今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2026 / 06 / 05
今週の“ひらめき”視点
局地的豪雨の夏、今年も再び。水害に万全の備えを

5月28日、世界気象機関(WMO)と英国気象庁は世界の気象予測に関する報告書を公表、2026年から2030年における世界の平均気温は「産業革命前に比べ1.3℃から1.9℃上昇し、この5年間に観測史上最高気温が更新される確率は少なくとも86%に達する」という。また、温暖化に伴う海氷の減少や海水温の上昇は高緯度地域の降水量を増加させる一方、南半球では降水量が減少、太平洋赤道域ではエルニーニョの発生可能性が高まる、と予測する。

実際、欧州はWMOの予測を先取りするかのような熱波に見舞われている。英国では5月の最高気温を更新、フランス西部では熱波警報が発令、スペイン、イタリアでも記録的な暑さが続く。日本の“春”も過去2番目の高温を記録、5月中旬には九州で猛暑日も観測された。もはや「平年」と比較することの意味が失われるほどに「異常」な暑さが世界で常態化している。

筑波大と北海道大は、「日本の上空には大量の水蒸気が流れ込む“大気の川”があって、この川の流れの強度が温暖化の進行とともに増大、過去42年間で8.3%強まった。そして、こうした変化が線状降水帯など極端に強い雨を降らす要因となっている」との研究成果を発表した(5月22日)。なるほど、“これまでに経験したことのない”と形容される局地的豪雨が毎年毎年多発する一因が、遠のくばかりのパリ協定と反比例するかのように増大する“大気の川”の流量にある、ということか。

2014年から2023年までの10年間、水害被害の総額は7兆5千億円をこえる。そのうち4割が下水道から雨水が溢れ出す内水氾濫で、とりわけ都市部では7割が内水氾濫による(国交省)。こうした状況を受け、国も下水道の排水能力の向上など都市浸水対策を強化する。しかしながら、事業の達成率は全国平均で62%に止まる(2022年時点)。とここまで書いたところで台風6号の接近により筆者の事務所近くを流れる神田川にもレベル4(氾濫危険警報)が発出された。日本気象協会によると「2026年は台風の日本列島への接近数が平年並みか平年より多くなる」とのことである。台風、豪雨による被害が最小の夏になることを願う。

2026 / 05 / 29
今週の“ひらめき”視点
米中、月面基地計画。地上の覇権争いを宇宙へ持ち出すな

5月26日、宇宙開発ベンチャー(株)ispace(アイスペース)とJALグループは、アイスペース社が2028年に予定している月面着陸ミッションにおけるペイロード(荷物)輸送サービス契約を締結したと発表した。“次世代へ受け継ぐ箱舟”(ARGO PROJECT)と名付けられた事業は、人類の文化や人々の営みの記録を災害や紛争によって失われることのない“月”で保管し、未来の人類に継承するプロジェクトで、JALグループは地域の特産品や時代を象徴する工業製品を月へ運ぶ輸送枠を自治体や企業に販売する。

しかしながら、果たして「月」はARGO PROJECTが想定する「地球の紛争リスク」を回避できるのか。24日、中国は宇宙飛行士3人を乗せた「神舟23号」の打ち上げに成功、25日には宇宙ステーション「天宮」とドッキングした。中国は2030年までに有人月面着陸を実現、30年代半ばにはロシアと共同で月面基地を建設する計画だ。その翌日、米国は有人月探査プロジェクト「アルテミス計画」の工程表を発表、2029年までに建設地点の調査を進め、30年代には大型の居住施設を月面に建設すると発表した。

月面だけではない。宇宙空間における米中の競争も熾烈化しつつある。米国はスペースX社の通信衛星コンステレーション「Starlink」を含め既に7000機~9000機の人工衛星を運用、現在、1000機程度とされる中国も2030年までに1万5000機の低軌道衛星を配備する計画である。とは言え、そもそも天体を含む宇宙空間は1967年に発効された宇宙条約の第2条において「いずれの国家も領有権を主張することは出来ない」と定めている。ただ、国際法に対する信任が揺らぎつつある地上の現状にあって、ましてや宇宙だ。国際条約の有効性は心もとない。

2010年、英国の宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士(1942-2018)は地球外生命が存在する可能性は高いとしたうえで、もしも彼らが地球に現れるとすれば「自らの故郷である惑星の資源を使い果たした後、地球を新たな資源の供給地、新たな居住地とみなした時である。コロンブスの北米大陸への上陸が先住民にとって脅威となったように地球人にとって好ましくない結果となる」と警告した。「宇宙から国境線は見えなかった」とは日本人初のスペースシャトル搭乗員、毛利衛氏の言葉である。地球が氏の言葉通り本当に1つになれるのはホーキング博士の懸念が現実になった時でしかないのか。いや、私たちはもう少し賢くありたい。

