今週の"ひらめき"視点

2019 / 01 / 11
今週の”ひらめき”視点
トヨタ、開発中の運転支援システムを公開へ。KFSは“開く”と“拓く”

1月7日、トヨタは世界最大のIT見本市CESに合わせた記者会見で、開発中の安全運転支援システム「ガーディアン」を外販すると発表した。「ガーディアン」は自動運転分野におけるトヨタの中核技術の一つで、危険を関知するとシステムがドライバーから運転を引き継ぎ事故の発生を防ぐ。別の自動運転システムの誤判断を補正することも想定されており、「ガーディアン」を搭載することでより高度な安全システムが実現できるという。

自動運転の開発競争は大手自動車からGAFAやBAT、ITベンチャーに至るまで、国境や業界を越えて熾烈化している。そうした中、“後発”と評されてきたトヨタはソフトバンクグループやウーバーテクノロジーズと相次いで提携、巻き返しをはかるとともに、「ガーディアン」の外販で標準化競争におけるプレゼンスの拡大を目指す。

メーカーが開発途上にある中核技術の公開に踏み切るのは異例である。一方、大手ITもすぐに追随してくるだろう。そもそもシステムの外販は彼らの得意分野だ。OSを押さえることで市場を寡占化し、情報を占有するノウハウはプラットフォーマーたちの独壇場であり、PCがそうであったように“ものづくり”は急速にコモディティ化するはずだ。それでも自動車産業、すなわち、未来のモビリティ産業を生き残るためにはトヨタ自身が情報サービスベンダーとしての可能性を主導し、開拓しなければならない。「100年に一度の大変革期」とトップが語ったトヨタの危機感と可能性がここにある。

2018 / 12 / 28
今週の”ひらめき”視点
IWC脱退、未来に向けてのリスクは小さくない

26日、日本はIWCからの脱退を正式に表明した。IWCは1982年、資源枯渇を理由に商業捕鯨の一時中止(モラトリアム)を採択、日本はこれを不服として異議を申し立てる。しかし、86年には申し立てを撤回、商業捕鯨の中止を決定する一方、翌87年以降、南極海と北西太平洋で調査捕鯨を続けてきた。
従来、日本は「捕鯨は科学的調査が目的であり、鯨肉の販売は調査後の副産物利用」と説明してきた。しかし、反捕鯨国はこれを「調査の名を借りた実質的な商業捕鯨」と認定、溝は埋まらなかった。こうした状況の中、日本はIWCに見切りをつけ、排他的経済水域(EEZ)内での商業捕鯨再開を独自に目指す。

今回の政府決定に対して、国内の支持者は「他国の食文化に口を出すな。日本人は他人の伝統を否定したことはない。英断を歓迎する」と威勢が良い。もちろん地域の食文化やマイノリティの伝統産業は、「持続可能な社会」「多様性の尊重」という視点において否定されるものではない。しかし、仮にそこを論点とするのであれば「調査の副産物利用」などという“すり替え”ではなく地球環境の保全、希少生物の保護と同じ文脈において地域社会の文化と伝統を主張すべきだった。「商業捕鯨という名を捨て、調査捕鯨で実を取る」式の曖昧さを国際社会は受け入れなかった。つまり、そもそもの戦略の組み立て方に致命的な判断ミスがあったのではないか。自分の意見が認めてもらえないなら席を立つ、ではあまりにも幼稚過ぎる。

これまでの日本の主張は完全に色褪せた。国際社会からの不信と反発は避けられないだろう。一方、捕鯨は国連海洋法条約においても規制されており、EEZ内での商業捕鯨が認められるか疑問を呈す専門家も少なくない。加えて、一部の美食家や地方産品としての需要を越えて鯨肉マーケットは拡大するのか。ESG投資への説明責任を求められる外食や流通大手が積極的な拡販に動くとは考えにくい。
世界が自国第一主義に閉じ、多国間協調体制が揺らぐ今、日本はその“つなぎ役”としてプレゼンスを高めるべきではないか。決定の背景に国内向けのポピュリズムがあったとすれば、その代償は大きい。

