今週の"ひらめき"視点

2019 / 03 / 29
今週の”ひらめき”視点
中小企業の活性化に向け、親族外への事業承継機会の拡大を

22日、野村ホールディングスとカーライルグループが設立したSPC「オーシャン・ホールディングス株式会社」によるオリオンビールに対するTOBが成立した。オリオンビールは1月23日付けのプレスリリースで、「沖縄に根ざした企業としてのDNAを維持しつつ、新たな成長を目指したい」とTOBへの賛同を表明、今後は新体制のもとでビール事業の再構築とホテル・不動産事業の強化をはかる。ファンドのエグジットには「IPOも選択肢」という。
25日、敵対的TOBの成立を背景に石本氏の退任を含む経営陣の刷新を求められていたデサントは伊藤忠の要求を全面的に受け入れると発表、対立は決着した。デサントは経営戦略を修正、伊藤忠の主導下で中国事業を軸とした成長戦略を強化、韓国事業に依存した収益構造の改善をはかる。

一方、東北でも大きな動きがあった。業績低迷が続いた山形の老舗百貨店「大沼」は、2018年4月、事業再生ファンド「マイルストーンターンアラウンドマネジメント」(MTM社)の出資を受け入れ、同社の完全子会社となった。しかし、資金の不正流用やMTM社自身の経営不安説が取り沙汰される中、大沼の再建は一向に進まなかった。こうした事態に業を煮やした地元財界はプロパー従業員によるSPCの設立を支援、22日、大沼株を担保としたMTM社向け債権をSPCが取得し、大沼の経営権を取り戻した。
オリオンビールはファンドによる成長支援、デサントのケースは事業提携型、大沼はEBOによる事業再生、3つのM&Aはそれぞれ目的やスキームが異なる。オリオンについては経営陣によるMBOという側面もある。しかし、共通するのは外部資本をバックとした経営体制の刷新、成長戦略の再構築である。

今後10年間で70歳を越える経営者は245万人、うち128万人に後継者がいない。廃業せざるを得ない企業の半数は黒字であり、これらを放置すると2025年までに650万人の雇用が喪失、GDPの22兆円が失われるとの試算もある。
上記3事例は、規模や背景を鑑みると多くの中小企業にとって“他人事”かもしれない。とは言え、事業を未来へつなぐ、という意味において何ら変わりはない。事業承継は日本経済の活力を維持するための喫緊の課題であり、一方で親族内承継に限界があることも自明である。個人保証や相続の問題はある。しかし、それゆえに多様な事業承継ニーズに対応したファンドの組成など、新たな事業戦略を描き出せる外部人材にチャンスを与える仕組みが早急に求められる。

2019 / 03 / 15
今週の”ひらめき”視点
震災から8年、復興に向けて私たちは2つの現実に向き合う必要がある

3月11日、震災から8年が経過した。災害公営住宅は計画比98%、高台移転や地盤嵩上げによる宅地造成の進捗率も94%を越えた。道路、港湾、鉄道など公共インフラの復旧工事もほぼ完了した。震災発生直後、47万人を越えた避難生活者も5万人に減った。
とは言え、未だに5万人、であり、避難生活の長期化に伴う“震災関連死”も3700人を越えた。災害公営住宅における孤独死も増えている。そして、依然2533人もの方が行方不明のままである。
地域経済の低迷も深刻である。人口の減少が止まらない。とりわけ若い世代が戻って来ない。インフラ関連の復興事業が一巡した反動も大きい。NHKの調査によると被災者の63%が「復興は進んでいない」と回答したという。

3月7日、日本経済研究センターは福島第1原子力発電所の処理費用が最終的に80兆円を越える可能性があると発表した。この数字は経産省が試算した約20兆円を大きく上回るものとして注目された。しかし、このレポートの価値はそこではない。これまでタブー視されてきたチェルノブイリ方式を試算シナリオに加えた点にある。同センターは廃炉を見送り、「石棺」等による閉じ込め管理型を採用した場合の費用を35兆円と見積もった。金額の多寡ではない。あらゆる選択肢を排除しない、という当たり前のスタンスに敬意を表したい。生命(いのち)と生活(人生)を選択する根拠に政治的な恣意性は不要だし、ましてや改竄や隠蔽などあってはならない。

8年前、当社は「東日本大震災における経済復興プロセスと主要産業に与える影響」(2011年3月31日発刊)と題したレポートを発表した。「日本の中に温存されてきた古い体質、棚上げされてきた課題を一挙に解決し、産業の新陳代謝と社会経済構造の革新を加速させることをもって復興の道筋とすべき」と結論づけた。一方、被災地では、復興はおろか復旧の見通しすら立たない地域も少なくない。
東日本大震災は私たちの生活価値観を変えたはずではなかったのか。この8年間、何をしてきたのか、何が変わったのか、何を変えてきたのか。
被災は終わっていないという現実、そして、一向に解除の見通しが立たない「原子力緊急事態宣言」の中を生きる現実。私たちはこの2つの現実から目を逸らしてはならない。

