発の運転期間延長を認める法案が提出される。福島第一原発汚染水のALPS処理水の海洋放出の準備も進む。一方、安全性、経済性、あるいは安全保障の観点からも政策転換への賛否は割れる。海洋放出の是非が問われた2021年3月、筆者は事業者の資質、情報の公開性、原子力行政の責任の所在の明確化が汚染水処理問題を考えるための前提である、と書いた※2。何度でも繰り返そう。ここに対する信任こそが議論の出発点である。

※1
「政府、原子力に舵をきる。私たちは未来に何を残すのか、責任は軽くない」今週のひらめき視点 2022.10.2 – 10.6
※2 「汚染水の海洋放出問題、原子力政策に対する信頼の回復が鍵」今週のひらめき視点 2021.3.14 – 3.18

2023 / 01 / 20
今週の“ひらめき”視点
オゾンホール消滅へ。世界が足並みを揃えたフロン規制の成果

国連環境計画(UNEP)、世界気象機関(WMO)、米国海洋大気庁(NOAA)などで構成されるオゾン層に関する科学評価パネルは、1月9日、アメリカ気象学会の第103回年次総会で、「現在の規制が維持されるならば、南極上空のオゾン層は2066年頃までに、北極でも2045年頃まで、その他の地域でも2040年頃までにオゾンホールが出現する以前、1980年のレベルまで回復するだろう」との予測を発表した。

太陽からの有害な紫外線を遮ってきたオゾン層が、冷媒として使われるフロンによって消失する可能性があることは早くから指摘されてきた。そして、世界がそれを現実の危機として共有するのは、南極上空ではじめてオゾンホールが確認された1984年である。その5年後、フロンなどオゾン層破壊物質を規制する国際条約 “モントリオール議定書” が発効、以後、規制対象となった特定フロンの生産と利用が段階的に廃止されてゆく。結果、「現在までにほぼ99%の削減を確認、地球を覆う成層圏上部のオゾン層は順調に回復しつつある」(UNEP)という。

特定フロン(CFC、HCFC)の代替として普及した冷媒は “オゾン破壊係数” ゼロのHFCである。ただ、HFCは、CO2と比較して何倍の温室効果があるかを示す “地球温暖化係数(GWP)” の値が高い。当初、家庭用エアコンなどで主流となったHFC(R-410A)のGWP値は2090倍、これに代わりつつあるHFC(R-32)も同675倍である。モントリオール議定書は2016年に改定、HFCを強力な温室効果ガスと位置づけたうえで段階的な削減を義務付けた(キガリ改正)。

日本もキガリ改正の着実な履行に向けてフロン対策を強化する。HFCの低GWP化目標を2030年に450倍、2036年には10倍程度以下に設定するとともに、次世代グリーン冷媒の開発、既存機器からの漏洩対策、廃棄機器からの冷媒回収の徹底、を官民連携のもとで推進する。
今回の成果を受け、WMOのPetteri Taalas事務総長は「オゾン対策の成功は気候変動対策の先行事例である」と声明した。恐らく、新たな分断に直面する世界へのメッセージでもあろう。地球課題への対応は待ったなしである。戦争などしている時ではない。