2018 / 12 / 21
今週の”ひらめき”視点
人手不足と働き方改革、もう一段のコスト増に向き合う中小企業

13日、内閣府は2012年12月から始まった景気拡大が高度成長期の「いざなぎ」を越え、戦後2番目の長さになったと発表した。しかし、中小企業の経営に余裕はない。要因の一つが人手不足だ。外食、小売、介護はもちろん製造業でも深刻さは増す。商工中金が実施した調査(※1)によると中小製造業の64.2%が人手不足の状況にあるという。省力化・省人化、待遇改善など手は打ってきた。それでも問題が解消しないのは対策が十分でないということであり、換言すれば、投資を継続する原資に限界があるということだ。同じ商工中金の調査によると、コストの上昇を価格に転嫁できた企業はわずか11.5%に止まる。メディアは経団連発表のボーナス額を好景気の証として報じた。しかし、夏季賞与で比較すると経団連調査の平均が953千円(前年比+8.6%)であるのに対して、厚生省データによる全産業平均は384千円(同+4.7%)、従業員5人から29人の企業は264千円(同▲0.9%)に止まる。経費増が売上増につながらない中小企業の現実が数字として表れる。
※1.「中小企業の人手不足に対する意識調査」(2018年7月、株式会社商工組合中央金庫)より

中小企業にとってもう一つの懸念材料は「働き方改革法」である。もちろん、残業の上限規制や有給休暇の取得義務は労働環境改善に向けての取組みとして肯定的に受け止めるべきだ。しかし、来年4月の実施を控え「取引における一方の側の改革が、もう一方の側に負担を強いる」ことが差し迫ったリスクとして懸念される。公正取引委員会も「働き方改革に関連して生じ得る中小企業等に対する不当行為」について注意を喚起しているが、下請法違反の指導件数が一向に減らない現状を鑑みると心もとない。加えて、中小企業自身も法令への対応が要請されるわけであり、経営負担のもう一段のアップは避けられない。

今、世界では“持続可能な社会づくり”という観点から、「サプライチェーン全体の環境対策や労働環境に対して大企業は一定の責任を果たすべき」という考え方が広まりつつある。重要な視点であり、賛同する。しかし、間接取引先を含むすべての取引先の責任を担うことになれば、当然ながら大企業は自身が引き受けるコストやリスクの低減をはかるだろう。つまり、より規制がゆるく、より賃金水準が低い地域に拠点を移すはずだ。残念ながらこれは如何ともし難い。いずれにせよまず取り組むべきは、下請け事業者に対する買い叩き、支払い遅延、不当な減額、極端な短納期、発注内容の一方的な変更、協賛金や役務提供の強制を全廃することであり、相手方の付加価値を公正に認め、適正な対価を支払うことである。そうあってはじめて“働き方改革”を実現するための条件が、取引における双方の側に整う。

2018 / 12 / 14
今週の”ひらめき”視点
ファーウェイ問題、際限なき報復と牽制。米中対立に落とし所はあるか

11日、カナダで拘束されていた華為技術(ファーウェイ)の孟副会長が保釈された。逮捕は米国からの要請にもとづくもので、容疑は対イラン制裁違反とのことである。4月、同様の嫌疑で中興通訊(ZTE)が米国から締め出された。しかし、インパクトの大きさはこれと比較にならない。ファーウェイの売上高は10兆円、通信基地局で世界シェア1位、スマートフォンの出荷台数はアップルを上回る世界2位、米企業との取引も大きい。クアルコムのファーウェイ向け売上高は18億ドル、インテルは7億ドルに達する。日本企業も同様だ。セラミックコンデンサー、CMOSイメージセンサーなど日本メーカーの納入額は5,000億円規模に達する。

7日、日本政府は「情報の窃取、破壊など悪意ある機能をもつ機器を調達しない」との方針を発表した。特定企業の名指しを避けつつも米国に追従したことは明白である。国内キャリア大手3社も政府に同調する。ファーウェイ排除の動きは官から民へ拡大する。
一方、中国ではアップル製品の不買運動がはじまった。世界市場の3割を占める中国におけるボイコットの拡大と長期化は、自ずとアップルの世界戦略に影響を与えるはずだ。それはすなわち同社の成長に依存する米、日、韓、台湾の電子部材、電子機器メーカー、そして、その取引先である中小企業を揺るがす。

ある米軍幹部は米中の現状を「戦争に至る前の段階」という意味で“Gray War”という言葉で表現した。ファーウェイを巡る対立はもはや“貿易戦争”の枠内のものではない。次世代先端技術における国家の覇権を賭けた攻防であり、したがって、双方とも安易な譲歩はないだろう。世界は再び2つの陣営に色分けされるのであろうか。しかし、地球そのものの容量が限界を迎えつつある今日、分断はそれぞれの側にとって“制約”にしかならず、まして民にとって利はない。
11日、トランプ氏は「安全保障で米国にプラスに働き、通商協議に利するのであれば介入する」と述べた。政治による司法への介入は法治国家の根本を歪める。しかし、Gray Warが一歩進むよりマシだ。ここは異形の大統領の本領に期待したい。

