今週の"ひらめき"視点

2019 / 05 / 17
今週の”ひらめき”視点
攪乱される中東、米国一国主義のその先に落とし所はあるか

トランプ政権による対中貿易制裁のもう一段の強化に加え、米国の中東政策における強硬姿勢が世界の不確実性を高める。
米国は4月に発動したイラン産原油の全面輸入禁止措置に対する報復を警戒、空母や爆撃機をペルシャ湾に派遣するなど軍事的な圧力を強めてきた。そうした中、航行中のサウジアラビア、UAE、ノルウェーの船舶がイランに支援された武装勢力から攻撃を受けたと報じられた。また、14日にはイエメンのシーア派武装組織“フーシ”がサウジアラビアの石油施設を攻撃、こちらもイランの関与が取り沙汰される。

イランは米国の制裁強化に対してホルムズ海峡の封鎖を示唆していた。しかし、海上封鎖のリスクはイランも承知しており、今回の攻撃はそれゆえの限定的な威嚇行動とみることもできる。もちろん、イラン政府は武装組織への関与を否定する。とは言え、偶発的な軍事衝突も含めペルシャ湾の緊張は高まる。15日、米国は隣国イラクの米国大使館、領事館員の一部に出国を指示したという。
ホルムズ海峡の緊迫化はすなわち世界の原油供給体制にとってのリスクである。米国は振り上げた拳の落とし所を見出すためにも、イラン核合意にとどまり続ける欧州からの支持をとりつけたいところであるが、英仏独との隔たりは大きい。

一方、トランプ政権は6月のラマダン明けのタイミングで新たな中東和平案を発表するという。2017年12月にエルサレムを首都と認定し、昨年5月に大使館を移転、今年3月にはゴラン高原をイスラエル領と認定するなど、中東和平に関する国際協調体制を一方的に崩してきたトランプ氏が「究極のディール」と予告する和平提案の中身が注目される。
国際社会が“唯一の解決策”としてきた「2国家共存の原則は維持される」との見方もあるが、2期目を目指すトランプ氏にとってユダヤ票の取り込みも念頭にあるだろう。そもそも「2国家には拘らない」と繰り返し表明してきたトランプ氏だけに中東情勢は予断を許さない。

2019 / 05 / 10
今週の”ひらめき”視点
米中対立、新たな次元に。アジアにおける台湾の地政学的重要性、高まる

8日、米国は中国製品に課している10%の追加関税を10日から25%に引き上げると正式に発表した。
その3日前、難航する交渉に業を煮やしたトランプ氏はツイッターで制裁関税の引き上げに言及、これを受けて米中合意に向けての市場の楽観は一挙に後退、株安が世界に連鎖した。それでも9日から再開される閣僚級協議が最後のチャンスとなるが、米国の強硬姿勢を受けて中国側ももう一段の報復を示唆するなど予断を許さない。

米中貿易戦争が実質的な覇権争いであることは言うまでもない。この3月、米国では各界の有識者で構成される「危機委員会(Committee on the Present Dangers)」が20年ぶりに設置された。これは国家的危機に対する政策提言機関であり、過去にトルーマン、レーガン時代にそれぞれソ連を対象に、ジョージ・W・ブッシュ政権時に対テロを対象に計3回設置されたことがある。中国に対する米国の危機感は単なる「貿易におけるwin-winの関係」では解消できない次元までに拡大しつつあるということだ。

米中は南米、中東でも対立、アジアでは台湾が“駆け引き”のカードとして浮上する。22日からジュネーブで開催されるWTO総会への招待状が6日時点で台湾に届いていない。背景には独立志向を鮮明にする民進党の蔡英文政権に対する中国側の圧力があると言われる。そうした中、台湾は中国による情報統制、世論誘導を警戒する。総統選挙を来年1月に控え、蔡政権は中国IT企業に対する規制強化に動く。一方、総統選挙では対中融和路線を掲げる国民党の優勢が伝えられる。そして、国民党の候補者には習指導部と関係が深い鴻海精密工業の郭台銘氏が有力だ。郭氏はトランプ氏ともつながる。2大国の駆け引きが続く中、台湾はどちらへ向かうのか。台湾は重大な歴史的岐路にある。

