コア業務へのシフトを進めたい日本企業


生産性の低い日本の現状

長きに亘って、日本はGDP世界第2位の座を維持してきた。日本人は、休みを取らずに長時間労働を行なう勤勉な国民性を持っており、そのような国民性が、これまで日本経済の成長を支えてきたのだろう。
しかしながら、日本はGDP世界第2位の座を2010年に中国に明け渡しており、さらに近い将来にはインドにも抜かれると予測されている。

さらに公益財団法人日本生産性本部の発表によると、2011年度の労働生産性(就業者1人当たり名目付加価値)の国際比較では、日本は主要先進7ヵ国中18連続で最下位、OECD(経済協力開発機構)加盟34ヵ国の中では、19位と低い位置にある。
日本の生産性が低いのは、多くの要員できめ細やかに時間を掛けて業務に対応する勤勉な国民性が原因とも言われており、必ずしも悪い結果と断言できない面もある。
しかしながら、日本は、既に4人に1人が高齢者となっており、これから少子高齢化がさらに進み、労働力人口が減少するため、今後は高い成長を見込みづらい状況にある。そのような状況下において、このような低い生産性のままでいいとは考えにくい。

BPOの普及が進まない日本市場

日本企業は、これまで直接業務の競争力向上には熱心であったが、間接業務の競争力向上(効率化)にはあまり目を向けてこなかった。
間接業務とは、収益を生み出す直接業務に対して、収益を生み出さない業務のことを指している。具体的に言えば、人事、総務、経理、情報システム部門などの間接部門が行なう業務や、直接部門が行なう単純作業などのことである。
欧米では、このような間接業務を外部のアウトソーシング事業者に委託し、収益を生み出す直接業務に自社のリソースを集中させる取り組みが行なわれてきた。このような取り組みはBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)と言われ、欧米では、生産性を高める手法として普及している。

一方、日本でも、欧米での普及に倣って、多くのアウトソーシング事業者がBPOサービスを展開してきたが、その普及は緩やかであり、いまだにBPOサービスが普及しているとは言い難い状況である。

日本でBPOが普及しない要因の第一に、まず「雇用の問題」がある。BPOサービスは、該当する業務を企業外部に出すために、その業務の担当者が余剰人員となってしまう可能性がある。レイオフなど人員整理に比較的抵抗感の少ない欧米企業と違い、日本企業では、人員整理に対する抵抗感は依然として大きい。そのため、人事リストラにつながる可能性を持つBPOサービスに対しての抵抗感は大きく、それが、BPOが普及しない要因になっている。

次に考えられる要因に、「業務品質の低下」に対する懸念がある。これまで日本企業では、間接業務にも優秀な社員を配置し、きめ細やかな業務対応を行なってきた。そのため、BPOの導入により外部事業者に業務を委託すると、業務対応レベルやセキュリティレベルが低下するのではないか、といったことが懸念されている。

これらの要因から、これまで日本企業はほとんどの業務を内製で行なってきた。特に金融危機以降、景気悪化の影響により取引量が減少したため業務量が減少し、社内人員に余剰感が出てきたことで、内製化を進める企業が増加している。

/h2_03.gif” alt=”求められる直接業務へのリソースシフト

日本のGDPが高い成長率を示していた時期であれば、間接業務に多数の優秀な社員を配置することに、なんら問題がなかった。きめ細かに業務処理を実現するために、間接業務にも優秀な社員を配置するだけの余裕があったためである。
しかしながら、前述した日本市場に高い成長率を期待しづらい状況下において、間接業務にこれまでと同様なリソースを配分したままでは、コスト競争力が低下し、経営が圧迫されてくる可能性が高い。従って、日本企業は、今後間接業務に対するリソース配分を減らし、収益を生み出す直接業務に人員をシフトしていくべきと考える。

これまで正社員が執務していた間接業務へのリソース配分を減らしていくためには、間接業務を誰でも取り組めるように標準化する必要がある。標準化によって業務を単純化、マニュアル化できれば、その業務をアルバイトに任せたり、外部の事業者に委託したりすることが可能となり、正社員を直接業務にシフトさせていくことができるようになる。そのようにして直接業務へのリソース配分を増加できれば、全社的な生産性を向上できる可能性が高まる。

少子高齢化が進み日本市場の成長に大きな期待をしづらい現在の状況下では、日本企業は世界市場で戦っていく必要があり、そのためには、欧米企業に負けないだけの生産性を確保していかねばならない。
内製を前提とした日本的経営で成功した体験を有する日本企業にとって、これまでの意識を変えることは簡単ではないかもしれない。しかしながら、このような意識を変えることができなければ、既にBPOの導入により経営の効率化を進めている欧米企業との間で、競争力の差は広がる一方である。
日本企業の経営者は、たとえ社内からの抵抗が強くても全社的な生産性の向上を目指して社員をより付加価値の高い業務にシフトさせていくべきである。また、間接業務の担当者も、たとえそれが自分の担当業務の縮小につながる行為だとしても、厳しい競争環境下に置かれているという全社的な視点で、構造改革を自発的に進める勇気を持つべきである。そのような改革を進めることができる人材であれば、もしもコア部門である直接部門に異動になったとしてももちろん活躍できるであろうし、アウトソーシング会社などへの転職という選択肢も新たに出てくるかもしれない。

繰り返しになるが、日本企業は、今後間接業務に関わる社員を可能な限り直接業務に配置転換し、全社的な生産性を高めていくべきと考える。問題解決を先送りにし、時期を逸してから構造改革に取り組んでも、その頃には既に欧米企業に追いつけなくなっているかもしれない。日本企業はこれまでの成功体験に拘泥することなく、積極的に生産性の向上を追及していくべきである。

2013年6月 主任研究員 石塚 俊


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