2月28日、米国とイスラエルはイラン国内の複数拠点を空爆、最高指導者ハメネイ氏を殺害した。その前日、米国とイランの協議を仲介してきたオマーンのバドル外相が「合意に向けて大きな進展があった」と会見で語っていただけに「米、攻撃開始」の第1報には驚かされた。空爆は止まない。米国を後ろ盾とするイスラエルはレバノンへの地上侵攻を開始した。“支配地域の拡大”が作戦の目的であることをもはや隠そうともしない。
ロシアのウクライナ侵攻は5年目に入った。国連安保理常任理事国が仕掛ける“自国の正義”にもとづく軍事行動に“法の支配”の原則が揺らぐ。強権化する2期目のトランプ氏は既に“タリフマン”の域を超えた。27日、ネットフリックスとパラマウント・スカイダンスによるワーナー・ブラザース・ディスカバリーを巡る買収合戦はパラマウントの勝利で決着した。ネットフリックスは撤退理由を「買収金額の問題」と説明するが、トランプ氏からの圧力は周知の事実だ。
トランプ氏の狙いはワーナー傘下のCNNである。かねてから自身に批判的なCNNの報道をフェイクニュースと罵り、ワーナー買収に自ら関与すると宣言していた。パラマウントのエリソンCEOのファミリーはトランプ氏の有力支持者だ。同社は既にCBSを傘下に置く。トランプ氏は「CNNの経営陣は腐っている」とも発言しており、編集方針へのあからさまな介入が懸念される。もちろん、巨大メディアグループ同士の統合には独禁法という壁がある。とは言え、司法省への人事介入も厭わないトランプ氏だけに報道統制は現実味を帯びる。
同じ27日、米政府は、AI開発企業アンソロピック社をすべての連邦政府機関から排除すると発表した。同社のダリオ・アモデイCEOは“人間が介在しない完全自立型兵器の開発”や“米国民の監視”への技術適用を禁じる利用規約の順守を米軍に求めた。トランプ氏はこれに反発、政府機関はもちろん米軍の調達先企業との取引も禁止するよう指示した。2023年、第1回「軍事領域における責任あるAI(REAIM)」サミットの政治宣言を主導したのは米国だ。宣言は国際法とりわけ国際人道法のもとでのAI利用を確保するための法的措置の必要性に言及している。今、米国はその真逆をゆく。世界の予見可能性、法の支配、国際協調への道筋、これらをどう回復するか、日本が貢献すべきは唯一ここである。
2月17日、文部科学省は東北大学、筑波大学、広島大学の3大学11学部に対して外国人留学生の定員枠拡大特例を2026年度から認めると発表した。特例の認定に際しては定員の充足率、財政状況などの要件に加えて、「必須条件ではない」としながらも教育の質の向上と受け入れ環境整備にあてるための「授業料の値上げ」に関する方針が問われた。
国立大学は、それぞれの大学の裁量で決定できる授業料は“標準額53万5800円の1.2倍まで”と制限されている。しかし、昨年、国は留学生を対象にこの上限規制を撤廃、これを受けて東北大学は2027年度以降に入学する留学生の授業料を90万円、約1.7倍に引き上げると発表した。筑波大、広島大も値上げの方針を決定している。2024年、外国人留学生の総数は33万6708人、約9割がアジア圏からであり、新興・途上国からの留学希望者も増えつつある。大学は値上げ分を適切に留学生支援に投じるとともに地域と連携した支援体制づくりを進めていただきたい。
さて、こう書くと「留学生ばかりが優遇され、日本人が冷遇されている」といった声も聞こえてくる。国は、国費外国人留学生(11,157人)のための185億円を含め、留学生の受け入れ拡大のために総額271億円の国費を準備する(R7年度要求・要望額、文部科学省)。とは言え、日本人学生には給付型の奨学金が1,954億円、貸与型をあわせると1兆613億円の経済的支援が用意される(R7年度予算、日本学生支援機構)。対象者数は国費外国人留学生の180倍に相当する規模である。そもそも優秀な学生が経済的理由で進学を諦めることのないようにする制度と優秀な外国人留学生を日本に呼び込むための施策は狙いが異なる。
米商務省によると2025年の米国への海外からの留学生は127万人、前年比13.5%減となった。日本からの留学生も1割減の2万8千人にとどまった。言うまでもなくトランプ政権による移民政策と厳格な入国規制が背景にある。政府は「2033年までに外国人留学生を40万人に拡大する」との計画である。そう、今が好機である。しかしながら、本当のゴールは“40万人”のその先にある。卒業後も彼らが自分自身の未来を日本というフィールドに思い描けるような社会をつくること、ここが最終目標だ。そうあってはじめて多様な文化的背景を持った若く優秀な才能が日本の成長原資となり得る。