2026 / 05 / 22
今週の“ひらめき”視点
中国EVメーカー、停滞する世界のEV市場の間隙を狙う

5月18日、ニデック(旧日本電産)が「EV駆動装置E-Axle(イーアクスル)事業を大幅縮小、中国、欧州企業との合弁も解消へ」との報道があった。イーアクスルは創業者永守氏が推進してきた肝いり事業であり、会計不正、品質不正の温床となった永守路線からの決別を社内外に示すメッセージとしての意味は大きい。ただ、イーアクスルは5月13日にリリースされた「再生に向けて」と題した再建プランにおいて既に“構造改革・転換領域”の対象事業に区分されており、本質的には事業の継続リスクを精査したうえでの合理的な経営判断と言えよう。

イーアクスルはEVの駆動部であるモーター、インバーター、ギアを一体化することで小型軽量化と生産性の向上をはかる技術であるが、ご承知のとおり中国の車載モーター市場は激しい価格競争下にある。加えて部品のパッケージ化は更に進む。究極は駆動部、ブレーキ、ステアリング、バッテリー、制御ソフトをシャシーに一体化させたCATL(寧徳時代新能源科技)の“スマートシャシー”だ。クルマの下半分と車体上部との連携は信号で行われるとのことであり、つまり、シャシーに車室部分を乗せるだけでクルマが完成する。

今、世界の主要メーカーでEV戦略の見直しが進む。需要の停滞と最大市場である中国における供給過剰が背景にある。中国市場については巨大な補助金が公正な競争を阻害してきたことも一因だ。ただ、熾烈な競争の中、各社がテクノロジーにおける革新を競い合ってきたことも事実である。自動運転しかり、生産性の向上しかりである。シャシーと車体上部を独立して開発できる“スマートシャシー”は企画から量産までのリードタイムを12か月に短縮する。コストカットの積み上げで実現できるものではない。生産工程そのものに対するイノベーションが発想の起点にある。

厳しい競争が続く国内市場にあって中国EV勢はEVが伸び悩む海外市場の“隙”を狙う。BYDはこの夏、軽自動車規格のEVを日本市場に投入する。東風汽車はステランティスと提携、「プジョー」、「ジープ」ブランドのEVを生産、世界市場へ輸出する。2027年にはスマホ大手シャオミ傘下の小米汽車が欧州を皮切りに世界戦略を本格化させる。成熟市場におけるハードルは高い。自動車産業それ自体が発展途上にあるアジアにおける成功モデルは通用しない。とは言え、EV市場の未来と自社技術の可能性に賭ける彼らの姿に、恐らく日本電産の成長期にもあったであろう世界を目指す“創業者”魂の片鱗を見る。

2026 / 05 / 15
今週の“ひらめき”視点
未成年のSNS依存症、世界で深刻化。大人は子供たちを守れるか

5月5日、日本と欧州連合(EU)は“日EUデジタルパートナーシップ閣僚会議”を開催、プラットフォーム事業者に対する監督体制の強化、信頼性のあるデータの流通、個人情報保護、海底ケーブル防護などについて高いレベルで緊密な協力体制を構築するとの共同声明を発表した。

プラットフォーマー規制については“安全なオンライン環境”、とりわけ、オンライン上における未成年者保護の重要性が強調された。EUでは利用者の保護や違法コンテンツへの対応を既にプラットフォーム事業者に義務付けており(デジタルサービス法、2024年)、日本でも個人の権利を侵害する情報の削除を求める法律が施行されている(情報流通プラットフォーム対処法、2025年)。

しかしながら、有害コンテンツの規制だけで子供たちの権利、健康、安全を守ることはできない。無限スクロールや昼夜を問わない通知など、アクセス数に応じて収益が発生するSNS固有のビジネスモデルそのものが中毒性を誘発する有害技術であり規制すべき、との声も高まる。昨年暮れには豪州で、今年3月にはインドネシアで16歳未満のSNS利用が禁止された。仏、デンマーク、ノルウェー、トルコ、ギリシャ、マレーシアでも禁止に向けた議論が進む。日本でもSNSに起因する被害児童は1566人に達しており(令和7年、警察庁)、10代の7%にSNSの病的利用の疑いが認められる※という。対策は急務である。

人類が誕生して600万年、産業革命から200年、初代iPhoneから19年、LINEがサービスを開始して15年、ChatGPTのリリースから3年半だ。イノベーションの速度はあまりに急激で、産業構造が変わり、暮らし方が変わり、社会と個人の関係も変わった。そして、そこに馴染めない人は社会不適合とされる。見渡せば誰も彼もがスマホ片手にSNSだ。いつの日か各国のSNS規制などなんらの効果もなく、SNS依存者が世界に溢れ、やがて人類の首が15度下向きに進化した未来に、そうならなかった人はSNS適応障害などと病人扱いされるのであろうか。いやそれはご免だ。
※出所:「ネット・ゲーム使用と生活習慣に関する実態調査(2024)」、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター

2026 / 05 / 01
今週の“ひらめき”視点
後退する民主主義。世界は“普遍的価値”を取り戻せるか

4月21日、アムネスティ・インターナショナルは世界の人権の現状に関する年次報告書を発表した。イスラエルのガザにおけるジェノサイド、ヨルダン川西岸への違法入植の拡大、ロシアによるウクライナの民間インフラへの空爆、米イスラエルのイランへの武力行使等を列挙したうえで、国際法を無視し、多国間体制に背を向け、力による支配と収奪を試みるこれらの国々の指導者を“政治的・経済的捕食者”と非難した。

また、米国、中国、ロシアといった大国に加え、アジア、中東、アフリカ、南米の多くの国で政権に対する異議申し立てを犯罪化し、抗議者を不当に拘束するなど、市民に対する暴力的な弾圧が拡大していると指摘、「彼らの行動原理は異論を封じ込め、“他者”とみなした者を非人間化することに基づく」と断じる。

世界の民主主義の達成度を示す指標にEIU民主主義指数(英エコノミスト誌)とヨーテボリ大学のV-Dem(スウェーデン)があるが、いずれも民主主義の停滞、後退を示す。EIUによると2024年時点で完全な民主主義国家は世界の15%、人口ベースで6.6%に過ぎない。V-Demは「2025年の自由民主主義指数は1970年代後半の水準まで低下、世界の至る所で強権的指導者が生まれ、権威主義化が進んでいる」と指摘する。とりわけ、米国の自由民主主義指数は2024年の0.79から2025年に0.57へ急落、「自由民主主義」国家の区分から脱落した。

政治・経済・軍事力を振りかざし、あからさまに自国利益を追求する大国の振る舞いが世界の空気を一変させる。国連憲章、国際法への信頼が霞む中、世界中がそれぞれの政治的立場、地政学的条件において“ますます厳しくなる安全保障環境”を自国の物語に変換、これが強権化の土壌となる。「政治的・経済的捕食者たちは、多国間体制は死んだという。しかし、彼らがそう主張するのはそれが非効率だからではなく自身の覇権と支配に資していないから」とアムネスティのカラマール事務総長は看破する。世界は法の支配にもとづく秩序を取り戻せるか、私たちは大きな岐路にある。

2026 / 04 / 17
今週の“ひらめき”視点
持続可能な地域の再生に向けて。全国一律思想からの脱却を

Photo:東京都あきる野市乙津地区の里山 撮影:筆者

4月14日、小池都知事は地方交付税の偏在是正に関する国の方針に対して「制度そのものに問題がある」と異議を表明した。地方自治体が担うべき“標準的な”行政サービスを“全国一律”の基準で算出し、そこを上限に税収見込み額との差額を補填する現行制度は、自治体自らの努力で支出削減や税収増を実現すると差額が縮小、つまり、交付金は減少する。確かにこれでは改革への意欲は削がれかねない。一方、資本と人口が国内外から集中する東京の優位もすべて“都政”の成果に帰するものではない。現行制度の改革はもちろんであるが、東京もまた“首都”としての立場から国土の在り方を論じていただきたい。

高度成長期以来、国土開発の基本理念は「均衡ある発展」であった。しかし、東京一極集中は是正されず、地域間格差も拡大した。国が主導する予算分配型施策の限界は地方の側も認めるところである。とは言え、面的な平準化への呪縛は国と地方、双方に残る。まずはここからの意識改革が必要だ。都市と地方が補完し合う動的ネットワークを掲げた“対流促進型国土構想”(2014年、国交省)、人口減少を所与の条件とし、地域の特性に応じた稼ぐ地域の実現を目指した“地方創生2.0”(2025年、石破内閣)。これらをどう継承し、“その土地ならでは”を実現するか、ここが地域再生の鍵となる。

先週、筆者は“たま未来・産業フェア”会場にてご縁をいただいた(株)東京山側DMCの幹部のお二人、みちくさの達人“サクちゃん”こと櫻澤裕樹氏と修験道の修了者でもある西川佳克氏に、同社の自然体験フィールド「あきる野市」を案内いただいた。秋川流域は約3億年から1.5億年前の秩父帯、1.1億年から7千万年前の四万十帯、1500万年前の日本列島形成期の地層で出来た五日市盆地など複数の地層が重なり合う稀有なジオパークであり、それぞれの地質の特徴が独自の景観と人々の営みを特徴づけてきた、とのことである。

同社にとっての“マチヅクリ”はその土地固有の「風土」を理解することが出発点となる。「風土」の価値を発掘し、事業として実装できる人材を育成し、各地の行政、DMO、DMCとの連携を通じて自律分散型のネットワークを築くこと、これが同社の目指す地域創生のゴールである。そんな同社が企画する探求型自然体験スクールの参加者は年間3万人を越える。自己判断力を高め、生き抜く人間力を向上させる多様なプログラムは企業研修としても人気が高い。「風土」の再生を軸に都市と地域を関係づける同社の地域創生事業を応援したい。

参考:
東京山側 / TOKYO YAMAGAWA DMC – 東京山側DMC
※6月28日(日)、同社は東京都あきる野市五日市の田んぼにて「お田植え神事」を開催するとのこと、ご興味のある方は是非どうぞ。
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