2019 / 04 / 26
今週の”ひらめき”視点
ルノー、日産、経営統合問題。日産は統合交渉から逃げるな

ルノーが日産に再び経営統合を打診した。昨年11月、両社をバランスさせてきた“カリスマ”の突然の不在を受け、両社の主導権争いが表面化する。4月12日、ルノー、日産、三菱自は、3社のトップで構成される新たな会議体を設置、グループの最高意志決定機関とすると発表した。ルノーのスナール会長も合議体によるグループ運営への移行を支持、経営統合問題は棚上げされた、はずだった。

しかし、実際には上記会議の前後にルノー側からあらためて経営統合が提案されていた。日産経営陣はこれを拒否、あくまでも独立企業としての提携関係を維持したい考えだ。
一方、ルノーにとって統合は言わば悲願である。2018年9月、ルノーはカルロス・ゴーン元会長を通じて経営統合を日産に提示した。今年1月にも大株主である仏政府から日本政府に統合の意向が打診されている。そして、4月というタイミングでの再提案は定時株主総会を前にした日産への牽制であることは言うまでもない。
確かに現時点における2社のポジションは業績、技術力ともに日産が上である。しかし、だからこそルノーは破綻した日産の“将来”に投資したとも言える。議決権ベース43.4%の資本の意味は軽くない。

国交省、経産省は2030年度までに2020年度目標から3割の燃費改善を義務付けるとともに次世代低燃費車の普及目標を引き上げる方針だ。環境規制、次世代自動車では欧州、中国勢が先行する。2018年3月期の研究開発投資は日産が4,958億円、ルノーが3,800億円、2社を合わせてもトヨタに及ばない。フォルクスワーゲングループの研究開発投資は1兆5千億円を越える。
今、未来の競争優位の確立に向けて、自動車市場は新たな提携、再編の波の中にある。主役はCASEを牽引する大手ITや新興ベンチャーだ。そうした中にあって“仏、日本、それぞれの国益”などと言う議論に両社の利はない。競争に取り残された時、次の買収者はもはや自動車メーカーではないだろう。日産は未来を生き抜くための統合シナリオの構築をこそ急ぐべきだ。資本の問題は統合戦略を主導し、結果を残してゆく中でいずれ解消できる。

2019 / 04 / 19
今週の”ひらめき”視点
日銀のETF残高、膨張。株式市場の正常化とリスク回避に向けて

15日、OECDは「対日経済審査報告書」で日銀のETF(指数連動型上場投資信託)の買入について「市場規律を損ないつつある」との懸念を表明した。これに対して、日銀の黒田総裁は「2%の物価安定目標を達成するための施策の一環」であるとしたうえで、「目標達成に向けて大きな役割を果たしている」と語った。
翌16日、衆議院財務金融委員会にて同様の懸念について問われた黒田氏は「さまざまな意見があることは承知しているが、“株価安定”の実現に向けての必要な措置である」と回答、直後、「株価ではなく物価」と言い直す一幕があった。

日銀が「物価安定目標」を“消費者物価の前年比+2%”と定めたのは2013年1月である。しかし、2019年4月にあって目標の達成は依然として遠い。もはや異次元緩和への期待が色褪せつつある中で問われた“副作用”に対する反論として、目に見えるポジティブな成果としての“株価”が黒田氏の頭を過ぎったのだろうか。もちろん、発言は直ちに修正されたが、本来の目標達成が見えて来ない現状にあって、市場の歪みと副作用に対する懸念が黒田氏の中でも大きくなりつつあるのかもしれない。

2018年、日銀によるETFの買入れは年間6兆5040億円に達した。同年12月における保有残高は23兆5497億円、これは東証一部上場会社の時価総額の約4%を占める。年明け以降も残高は増え続け、この3月末には28兆円を越えたとみられる。日銀のETF買入は黒田氏が繰り返し説明したとおり物価の安定が目的である。市場介入による株価操作が目的ではないし、ましてや純投資ではない。したがって、目標が達成されるまで売却はできない。ゆえに企業価値が適切に反映されるべき株価に歪みが生じる。

問題はこれだけでない。万が一、相場が急落し、時価が取得価格を割り込んだ場合、日銀は大きな含み損を抱えることになる。つまり、円の信任そのものが毀損する可能性がある。このリスクを回避するには残高を減らす必要がある。しかし、売却は相場の下落を誘発する恐れがある。まさに退くに退けない。
とは言え、日銀は実効性の高い出口戦略を準備し、一定の条件下で政策を転じる意志を表明すべき時期に来ているのではないか。それは金融政策における“手持ちのカード”を増やすという意味においても有効であるはずだ。

