今週の"ひらめき"視点

2018 / 06 / 08
今週の”ひらめき”視点
貿易戦争下でのG7、米の「孤立への暴走」を止められるか

明日からG7首脳会議が開催される。しかし、通商問題における対立は深刻だ。サミットの前哨戦となった財務省・中央銀行総裁会議では、米国に対する「懸念と失望」が議長声明として発表されるなど、日欧加と米との亀裂は決定的となった。
とりわけ、欧州勢は鉄鋼・アルミ関税に関する協議で米側が「輸出数量規制」を持ち出したことに強く反発した。WTOルールを無視した米国の一方的な交渉姿勢に会議は紛糾、結果、米国の孤立が際立つこととなった。

一方、トランプ氏は「貿易戦争には負けない」との従来どおりの強硬姿勢を崩さない。「G7への不参加、つまり、ボイコットもあり得る」との声すらあがる。
パレスチナ、イラン、パリ協定、、、国際協調の前提が米国の単独行動によって揺らぐ中、G7内の決定的な亀裂は世界の混迷要因にしかならない。北朝鮮、シリア問題、対中国、対ロシアという文脈においても同様である。米国の孤立は世界にとって大きなコストとなる。シャルルボワ・サミット(カナダ)で試されるのはまさにG6側の「覚悟」である。

かつて、中国は“朝貢貿易”で繁栄を極めた。中国に貢ぎ、中国から恩寵を受け取るという特殊な貿易形態が成立した。貿易のコストは相手国側が負担した。それゆえ、中国は海運つまり海の覇権に関心を持つ必要がなかった。しかし、これが後の衰退につながる。
今、目先の貿易利益の拡大に奔走するトランプ氏、果たしてそれは将来の何と“トレードオフ”されるのか。米国もまた大きな岐路にある。

2018 / 06 / 01
今週の”ひらめき”視点
政府、外国人労働力の拡大を「骨太方針」に。“共生”に向けての社会的コンセンサスは十分か

政府は外国人就労者の拡大に向けた新制度を「骨太方針2018」に盛り込む。外国人の一般労働者を受け入れる大義を「新興国の技能取得支援」から「国内の労働力不足の補完」へ実質的に転換する。
新制度の名称は“特定技能(仮称)”、5年間の技能実習を終えた就労者が業界団体等による技能試験に合格すれば更に最大5年間の就労が認められる。
具体的な数値目標も発表された。介護が毎年1万人、農業は2023年に現在の3.8倍10万3千人、建設は2025年で現在の5.5倍30万人以上、造船は2025年までに2万1千人、宿泊は現在の2.2倍2万1千人、留学生の就労についても規制緩和や手続きの簡素化が検討されているという。

しかし、4月12日付けの本稿でも指摘したとおり新制度の本質は依然“技能実習”のままである。家族の帯同は認められず、また、永住取得条件は直ちに満たされない。
OECDの外国人移住者統計によると2015年の日本への外国人流入者(ビザを保有し90日以上在留)は前年比5万5千人増の39万人、日本はOECD加盟35カ国中、独、米、英に次ぐ第4位の「流入大国」であり、実際、国内で就労する外国人は128万人に達する(2017年10月、厚生労働省)。
もはや、労働移民を認めないという“建前”の維持は困難であり、建前と現実とのギャップは無用な社会的トラブルの誘引となりかねない。在留外国人を社会に組み入れるためのソフト、ハード両面における体系的な準備を急ぐべきであり、一方で「日本の未来」に関するビジョンはきちんと描けているのか、もう一度問い直す必要がある。

