今週の"ひらめき"視点

2019 / 12 / 27
今週の"ひらめき"視点
日産の新経営体制、揺らぐ。退任する副COOの選択は正しかったか?

スタートしたばかりの日産自動車の経営体制に早くも亀裂が入った。12月25日、日産は副代表執行役兼最高執行責任者(副COO)の関氏が同職を辞任、日産を退職する、と発表した。報道によると同氏は次期社長含みで日本電産入りするという。
関氏は生産技術部門出身、言わば “現場を知る” トップであり、また、前CEO西川氏のもとで策定された “パフォーマンスリカバリープラン” の推進責任者であった。それだけに経営への影響は小さくない。

12月2日、CEOに就任した内田氏は記者会見で、「COOのグプタ氏、副COOの関氏と議論を尽くして経営にあたる」と新体制の運営方針を語った。“ゴーン体制からの脱却” を強く意識したのであろう。スピーチではとりわけ “議論を尽くす” ことが強調された。
尊重・透明性・信頼が大切、広く社内外の声を聞く、部下を信頼する、権限を譲渡する、異論や反論が許される風土、、、内田氏は言葉や表現を変えて風通しの良い、フラットな会社を目指す意志を繰り返しメッセージした。筆者はそこに何とも言えない頼りなさを感じたが、それはさて置き、新体制発足からわずか3週間、盟友であるべき副COOの退任表明である。内田氏の忸怩たる想いが察せられる。

12月23日、米の新興EVベンチャー「リビアン・オートモーティブ」社が13億ドル、約1,400億円のファイナンスを行った。同社の資金調達は今年に入って4回目、既に22億ドルを調達済みだ。
設立は2009年、従業員1,000人、創業者でCEOのR.J.スカリンジ氏は36歳である。出資者にはアマゾン、フォードをはじめ、住友商事も名を連ねる。2017年には米国生産から撤退した三菱自工のイリノイ工場を取得、2020年内に量産体制を整え、2021年からグローバル販売を開始するという。

起業率が低い、起業家精神が乏しい、ユニコーンが育たない、これらは日本停滞論の定番フレーズだ。関氏は「サラリーマン人生の最後をCEOとして挑戦したい」と語ったとされるが、先端技術を知り、生産現場に通じ、トップマネジメントを経験し、人脈もある。しかも、フィールドは「100年に一度の大変革期」にある成長市場だ。永守氏という新たな “カリスマ” の元への “転職” ではなく、もっとチャレンジングなCEOへの道もあったのではないか。引き受けるべきでなかった職をこのタイミングで辞するのである。せめて大人のブレークスルーの手本となって欲しかった。

2019 / 12 / 20
今週の“ひらめき”視点
自治体クラウドで障害発生、統合システムの脆弱性とリスクの本質

12月4日午前10時56分、NTTデータグループの日本電子計算が運営する「自治体専用の共同利用型クラウド基盤サービス」に障害が発生、53の自治体・団体の業務システムが次々に停止した。翌5日、同社はお詫びとともに影響範囲について公表、6日には「原因が判明したこと、外部からの攻撃ではないこと、データの漏洩や不正流出はなかった」ことが発表された。しかし、復旧は遅れており、「ホームページは閲覧可能となったが、介護保険、高齢者支援関連の手続きが出来ない」(14日、中野区)など、多くの行政サービスに影響が出ている。
16日時点でも完全復旧には至っておらず、「33自治体においてデータの一部が完全に失われた可能性がある」との続報もあった。同社はオフコン時代から自治体向けシステム開発に実績があり、公的セクターとのつながりが深い。それだけに同社のクラウド障害の影響は大きかった。

同社は16日の説明会で「障害の原因はストレージを制御するファームウェアの不具合」と結論づけた。ファームウェアとはハードを動かすためのソフトウェアである。同社のシステムはストレージ製品をDell Technologiesが提供、EMCジャパンが保守を担当している。同社は「EMCからファームウェアの修正バッチが届いていなかった」としたうえで、「仮に届いていても重大性に気付かずアップデートしなかったかもしれない」と説明した。
本クラウドサービスにおける責任分界点の詳細は分からない。よって、責任論は控えるべきであろう。しかしながら、公的サービスの基盤を担うシステムの運用受託者として甘さがあったことは否めない。

