今週の"ひらめき"視点

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
2026 / 07 / 31
今週の“ひらめき”視点
令和8年熊本地震、地域社会の早期復旧と日常の回復を願う

写真:2025年、復旧途上の熊本城(撮影:筆者)

7月28日、熊本を震度7の地震が襲った。10年前、平成28年の激震から立ち直りつつあった熊本が再び被災した。失われた命、壊れた生活基盤、余震への不安、酷暑の中での避難に言葉もない。心よりお見舞い申し上げます。

地域の防災拠点でもあったイオンモール熊本(嘉島町)の事故は衝撃的だ。大型商業施設と防災協定を結ぶ自治体は少なくない。自治体、施設運営会社は一体となって防災機能と緊急時のマニュアルを再点検いただきたい。日本経済への影響も大きい。熊本はTSMC、ソニーセミコンダクタソリューションズ、ルネサスエレクトロニクス、東京エレクトロン、三菱電機、ホンダ、アイシンなど半導体、電子部材、自動車関連企業の主力工場の集積地である。被災工場の早期復旧とBCP戦略の再点検が急がれる。

政府の地震調査委員会は今回の地震の原因について「10年前の割れ残り」の可能性を示唆した。日本は世界有数の自然災害大国であり、それはいつ、どこで起こってもおかしくない。国土地理院(国交省)が公開している“自然災害伝承碑”を是非ご覧いただきたい。地域として、企業として、個人として、どう備えるか。あらためて問い直したい。
参考:
地理院地図(国土地理院)

熊本県八代市は室町時代から続く“い草”の産地だ。当社は地場産業の活性化と日本文化の象徴でもある畳の伝統を次世代へつなぐべく、長年にわたり業界を支援させていただいてきた。再びの被災に心が痛む。昨年、筆者は復旧途上にある熊本城を訪れた。完全復旧は2052年度と伺った。残念ながらその日は遠のくであろう。まずは失われた日常の復旧、復興だ。そのうえで“熊本の誇り”を未来へ継承いただきたく願う。

2026 / 07 / 24
今週の“ひらめき”視点
失われつつある自然を回復軌道に。日本はネイチャーポジティブ先進国であれ

7月20日、海の日、テレビのニュースは日本生産性本部の「レジャー白書」を引用しつつ、海水浴場からかつての賑わいが消えたことを報じていた。同白書によると2024年の海水浴客はピークの1985年から9割減少したとのことである。猛暑、人手不足、紫外線による健康リスク、レジャーの多様化などが背景にあると説明される。しかし、そもそも海水浴に適した砂浜それ自体も全国的に縮小、減少しつつある。

ダム建設、川砂の大量採取、港湾整備は海岸への砂の自然供給を細らせる。加えて地球温暖化による海面上昇も砂浜の後退に輪を掛ける。国内有数の遠浅海岸で知られる九十九里浜(千葉)も例外ではない。今世紀末には20世紀末に比べ40%~90%の砂浜が失われるとされ、県は人工岬(ヘッドランド)を建設するなど砂の流出対策を講じてきた。一方、海岸線が分断されることによる景観問題や生態系への影響など人工岬による新たな問題も浮上する。失われた自然を人工的に取り戻すことの難しさが浮き彫りになる。

7月14日-15日、熊本市で「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026」が開催された。ネイチャーポジティブ(自然再興)とは、「2030年までに生物多様性の喪失を止め、2050年までに回復軌道へ反転させる」ことを目指す国際目標である(昆明・モントリオール生物多様性枠組、2022年12月)。主催者によると、会議には世界27ヵ国・地域から行政、企業、研究機関、環境団体などが参加、2日間で2725人が来場、ビジネスおよび金融セクターからの登録者が3分の2を占めたという。

会議では米国などの反動的な動きを踏まえ、行動の緊急性が訴えられた。強調されたのはネイチャーポジティブ経済への移行は長期的視点に立ったイノベーション機会であり、「コストではなく投資である」という点だ。日本は2023年3月、岸田内閣が「生物多様性国家戦略2023-2030」を閣議決定、これを引き継ぎ石破内閣は2025年の「骨太方針」、「地方創生2.0基本構想」にネイチャーポジティブ実現に向けた地域活動の推進、自然資本投資による企業価値の向上、ネイチャーファインナンスの拡大といった施策を盛り込んだ。現政権が掲げる「戦略17分野」にネイチャーポジティブへの言及はない。とは言え、この問題に政治的分断の種はない。政権、党派を越えた国策として、取り組みを加速いただきたい。

2026 / 07 / 17
今週の“ひらめき”視点
JAXA、再使用型ロケット、実験成功。次は8月7日、“みちびき7号機”