2018 / 05 / 25
今週の”ひらめき”視点
是枝裕和監督、カンヌ最高賞を受賞。心を揺さぶる作品は“クールジャパン”を超克する

第71回カンヌ国際映画祭で是枝裕和監督の「万引き家族」がコンペティション部門の最高賞“パルム・ドール”を受賞した。日本映画の最高賞受賞は1997年の「うなぎ」(今村昌平監督)以来21年ぶりの快挙である。
また、コンペティション部門では「寝ても覚めても」(濱口竜介監督)、“監督週間”ではアニメ「未来のミライ」(細田守監督)、短篇部門でも「どちらを選んだのかわからないが、どちらかを選んだことははっきりしている」(佐藤雅彦、河村元気、c-project)が上映されるなど、日本映画のクオリティの高さはカンヌでも多いに注目を集めたという。

国内では、政府が進めるクールジャパン戦略にとって追い風、といった声もあがった。しかし、その推進役である官民ファンド「海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)」の苦戦ぶりはこの4月に発表された会計検査院の報告からも明らかである。
同機構は2013年11月に資本金375億円でスタート、2017年末時点では630億円へ増資、政府負担は300億円から586億円へ拡大した。この間に投資した案件は17件、2017年3月末時点における支援案件の損益は▲4,459百万円、累積利益剰余金は▲5,850百万円である。80言語以上に対応したローカライゼーションの基幹インフラ、オール日本コンテンツの有料衛星放送チャンネル、、、大型投資案件の多くが厳しい状況にある。

日本のカルチャーを世界に発信することに異論はない。とは言え、より重要なことは普遍的なコンテンツの創造であって、戦略的プラットフォーム、基幹インフラ、拠点ネットワーク、、、といったいかにも“霞ヶ関”好みのビジネスモデルから世界に通用する作品が生まれるわけではない。まず取り組むべきは創作、創造、製作現場に対する長期的な支援体制の構築である。
尚、私事ではあるが21年前に“パルム・ドール”を受賞した今村作品では、友人である梶川信幸氏が制作主任として映画づくりに参画していたことを思い出した。あらためて誇らしく思う。

2018 / 05 / 18
今週の”ひらめき”視点
東芝、メモリー売却の最終期限迫る。IPOの選択肢も浮上

15日、東芝は2018年3月期連結決算を発表、売上高は前期比2%減の3兆9475億円、当期利益は8040億円の黒字、自己資本は7831億円のプラス、2期連続での債務超過を免れたことで上場維持が確定した。
とは言え、最終損益を押し上げたのは原発子会社WHの債権譲渡益など一時的な要因であり、売却を前提としたメモリー事業が連結から除外されたこともあり営業利益は22%減の660億円にとどまった。

東芝は2019年3月決算で、メモリー事業の売却益9700億円を見込む。しかし、中国の独禁法審査の最終期限が28日に迫る中、承認の可否は依然不透明な状況にある。
決算説明会では「売却方針に変更はない」と言明したが、ここへきて「売却を中止し、IPOを目指す」ことも検討されている、とのニュースが流れる。

巨額な設備投資を必要とするメモリー事業で競争力を維持し続けることは容易でない。ライバル「サムスン」との体力差も大きい。スマートフォンの成長にも陰りが見える。しかし、事業売却、大型増資、子会社処分等を通じて債務超過を解消し“上場”に踏みとどまった今、高く売れる事業、つまり、稼ぎ頭でもあり、成長可能性でもある事業をあえて手放すことの是非を再考すべきであろう。
メモリー事業を抱え込むリスクは大きい。しかし、売却によって得た多額のキャッシュを投下するに値する事業戦略はあるのか。東芝は自身の未来をどう描き、そこに何を賭けるのか、問われているのは次世代戦略そのものである。

2018 / 05 / 11
今週の”ひらめき”視点
トランプ氏、イラン核合意からの離脱を表明。国際協調体制、再び揺らぐ

8日、トランプ氏はかねてから批判し続けてきたイラン核合意からの離脱を正式に表明、「最高レベルの経済制裁」を科すと宣言した。
英独仏は直ちに“合意継続”を発表、イランのロウハニ大統領も対米非難を強めながらも当面は“米抜き合意”を維持したい旨声明した。

