今週の"ひらめき"視点

2020 / 03 / 19
今週の“ひらめき”視点
新型ウイルスに萎縮する世界、英国の“集団免疫理論”は有効か

新型コロナウイルス感染症が世界に広がる中、各国は一斉に金融緩和に舵を切った。16日、日銀もETFの買い入れ額を倍増すると発表、翌17日には1日あたりの過去最大1,800億円を投じた。しかし、株価下落の歯止めにはならず、返って、増大する含み損が明らかになることで政策効果への不信が募った。日銀は「リーマン・ショックほど経済は落ち込まない」との見解を表明したが、18日に発表された貿易統計の速報がそれを打ち消す。2月、中国からの輸入は前年比マイナス47%と激減した。文字通り中国からの部品、製品の仕入れが半減したということであり、国内の生産、販売への影響はこれから顕在化する。今、流行は欧州、米国、アジアへ拡散した。国境の封鎖や行動制限が世界に広がる中、世界規模で生産が滞り、市場が縮小しつつある。 “行き過ぎたグローバリズムへの反動” といった文脈を飛び越えて、世界は一挙に閉じつつある。

こうした中、12日、英国のボリス・ジョンソン首相が発表した対策が注目される。まず、「英国はイタリアより4週間遅れている、これから大規模な感染が予想される、多くの家庭で家族や親友が失われる」としたうえで、「英国は封じ込めではなく、ピークを遅らせ、ピークを50%に抑えることでリスクを最小化する。よって、当面、学校は閉鎖しない、イベント禁止は効果が小さいので行わない、渡航制限も追随しない」とした。そして、「新型ウイルスは感染しても多くの場合、軽症である。ゆえに高齢者や持病を持つ人など重症化しやすい弱者対策に集中する」との医療方針を示した。
こうした考え方は、人口の6割程度の人が感染し、免疫保持者となることで感染を収束させる集団免疫理論にもとづくという。ジョンソン氏は最高医療責任者と主任科学顧問を伴って、政策選択の根拠を示したうえで、「自粛行動は長期にわたって維持できない。ゆえに社会リスクを疫学的に最小化する」ことを国民にメッセージした。

集団免疫理論の採用には反対意見も根強い。「制御不能」となる事態を懸念する専門家も多く、「当面はしない」とした学校閉鎖は、「感染スピードが予想以上に速い」との理由でわずか6日後に撤回、方針転換を余儀なくされている。しかし、トップがその責任において選択した政策を、その根拠を明示したうえ国民に説明したことは、政策評価の基準を持つという意味において正しい。
ウイルスとの戦いはまだ第1コーナーを回ったばかりだ。各国の知見や経験を共有しつつ、最高レベルの専門家を交えたオープンな議論の中で、タイムラインを伴った総合的なウイルス対策を策定していただきたい。それこそが経済の不透明感と社会不安を払拭する最良のメッセージとなる。

2020 / 03 / 13
今週の“ひらめき”視点
東日本大震災から9年、被災は未だに進行している

2011年3月11日から9年が経過した。明日から「復興・創生期間」の最終年となる。「東日本大震災からの復興に向けた道のりと見通し」(令和2年3月版、復興庁)によると災害公営住宅、防災集団移転事業の計画達成率は99%、復興道路は76%の整備が完了、海岸対策も99%が着工、66%が完成済みだ。双葉町では帰還困難区域の避難指示が一部で先行解除、これにより全町が避難状態にある自治体は無くなった。14日にはJR東日本の常磐線が全線開通、特急 “ひたち” が仙台と都心を結ぶ。バス高速輸送システム(BRT)に転換した路線も含めると被災路線のすべてが復旧することになる。

