今週の"ひらめき"視点

2018 / 06 / 22
今週の”ひらめき”視点
海洋国家日本、世界に対してイニシアティブをとるべき機会を逃すな

15日、参院本会議は「改正海岸漂着物処理推進法」を可決した。洗顔料やボディソープといった化粧品や歯磨き粉には「マイクロビーズ」というプラスチック粒子が使用されており、こうした製品の廃棄物が河川や海に流れ込むことによる生態系への影響が懸念されてきた。本法案はこうした微細なプラスチックの使用制限について企業側に努力義務を課すものである。罰則規定は盛り込まれず、数値目標も書き込まれていない。業界サイドの取り組みによって使用制限が既に強化されている現状を鑑みると、法的対応における“周回遅れ”は否めない。

貿易問題における米国との対立がクローズアップされたG7首脳会議であったが、プラスチックごみによる海洋汚染の問題も討議された。6月9日には世界各国に対策を促す「シャルルボワ・ブループリント」を採択、更に、英、仏、独、伊、加とEUは自国でのプラスチック規制の強化と海洋生態系の保護を謳った「海洋プラスチック憲章」をまとめ、これに署名した。日本は米国とともに憲章への署名を見送っている。
欧州の対応は早い。英国はこの1月、数値目標を書き込んだプラスチックごみの削減目標を発表、EUも5月には使い捨てプラスチックの制限を規定した新たな制度を議会に提案した。トランプ政権による環境問題からの後退が顕著である米国ではあるが、マイクロビーズについては2015年12月、オバマ大統領が「マイクロビーズ除去海域法」に署名、昨年7月に製造が禁止された。P&G、ユニリーバ、マクドナルドといったグローバル企業もプラスチックごみの削減に対してそれぞれ対策を講じつつある。

国連によると世界のプラスチックごみの発生量は3億トン、うち800万トンが海に流出しているという。日本人の1人当りプラスチック消費量は米国についで2番目である。北太平洋には総量1億トン超、米テキサス州の2倍以上の面積を持つごみの島が浮遊している。国土の12倍の領海を持つ海洋国家で、かつ、プラスチック消費大国である日本の責任は軽くない。

2018 / 06 / 15
今週の”ひらめき”視点
自由貿易とアジアの不確実性が拡大、TPP11の地政学的な戦略性高まる

13日、新協定「TPP11」の承認案が参議院本会議で可決された。衆議院は既に関連法案も通過させており、与党は今国会での成立を目指す。
TPP11にはタイが正式に参加を表明、韓国、台湾、英国、コロンビアも関心を示す。また、これまで参加に消極的であったインドネシアも米国の保護主義化を念頭に「アジアに保護主義を持ち込ませないために協調すべき」(ユスフ・カラ副大統領)と語り、参加への意欲を示した。

一方、マレーシアのマハティール首相はTPP11の枠組みを評価したうえで、「貧しい国と富める国との自由貿易はどうあるべきか」との問題を提起、再交渉の必要性に言及した。米国市場への参入を取引材料に自国市場の開放を余儀なくされた新興国にとって、米国の離脱は「公正さ」を取り戻すチャンスと映る。とは言え、知的財産権の保護や電子商取引のルールを含むハイレベルな多国間協定が11ヶ国で合意されたことの意味は大きい。ルールは硬直化すべきではない。しかし、RCEPなど他の広域経済圏構想を主導するためにも発効を急ぐべきだ。

自由貿易を率いてきたG7の協調体制が米国によって揺らぐ中、中ロが主導するSCO(上海協力機構)12ヶ国首脳会議が青島で開催された。習近平氏は「世界の統治を完全なものにするための重要な勢力」と宣言、“非西側陣営”の結束をアピールする。しかし、SCOが“公正な自由貿易”の模範足りえないことは言わずもがなである。
12日、今や世界の不確定要因となった米国とアジアの不安定要因である北朝鮮との“歴史的な首脳会談”が実現した。先は見えない。それゆえにルールにもとづく国際協調の基盤を構築しておくことの意味は大きい。米中ロから独立したTPP11の戦略的価値はこれまで以上に高まった。

2018 / 06 / 08
今週の”ひらめき”視点
貿易戦争下でのG7、米の「孤立への暴走」を止められるか

明日からG7首脳会議が開催される。しかし、通商問題における対立は深刻だ。サミットの前哨戦となった財務省・中央銀行総裁会議では、米国に対する「懸念と失望」が議長声明として発表されるなど、日欧加と米との亀裂は決定的となった。
とりわけ、欧州勢は鉄鋼・アルミ関税に関する協議で米側が「輸出数量規制」を持ち出したことに強く反発した。WTOルールを無視した米国の一方的な交渉姿勢に会議は紛糾、結果、米国の孤立が際立つこととなった。

一方、トランプ氏は「貿易戦争には負けない」との従来どおりの強硬姿勢を崩さない。「G7への不参加、つまり、ボイコットもあり得る」との声すらあがる。
パレスチナ、イラン、パリ協定、、、国際協調の前提が米国の単独行動によって揺らぐ中、G7内の決定的な亀裂は世界の混迷要因にしかならない。北朝鮮、シリア問題、対中国、対ロシアという文脈においても同様である。米国の孤立は世界にとって大きなコストとなる。シャルルボワ・サミット(カナダ)で試されるのはまさにG6側の「覚悟」である。

かつて、中国は“朝貢貿易”で繁栄を極めた。中国に貢ぎ、中国から恩寵を受け取るという特殊な貿易形態が成立した。貿易のコストは相手国側が負担した。それゆえ、中国は海運つまり海の覇権に関心を持つ必要がなかった。しかし、これが後の衰退につながる。
今、目先の貿易利益の拡大に奔走するトランプ氏、果たしてそれは将来の何と“トレードオフ”されるのか。米国もまた大きな岐路にある。

