日本が世界最大の市場 音楽マーケットの不思議


日本の音楽市場が世界最大になった。IFPI(国際レコード産業連盟)によると、2012年の日本の音楽ソフトの売上高は43億USドル、アメリカの同41億USドルを初めて抜いて世界一になった。音楽の世界市場が165億ドルである事から、日本とアメリカで世界市場のほぼ半分を分け合っている事になる。3位以下は、イギリス13億ドル、ドイツ12億ドル、フランス9億ドルである。これら上位国の売上が縮小しているのに対して、日本は4年ぶりに成長に転じた。ただし、映画やドラマ、CMなどに使用される音楽に対する権利収入を含めるとアメリカが依然として世界第1位である。

一方、日本とアメリカでは、音楽販売の収益構造が大きく異なる。アメリカではCDやDVDなどの物理メディアによる販売が4割、オンラインでのダウンロード販売の比率が約6割であるのに対して、日本ではそれぞれ8割、2割とその比率が逆転している。

米国のBillboard誌は、人口が半分にも満たない日本がなぜアメリカと肩を並べられるのか、国民1人当たりの音楽への出費が2倍以上にもなるのか、その要因を以下のように面白おかしく分析している。

  1. 日本では何でも高い ? タクシー料金が710円から始まり、映画料金が1,800円もし、アルバムCDが3,000円もする世界で最も高い市場である。
  2. CDの値段が固定されている ? 日本のCDの価格は10年以上も変更されていない。ボーナストラックやDVD、写真集などが付属し、価値と価格のギャップを埋めている。また、CDばかりではなく本やDVDなど著作物のディスカウントが禁止されている
  3. 熱狂的なコレクターによる市場の過熱 - 最近のCDは、DVDが付属し、アイドルグループは同一曲を複数バージョン発表したり、ライブやメイキングDVDを付属したり、40ページの写真集が付属したりする。熱心なファンは、コレクションのためにジャケットだけが違うバージョンを買ったりする。日本で音楽ファンをやるのは安くは済まない。
  4. 違法ダウンロードがはびこらなかった - ナップスターのようなファイル共有が若者の間でそれほど流行しなかった。或いは、日本の人々は一般的に誠実だからなのか、若者のインターネット利用が携帯電話によるものが多かったからなのか、いずれにしても、日本以外のマーケットにおいて、違法ダウンロードが音楽市場を弱体化させた事は間違いない。日本の殆どの人々は、合法的なルートから正規の値段で音楽を買う(借りる)事を選んだのである。
  5. 陰謀説 ? 日本の音楽業界は、利益率の高い物理メディアを脅かすデジタルへの移行に積極的ではなかった。日本でiTunesが展開を開始したのは2005年、しかし、ソニーミュージックエンターテイメントがアップルにライセンスを与えたのは2012年で、それまではSMEに所属するかなりの数の楽曲が欠けていた。

結局は、日本には米国におけるiTunesに匹敵するような膨大な楽曲数をカバーするサービスが存在しない事が、物理メディアが隆盛を保つ事が出来た理由である。

IFPIによると、巨大マーケットとしてのポテンシャルを持つ中国は、アメリカの2倍のインターネットユーザー数を持ちなら、1ユーザーあたりの音楽支出はアメリカの1%程度に過ぎない。2011年時点で中国の音楽売上規模は6,700万ドルだが、これはアイルランドよりも小さい。中国で流通するデジタル音楽ソフトウェアの99%が海賊板と推測されているからだ。また、1.4千万世帯がインターネットアクセスを持ち、4千万台のスマートフォンが普及するインドも似たような状況にあると考えられる。

韓国は、海賊版撲滅に成功した例だ。2007年に著作権法をデジタル分野へも適用できるよう更新し、フィルタリングを導入するとともに、違法コピー業者の登録を義務付ける事で合法的なサービスへと導いた。こうした法律面の整備と豊富なK-popの楽曲が韓国のデジタル音楽市場を盛り上げ、2005年には世界33位だったところから、2011年には世界11位に躍り出た。

日本のデジタル音楽市場は、いわゆるガラケー向けの「着うた」で大きく拡大したが、スマートフォンの普及に伴い急速に失速している。世界のデジタル音楽市場は、オンラインでのダウンロードから定額配信サービスへとシフトしつつある。日本でも、ソニーのMusic UnlimitedやソフトバンクとAvexによるUulaなど、定額のサブスクリプションによるストリーミングやダウンロードが可能なサービスが誕生している。しかし、やはり、それぞれのサービスが提供する楽曲がレーベルで限定されており、網羅的なカバーが実現できていないという点では、ユーザーにとっての利便性は今ひとつと言わざるを得ない。

マーケットの様相が大きく変わっている音楽市場にあっては、日本が世界一の市場として留まることが出来る期間は限定的であろう。音楽コンテンツを国外に販売するためにも、世界の潮流を捉えることが急務になっている。

2013年9月 主任研究員 古舘 渉


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