宮城、岩手、福島3県の県内総生産は震災前の水準を取り戻した。津波によって被災した農地の92%が営農可能に(2019年3月)、被災水産加工施設も96%が再開した(2019年1月)。昨年9月には気仙沼の造船所4社が合併した新会社「みらい造船」の新工場が完成、漁船の造船・修理に特化した東北最大級の造船所がスタートした。月内には福島イノベーション・コースト構想にもとづくロボット実証実験施設「福島ロボットテストフィールド」も全面開所する。50㌶におよぶ敷地には500m級の無人航空機用の滑走路や水中・水上の実験施設が備わる。双葉町や大熊町でもエネルギーの地産地消プロジェクトが立ち上がる。“2011年時点” からの延長線上にはなかった新たな事業が被災地の可能性を拓く。

一方、依然として4.8万人が避難状態にある。避難の長期化に伴う災害関連死も3,757人に達した。復興はまだまだ道半ばであり、“被災” は終わっていない。切り裂かれた日常は置き去りにされたままである。その象徴がフクシマである。昨年末、政府は1、2号機の使用済核燃料の搬出開始を2023年度から5年遅らせることを決定した。工程表の改定はこれで5回目だ。中間貯蔵施設の整備も遅れている。放射性汚染土を収めたフレコンバッグ412万袋が仮置き状態のままである。日々増え続ける膨大な汚染水の問題もある。海洋放水が現実的であるとの流れに傾きつつあるものの漁業者の反対は根強い。

昨年10月、台風19号によって氾濫した河川が多数の汚染土入りフレコンバッグを押し流した。その一部は未だに個数も所在も不明のままである。汚染水の海洋放出問題ではトリチウム以外の放射性物質が基準値を越えて残留している可能性も指摘される。そうであればそもそもの前提が危うい。
先月、原子力規制委員会は、敦賀原発2号機の再稼働審査において日本原子力発電から提出された書類の中に “データの書き換え” や “削除” があったと発表、「考えられないことだ」としたうえで「審査の根幹が揺らぐ」と批判した。関西電力の金品不正授受の問題も記憶に新しい。原子力災害は目に見えない。ゆえに政府、行政、企業、技術、データに対する “信頼” がすべての根幹となる。まずは「アンダーコントロール」という嘘を捨て去り、事実を公開し、共有すること、福島の復興はここが原点でなければならない。

2020 / 03 / 06
今週の“ひらめき”視点
ゼロックスのM&A戦略が事務機器市場の構造変化を加速する

3月2日、米ゼロックスは米HPに対してTOBを宣言した。これに即座に反応したのはキヤノンだ。同社会長の御手洗氏は、ゼロックスによるTOBが成立した場合、HPとの提携関係を終了させる可能性がある、とメッセージした。キヤノンはHPのレーザープリンターに基幹部品を納めるサプライヤーだ。HPとの取引額は売上の14%に達する。2019年決算が減収減益となったキヤノンにとって重要顧客を失うことのインパクトは大きいだろう。しかし、それでもゼロックス=HP連合の誕生はキヤノンにとってより大きな脅威になるということだ。

ペーパーレス化が進展する事務機器市場は成熟市場である。しかし、ITソリューションのプラットフォームとなる複合機市場とアジア市場は商品開発力、サービス提案力、営業力による開拓余地が残る。
従来、世界の複合機市場は、ゼロックス+富士ゼロックス連合、リコー、キヤノン、コニカミノルタの4グループがそれぞれ15-18%のシェアで拮抗してきた。しかし、昨秋、ゼロックスと富士フィルムが資本提携を解消、これによりゼロックスはアジア市場の独自開拓が可能となる。

とは言え、販路やアフターサービス体制の構築は容易ではない。そこでHPである。HPは企業向けサーバーやプリンターがアジアで伸長、日本を除くアジア大洋平エリアの売上は全売上の11%を越える。複合機以外の製品ラインアップが厚いHPと絶対的なブランド力を有するゼロックスの組み合わせは既存プレーヤにとって侮れない。キヤノンとしては敵の傘下となるHPに「塩を送り続ける」ことは出来ないということだ。