2019 / 03 / 08
今週の”ひらめき”視点
対立する本部と加盟店、持続可能なビジネスモデルへの転換が求められるFC業界

人手不足による過労と運営難を理由に時短営業に転じた加盟店オーナーとセブンイレブン・ジャパン(本部)の対立が収まらない。とりわけ、契約の解除と1700万円もの違約金請求を盾に24時間営業の再開を求めた本部側の強硬姿勢に批判が集まる。
本部サイドも「人員の一時派遣」や「時短営業の実験」といった改善に向けての対策を表明したが、その一方でコンビニ加盟店ユニオンとの団体交渉を「労使関係にない」ことを理由に拒否するなど、あくまでも“原則”を貫く。

2018年2月期、㈱セブン-イレブン・ジャパンは営業総収入849,862百万円に対して営業利益244,110百万円を稼ぎ出した。高収益の源泉は24時間営業を前提に構築された精緻なチェーンオペレーションシステムと店頭売上高から仕入れ原価を差し引いた粗利を本部と加盟店とで分配するビジネスモデルにある。この粗利分配方式では店舗スタッフの人件費は加盟店側の販管費として計上される。つまり、深夜営業は店舗にとっては赤字の営業時間帯であっても、分配された粗利が営業収入となる本部にとっては費用がかからない増収ということだ。
しかしながら、セブンイレブン本部の営業収入を支えるのは国内コンビニ売上の98%、4,575,931百万円もの店頭売上をつくる加盟店のオーナー達である。加重労働による彼らの疲弊は本部にとっても看過できまい。

今、4月1日から施行される「働き方改革法」を前に経産省は中小企業の「働き方改革を阻害する取引慣行」の是正を呼びかける。契約上、FC加盟店は“下請け”ではないし、ましてや加盟店オーナーは“従業員”ではない。
しかし、例え本部と加盟店との契約関係が法的に対等であっても実質的に加重労働や不公正な費用負担を強いるのであっては、本部の側にとっても潜在的な経営リスクとなり得る。そして、これはコンビニ業界だけの問題でなく、学習塾や外食などFC業界全体に共通する課題である。まずは加盟店の経営実態を正確に把握すること、そのうえで、持続可能性と不公正取引の排除という視点からビジネスモデル全体の再点検が必要であろう。

2019 / 03 / 01
今週の”ひらめき”視点
過渡期にある指定金融機関制度、問われる地方自治体との“蜜月”の在り方

2016年6月、三菱東京UFJ銀行(当時)は国債の入札等において国から特別な優遇措置が受けられる「国債市場特別参加者」(プライマイリー・ディーラー)を返上した。当時は「3大メガバンクの最大手が日本国債の長期保有を経営リスクと判断した」と話題になったが、要は民間金融機関としての経済合理性を優先させたということである。
その三菱UFJ銀行が兵庫県芦屋市の指定金融機関を辞退した。

従来、芦屋市は輪番制を採用、三菱UFJと三井住友銀行が交互に業務を受託してきた。現在は三井住友が担当、三菱UFJは2019年7月1日にこれを引き継ぐ予定であった。しかし、昨年3月、三菱UFJは同市に対して指定受託の条件変更の申し入れを行う。これまで7万円だった行員派遣費用について、行員2名の人件費800万円と警備費700万円を要求するとともに1件あたり10円の口座振替手数料や市庁舎内に設置したATMの維持費を市側の負担として欲しい旨の要望書を提出した。
三菱UFJは同様の条件改訂を他の自治体にも提案、今回、芦屋市や埼玉県所沢市など要求に応じなかった約10自治体の指定金融機関を返上したという。

地方自治体の公金収納や支払い事務を一手に引き受ける指定金融機関は、公金を預金として確保できるとともに信用力の向上につながるとして、かつては指定獲得競争も起こっていた。しかし、低金利、低い手数料率、ほぼ無償の行員派遣義務などにより採算は悪化、今や銀行サイドに指定を継続するための積極的な動機は見当たらない。

27日、公正取引委員会はネット通販の大手事業者に対して一斉調査を行なう方針を固めた。国は、ポイント還元の原資を出品者に負担させるECモールのビジネスモデルが独禁法の「優越的地位の乱用」に抵触する可能性があると判断、実態把握に乗り出すという。その通りである。そして、“市場を歪める”という点においては公的セクターもまた同じである。もはや「お上」に優越的な立場を維持するだけの権威やパワーはない。民間に不当な負担を強いることが行政の合理化ではないはずだ。金融を取り巻くテクノロジーが革命的に変化しつつある中、指定金融機関制度の在り方そのものが見直されるべき時期にある。

