今週の"ひらめき"視点

2020 / 12 / 25
今週の“ひらめき”視点
高まる洋上風力発電への期待。日本は福島沖の経験を無駄にするな

12月19日、EUの欧州委員会はコロナ禍からの経済再建に向けて組成された「復興基金」を活用し、洋上風力発電の導入計画を前倒しすると発表した。現時点における発電能力は12ギガワット、これを2030年に60ギガワット、2050年までに300ギガワットまで増強する。300ギガワットは標準的な原発300基に相当するもので、投資総額は100兆円規模に達する。EUは2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにするとの目標に掲げており、アフターコロナの成長戦略として洋上風力の強化を急ぐ。

先月22日、日本もまたG20オンラインサミットの席上「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」と国際公約した。世界が脱炭素に向けて大きく舵を切る中、日本の洋上風力投資も加速する。政府は、「2050年までに37ギガワット」としていた計画を「2040年までに45ギガワット」と上方修正、2021年度一般会計における関連予算も当初案から30億円増の131億円へ引き上げた。
確かに欧州と比較すると出遅れ感は否めない。とは言え、日本も「再エネ海域利用法」を制定するなど事業環境の整備を進めてきた。同法のもとで選定された11の促進区域のうち、長崎県五島市沖、秋田県能代市・三種町及び男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖(北側・南側)、千葉県銚子市沖の各区域では既に事業者選定の公募が始まっている。

洋上風力は、騒音、振動、景観、自然への影響など陸上風力が抱える立地上の制約が少なく、また、一定以上の風速が安定して得られるため発電効率が高い。加えて、浮体式など技術的なイノベーションの余地も大きく、送電網の敷設や港湾整備などインフラ事業も伴うため事業規模が大きい。関連事業者の裾野も広く、したがって、脱炭素関連では水素や蓄電池などと並ぶ成長市場である。

​洋上風力への期待が高まる。しかし、その一方で、12月16日、経済産業省は福島県楢葉町の沖合20㎞に設置した洋上風力発電設備を来年度中にすべて撤去すると発表した。東日本大震災の復興事業として620億円が投じられた実証実験は商用化の見通しが立たないまま、完全撤退となった。筆者は2016年の夏、福島第一原発を視察させていただいた。当時、事故対応の前線拠点となっていた楢葉町のJヴィレッジ、出発前、そのテラスで外を眺めていた時、現地のご担当者が遠く東の沖合を指さして「洋上風力は復興のシンボル」とご説明いただいたことを記憶している。撤退は残念であるが、この7年間で得た知見のすべてを公開、共有し、未来へつなげていただきたい。

2020 / 12 / 18
今週の“ひらめき”視点
バイデン氏、勝利確定。亀裂と分断を乗り越え民主主義は再び輝くか

12月14日、異例ずくめの2020年大統領選挙は「選挙人投票」をもってすべての手続きが完了、バイデン氏の勝利が確定した。この1ヵ月間、トランプ氏は全米各州で法廷闘争を展開してきた。その中でもっとも注目されたのは、接戦4州における選挙結果の無効を連邦最高裁に求めた裁判である。連邦最高裁の判事は9名、保守派は6名、うち3名はトランプ氏が指名した判事で構成される。保守派6人目のエイミー・バレット氏の就任日は10月27日、大統領選挙を直前に控えたタイミングでの手続きにバイデン氏自身も非難声明を出したことは記憶に新しい。結果、その連邦最高裁はトランプ氏の訴えを却下、この時点で事実上勝負は決着していた。

バイデン氏は国民に向けての演説で、あらためて米国の結束と民主主義への信頼を訴えた。しかし、容易ではない。アメリカ社会の分断はこの4年間で更に深まった。選挙人投票の直後、トランプ氏は不正の存在を否定した側近、バー司法長官の辞任を発表するとともに選挙結果の有効性を再び否定した。トランプ信者たちの気勢は上がり続ける。