ところで、そもそもの発端は富士フィルムHDによるゼロックス買収の頓挫であり、当然ながら富士ゼロックスも戦略の修正を迫られる。昨秋の会見では、「富士フィルムグループ内のシナジーを加速する。富士フィルムの画像処理技術と富士ゼロックスの言語処理技術を応用し医療分野を強化する」ことが強調された。とは言え、商標使用や販売エリアを規定したゼロックスとの契約が終了する2021年4月時点での主力事業はやはり複合機を軸としたドキュメント関連事業である。ゼロックスブランドに依存しない戦略が問われる。

この1年間で市場環境はどう変化するか。現時点でHP経営陣はゼロックスの提案を拒否、「ポイズンピル」の導入、150億ドル規模の自社株買いで対抗する。TOBの成否は不明であり、また、例え成立したとしてもPMIで失敗する可能性もある。あるいは成否に関わらず今回の動きが京セラや東芝テックなど第2グループを巻き込んでの業界再編に発展する可能性もある。いずれにせよ業界再編の鍵はHPの既存株主が握っている。TOB、そして、総会に向けて本格化するプロキシーファイトの行方を注視したい。

2020 / 02 / 28
今週の“ひらめき”視点
新型コロナウイルス、影響は深く、広範に。短期収束に全力を

中国の湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスは、今や世界にとって「対岸の火事」ではなくなった。既にアジアから欧州、中東、北米、南米、アフリカへ感染範囲は広がっており、WHO健康危機管理プログラムの責任者マイク・ライアン博士は「パンデミックに備えるべき段階にある」と警告する。「世界の生産額が全体で1兆1千億ドル減少する」(オックスフォード・エコノミクス)との予測も発表された。
日本経済への影響ももはや「サプライチェーンの機能不全」や「インバウンド消費の喪失」といった “限定的” なものではない。まさに感染の当事国として、その内側からじわじわと “停滞” が進行しつつある。

26日、首相は国内のスポーツや文化イベントの開催を2週間中止するよう要請した。ただし、判断は主催者に委ねられた。地方自治体、民間はそれぞれの責任において続々とイベントの中止を決定する。初動対応が後手に回った現状にあって、大規模集会の中止は一定の効果があるだろう。しかし、問題は、いつまで自粛を続けるのか、ということだ。政府専門家会議は「この1、2週間が瀬戸際」であると指摘するが、この期間での収束を本気で目指すのであれば果たしてこの “要請” だけで十分であろうか。とは言え、Jアラートを鳴らすことで「やってる感」を演出するようなパフォーマンスは勘弁願いたい。2週間であればリカバリーできる。事業者支援、事後対応を含むあらゆる施策を準備、総動員し、総合的で集中的な施策パッケージを実行して欲しい。

25日、IOCのディック・パウンド委員が東京五輪の「開催判断の期限は5月下旬」との見解を表明した。開催可否の判断時期としては適切であり、かつ、それがギリギリのタイミングであろう。これに対して日本側は「公式見解ではない」「予定通り開催する」と反発する。
しかし、“絶対安全” が絶対でなかったゆえの悲劇が未だに続く日本にあって、絶対開催などと叫べば叫ぶほど、そのリアリティは失われてゆく。
絶対でないことを前提にいかなる事態にも対応できるシナリオを用意することこそ主催国、主催都市の責任である。関係者には目の前の現実を正しく受け止め、世界と未来に誇れる判断をしていただきたく思う。

2020 / 02 / 21
今週の“ひらめき”視点
続)“おもてなし”はタダではない。フリーター依存社会は続かない

19日、ファミリーマートが全社員の15%、1,025人の希望退職を発表した。募集対象は40歳以上、経営側が予定した人数は800人、しかし、最終的に1,111人が応募、業務への支障が見込まれる社員を外したうえで正社員924人、非正規社員101人が3月末日付けで退職する。希望退職による追加費用は約150億円、この2月期決算で費用計上する。
成長性と高収益性で流通革命をけん引してきたコンビニエンス業界にあって、想定以上の “本部” 社員がその将来に見切りをつけた。まさに業界が転換期にあることの証左である。