2月9日、財務省は2025年の国際収支状況(速報)を発表した。輸出は半導体部品や食料品が好調で107兆7,630億円(前年比+2.5%)、輸入はエネルギー価格の下落もあり108兆6,118億円(同▲0.1%)、差し引き8,487億円の赤字となったが赤字幅は前年比+2兆8,115億円と改善された。サービス収支は、旅行収支の6兆3,429億円、アニメ等のコンテンツを含む知的財産収支における3兆1,732億円の黒字を巨大IT企業への支払など所謂“デジタル関連支出”が飲み込み、3兆3,928億円の赤字となった。
結果、「貿易・サービス収支」は4兆2,415億円の赤字、一方、経常収支全体は31兆8,799億円の黒字、2年連続で過去最高を更新した。海外子会社からの配当など直接投資収益が拡大したことにより第一次所得収支が前年比104.7%、41兆5,903億円と過去最高となったことが主因である。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の「2025年度海外進出日系企業実態調査」(2025年11月)によると2025年に黒字を見込む海外進出日系企業の割合は66.5%(前年比+0.6%)、大企業では7割を越える。地域別ではUAEが83.3%、豪州、韓国、ブラジル、南アフリカ、インドも75%を越える。一方、トランプ関税の影響を受ける米国やメキシコ、低成長が続く中国、インドネシアでは3割以上が営業利益の悪化を見込む。しかし、後者にあっても黒字企業の割合は6割を越える。第一次所得収支で稼ぐ国際収支の構造は不変ということだ。
自由貿易への信任が失われつつある中、産業政策の論点は“経済安全保障”に向かう。確かにここ数年、パンデミック、相手国の政治・経済環境の急変、地政学リスクの拡大など、海外投資の不確実性とリスクが顕在化した。仕入先や販路の分散が難しい中小企業、新興国の成長コストに耐えられない企業にとって“撤退”の判断は止むを得ない。ただ、国内回帰ですべてが解決するわけではない。グローバル経済におけるプレゼンスの拡大もまた戦略的BCPであり、すなわち経済安全保障投資である。要するに個々の企業の収益力向上こそが総体としての安全保障の礎になるということである。
2月1日、米音楽界最高の栄誉「グラミー賞」の第68回授賞式が開催された。年間最優秀楽曲はビリー・アイリッシュの「WILDFLOWER」、年間最優秀アルバムはバッド・バニーの「DeBÍ TiRAR MáS FOToS」が受賞した。年間最優秀楽曲を3回受賞したのはアイリッシュがはじめて、また、全曲がスペイン語で歌われているアルバム(バニー)がグラミー賞の主要部門に輝いたこともはじめてであり、話題となった。
授賞式恒例のスピーチでは「奪われた土地に不法な人間は存在しない」と語ったアイリッシュを筆頭にトランプ政権のもとで先鋭化する移民・税関捜査局(ICE)に対する批判が相次いだ。トランプ氏を不快にさせるにはこれだけで十分であろうが、司会のトレバー・ノア氏は性犯罪で起訴され拘留中に死亡した富豪エプスタイン氏とトランプ氏との関係を暗示させつつ「グラミー賞はアーティストなら誰でも欲しがる。トランプ氏がグリーンランドを欲しがるように」と揶揄、これに対してトランプ氏は「グラミー賞は見るに堪えない」「ノアを訴える」とSNSに書き込んだ。まさに“アメリカの分断”を象徴する一幕だ。
一方、“最優秀オーディオブック、ナレーション、ストーリーテリング・レコーディング賞”にはチベット仏教の指導者ダライ・ラマ14世が自身の思いを英語で語ったアルバム「Meditations」が選ばれた。意外に思われる方も少なくないと思うが、彼は2020年にも音楽と読経を融合させたアルバム「Compassion」を発表している。因みにこのアルバムにはアヌーシュカ・シャンカールがシタール奏者として参加している。彼女はノラ・ジョーンズの異母妹で、父はビートルズとも親交のあったラヴィ・シャンカールである。余談ながらラヴィもまたジョージ・ハリスンとともに主催した1971年の「バングラデシュ難民救済コンサート」で第15回グラミー賞「最優秀アルバム」を受賞している。
話を元に戻そう。トランプ氏に続いてグラミー賞に噛みついたのは言うまでもなく中国当局である。「Meditations」の受賞に対して中国外務省は直ちに声明、「芸術に関する賞を反中国の政治的道具に利用した」とグラミー賞を批判するとともに、ダライ・ラマ14世を“宗教家の衣を被った政治活動家”と非難した。言わば世界の2大大国を敵に回した感のあるグラミー賞であるが、つまりは音楽の力の証左ということだ。あらゆる政治的、宗教的、思想的、地政学的フィルターを外し、「平和、環境、人類の結束への思いやりと理解が世界の幸福につながる」(ダライ・ラマ14世)とのメッセージを素直に受け止めたい。