一方、自治体や団体側もシステム運用やデータの管理を安易にベンダー任せにしていなかったか。ハードウェア、ネットワーク、ソフトウェアが複雑に相互連携したシステムの厳密な監視体制をユーザーに求めるのは酷かもしれない。とは言え、サービスの最終受益者である住民にとってはあくまでも“自治体のシステム”であり、受託者のサービス品質に対する委託者としての管理責任は自治体にある。

12月6日、神奈川県で大規模な行政データの流出が発覚した。もちろん、直接的に責任を問われるべきは、HDDを窃盗、転売した犯人である。しかし、その背景には発注者から受託者へ、業者から業者への「丸投げ」の連鎖、業務が工程ごとに分断されているがゆえの管理体制の甘さがある。その意味で自治体クラウドの障害問題も根が同じと言えるだろう。
あらゆる情報がデータ化され、新たな利便性が提案される。アプリケーションは継ぎ足され、データはネット上で複雑に関係付けられる。基本設計を越えて全体として進化、肥大化してゆくシステムの責任はどこにあるのか。リスクの再点検とともに運用、管理の在り方を再度問い直す必要がある。

2019 / 12 / 13
今週の“ひらめき”視点
見えてきた“米中問題”以後の貿易体制、WTOの機能回復が望まれる

10日、米トランプ政権はNAFTAに代わる新協定USMCAの修正案について民主党と合意したと発表、これを受けて米議会は法案の批准手続きに入る。メキシコ、カナダもそれぞれ議会承認の段階にあり、新協定は2020年春には発効される見通しとなった。
新協定ではメキシコの労働環境を監視するための機関を米国内に設置することや乗用車の無関税条件に時給16ドル以上の工場での生産比率を40%以上とすることなどが盛り込まれた。北米市場向けの生産拠点をメキシコに置く自動車メーカー各社にとってコストアップは避けられない。とは言え、経営条件における不透明要因が解消されたことは歓迎すべきだ。

12日は英国下院議会の総選挙だ。ジョンソン氏率いる与党優位との声も聞かれるが、EU残留派が多数を占める若者の投票行動によっては “流れが変わる” こともあり得る。いずれにせよ3年間硬直化してきたBREXITの行方に一つの答えが出るだろう。
RCEPも年明け以降、動き出す。参加各国は2020年中の署名に向けて国内手続きに入る。最終局面で自国産業保護に転じたインドを欠いた15カ国でのスタートは残念であるが、それでも新たな自由貿易圏がアジアに誕生することの意味は大きい。
北米、欧州、アジア、それぞれにおいて不透明かつ流動的だった外部条件のカタチが少しずつ見え始めた。企業の積極的な行動に期待したい。

一方、新たな体制は新たな対立も孕む。それゆえにWTOの機能不全は残念だ。WTOには貿易紛争の最高審理機関として “上級委員会” がある。定員は7名、審理には最低3名が必要と定められている。11日、2名の委員が任期切れとなった。残る委員は1名、審理機能は実質的に停止した。
要因は米国が過去2年間にわたって新委員の選任を拒否してきたことによる。米国は疑わしきは罰せずとの原則が結果的に中国を利してきたと批判、紛争は当事者間の交渉で解決すべき、と主張する。しかしながら、当事者間交渉が “力による解決” に向かうことは米国の振る舞いを見れば歴然である。ルールによる紛争処理こそがWTOの存在理由であり、加盟国は機能回復に向けての公正な運用ルールづくりに早急に取組んでいただきたい。とりわけ日本のイニシアティブに期待する。

2019 / 12 / 06
今週の“ひらめき”視点
今治造船とJMU、資本提携。造船業界の再々編がはじまる

29日、国内造船1位の「今治造船」は同2位「ジャパンマリンユナイテッド」(以下、JMU)との資本業務提携を発表した。今治造船は資本比率3割を目処にJMUが新たに発行する普通株式を引き受けるとともに、既に三菱造船と協業関係にあるLNG運搬船を除く商船分野で共同営業設計会社を設立、将来的には生産体制の効率化も視野に入れる。