筆者は以前、トランプ氏の功績について「置き去りにされ、見て見ぬふりをしてきた世界の課題や矛盾を、結果の是非はさておき、座視出来ない問題として浮き彫りにしたこと」と書いた。彼にとって政策判断の基準は明快だ。ディール、この一言に尽きる。2017年、トランプ氏は習近平氏を「良い人」と評し、1つの中国を支持したうえで「友情が生まれた」とも語った。現在の習氏とトランプ氏の関係について説明は不要であろう。米中貿易協議の頓挫、そこが転換点だ。

政治学者吉田徹氏の著書から氏の言葉をお借りすれば、今、世界の民主主義は “リベラリズムなき資本主義の実践を試みる国”(「アフター・リベラル」より、講談社現代新書)からの挑戦を受けている。一方、防戦に回っている側が掲げる「自由と民主主義が繁栄を約束する」との御旗も色褪せつつある。そもそもこの約束には常に米国のダブルスタンダードが見え隠れしてきた。しかし、トランプ氏はこれを取り払った。その痛快さが大衆を惹きつける。内政、外交の両面においてバイデン氏はこれまでの政権承継とは異質の困難に直面するだろう。その際、日本もまた政治的、経済的な選択を求められる可能性がある。しかし、自由、民主主義、多国間ルールの順守を原則とし、いずれの側に対しても自立、独立したポジションを貫いて欲しい。

2020 / 12 / 11
今週の“ひらめき”視点
水素社会の実現に向けて、国内外に向けての“ゲームチェンジャー”であれ

トヨタは2014年に発売した世界初の量産型FCV(Fuel Cell Vehicle)「ミライ」をフルモデルチェンジ、12月9日から販売を開始した。乗用車としての進化はもちろんであるが、注目すべきは動力源であるFCシステムが商用車、船舶、産業用発電など幅広いニーズに対応できるよう設計されている点にある。トヨタは初代ミライの発売後、FCV関連特許の無償化を発表、FCVの普及を目指した。しかし、“仲間づくり” は思惑どおり進んでいない。今回はそうした状況も踏まえ、産業界全体への普及を促す。

その1週間前、任意団体「水素バリューチェーン推進協議会」が立ち上がった。トヨタ、三井住友フィナンシャルグループ、岩谷産業を共同代表にエネルギー、運輸・物流、総合商社など88社が名を連ねる。地方自治体との連携、水素の製造・輸送・貯蔵の課題解決、商用車、鉄道・船舶、化学・鉄鋼等における需要拡大など、水素社会の実現に向けての政策提言や渉外活動を行う。水素技術は太陽光や風力によって発電された電力を水素に変換して保存することが可能であり、不安定な自然エネルギーの蓄電システムとしての役割も期待できる。次世代自動車ではEVに大きく水を開けられた水素であるが、いよいよ本格的な黎明期を迎えそうだ。

水素技術は日本が世界をリードしてきた。しかし、欧州、中国も水素への投資を本格しつつある。6月、ドイツは国家水素戦略を策定、1兆円規模の予算を投じると発表した。その翌月にはEUも「欧州の気候中立に向けた水素戦略」をとりまとめ、2030年までに水素の生産量を1,000万トンへ引き上げるとの目標を掲げた。中国はモデル都市群を選定し、商用車を中心に2030年代の半ばまでに100万台規模のサプライチェーンを構築するという。

こうした中、日本政府も水素社会の実装を急ぐ。国内利用量に関する従来の政策目標は2030年時点で「30万トン」であったが、これを「1,000万トン」に引き上げるべく調整に入った。これは原子力発電所30基に相当する規模であり、国内電力の1割をカバーできる。
カーボンニュートラルの実現に向けて、国際競争はこれまで以上に激化するだろう。新たに米国を率いるバイデン氏は、クリーンエネルギー分野に178兆円を越える投資を公約している。日本は水素のフロントランナーであり続けることができるか。そのためには電力行政の見直しや規制緩和はもちろん、未来社会の全体構想にもとづく長期戦略が不可欠だ。既存業界の慣習や既得権から解き放たれた大胆な政策発想に期待したい。

