今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2025 / 07 / 18
今週の“ひらめき”視点
トランプ関税、現実に? 今こそ構造改革とイノベーション投資を

7月15日、トランプ氏はあらためて7月7日に公表した対日書簡のとおり8月1日から日本からの輸入品に対して25%の関税を課す方針である旨、表明した。高官間の交渉内容は報道された範囲内で推し量るしかないが、そもそも与しやすい相手であることを前提に協議に臨んだ米国側と相思相愛であるはずとの勘違いに心情的な期待をかけていた日本側との埋めがたいギャップがあったのではないか。いずれにせよ残された2週間内に双方あるいはどちらかの政治的な譲歩がない限り、関税発動は避けられない情勢だ。

問題はその後である。米国市場におけるシェアの維持をはかるべく、輸入する側が負担する関税相当分を輸出価格の値下げで相殺するような動きがどこまで、どういう形で広がるか、ということだ。当然ながら輸出元企業の利益圧縮だけでは吸収できない。原価の引き下げ、言い換えれば、取引事業者に対して相応の値引きが要請される、ということだ。

公正取引委員会、中小企業庁、業界団体等の取り組みの成果もあって下請法違反は減少傾向にある。しかし、支払い遅延、代金の減額、買いたたき行為は依然として高い水準にあり、この3類型で実体規定違反の87%、手続規定違反を含めた違反行為全体の33%を占める(令和6年度、中小企業庁)。「トランプ関税による売上への影響を最小化したいなら納入価格を下げてくれ」という連鎖のしわ寄せが行きつく先は結局のところ中小下請企業ということになりかねない。

トランプ関税の対象は日本だけでない。世界にとって対米輸出依存度の高さは今やリスクであり、リスク低減に向けた国際連携やサプライチェーン再編の動きも顕在化しつつある。一方、この機に乗じた価格競争も懸念される。しかし、これに巻き込まれる、あるいは、自らダンピングを仕掛けることは取引先ひいては国内経済を必要以上に疲弊させるとともに結果的に自らの体力、信用、成長力を奪うことになる。少なくとも輸出元である多くの大手企業は3年半を耐え抜くだけの内部留保はあるはずで、米国そして世界が買わざるを得ないクオリティとオリジナリティの創造に向けて全経営資源を集中させていただきたい。

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「トランプ氏、相互関税を発表。米国の停滞は“日本再興”のチャンス」 今週の"ひらめき"視点 2025.3.30 – 4.3

2025 / 07 / 11
今週の“ひらめき”視点
更新され続ける「これまでに経験したことのない大雨」、災害耐力の強化を

7月6日、広島、岡山、愛媛など14府県で300人を越える犠牲者(災害関連死含む)を出した西日本豪雨(平成30年7月豪雨)から7年、被災地は祈りに包まれた。2018年7月、日本付近は太平洋高気圧の上層にチベット高気圧が張り出し、記録的な猛暑となった。そこに前線が停滞、東海から西日本にかけて15個もの線状降水帯が発生した。気象庁は「海水温の上昇によって発生した水蒸気が流れ込み続けた」ことが要因であると説明した。

広島や岡山では土石流や河川氾濫が同時多発的に発生、倉敷市真備地区では高梁川の水位上昇により“バックウォーター現象”が発生、支流の河川堤防が決壊、3日間にわたって約1200ヘクタールもの地域が水没した。災害耐力、処理能力を越えた豪雨は西日本各地のライフラインの機能を奪い、最大8万戸が停電、26万戸が断水した。

想定外の豪雨が常態化しつつある日本では都市の水害リスクも急速に高まる。国土交通省によると2012年から2021年の10年間に発生した水害の被害総額は4兆円、そのうち3割が内水氾濫による。とりわけ、社会機能が集中する都市部ではその比率は逆転する。2019年の台風19号では多摩川の水位が上昇、下水管や排水管から水が市街地に逆流、マンションの地下設備が冠水、電力の供給が断たれた。人気エリア武蔵小杉を象徴する“タワマン”の想定外の被災に水害に対する都市の脆弱性を実感した読者も少なくないだろう。

今年も暑くなりそうだ。東京は今日(7月9日)で3日連続の猛暑日、北日本から九州にかけて猛烈な暑さが続く。大気も不安定になっており局地的な豪雨への警戒が呼び掛けられる。インフラの更新、災害耐力の強化は必須だ。とは言え、「気候変動を踏まえた洪水に対応した国管理河川の整備完了率」は国土交通省が設定した目標に対して31%(2023年度)、「災害等発生時における安定給水のための大口径水道管路の整備完了率」は同33%(2024年度)にとどまる。古今東西、治水と利水は名君の条件だ。はたして令和の英傑はどこにいる?