2018 / 12 / 07
今週の”ひらめき”視点
COP24、スタート。パリ協定の実現に向けて国際社会は自らの行動を変えることが出来るか

2日、国連の気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)がポーランドで始まった。会議は市民代表として演壇に立った英国の動物学者D・アッテンボロー氏の「気候変動の放置は文明の崩壊を招く」との警告から始まった。
今回の会議について関係者は一致してその重要性を指摘する。世界のCO2の排出量は4年ぶりに増加に転じた(国連環境計画)。取り組みの遅れはもはや後がない状況にある。加えて、米国がパリ協定からの離脱方針を崩さないなど国際協調体制も揺らぐ。会議日程は2週間、はたしてCOPはパリ協定の枠組みを維持できるか、まさに正念場である。

とは言え、一時的な反動はあっても環境負荷軽減に向けての流れは変わらない。11月30日、ファーストリテイリングはユニクロの主要素材工場のリストを公開した。同社はこれまで世界の取引先縫製工場を順次公開してきたが、サステナブル・アパレル連合(SAC)が開発した環境評価基準(HIGGインデクス)をベースとした環境負荷対策を2次取引先にも拡大、適用してゆく方針である。
世界持続可能投資連合(GSIA)によると、ESG投資は総投資額の26%、22.9兆ドルに達する(2016年)。つまり、環境対策はあらゆる企業にとって株式価値向上のための戦略要件であり、また、社会的な存続条件でもあると言えよう。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると「地球温暖化を+2℃未満に抑えるためには2075年前後までにCO2の排出量をゼロにする必要がある」という。“脱炭素”は低炭素の延長線上にはない。テクノロジー、経営思想、ライフスタイル、社会システムの根本的なイノベーションが求められる。
こうした問題意識のもと、当社はこの度、脱炭素をビジネス・イノベーションの視点から構想する新組織「カーボンニュートラルビジネス研究所」を設立した。脱炭素をキーワードに既存の枠組みを越えた新たなビジネスを創発、創出したいと考える。業種業態、業歴、専門分野は問わない。多くの企業、研究者、ビジネスマンに参加いただきたい。

「カーボンニュートラルビジネス研究所」のご案内はこちら

2018 / 11 / 30
今週の”ひらめき”視点
ゴーン氏、失脚。しかし、日産、三菱自はかつての経営体質への退行を許してはならない

26日、三菱自動車工業は臨時取締役会を召集、カルロス・ゴーン氏の会長職と代表取締役の解任を決めた。
2004年、三菱自は2000年のリコール隠しに続き、新たな品質不正が発覚、当時、提携関係にあったダイムラー・クライスラーから支援を打ち切られた。この時、同社は三菱グループによる全面支援のもとで再建をはかったが、2016年には燃費不正問題が発覚、3度目の経営危機に陥る。三菱自が国交省内で「不正の事実」を公表したのが4月20日、三菱グループ各社が追加支援に逡巡する中、5月12日、日産は資本提携に正式合意、10月20日、2370億円の出資が完了、三菱自は危機を脱する。果たして当時の三菱グループにこのスピード感での投資判断が可能であったか。

その日産は1990年代末、国内シェアが3位に転落するなど販売不振が常態化、2兆円を越える有利子負債を抱え、経営破綻の危機にあった。1999年3月、仏ルノーが6430億円の出資を表明、もはや選択肢がなかった日産はこれを受け入れざるを得なかった。その後の経緯はご承知のとおり、ルノー傘下で生産拠点の再編、資産売却、人員削減、系列子会社や取引先の見直しを断行するともに車種の整理、新車投入など営業面でのてこ入れをはかった。結果、国内販売は2位を回復、有利子負債は2003年に完済、日産は“日産”として存続した。

ゴーン氏が逮捕されて一週間、日本中がこの話題で溢れかえる。ルノーとの経営統合を巡る陰謀説からクーデター説に至るまで、識者と称する人々が声高に持論を語る。テレビはリストラで職を奪われた元派遣社員の方を登場させ、ゴーン氏の人間性と高額な報酬に疑義を投げかける。

犯罪であれば罰せられて当然であり、巨大なグローバル企業グループを築いた“創業者”としての「驕り」があったことも事実であろう。しかし、それらと報酬の妥当性とは論点が異なるし、ここへきて逮捕容疑そのものに対する異論も出始めた。
真偽は分からない。司法に委ねるしかないだろう。しかし、唯一明確なこと、それは日産と三菱自、かつて両社を破綻寸前まで追い込んだ「責任の所在が曖昧な経営、問題を先送りする経営、身内の論理に閉じた経営」に再び立ち戻るならば、世界で戦い続けることは出来ない、ということだ。