造船業界は慢性的な供給過剰状態にある。かつて “造船王国” と称された日本であるが、90年代後半以降、韓国、中国が猛追、現在、世界シェアの7割を中韓勢が占め、日本は2割に止まる。
中韓は業界再編でも日本に先行する。中国では国内1位「中国船舶工業集団」と2位「中国船舶重工集団」が統合、一方、韓国は経営が悪化した国内3位の「大宇造船海洋」を1兆2千億円の公的資金で救済、そのうえで同1位「現代重工」との経営統合を進める。
IHIとJFEの造船部門の統合によりJMUが誕生したのが2013年、それ以来、日本では大きな動きはない。当時、川崎重工と三井造船(三井E&Sホールディングス)の統合交渉も進んだが結果的に破談となっている。

その三井E&Sが苦境にある。2020年3月期は3期連続の最終赤字となる見通しで、11月11日には半年前に策定したばかりの事業再生計画の見直しを発表した。背景にはインドネシア火力発電事業の巨額損失がある。とは言え、祖業である造船事業の再建も遅れている。川崎重工との交渉決裂後、中国の揚子江船業と提携するなど事業の立て直しをはかってきたが、船舶部門の2019年3月期売上高は前期比156億円減の969億円、営業利益は71億円改善したものの81億円の赤字である。再建策では玉野工場での中小型商船事業への絞込み、大型タンカーの建造を担ってきた千葉工場の受注停止、工場用地の売却が表明された。加えて、三菱重工との提携も選択肢にあるとされるが先行き不透明感は拭えない。

今治造船とJMUの資本提携は歓迎すべきだ。それでも統合後の建造量は中韓トップに遠く及ばないし、現時点では造船所の再編、統廃合に関する発表もない。その意味でやや中途半端な感は否めない。
日本勢が唯一頼みとする技術優位は今後更に縮まる。とすると国を越えてのグローバル再編も現実味を帯びてくるだろう。今治とJMUの動きはその起点となる可能性がある。世界市場に対する攻撃的なM&Aに期待したい。

2019 / 11 / 22
今週の“ひらめき”視点
円滑化法から10年、地方経済と地域金融は大きな転換期にある

2019年4-9月期、上場する78の地銀・地銀グループのうち56行が最終赤字となった。収益悪化の主因はもちろん低金利である。しかし、貸倒引当や損失処理費用を含む “与信費用” の負担がこれまで以上に重くなった影響も大きい。日経によるとこの中間期における与信費用の合計は1,077億円(不祥事のあったスルガ銀行を除く)、前年比で2.2倍に拡大した。実際、中小企業の倒産はじわりと増えつつある。2019年7-9月期における倒産件数の前年比伸び率はリーマンショック後の2009年1-3月期の13.4%に次ぐ8.1%増に達したという(東京商工リサーチ調べ)。

2009年12月、国は中小企業金融円滑化法を施行、リーマンショックの影響で経営危機に陥った中小企業を救済すべく返済猶予など貸付条件の変更を銀行に要請した。円滑化法は2013年3月で期限を迎えたが、引き続き「法の精神の維持」が求められてきた。実は円滑化法施行の前年、金融庁は貸出条件緩和のための経営改善の計画期間を3年から5年(最長10年)に変更している。つまり、円滑化法適用会社は最長10年間の長期経営計画を銀行に提出しているということだ。
それから10年が経過した。計画どおり成長軌道を回復し、収益の改善が進んでいる企業ばかりではあるまい。ここへきての倒産件数増と地銀の与信費用の拡大は、円滑化法施行から10年を経た今、「法の精神の維持」の解釈に幅が出来てきた、ということだ。要するに「猶予期間は終わった。改善見通しが立たないのなら支援は打ち切る」ということである。

