生産活動の規格を考える

2012年8月
主任研究員 古山 正昭

近年、六重苦という言葉が産業界活動の中ではキーワードになっている。

  • 円高対策
  • 過剰な労働(雇用)規制対策
  • 高い法人税
  • 温室効果ガス規制対策
  • 自由貿易協定の遅れ
  • 高い電力料金

の主な六つを指すが、これらに加えて、人口減少や消費の停滞、自然災害の発生対策などの要素もあり、企業活動・運営には問題が山積している。このために、大企業を中心にして日本国内から海外に一つの解決策を見出す動きが加速しており、独自に進出する例から同業他社を伴っての進出や国内外の川上や川下の業態を伴うケースが相次いでいる。完成品メーカーのみならず、原料メーカーや中間品メーカーなどにもこの動きが拡がっており、国内産業の代表業種であり、従来では海外進出が考えられなかった食品メーカーも、海外の企業との事業提携やM&Aを介して展開している。

一方、最近の企業動向では、生産現場においての技術者数の減少や人材不足をはじめ、技術ノウハウの蓄積や研鑽、継承などの危惧感が叫ばれて久しい。工場現場やプラントの安全対策にも充分な対策が取れていないケースもあるようで、表面に出ない小規模アクシデントを含め、大きな事故に繋がることもある。

このように、日本の製造業においての生産活動の変動は大企業にも中小企業にも及んでおり、如何にそれぞれの立場や条件に応じて安全対策を講じるかが企業活動の大切な要素となっている。

ここで、この安全対策についてであるが、海外の企業の場合は自社独自の安全対策のルール作りを行なっており、このルールが場合によっては所属業界全体のルールに育って採用されたり、ひいては国全体の規則や枠組みに広がることがある。この安全対策のルールを作るために、それぞれの企業の内部では実験・試験を繰り返し実施し、その結果、独自のルールを構築している。翻って日本国内では、まず国の規制や指針などが設けられて、それが個々の業界や企業に適用される、企業が一部改編して準拠する、という流れが多い。世界と日本国内の安全に対する考え方の差異がある。一つの事例が、生産設備に関する規則や法律である。生産設備や製品自体に対するハード面(仕様上)やソフト面での規格(例えば、ISOやEN、ASME、他)は共通しているものの、設備の運営・稼動上の安全対策に関しては異なる。安全面での規則は、日本国内では労働安全衛生法が施行されているが、これは現場の作業員に対するものであり、設備や運営に対するものではない。この点、海外では設備の安全対策、特に防爆対策などには厳しい規制が設けられており、オペレーティングに関しての高い準拠意識がある。一方、日本側では国全体として指針がある程度、それも数十年前の取り決めで、現状は各企業(現場)の判断に委ねられているのが実情である。日本企業の生産活動における安全対策面での遅れは、海外進出する上での重要な改善キーポイントである。

総体的に世界市場では、米国地域と欧州地域のスタンダードにより二極化している、場合が多いといわれる。両極のスタンダードが、互いの領域を凌ぐ、競い合うとも言われる。日本の企業にとって、海外に進出する際には、既存のグローバルスタンダードに対応する態勢を持つことは必須であるが、もうひとつは日本企業独自の規格を併せ持つことが望まれる。それは、既存の規格を追従・改編する範囲内のものではなく、自ら編み出した新しい規格である。例えば、先述の安全対策面での海外事例(試験や実験の繰り返し後によるルール作り)のような、製品加工プロセスにおけるものづくり上のルール作りである。材料調達から加工、組み立て、仕上げ、梱包までの一環プロセス中における、ワーク(製品)と作業員と生産技術の3要素についての有り方である。どのようにマシンや手を動かし、その動かす際のコツやカン処は何で、この工程が占める全体のプロセスにおける位置付けは、などの規格化である。いわば、これまで人からひとへ継承されてきた生産現場での生産ノウハウのスタンダード化である。これに付随して、現場の環境や使用エネルギーの条件・対策と連携させての枠組みを構築することで、ISOを超えた新たな規格を目指すことにもなろう。これこそ、日本独自のものづくり大国の真骨頂である。

今後の日本企業の生産活動を展望する上で、活動拠点が国内外いずれにおいても、自ら試験・実験、検証した独自の生産規格を発揮して、他国他社に追従や模倣されないノウハウの保有と研鑽に期待したい。

研究員紹介

古山 正昭(主任研究員)

1990年矢野経済研究所入社。主に、国内外の工場設備や生産技術、部品や材料などの調査を担当。
環境・エネルギー関連の調査も含めて実績豊富。