2018 / 06 / 01
今週の”ひらめき”視点
政府、外国人労働力の拡大を「骨太方針」に。“共生”に向けての社会的コンセンサスは十分か

政府は外国人就労者の拡大に向けた新制度を「骨太方針2018」に盛り込む。外国人の一般労働者を受け入れる大義を「新興国の技能取得支援」から「国内の労働力不足の補完」へ実質的に転換する。
新制度の名称は“特定技能(仮称)”、5年間の技能実習を終えた就労者が業界団体等による技能試験に合格すれば更に最大5年間の就労が認められる。
具体的な数値目標も発表された。介護が毎年1万人、農業は2023年に現在の3.8倍10万3千人、建設は2025年で現在の5.5倍30万人以上、造船は2025年までに2万1千人、宿泊は現在の2.2倍2万1千人、留学生の就労についても規制緩和や手続きの簡素化が検討されているという。

しかし、4月12日付けの本稿でも指摘したとおり新制度の本質は依然“技能実習”のままである。家族の帯同は認められず、また、永住取得条件は直ちに満たされない。
OECDの外国人移住者統計によると2015年の日本への外国人流入者(ビザを保有し90日以上在留)は前年比5万5千人増の39万人、日本はOECD加盟35カ国中、独、米、英に次ぐ第4位の「流入大国」であり、実際、国内で就労する外国人は128万人に達する(2017年10月、厚生労働省)。
もはや、労働移民を認めないという“建前”の維持は困難であり、建前と現実とのギャップは無用な社会的トラブルの誘引となりかねない。在留外国人を社会に組み入れるためのソフト、ハード両面における体系的な準備を急ぐべきであり、一方で「日本の未来」に関するビジョンはきちんと描けているのか、もう一度問い直す必要がある。

2018 / 05 / 25
今週の”ひらめき”視点
是枝裕和監督、カンヌ最高賞を受賞。心を揺さぶる作品は“クールジャパン”を超克する

第71回カンヌ国際映画祭で是枝裕和監督の「万引き家族」がコンペティション部門の最高賞“パルム・ドール”を受賞した。日本映画の最高賞受賞は1997年の「うなぎ」(今村昌平監督)以来21年ぶりの快挙である。
また、コンペティション部門では「寝ても覚めても」(濱口竜介監督)、“監督週間”ではアニメ「未来のミライ」(細田守監督)、短篇部門でも「どちらを選んだのかわからないが、どちらかを選んだことははっきりしている」(佐藤雅彦、河村元気、c-project)が上映されるなど、日本映画のクオリティの高さはカンヌでも多いに注目を集めたという。

国内では、政府が進めるクールジャパン戦略にとって追い風、といった声もあがった。しかし、その推進役である官民ファンド「海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)」の苦戦ぶりはこの4月に発表された会計検査院の報告からも明らかである。
同機構は2013年11月に資本金375億円でスタート、2017年末時点では630億円へ増資、政府負担は300億円から586億円へ拡大した。この間に投資した案件は17件、2017年3月末時点における支援案件の損益は▲4,459百万円、累積利益剰余金は▲5,850百万円である。80言語以上に対応したローカライゼーションの基幹インフラ、オール日本コンテンツの有料衛星放送チャンネル、、、大型投資案件の多くが厳しい状況にある。

日本のカルチャーを世界に発信することに異論はない。とは言え、より重要なことは普遍的なコンテンツの創造であって、戦略的プラットフォーム、基幹インフラ、拠点ネットワーク、、、といったいかにも“霞ヶ関”好みのビジネスモデルから世界に通用する作品が生まれるわけではない。まず取り組むべきは創作、創造、製作現場に対する長期的な支援体制の構築である。
尚、私事ではあるが21年前に“パルム・ドール”を受賞した今村作品では、友人である梶川信幸氏が制作主任として映画づくりに参画していたことを思い出した。あらためて誇らしく思う。

2018 / 05 / 18
今週の”ひらめき”視点
東芝、メモリー売却の最終期限迫る。IPOの選択肢も浮上

15日、東芝は2018年3月期連結決算を発表、売上高は前期比2%減の3兆9475億円、当期利益は8040億円の黒字、自己資本は7831億円のプラス、2期連続での債務超過を免れたことで上場維持が確定した。
とは言え、最終損益を押し上げたのは原発子会社WHの債権譲渡益など一時的な要因であり、売却を前提としたメモリー事業が連結から除外されたこともあり営業利益は22%減の660億円にとどまった。

東芝は2019年3月決算で、メモリー事業の売却益9700億円を見込む。しかし、中国の独禁法審査の最終期限が28日に迫る中、承認の可否は依然不透明な状況にある。
決算説明会では「売却方針に変更はない」と言明したが、ここへきて「売却を中止し、IPOを目指す」ことも検討されている、とのニュースが流れる。

巨額な設備投資を必要とするメモリー事業で競争力を維持し続けることは容易でない。ライバル「サムスン」との体力差も大きい。スマートフォンの成長にも陰りが見える。しかし、事業売却、大型増資、子会社処分等を通じて債務超過を解消し“上場”に踏みとどまった今、高く売れる事業、つまり、稼ぎ頭でもあり、成長可能性でもある事業をあえて手放すことの是非を再考すべきであろう。
メモリー事業を抱え込むリスクは大きい。しかし、売却によって得た多額のキャッシュを投下するに値する事業戦略はあるのか。東芝は自身の未来をどう描き、そこに何を賭けるのか、問われているのは次世代戦略そのものである。