7月11日、JAXAは三菱重工をパートナーに開発を進めてきた再使用型小型実験機RV-Xの飛行試験を秋田県能代ロケット実験場で実施、同機は約11メートル上昇、そこから水平に約16メートル移動した後、計画どおりの地点に着陸した。JAXAはフランス国立宇宙研究センター、ドイツ航空宇宙センターとロケットの第1段目の再使用を目指す共同プロジェクト「CALLISTO(カリスト)」を進めており、今回の実験で獲得した技術は仏領ギアナの宇宙センターから打ち上げが予定されている実験機の開発にフィードバックされる。

回収・再利用型ロケットの実用化はイーロン・マスク氏率いるSpaceX社、ジェフ・ベゾス氏率いるBlue Origin社が世界に先行する。彼らの背中は遥かに遠いが日本では本田技研工業もサステナブル型ロケットの開発に挑んでいる。HONDAは2025年6月17日、北海道大樹町の実験場で全長6.3メートルの機体を高度271.4メートルまで上昇させ、誤差37センチメートルの精度で無事着地させた。英人形劇“サンダーバード1号”の基地帰還を彷彿とさせる映像に感激した読者も少なくないのでは? HONDAは2029年に準軌道への到達能力の実現を目指す。

観測、測位、通信を支える人工衛星システムは今や社会に不可欠な基盤インフラであり、先進国から途上国まで宇宙利用のニーズは拡大している。一方、人工衛星の製造はもちろん、ましてやそれを宇宙へ運ぶ能力を有する国、企業は限られている。宇宙輸送市場における競争は熾烈だ。打ち上げの安定性と低コストは必須の要件であり、RV-Xの成功は“未来の宇宙輸送市場における有力プレーヤー”への可能性を示すことができたという意味において重要なマイルストーンとなった。

気象、交通、医療、金融、物流、防災から安全保障まで、宇宙利用の多様化に伴い全球測位衛星システム(GNSS)に対する要求精度はますます高くなる。日本は米GPSを利用しつつ、都市部や山間部におけるGPSの機能補完と更なる高精度を実現すべく2018年から準天頂軌道衛星システム“みちびき”を運用している。筆者はかつて“みちびき”に先行した“きく8号(ETS-Ⅷ)”プロジェクトに参画、衛星ニーズに関する調査を担当させていただいた。宇宙の彼方ほど遠く離れた古い友人の一人として、“みちびき”単独での測位が可能となる7機体制の実現が待ち遠しい。H3ロケット9号機による“みちびき7号機”※の打ち上げは8月7日(金)4時30分~6時00分とのこと、成功を祈る!
※みちびき5号機はH3ロケット8号機の打ち上げ失敗により喪失、現在は5機体制で運用されている

2026 / 07 / 10
今週の“ひらめき”視点
クレジットカード決済代行「全東信」、破綻。地域経済に影響拡大

7月6日、飲食業を中心とした小規模事業者向けにクレジットカードの立替払いサービスを展開してきた(株)全東信が大阪地裁に破産を申請し、破産開始決定を受けた。負債総額は1259億円、飲食店からの手数料収入が途絶えたコロナ禍における業績不振が財務体質を悪化させたことに加え、クレジットカード会社の審査基準を満たさない店舗を不正に加盟店登録させたことで書類送検されるなど、経営の根幹は揺らいでいた。

クレジットカードによる決済から入金までのタイムラグを短縮する同社のサービスは仕入支払いが先行する飲食店の資金繰りを支えてきた。20万店※を超える加盟店は売上金の回収リスクとクレジットカード決済の停止による機会損失という二重の危機に直面する。信用調査大手の東京商工リサーチによると「2026年上半期における飲食店の倒産件数は過去最多」とのことであり同社の破綻がこれに輪を掛ける可能性がある。

このニュースで更に驚かされたのは、同社ではそもそもコロナ以前、20年以上も前から架空債権の計上、預金の水増し、未払立替精算金の未計上といった会計不正が行われており、長期にわたり実質的な債務超過状態にあったということである。地域経済を支える小規模飲食店等に対する間接支援という意味もあったのであろう、同社に融資してきた地方の金融機関も一斉に引当処理に動いており“今年最大の大型倒産”の影響は各所に波及しつつある。

オルツ、ニデック、エア・ウォーター、そして、KDDIグループ、、、スタートアップから大手上場企業まで会計不正が絶えない。6月22日、日本公認会計士協会はこうした事案を踏まえ、米国SOX法型の「確認書」制度を導入すべき、と提言した。米国では有価証券報告書の記載内容の適正性を経営者が確認したうえで宣言書を作成することになっており、虚偽記載があった場合、刑事罰の対象になる。上場・非上場を問わず業績の粉飾は株主、取引先、顧客、従業員はもちろん社会に対する背信行為である。「経営者の規律向上を図るべき」などと公認会計士協会から指摘されることのなきよう襟を正したい。
※全東信HPによると2018年に加盟店20万店を達成したと記載されているが、現時点における加盟店舗数は不明。