総務省が14日に発表した「労働力調査」によると、2019年のフリーター人口は138万人、前年比で5万人減、2010年からこの10年間では44万人の減少である。直接的な要因は大卒就職内定率の上昇である。要するに “望まないフリーター” が減ったということだ。一方、35歳から44歳の “先輩フリーター” は45万人から53万人へ拡大、これは非正規雇用者全体が1,763万人から2,165万人へ拡大していることと軌を一にする。つまり、フリーター状態に置き去りにされた人が累積しつつあるということだ。
政府もこうした状況を “社会問題” と認識、「就職氷河期世代支援に関する行動計画2019」を策定し、“今後3年間に集中的に取り組む” とする。

公的支援の在り方と限界については別の機会に述べる。ここではファミリーマートのリストラの背景に加盟店、つまり、営業の最前線における要員不足と人件費高騰があることを指摘したい。本部社員減員による費用削減効果は約80億円、同社はこれを急激な経営環境変化に苦闘する加盟店支援に振り向けるという。つまり、コンビニエンスストアというビジネスモデルは低賃金で、かつ、不安定な雇用条件のもとにある若年非正規従業員、言い換えれば、無限に供給されるフリーターの存在を抜きには成立し得なかったということである。コンビニだけではない。外食も同様だろう。要するに接客に象徴されるサービスコストがいかに都合よく簿外化されてきたか、ということである。

“日本式おもてなし” などと精神論を振りかざし、無償の奉公を美徳として強要する経済システムは終焉した。フェアであれ、社会全体がこれを受け入れるだけでサービス業の生産性は格段に向上する。

2020 / 02 / 14
今週の“ひらめき”視点
業界再編、企業は撤退がもたらす地域の喪失をどう埋め合わせるのか

2月7日、日本製鉄(旧新日鐵住金)は2020年3月期の当期連結最終利益が4,400億円の赤字になるとしたうえで、2023年9月をもって呉製鉄所を閉鎖すると発表した。
呉製鉄所は1951年、呉海軍工廠の跡地に誕生、以来、戦後の復興とともに地域経済をけん引してきた。それだけに呉市と広島県にとっては衝撃だ。協力会社を含めると従業員は3,300人、県内の取引先企業は117社におよぶ。2018年の豪雨災害をようやく乗り越えつつあった地元への影響は甚大である。市は相談窓口の設置を決定するとともに県、地元経済界、金融機関と連携し、雇用対策を講じるという。

「鉄冷え」の影響は日本製鉄に止まらない。2020年3月期、JFEホールディングスも連結事業利益が前期比92%減となると発表、神戸製鋼所の鉄鋼事業も250億円の経常赤字を見込む。需要の伸び悩み、中国勢の躍進、原料の高止まりを受けて汎用鋼材分野における輸出競争力は低下、一方、品質面においても日本勢の絶対優位は失われつつある。結果、個社における目先の施策は生産拠点の集約を含む生産設備・製造品目の構造改革しかない。

鉄だけではない。セメントも外部環境は同じだ。12日、宇部興産と三菱マテリアルは2022年4月を目途に新会社を設立、セメント事業を統合すると発表した。両社は1998年に「宇部三菱セメント」を設立、販売と物流部門を既に統合しているが、新会社はこれを吸収合併、生産から販売に至る完全な垂直統合を目指すという。
統合の目的が合理化である以上、タテだけでなくヨコ、つまり、拠点集約は避けられない。宇部興産のセメント工場は山口県宇部市、美祢市、福岡県苅田町にある。三菱マテリアルの工場は青森県下北郡、岩手県一関市、埼玉県秩父市、そして、北九州市に2か所だ。いずれそれらのいくつかが呉と同様の立場に置かれる。

鉄鋼、鉱業、セメント業の未来を、現状のままかつての延長線上に引き戻すことは出来ない。ゆえに移転も閉鎖も経営判断として正しい。しかし、地域に逃げ場はない。企業は合理化という “撤退戦” が生み出した時間と資本をどう使うのか。せめて再び世界と戦える体制を築き、その果実をもって地域という “ステークホルダー” が提供してきた有形無形の財に対する配当としていただきたい。