2020 / 12 / 04
今週の“ひらめき”視点
はやぶさ2、帰還へ。宇宙ビジネスの可能性とし烈化する開発競争への懸念

世界ではじめて地球重力圏外の天体からサンプルを持ち帰った “はやぶさ” 初号機の成功を受けて、“はやぶさ2” が打ち上げられたのは6年前の今日(12月3日)である。その “はやぶさ2” が50億㎞を越える旅を終え、3日後に帰還する。同機は小惑星 “リュウグウ” に着陸、人工的にクレーターをつくるミッションを成功させ、天体内部の物質を地球へ持ち帰る。リュウグウには太陽系が誕生した頃の有機物や水が残されていると考えられており、生命の起源に関する科学的成果が期待される。

従来、宇宙開発は国家による “閉じた市場” であった。しかし、今、新規市場参入のハードルは下がった。民間宇宙企業の代表格はもちろん米スベースX社であるが、日本でも新たな企業の参入が相次ぐ。JAXAの新型宇宙ステーション補給機に搭載する小型衛星のインテグレーションサービスを受託したのは2017年設立の宇宙商社「Space BD」社である。
そもそも “宇宙” における日本の貢献領域は小さくない。11月29日に43号機が打ち上げられたH2Aロケットの成功率は97.7%と世界最高水準であり、重力天体における離着陸技術は “はやぶさ” で立証済だ。野口聡一氏をはじめとする宇宙飛行士のノウハウ、国際宇宙ステーション(ISS)の運用経験も豊富だ。ADAS、センシング、ロボット、新素材、実験装置、環境制御、資源開発など非宇宙分野の適用可能性も大きい。

10月14日、日本は米、英、豪、伊、カナダ、ルクセンブルグ、UAEとともに米が主導する「アルテミス計画」を推進するための「アルテミス合意」に署名した。アルテミス計画は2017年12月、トランプ政権のもとで承認された宇宙開発計画で、官民の国際連携のもと2024年に有人月面着陸、2030年代に有人火星着陸を目指すというもの。こうしたビッグプロジェクトの進展も技術、資金、サービスにおける民間投資を促す契機となるだろう。

一方、中国も12月1日、無人探査機 “嫦娥5号” の月着陸を成功させた。同機は月面で数日間活動し、岩石や土壌を地球へ持ち帰る。米航空宇宙局(NASA)は直ちに祝意を表明するとともに採取したサンプルについて「世界の多くの科学者に研究機会が与えられることを願っている」と声明した。上記「アルテミス合意」では宇宙の平和利用の原則、宇宙開発における相互協力、宇宙資源の保全や利用に関する共通認識を8ヵ国で確認した。中国を念頭に宇宙開発の国際的なルールづくりを主導したい米の狙いが背景にあることは言うまでもない。健全な競争は歓迎だ。しかし、地上の対立を月に持ち込むことだけは是非とも勘弁願いたい。

2020 / 11 / 27
今週の“ひらめき”視点
日中外相会談、経済連携強化を確認。一方、チャイナリスクは質的変化を伴いつつ拡大する

新型コロナウイルスによって失速した経済活動は一部業種を除き回復途上にある。牽引役は外需、とりわけ、中国経済である。中国国内の自動車生産台数は9月にトヨタが前年比1.5倍、ホンダが1.3倍、日産も前期並みを確保した。中国向け工作機械受注は6月に前年比増に転換、7月以降150%以上の高水準が続く。10月の貿易統計(速報)によると中国向け輸出は10.2%増、4ヵ月連続で拡大、輸出全体の前年割れは前月の▲4.9%から▲0.2%まで縮小した。

第3波による感染拡大が懸念される中、中国のバイイングパワーが日本経済を支える。1月-3月期、日本経済は部材や製品など供給網における中国リスクに直面した。しかし、今、買い手としての彼らの存在感が増す。調達先であることと顧客であることの意味は質的に異なる。14億人の市場を代替する “チャイナプラスワン” を見つけることは至難の業であって、その意味で中国依存度はかつてないレベルに拡大する可能性がある。