2015年、主要6ヶ国(米英独仏中露)はオバマ氏主導のもと核開発の制限と経済制裁の解除についてイランと合意した。
制裁解除後のイランは翌年に輸出が3割増、輸入も2割増となるなど、経済は徐々に正常化に向かいつつあった。とりわけ中国の動きは早く、合意直後の2016年1月には習近平氏が外国元首としてはじめてイランを訪問、エネルギー、インフラ、IT、金融など17分野において10年間で貿易総額を6千億ドルへ拡大するとの覚書を締結、独仏をはじめとする欧州勢も対イランビジネスを活発化させてきた。
人口8千万人を擁するイランは治安も比較的安定しており、成長ポテンシャルは高い。一方、中東情勢は依然として混迷の中にある。シリアにおけるイラン・ロシアVS欧州・米国との対立も深刻だ。パレスチナも極限状況にある。それゆえにイラン核合意は中東の安定に向けての所与の前提条件であり、拠り所の一つであった。

トランプ氏は、原油代金の決裁のためにイラン中央銀行と取引する外国銀行に対して180日間の猶予後に制裁を発動する、と言明した。日本は経済制裁中にあってもイランからの原油輸入を継続、全体の7%をイランに依存している。影響は避けられない。更に、イラン核合意に対する強硬姿勢は「北朝鮮に向けてのメッセージである」とも言う。朝鮮半島情勢緩和への期待が高まる中でのトランプ氏からの言わば“冷や水”は、中東、東アジアの未来を再び不透明にするだけでなく、経済活動の萎縮、反米・対米不信の拡大、主要国の利害錯綜を招く。結果、高まるのは中国のプレゼンスである。であれば米国にとって決して“良いディール”ではあるまい。いずれにせよ世界が負担する代償は小さくない。

2018 / 04 / 27
今週の”ひらめき”視点
福島の原状回復に向けて、官民の枠を越えた長期的な研究体制の構築を

筆者は一昨年、岐阜県多治見の窯業原料メーカー㈱ヤマセとともに、タイルの製造工程で廃棄される黒雲母を「除染の現場で活用して欲しい」と日本原子力産業協会を介して働きかけた。黒雲母は放射性セシウムの吸着力が高く、溶出させないという物理的特性を持つ。残念ながらその時点で除染工程は終盤期にあり、採用は見送られた。そして、2018年3月、“汚染状況重点調査地域”に指定された36市町村の面的除染はすべて終了した。
とは言え、除染の完了は放射性物質の消滅を意味しない。住民の生活圏にあった放射性物質を“集め”、生活圏外へ“移動”させただけである。

黒雲母のセシウム吸着について学術的な研究を行なってきた東京大学大学院地球惑星科学の小暮博士は、「長期間にわたってセシウムを固定させる黒雲母は中間貯蔵施設からの2次流出を防ぐうえで効果的かもしれない。溜池や湖沼に堆積した放射性物質を固定化させることも出来るだろう」と語る。東大では農学部でも植物への放射性物質の吸収抑制に関する研究が進む。

福島第1原発事故から7年、復興のステージは「復興・創生期」(2016-2020度)の半ばにさしかかる。インフラ復旧は確実に進展しつつある。昨年4月には避難指示地域も大幅に緩和された。
一方、セシウム137の半減期は30年、毒性が1/8になるまで90年を擁する。原子力災害は人間の一生に収まるものではなく、ましてや復興を進める行政の時間軸で解決できる問題ではない。最終処分まで視野に入れると膨大な時間を要する。
今、私たちはそうした時間軸に立って復興の意味と範囲を再定義し、そのうえで、様々な機関が行っている実験や観測データを科学的に統合、体系化してゆく必要がある。そして、それを世界に発信し、未来に伝えてゆく責任が日本にはある。原子力災害に関する研究はまだ始まったばかりである。