今週の"ひらめき"視点

2018 / 03 / 30
今週の”ひらめき”視点
自動運転社会の実現にむけて。問われるのは運転“技能”の向上

2020年の実用化に向けて政府は自動運転に関する法整備の大綱案を取りまとめた。2018年夏までに装備や走行条件に関するガイドラインを策定すること、ドライブレコーダー等の走行データ記録装置の搭載義務化などが盛り込まれる。

大手自動車、グローバルIT企業を筆頭に自動運転の実用化競争は熾烈化している。そうした中、3月18日、自動運転車によるはじめての死亡事故が起きた。米アリゾナ州はウーバーに対する実験認可の取り消しを発表、トヨタも北米での一時的な実験自粛を決めるなど業界に衝撃が走った。
とは言え、自動運転への流れが変わることはない。独アウディは世界ではじめて「レベル3」(条件付自動運転)を搭載した上級モデルを今年から市場投入する。技術は確実に今回の事故を乗り越えるだろう。

一方、走行基準に関するルールづくりの遅れは否めない。国内では「自動運転車両への免許制度」の提唱もなされ始めた。道交法を遵守し、交通安全ルールに従って運転操作ができるか、について最低限の基準を設けそれを公的に認証する、ということだ。一理ある。ただ、ハードウェアとしての技術基準と交通ルールやマナーなどソフトにおける技術的洗練をどのレベルで評価づけるのか、容易な作業ではないだろう。
いずれにせよレベル4(高度自動運転)は既に技術的には射程内にある。今後、問われるのはまさに“技能”の向上である。車両の外側にある運行支援システムはもちろん、社会全体での受け入れ体制づくりが必須であろう。レベル3のその先を見据えたレギュレーションや社会規範をどう作ってゆくのか、日本のイニシアティブに期待したい。

2018 / 03 / 23
今週の”ひらめき”視点
中国の民主化、遠のく。習近平モデルの拡散を懸念する

2月16日付の本稿でモルディブの非常事態宣言とその背景にある中国への懸念を伝えた。その非常事態が22日にも解除されるという。ヤミーン政権は反政府すなわち反中国派の排除に成功したということか。

その2日前、2期目がスタートした習近平氏は全人代で国家運営の基本方針を示した。「中国は永遠に覇に訴えず、拡張を図らない」と語る一方で、世界一流の軍隊を形成する、国際秩序に積極的に関与する、偉大な領土を一寸たりとも分割させない、すべては党が指導する、中華民族の偉大なる復興を実現する、とのメッセージを国内外に発信した。

1978年、改革開放に舵を切った鄧小平氏は最高指導部に定年と任期制限を設けることで権力の長期占有と個人崇拝の再発を封じた。経済発展はやがて中国に民主化をもたらすだろう、と世界は楽観した。しかし、独裁への歯止めは習氏によっていとも簡単に外された。

アラブの春は中東から安定を奪った。新自由主義は格差を助長した。分断された側、取り残された側の声が大きくなりつつある中、統制と排除の論理が拡散する。
民主化と人権を世界戦略の旗印に掲げてきた米国が自国第一主義に引き籠る中、習氏による一党独裁型の政治スタイルが新興・途上国の少なからぬ為政者たちを勇気づける。

2018 / 03 / 16
今週の”ひらめき”視点
両備グループ、バス路線の廃止届けを撤回。地域の未来は本当に見えたか

3月14日、両備グループ小嶋光信代表は2月8日に中国運輸局に提出した赤字31バス路線の廃止届けを撤回すると発表した。
この問題は2月23日付けの本稿でもとりあげた。“赤字路線の運行を支えている特定黒字路線への格安事業者による新規参入”が事の発端である。

両備は当初から「廃止そのものが目的ではない。地域の公共交通を守るための問題提起」とその狙いを説明してきた。会見では届出撤回の理由を以下のように語った。

・石井国交相が「各地域のバス事業の状況を把握・検証したうえで、公共交通維持に対する取り組みを支援する」と表明した
・運輸局、県および関係4市と路線維持に向けての協議の場を設けることで合意した

つまり、問題提起に対して一定の成果があった、ということである。とは言え、このタイミングでの撤回は「入学や入社の節目となる4月を前に、市民や利用者の不安や心配を取り除く」ことが優先されたものと推察する。
確かに岡山における関係者間協議の開催は一歩前進である。しかし、解決の方向性が定まったわけではないし、地方のみならず都市部を巻き込んだ全国的な議論になったかと言えば甚だ心もとない。

北海道ではJRが「単独での維持は困難」と公表した10路線13線区の沿線で関係者による協議が始まっている。バスによる代替輸送も選択肢の一つであるが、コストが移動するだけの“代替”で問題は解決しない。デマンドバス、貨客混載、乗合タクシー、コミュニティバス、上下分離、自動運転など、アイデアは一つではないだろう。しかし、需要そのものが構造的に縮小する中にあって、沿線当事者の地域リソースのみで問題を解決するには限界がある。
国交省は「国土のグランドデザイン2050」で“各地域が主体性を確立し、固有性を深め、多様性を再構築する”ことを理念に掲げた。異論はあるまい。であれば、まずは議論の土台となる地域の特性と問題を客観的に把握すること、そして、地域の可能性を引き出すためにすべての政策統合をはかってゆくことが肝要である。地域交通は国交省だけの問題ではない。国力の源泉たる地域の存続をはかるために何が出来るか、私たち一人ひとりが当事者である。