2025 / 07 / 04
今週の“ひらめき”視点
インドネシアEV市場、アジアの牙城で輝き続けるために

インドネシアのエネルギー・鉱物資源相は6月29日、中国車載電池メーカーCATLと現地企業によるリチウムイオン電池工場の起工式に参列、「2026年内を予定している稼働時の年生産能力は6.9GWhであるが、将来、15GWhへ拡張する」と表明した。世界有数のニッケル埋蔵量を誇るインドネシアは2020年にニッケル鉱石の輸出を禁止、車載用電池の国産化をはじめEVサプライチェーン全体の現地化を進めている。外資誘致はその一環である。

さて、そのインドネシアであるが、自動車市場は決して好調とは言えない。2024年の新車販売台数(卸売ベース、以下同)は前年の100万台から13.9%減の86万台にとどまった。とりわけ、ガソリン車は前年比2割減と苦戦、ディーゼルも同1割減となった(インドネシア自動車製造業者協会)。背景には高金利と消費の伸び悩みがある。インドネシア大学の経済社会研究所(LPEM)によると2018年から2023年にかけて850万人以上の中間層が下位層に転落、結果、消費全体に占める中間層のシェアは4割近く縮小したという。

一方、ハイブリッド車(HEV)とバッテリー式電気自動車(BEV)に限れば、それぞれ前年比8%増、同122%増と好調を維持している。もちろん、全体のシェアは11.7%にとどまる。しかし、2021年が同0.36%であったことを鑑みると急成長ぶりは一目瞭然である。先週、筆者はインドネシアを訪問した。ジャカルタから南へ60㎞、西ジャワ州ボゴール市内、旧式のオートバイの群れをかき分けるように走っていたクルマはほとんどが日本車だ。ジャカルタ市内も同様だ。とは言え、市の中心部、海外のブランドショップが集積する大型商業施設「グランドインドネシア」のゲート付近では真新しいヒョンデの「IONIQ5」やBYDのSUVがやたらと目についた。

日本車は依然として新車販売の上位を独占、2024年のシェアは88%である。ただ、2021年が同94%、2022年92%、2023年91%と微減基調にある。EVは安い買い物ではない。都市部を除けば充電環境も十分でない。そんな状況下でEVを選択する層は、環境意識が高く、進取の気性に富んだ、中間層以上の都市在住者、ということになろう。90年代後半、世界初の量産型HEV「初代プリウス」を真っ先に支持したのは米西海岸の若きセレブたちだ。今、インドネシアの“彼ら”にとって日本車は“クール”であるのか。商品戦略とブランド戦略において、今こそ未来に向けて先手を打っておく必要がある。

2025 / 06 / 20
今週の“ひらめき”視点
日産自動車、“Re:Nissan”計画スタート。未来からの“返信”は届くか

6月16日、経営再建中の日産自動車は保有する仏ルノー株式を売却、1000億円を調達し商品開発投資に充てる方針を明らかにした。両社はこの3月末、相互出資の保有義務を15%から10%へ引き下げることに合意したが、この1000億円は売却可能となった5%に相当する。

4月1日付でCEOに就任したイヴァン・エスピノーサ氏は2026年度までに営業利益とフリーキャッシュフローを黒字化すると宣言、5000億円のコスト削減、2万人のリストラ、車両生産工場の17から10工場への統合を骨子とする“Re:Nissan”計画を発表した。販売台数に依存しない、キャッシュの創出に軸足を置いた再建計画は、目標の未達を繰り返し続けたゴーン氏以降の経営体制への決別と言っていいだろう。株式の売却もその一環だ。

とは言え、生産拠点の統合やサプライヤーの集約は膨大なコストを伴う。先行開発や2026年度以降の商品開発を一時的に停止、変動費の削減に向けて3千人のエキスパートを投入する。北九州市に計画したバッテリー工場の新設も中止となった。目の前の危機のその後の成長戦略に懸念が残る。そうした中、4月に中国で発売された新型EVセダン「N7」の受注が約1ヵ月で1.7万台を越えるヒットとなった。苦戦が続いた中国市場におけるN7の好調ぶりを伝えるリリースの文章は「Re:Nissanの商品戦略の再構築を力強くサポート」と締めくくられる。“今度こそは”との期待がにじむ。

中国合弁会社の關口勲総経理は「ワクワクするカーライフを」と語る。エスピノーサCEOも「ワクワクする商品をお客さまに」とメッセージする。はたしてワクワクするクルマとはどんなものか。非日常の走行性能? 多様なライフスタイルの演出? 6月10日、AIを使った自動運転システムを開発する英国のベンチャーWayveと米Uber Technologiesの2社は「ロンドンで完全自動運転の公道実験を開始する。OEMパートナーは数カ月内に決定する」と発表した。そう、実験の主役はソフトウェアベンダーとプラットフォーマーであり、“自動車工業からモビリティ産業への変革”とはつまりこういうことだ。Wayveと日産自動車は提携関係にある。完全自動運転が実現する未来にあってクルマの「ワクワク」をどう再定義するか。生き残り戦略の本質はここであり、それは日産だけの問題ではない。

2025 / 06 / 13
今週の“ひらめき”視点
3月期決算、株主総会ピークへ。過去最多となった株主提案の行方は?