一方、地銀の預貸率は上昇基調にあり、低金利下にあって融資拡大に積極的だ。背景には自身が淘汰の危機にあるという事情がある。政府が主宰する “未来投資会議” は2019年の実行計画案の中に「地方銀行に対して向こう10年間で集中的な再編を促す」と書き込んだ。各行は10年内にやって来るであろうXデーに向けて自行のプレゼンスを少しでも大きくしたい。そのためには資産の健全化と地元優良企業との関係強化が必須だ。より良く選別されるための選別が進むということだ。

とは言え、闇雲な融資拡大がリスクであるように形式基準のみによる健全化は自らの未来の芽を摘むことになる。地域の中に可能性を見い出し、支援し、育成すること、つまり、地域密着型金融という地銀本来のノウハウこそが最大の資産であって、それが強固で、豊かであることが自行の企業価値を高めることになる。地方創生の担い手は地元企業であり地域金融である。淘汰を再生と創造につなげるための “選別” に期待する。

2019 / 11 / 15
今週の“ひらめき”視点
百貨店の閉店は地域の等身大の需要を掘り起こすチャンスである

1991年をピークに縮小を続け2000年代に再編淘汰された百貨店業界であるが、今、もう一段のダウンサイジングを余儀なくされつつある。今年は10店舗、とりわけ地方や郊外の象徴的な店舗の閉店が相次ぐ。函館の中合 棒二森屋にはじまり、米沢の大沼、ヤナゲン大垣本店、伊勢丹の府中と相模原、そごう神戸、甲府の山交、、、いずれも地域のランドマークとして地元経済を支えてきたかつてのエースだ。来年には西武大津、高島屋港南台、そごう徳島、、、も営業を終える。

2019年2月期、百貨店上位10社のうち増収は5社、需要を押し上げたのはインバウンドと富裕層である。特需の恩恵は地方には届かない。そこが明暗を分けた。しかし、地方にチャンスはないのか。ストライプインターナショナルとソフトバンクの合弁会社「ストライプデパートメント」はこの9月、地方百貨店向けの新サービス「ダース(Department EC as a Service)」を開始した。同社が提携百貨店のECサイトを開発し運営を代行、地方店はミニマムコストでECチャネルを構築できるとともにストライプ社が扱う1,000ブランドを自社サイトで販売できる。ストライプ社はサイトの会員増を、ベンダーは地方顧客を開拓できる。将来的には地方百貨店50店と契約、地方のF2層に向けて新たなチャネルで新たなファッションを提案する。

一方、総合大型店という小売業態がその役割を終えたわけではない。家電市場も一昔前に業界再編を経験した。総需要の大きな伸びは期待出来ない。価格競争も熾烈だ。EC市場も拡大している。それでも家電量販各社は  “大型” であり続けるために一等地におけるシェアに拘るとともに、新たな “総合” のカタチを模索する。ビックカメラが新宿三越アルコットを一括賃貸し、ファーストリテイリングとともに開発した「ビックロ」はその一例だ。ヤマダはエス・バイ・エル(旧小堀住建)を買収、住空間全体をビジネスドメインに取り込む。ノジマはスルガ銀行の創業家保有株式を取得、18%の筆頭株主となった。百貨店の跡地を引き受け、あるいはその集客力を補完できるのも唯一彼らだ。山交の土地建物はヨドバシが買収する。日本橋三越にはビックカメラが新たな高級業態で出店する。

13日、アイリスオーヤマはテレビ事業への本格参入を発表した。目玉商品は “音声認識” テレビだ。しかしながら、最先端のIoT家電とはちがう。ネットに接続する必要はない。アプリのダウンロードも不用。つまり、完全オフラインの音声認識リモコン付きテレビである。方言にも対応、機能を単純化し、低価格化することで “ホームセンター” という言わば総合家電の廉価チャネルでの拡販を目指す。顧客が見えている、とはこういうことである。
百貨店という業態が全国一律に需給バランスを回復させることはないだろう。そもそも地方や郊外の活性化は既存の百貨店の存続と同義ではない。であれば、もう一段の再編は、本来そこにあった等身大の地域のニーズをもう一度、街の中心に引き戻すチャンスである。