12月1日、フランシスコ教皇の著書が発売される。教皇は著書の中で新彊ウイグル自治区の人権の状況についてはじめて懸念を表明するという。バチカン(ローマ教皇庁)と中国は1951年に断絶、バチカンは台湾との国交を維持する。以降、両国は中国国内における司教の任命権問題で対立してきたが、2018年に期限付きで暫定案に合意、先月ようやくその延長にこぎつけた。教皇が人権問題への言及を避けてきたのはこの交渉を有利に進めるための政治的配慮があったと言われる。

一方、中国にとってバチカンとの関係を正常化することの狙いは、バチカンに “1つの中国の原則” を認めさせることにある。それだけに中国側の反発は必至であり、暫定合意破棄の可能性もあるだろう。バチカンがどこまで対中リスクを取るか分からない。それでも教皇が人権問題に踏み込んだのは、それを看過し続けることは宗教者としてもはや許されなかったと言うことである。

24日、中国の王毅外相が来日、経済、気候変動、新型コロナ対策における連携強化があらためて確認された。一方、領土や人権については双方がそれぞれの立場を表明するに留まった。もちろん、目の前の利益を優先すべきとの “大人” の立場もある。しかし、原則を “棚上げ” にしたままの友好の不健全さはいずれ自身にとってのリスクとなる。我々はもう一度自身の原則と立ち位置を確認しておくべきである。

2020 / 11 / 20
今週の“ひらめき”視点
ウォルマート、西友株式をKKRと楽天に譲渡。リアル店舗の強化が課題

11月16日、ウォルマート、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)、楽天の3社はウォルマートが保有する西友株式の譲渡について合意、KKRが65%、楽天は新たに設立する子会社「楽天DXソリューション(仮)」を通じて20%をそれぞれ取得、ウォルマートが15%を継続保有する、と発表した。
会見ではウォルマート国際部門CEOのジュディス・マッキーナ氏が「ウォルマートは引き続き少数株主として西友を支える」と表明したが、2002年から18年を費やした日本市場からの事実上の撤退である。

西友はプライベート・ブランド「みなさまのお墨付き」シリーズが好調で、また、2018年には楽天と提携して「楽天西友ネットスーパー」を立ち上げるなど、EDLPプラスαの独自戦略を模索してきた。こうした流れの中、昨年3月、ベルギーの大手流通グループで欧米事業を統括してきたリオネル・デスクリー氏が新CEOに就任、氏は約3ヵ月かけて全国の店舗を訪問、従業員や取引先と直接対話を重ねた。そして、6月に開催された従業員との対話集会で「株式の再上場を目指す」と表明、集会には上述したマッキーナ氏も同席、「西友の上場はウォルマートの国際戦略に合致する」と全面支援を約束した。

この対話集会では、カスタマーバリュー・プロポジション(CVP)の向上、生鮮・惣菜部門の強化、オムニチャネル戦略の加速、EDLP(Everyday Low Price)の推進を重点戦略とすることが発表されたが、今回の株式譲渡会見で表明された成長戦略もこの延長線上にある。つまり、これらはKKRと楽天が引き継ぐことになるわけで、また、KKRにとってのエグジットも “上場” であるはずだ。つまり、自身の撤退を含めウォルマートにとってはまさに筋書きどおりであり、そして、この判断を最終的に裏付けたのは、全国の売場を丁寧に見て回った他ならぬデスクリー氏であったかもしれない。

いずれにせよ彼が見たのは、“地域密着型” であることがKFS(Key Success Factor)となる日本の食品スーパー市場でウォルマートが投資パフォーマンスを上げてゆくことの難しさであったろう。もちろん、日本でもイオンやPPIH、大手ドラッグなど大資本による市場再編が進む。しかし、その一方で愛媛のフジによる広島のニチエー買収、大阪のコノミヤによる奈良のスーパーおくやまの子会社化など、地場の中堅小売業もそれぞれがもう一段の地域深耕と商圏の拡大をはかる。
食品スーパーの成長条件はデジタル化とリアル店舗のシナジーにある。西友のDX化はKKRと楽天主導のもと加速するはずだ。課題は店舗だ。とりわけ、郊外、地方において地域密着であることの “非効率” をどこまで店頭の魅力に転化できるか。ここが鍵である。