東京証券取引所によると今年の株主総会の集中日は6月27日だ。とは言え、集中率は25.2%、1995年が同96.2%であったことを鑑みるとまさに様変わりだ。さて、今年は例年にも増して議決権行使の行方に注目が集まる。株主から提案・反対を突き付けられた企業は100社を越える。うち半数がアクティビスト(物言う株主)を含む機関投資家からのものであり、かつてシャンシャン総会などと揶揄された牧歌的な光景はもはやない。

取締役選任議案でファンドと会社側が対立するフジ・メディア・ホールディングス、日産車体との親子上場が問題視される日産自動車、社長再任の会社提案に対して創業家と筆頭株主が反対を表明した太陽ホールディングスなど注目銘柄は少なくないが、(株)エージーピー(AGP)にも関心が集まる。同社は国内主要10空港で駐機中の航空機に電力・空調を供給するJALの持分法適用会社であるが、筆頭株主JALは今回の総会に“株式併合による非公開化”を発議した。

これに対してAGP経営陣は「TOBを経ない非公開化は公正でない」と反対を表明、一方、JALに次ぐ大株主である日本空港ビルディングとANAはJAL案への賛同を表明済みだ。これら3社のシェアは71.14%、よって議案は株主提案どおり可決されることが確実である。しかし、ここで注目したいのはAGPが対抗措置として導入したMoM(マジョリティ・オブ・マイノリティ)議案の行方である。6月9日、同社はMoM議案に関する説明会を開催、株式併合の不実施に関する件(第7号議案)と株主提案による取締役就任の効力を生じさせない措置(第8号議案)に対する議決権行使を少数株主に呼びかけた。

少数株主の過半をもって可決されるMoM決議に法的拘束力はない。しかし、株式併合によって強制排除される少数株主の意見を公式な記録として残すことで「支配株主の今後の行動に一定の規律をもたらす」こと、「裁判所に対して不服申し立てを行う際の権利主張の根拠の1つとなる」ことなどが期待される。上場企業である以上、資本の論理にもとづくM&Aは避けられないし、買収側、被買収側、どちらの立場にもなり得る。いずれの側にあっても勝負の分かれ目は株主の賛同を得られるか否かだ。説得力のある成長ストーリー、高いガバナンス、株価、株主との丁寧な対話こそが自社の主張を通すための唯一の武器であり防波堤となり得る。6月26日、AGP少数株主の判断に注目したい。

2025 / 06 / 06
今週の“ひらめき”視点
地方創生2.0基本構想、成功の鍵は“横並び発想”からの脱却にある

6月3日、政府は10年後の2034年度を政策達成の目標年次とする地方創生に向けての基本構想を公表した。新たな政策構想は石破首相が地方創生相時代に策定した総合戦略「まち・ひと・しごと創生法」(2014年施行)を引き継ぐもので、この5月22日に開催された“第9回新しい地方経済・生活環境創生会議”がとりまとめた「地方創生2.0 基本構想 骨子(案)」がベースとなっている。

旧政策が人口減少に歯止めをかけることを狙いとした一方で、新たな政策構想は“人口減少という事態を正面から受け止める”ことを前提とし、そのうえで経済成長と社会機能の維持をはかる、とする。目玉施策は「ふるさと住民登録制度」だ。専用アプリから好きな市町村を選んで登録すると地域住民と同様に公共施設の利用やイベントへの参加が可能になる。目標は1千万人、複数登録を可能とすることで延べ1億人の関係人口の創出を目指す。

新制度の狙いは言うまでもなく“移住予備軍の拡大”にある。ただ、あえて完全な定住をゴールとする必要はないと筆者は考える。“魅力ある地域”とは小さなトーキョーではない。すべての地域が訪日外国人の誘客増をはかる必要はないし、DX・GXのイノベーションモデルを目指す必要もない。ましてや、誰もが産官学共創拠点発の起業を夢みているわけではない。多様な人材が都市と地域、地域と地域間を循環する可変的な社会制度をこそ構想すべきではないか。

当社においても地方創生支援は重要なテーマであり、従来から地場産業振興、観光資源開発、新産業創出、企業誘致、中小企業の販路開拓・海外進出支援等に取り組んでいる。今、注目しているのは“郷土”ゲームを通じた地方の再興だ。地方には特定地域や特定集団の中に伝承されてきた独特の“遊び”文化がある。それらはまさに地域の暮らし、生業、歴史の一部であり、地域の自立と自由の象徴でもある。筆者はそんな地方の未来を応援したい。政府は月内に基本構想を閣議決定し、2025年度内に“総合政策”に落とし込むという。既存の行政区分、所管官庁の枠組み、既得権益のしがらみを越えた大胆なソリューションに期待する。

※矢野経済研究所は「ゲームマーケット2025春」で郷土ゲームブースを出展