1月26日、東京証券取引所は「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」(第9回)を開催、議決権保有比率が40%を超える大株主※を有する上場会社の取締役選任議案において、大株主とその関係会社票を除いた少数株主の賛否率の開示を義務付ける旨、決定した。あわせて少数株主の反対票が5割を越えていた場合、半年以内に反対理由に関する分析結果を開示するとともに株主との対話方針等の策定を求める。新たな施策は2026年12月期の決算企業から適用する方針だ。
研究会では上場会社の負担増への懸念も議論されたが、最終的に「十分に注目すべき少数株主の反対意見は可決されたことをもって無視すべきではない」との方向でまとまった。昨年、JALの持分法適用会社(株)エージーピーの総会では、大株主JALが提案した“株式併合による非上場化案”に対して、経営側はMoM(マジョリティ・オブ・マイノリティ)議案で対抗した。このケースは「大株主と経営陣との対立」といった構図であり、したがって、大株主が経営の実権を握っていることを前提とした今回の改定案とは条件が異なる。しかしながら、少数株主の権利があらためて注目されたことの意味は大きい。
同日、“上場”を巡ってもう一つ重要な改革が発表された。日本公認会計士協会は「新規上場会社等の会計不正によって財務諸表の信頼性への懸念が高まっている」とし、上場会社監査法人の品質管理システムのモニタリング強化等をはかるとともに、小規模監査法人の監査品質への懸念を払拭すべく、現在“最低5人”とする会計士の人数要件を引き上げると発表した。売上の最大9割が架空取引であったAIベンチャー“オルツ”の事案が対策を急がせたであろうことは想像に難くない。
少数株主との対話、財務諸表の信頼回復は健全な株式市場を維持するための必須条件である。昨年6月の総会に株主提案があった会社は111社、可決はわずか7社に留まる。不適切会計も新規上場企業だけの問題ではない。日本公認会計士協会によると会計不正企業数は年々増えており昨年3月期には56社に及んだ。背景には資本効率の改善、高い株主還元、ガバナンス強化など企業価値の短期向上を求める投資家からの強いプレッシャーがある。上場廃止を選択する企業も後を絶たない。昨年は過去最多の124社に達した。上場会社および上場を目指すスタートアップには“パブリックカンパニー”であることの戦略的意義と覚悟をあらためて問い直していただきたく思う。
※保有率の計算に際しては財務諸表等規則8条8項に定める関係会社を含む(東京証券取引所資料より)
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1月19日、イタリアの高級ブランド“ヴァレンティノ”の創業者ヴァレンティノ・ガラバーニ氏が亡くなった。1960年代前半、フィレンツェでファッションショーを開催、イタリアのオートクチュール界の先駆けとしてのキャリアを本格的にスタートさせる。1968年には有名な「ホワイトコレクション」を発表、トレードマークとなる“V”のロゴもこの頃から登場する。
1980年代から90年代後半、“ワンランク上”がマーケティングの主流だった時代、本家にあやかった多くの“バンレチノ”が量販店に溢れた。百貨店の市場規模(日本百貨店協会)が11兆円を超えた1997年、この年の月間現金給与総額(事業所規模30人以上、毎月勤労統計調査より)は421,324円となった。しかし、ここをピークに分厚い中流層は崩れてゆく。2024年の月間給与総額は397,789円(同)、百貨店市場も6兆円を割り込んだ。この間、繊維製品小売市場も14兆5288億円から10兆9452億円に縮小、国内市場の主役は売上高を12倍へと飛躍させた“ユニクロ”に取って代わった。
一方、インポートファッション市場は1997年の1兆6612億円から2024年には2兆4714億円へ拡大、リーマンショック等による一時的な足踏みはあったものの年平均成長率は1.5%と堅実に成長している。とは言え、需要構造は変わった。バーバリーの戦略転換がこれを象徴する。2015年、バーバリー本社(英)は三陽商会とのライセンス契約を打ち切り、販路を直営店に一本化する。もちろん商品はインポートのみ、日本国内におけるシェアを捨て、富裕層とインバウンドにターゲットを絞り込んだグローバル戦略に振り切った。
果たして結果は、2024年、バーバリーの国内売上高は2015年比約2倍へ、ヴァレンティノもまた約2.5倍へ倍増させている。この10年、国内富裕層は一貫して増加、インバウンド市場の拡大もご承知のとおりである。ジャパン・クオリティを支えてきたのは国内の良質なベターゾーンマーケットである。今、内需の量的な縮小が避けられないのであれば、グローバル市場における競争力の回復こそ“安い日本”から脱する鍵だ。引き籠もっている場合ではない。
※繊維製品小売市場、アパレル小売市場、インポートブランド市場に関するデータは当社調査資料「繊維白書」、 「アパレル産業白書」、「インポートマーケット&ブランド年鑑」から引用