2018 / 03 / 09
今週の”ひらめき”視点
トランプ氏、鉄鋼、アルミの輸入関税に強硬姿勢。WTO体制、揺らぐ

1日、トランプ氏は日本を含むすべての輸出国を対象に鉄鋼製品に25%、アルミ製品に10%の関税をかけると発表した。当初は中国を含む特定12ヶ国に絞った高関税も検討されたとのことであるが、最終的に全輸出国を対象とした案が選択された。
EUは直ちに反発、米に対する報復を警告、これに対してトランプ氏は「貿易戦争、上等。勝てる」と応じ、欧州車に35%の関税をかけると宣言した。
中国も米国産大豆の輸入制限を検討するなどEUと連携して対抗措置を講じる構えであり、世界貿易は報復と脅しの応酬という異常な様相を呈し始めた。

トランプ氏は今回の決定に際して貿易不均衡、雇用喪失といった経済・通商上の問題に加えて、“安全保障上の脅威”を強調する。一方、カナダ、メキシコに対しては「NAFTAで譲歩すれば対象から外す」ことを示唆するなど、“個別取引における条件交渉”であることも隠さない。いずれにせよ原価増が見込まれる自動車、資源、飲料業界はもとより、報復対象となる第一次産業、為替、債権、株のトリプル安が懸念される金融市場など米経済界からも批判が相次ぐ。

昨年末、トランプ氏は1.5兆ドルもの大型減税を成立させた。しかし、その原資となる財政を支える米国債の4割は外国勢が保有しており、最大の債権者は中国である。振り上げられた拳が「取引」の次元を超えて本当に貿易戦争へと向かうとすれば、米国が被る経済的な代償と外交上のリスクはあまりにも大きい。世界からの信任は揺らぎ、分断は更に深まる。
さて、中国に次ぐ米国債の保有国である日本は、3月6日現在、「影響を精査する」「協議を続けたい」などといつもどおりの対米スタンスを貫く。自由貿易の側に立ち、これを主導する好機がすり抜けてゆく。

2018 / 03 / 02
今週の”ひらめき”視点
中間層の月額基本給、前年割れ。成長の恩恵はどこに?

厚労省は28日、2017年の「賃金構造基本統計調査」を発表した。男性の月額賃金は335.5千円(43.3歳、勤続年数13.5年)、女性が同246.1千円(41.1歳、同9.4年)となった。
雇用形態別の前年比は男性が正社員で▲0.2%、正社員以外が▲0.4%、一方、女性は正社員、正社員以外ともに+0.6%、企業規模別では大企業が▲0.4%、中企業は▲0.6%、小企業が+0.9%となった。また、35歳以上の男性は正社員・正社員以外のいずれもほぼすべての年齢層※で前年を下回った。
※60-64歳の正社員のみ前年比プラス(+2.1%)

人手不足が深刻化する中、若者、女性、従業員99人未満の小企業など、賃金がそもそも低い層に対してささやかな待遇改善が行われる一方で、中堅企業や大企業が中高年男性の賃金抑制をはかっている構図が浮かんでくる。
こうした状況は所謂「トリクルダウン効果」が目指した好循環とはまったく異なる様相を呈していると言え、3%の賃上げという政治の掛け声が空しい。
2017年の家計消費支出(二人以上の世帯)は4年連続で実質減少となった。年金保険料のアップなど給与所得者の可処分所得が押さえつけられる中、消費税率の引き上げ、更には高額給与所得者に対する増税が控える。“分厚い中流層”の再生は更に遠のく。

2018 / 02 / 23
今週の”ひらめき”視点
両備グループのバス廃止問題、問われているのは日本の未来

8日午前、両備ホールディングス(岡山)は県内で運行している全78バス路線の4割に相当する31の赤字路線の廃止届けを国交省中国運輸局に提出したと発表した。この背景には赤字路線の運行を支えてきた主力路線への参入を仕掛けた新興の格安バス事業者「八晃産業グループ」の存在がある。
両備グループの小嶋光信代表は「廃止するために廃止届けを出したのではない。地方の公共交通の存続を賭けた問題提起である」と語った。“たま駅長”で一躍有名になった和歌山の貴志川線や中国バスなど地方公共交通の再生に尽力するとともに、補助金に頼らない自立経営のもと県内の不採算路線を維持してきた両備グループの問題提起は廃止対象となった沿線住民からも支援の声があがる。

一方、国交省は発表があった当日、そして、17時過ぎという異例とも言える時間帯に八晃グループの申請を認可した。急いだ理由は不明である。単なる手続き上の偶然かもしれない。ただ、こうした流れを受けて、15日、岡山市、玉野市、倉敷市、瀬戸内市など関連自治体は岡山県に対して地域公共交通活性化再生法にもとづく協議会の設置を急遽要請、県もこれに応じる構えだ。

今、乗合バス事業者の2/3が赤字であり、とりわけ、地方路線は苦境の中にある。背景の一端に2000年、2002年に実施された貸切バス、乗合バス事業の規制緩和があることは言うまでもない。もちろん、市場原理の導入そのものを否定するものではない。とは言え、安全性と安定性が高いレベルで求められるバス事業の公益性を鑑みれば全国一律適用の自由化の弊害は小さくないし、ましてや地方の特定採算路線への限定参入はフェアではあるまい。

運転免許の返上を後期高齢者に求めるのであれば代替交通の提案が必要だ。少子化対策の一環として教育の無償化を導入するのであれば通学の足を確保するのは当然だ。
両備グループが投じた問題は岡山のバス利用者に限定されるものではなく、また、“地方”に固有の問題として扱われるべきものでもない。地方創生、少子高齢化、GDP600兆円、人口1億人の維持、これらの政策との整合性はとれているのか、公共交通を失った地方に未来はあるのか、地方のない国土に魅力はあるのか。問われているのは日本の未来そのものである。