2019 / 04 / 12
今週の”ひらめき”視点
EC事業者への規制圧力、強まる。成長を維持するためにはルールへの適合と“フェアネス”が条件

10日、アマゾンジャパンは、5月からの実施を予告していた「全商品で購入額の1%以上をポイント還元する施策を撤回する」と発表した。
同社は、2月に同施策について出品企業に通知していたが、公正取引委員会はポイントの還元原資を出品者側の負担とするビジネスモデルが“優越的地位の濫用”にあたる可能性があるとして、同社を含む主要ECサイトへの一斉調査を準備していた。これに対して同社は公取委による独禁法違反認定リスクを事前回避した形だ。

同じ日、公取委は大手旅行サイトがホテルや旅館との契約において「宿泊料金の最低価格」と「客室数の最大割当」を保証させる所謂“最恵待遇(MFN)条項”を要求していたとして、楽天、ブッキング・ドット・コム、エクスペディアの3社に対して一斉立ち入り検査を実施した。大手サイトによるMFN条項は新規参入企業に対する障壁となるとともに、宿泊価格の高止まりなど消費者への不利益を招く恐れがある。公取委は検査結果を分析、行政処分の必要性を判断するという。

支配的な地位を確立しつつあるIT事業者に対する規制強化が進む。国境を越えて巨大化し、市場を寡占化してゆくIT企業に対してようやく各国の法令の側が追いつきはじめたということだ。
所謂プラットフォーマー規制では欧州が先行する。個人情報に関する規制(GDPR)は既に施行済みだ。デジタル課税こそアイルランドをはじめとする低税率国の反対を受け合意できなかったものの、フランス、英国、スペインは単独での実施を表明している。

一方、低税率国を活用した“税逃れ”に対して、独仏は新たな規制をG20に提案する。グローバル企業が低税率国を活用して得た利益が国際社会における税負担の最低水準を越える場合、これを不当利益とみなし本国で課税させるという。デジタル課税で欧州と対立する米国も独仏の提案を支持するという。
取引条件、情報管理、著作権、利用者保護、課税問題など、あらゆるアプローチでグローバルIT企業への規制が進む。テクノロジーと自由な発想で世界経済の成長と構造変化を牽引してきたプラットフォーマーは、果たしてnation-stateとの共生の道を見出せるか。もう一段の成長と自由を獲得するための鍵はここにある。

2019 / 04 / 05
今週の”ひらめき”視点
ジャパンディスプレイ、台中連合の傘下へ。国主導のオールジャパン戦略の限界

官民ファンドINCJ(旧産業革新機構)のもとで経営再建をはかってきたジャパンディスプレイ(JDI)は、3日、台湾中国連合3社から最大800億円規模の金融支援を受け入れることで合意した(同社のリリースでは正式合意は週明け以降になるとのこと)。JDIはあわせてINCJによるリファイナンスを実施、総額で1,100億円の資本増強を行う。これによりINCJの議決権は25%から半減、代わって台中勢が5割弱を押さえ筆頭株主となる。国の支援を背景に“オールジャパン”としての復活を期待されたJDIであるが、今後は外資企業として再建の道を歩む。

かつて世界シェアの過半を押さえ、「液晶王国」と呼ばれた日本であったが、2000年代に入ると韓国、台湾勢が台頭、一気に国際競争力を失う。2012年4月、経産省はソニー、東芝、日立の中小型液晶ディスプレイ事業の戦略的統合を主導、産業革新機構を通じて2,000億円を出資、JDIを発足させた。しかし、それ以降、国策会社であるにも関わらず、否、であるがゆえにと言うべきか、「だらしない」経営が続く。
2014年には上場を果たすが赤字体質は常態化する。産業革新機構は2016年から2017年にかけて750億円、2018年にも200億円の追加資金を投じる。しかし、結局、自主再建の道筋を自ら描くことは出来なかった。2019年3月期の業績見込みについて同社は「売上は前期実績7,175億円から10%減、営業損益は200億円超の赤字」としたうえで、「通期最終利益の黒字化は困難と判断」とコメントしている(2019年2月14日付け、3Q決算の説明資料より)。

スマートフォン向け需要の急減、米アップルの不振、有機ELへのシフトなど、競争環境に劇的な変化があったことはその通りである。とは言え、市場構造変化の見誤りと対応の遅れは、すなわち経営者の失態そのものである。要するに、責任をとらずに済む者たちが主導した「選択と集中」戦略が、変化を起こすことで競争優位を獲得した海外勢に敗北した、ということである。