2026 / 07 / 03
今週の“ひらめき”視点
日銀の6月度「短観」、大企業の業況は大幅改善、一方、中小企業は蚊帳の外

7月1日、日銀が6月の全国企業短期経済観測調査を発表、大企業(製造業)の業況判断指数(DI)は5期連続で改善、プラス22となった。これは2018年3月調査以来、8年ぶりの高水準である。DIは業況が良いと回答した企業の割合から悪いと回答した企業の割合を引いた指標で、景気動向判断の指標として日銀が四半期ごとに実施している。

大企業(製造業)の好況要因は堅調なAI、半導体関連需要に加え、先行き不透明な中東情勢を見据えた前倒し需要の高まりにある。また、原材料の高騰に対する価格転嫁が進んだこともプラス要因だ。しかしながら、恩恵は中小企業に及んでいない。大企業のDIが+22であった一方、中堅企業は+17、中小企業は+9に止まる。先行きに対する見通しも同様だ。大企業の+17に対して中堅企業は+9、中小企業は+2と数字は見事に序列関係を表している。

6月25日、全国中小企業団体中央会(全国中央会)が5月度の月次景況調査を公表した。製造業のDIはマイナス37.4、「景況感は引き続き低位で推移」と総括したうえで「目詰まり解消に向けた政府の取り組みへの期待はあるが、石油関連製品の価格が急騰しており価格転嫁には時間を要する」と分析する。「生産活動に必要な全てのものが値上がりしている」「一部資材で出荷調整や発注制限が行われている」「多方面から価格改定の要請が届いており、客先への説明が追いつかない」「今後、価格転嫁を受け入れてくれると思うが受注減が懸念される」など、全国中央会に寄せられた声は深刻だ。

中小企業の価格転嫁率は改善傾向にあるとは言え54.2%に止まる※。大企業の好況感を支える価格転嫁の進展は約半分の中小企業にとって行き場のないコストになっているということだ。下請法による禁止行為も依然高水準だ。令和7年度の禁止行為違反件数は716件(前年比146%)、うち支払いに関する違反(支払遅延、代金減額、買い叩き)は547件(同128%)に達する。今年1月、下請法は規制内容を強化、名称も「取適法」に変更された。製造委託等における取引の健全化は賃上げ原資をサプライチェーン全体に分配するためにも必須である。日本全体が好況の果実を享受するためにもサプライチェーン全域における公正な取引の実現が求められる。
※「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査」、中小企業庁より

2026 / 06 / 26
今週の“ひらめき”視点
株主総会、ピーク。株主の権利はどこまで制限されるべきか

6月23日、日産自動車の定時株主総会が開催された。役員選任議案はエスピノーサ社長を含む11人が可決されたもののメインバンクであるみずほFG出身の社外役員候補2名のうち、永井素夫氏の再任が否決された。議決権の15%を保有するルノーが議決権行使を棄権、米議決権行使助言会社ISSとGlass Lewisも監査委員会委員長への再任が既定路線であった永井氏の独立性を疑問視、反対推奨を表明していた。

翌24日に開催されたヤクルトとあすか製薬の総会も役員選任議案が焦点となった。米投資ファンド「ダルトン・インベストメンツ」が独自の取締役候補を提案、会社側と対立した。しかし、結果は否決、会社提案の候補者が承認された。また、香港系投資ファンド「オアシス・マネジメント」による夏野剛社長の解任提案の行方が注目されたKADOKAWAの総会もこれを否決、夏野氏の再任が決まった。オアシスは京セラの総会でも山口悟郎会長の解任を提案、議決権行使助言会社2社もこれを支持したが、25日、否決された。

今年の総会シーズンも“もの言う株主”(アクティビスト)の動きが活発だ。旧態依然とした統治機構、資本効率の悪さ、低迷する企業価値を問題視し、経営陣の刷新、資産の売却、大規模な自社株買いを求める彼らの要求はある意味合理的である。しかし、極端に株主利益に偏重した要求は他のステークホルダーの利益を損なうとともに経営者から中長期的な経営視点を奪う。こうした懸念を踏まえ、今年3月、法務省法制審議会は株主提案の行使条件の厳格化や指名委員会の役員人事を取締役会決議で変更できるなど、言わば“会社側に寄った”会社法の改正試案を発表した。

とりわけ注目されるのは信託銀行やファンドの“金主”、すなわち実質株主の開示義務が盛り込まれた点にある。これは会社と実質株主との対話を促すとともに、複数の投資家が水面下で協調して株式を買い集め、一気に大株主として経営に圧力をかける“ウルフパック戦術”を牽制する狙いがある。大株主、支配株主の素性は経済安全保障の視点からも重要であり一定の監視と制約は必要だ。とは言え、“開かれた資本市場”を目指したこれまでの資本市場改革が企業の統治機構を鍛えてきたことも事実であり、少数株主の権限も不当に矮小化されるべきではない。株主と経営は企業の自立的で持続的な成長を実現するための両輪である。両者に健全な緊張関係をもたらす制度改革に期待したい。