2019 / 02 / 22
今週の”ひらめき”視点
世界の実体経済、不確実性高まる。最大リスクは中国構造改革の遅れ

19日、トランプ氏は米中貿易交渉の順調ぶりをアピールするとともに3月1日を期限とした協議の延長可能性を示唆した。輸入拡大や市場開放については中国が譲歩する形で交渉が進展、一方、国営企業の優遇、技術移転問題、知財侵害等における対立は依然厳しいという。
JPモルガンが発表した最新のグローバル製造業購買担当者景気指数(PMI)によると11月のPMIは52.5、12月が51.5、1月には50.7へ低下した。低下は9ヶ月連続、2016年10月以来の最低レベルである。世界の実体経済の不確実性は高まっており、米中貿易戦争に伴う中国経済の減速が懸念材料であると指摘する。

しかし、中国経済の低迷は米中問題が主因ではない。米中問題の本質はむしろ“政治”であって、根本的な課題は中国経済そのものの脆弱さにある。2017年8月、国家発展改革委員会は海外直接投資の抑制に舵を切る。当局の狙いは緊急対策としての“民間資産の海外移転の押さえ込み”にあった。つまり、既にその時点で対内直接投資と対外直接投資のアンバランスが看過できない水準になっていた、ということである。先月末の外貨準備高は3兆1千億ドル、ピークを3割下回る。対米輸出における制約も加わって外貨流出リスクは更に高まる。

外需から内需へ、世界の工場から製造強国への道のりが不透明となる中、当局は3月の全人代を前に大規模な財政政策を打ち出すだろう。6%台の成長は維持されるはずだ。しかし、結果的に構造改革は遅れ、中間層の拡大は頭打ちとなる。資金の供給者であり年間輸入額1兆8千億ドルという“買い手”としての中国の失速は国際社会における影響力の低下を意味するとともに、権力基盤の脆弱化を招く。対外的な強面ぶりと内部統制は更に強まるかもしれない。

16日、毛沢東の元秘書で、大躍進と文革を批判し、天安門で失脚した趙紫陽の名誉回復を主張し、「棺に党旗をかけるな」と言い残した李鋭氏(101歳)が逝去した。民への不信がある限り、構造改革の成就はない。当局は無数にいるはずの市井の“李氏”たちの声に耳を傾けることが出来るか、“核心的利益”の再定義が求められる。

2019 / 02 / 15
今週の”ひらめき”視点
岐路に立つ「ふるさと納税」、地方創生と公正さの両立を

ふるさと納税をめぐって自治体からの異論が噴出する。まず、ふるさと納税によって歳入の減少が続く自治体から悲鳴があがる。世田谷区は新年度の予算策定に際し、「ふるさと納税による2019年度の減収見通しは53億円にのぼる」と発表、「行政サービスの低下は避けられない」として制度の改善を訴える。
2018年度、ふるさと納税による税の控除、すなわち税の流出は市町村民税と道府県民税を合わせて2,447億円を越えた。とりわけ、2016年度に寄付金控除の上限引き上げと“ワンストップ特例”が実施されて以降、流出は都市部を中心に急拡大、世田谷区では2016年度が保育園5園の新設費用に相当する16億5千万円、2017年度は31億円、2018年度には41億円へと流出額が膨らんだ。

一方、泉佐野市は国の方針に真っ向から挑む。国は返礼品の高額化と過度な競争を抑制すべく、「返礼品は地場産品に限定、返礼割合を3割以内、この条件を満たさない自治体を制度の対象から外す」ことを決定、4月から手続きを開始する。これに対して泉佐野市は「地方分権の理念に反する」と反発、そして、「もはや法制化が避けられない情勢であり、そうであれば、、、」として、“2月、3月限定。100億円還元閉店キャンペーン”と銘打ってアマゾンギフト券の配布を開始した。泉佐野市は「関空」という国策に左右され続けてきた自治体であり、“りんくうタウン”など都市基盤への過剰投資の結果、2004年には「財政非常事態」を宣言するまで追い込まれた。厳しい構造改革を経て、2016年になってようやく「財政健全化団体」から脱却、“反骨”の基底にはこうした経緯があると推察する。とは言え、当然ながら国も黙っていない。「4月以前の取り組みも指定自治体の選考に際して考慮する」と泉佐野市を牽制する。

そもそもふるさと納税については多くの問題点が指摘されてきた。全国の自治体の予算総額は返礼費用分だけ実質的に目減りする。そして、流出超過があった自治体にはその75%が国庫から補填される一方、世田谷区など地方交付税の不交付自治体は補填の対象とならないといった不公正もある。また、流出額が多い自治体ほど納税義務者一人当たり課税所得の水準が高い。純粋な“寄付”であれば当然と言えるが、任意に選択できる納税方式に逆進的な要素が内在されているのであれば公平性を欠く。もちろん、メリットもある。地元物産の広報宣伝には効果があるだろう。故郷や母校など縁の深い自治体を応援する喜びもある。被災地の復興や地方の特定事業への支援など税の使い道に関与できることの意義も大きい。しかし、“お得感”によって選択される返礼品が地方の生産者や企業の市場競争力を高めるとは思えないし、全国レベルで通用する名産品を持たない地域にとっての恩恵は小さい。地方間競争は奨励されて然るべきだ。しかし、返礼品による税の争奪競争の歪みが顕在化しつつある中、ふるさと納税は根本から見直すべき時期にあると言える。