アナリストeyes

世界人口の3割に迫るイスラム需要を取り込む

2014年5月
理事研究員 深澤 裕

日本企業はハラールに対する取り組みが必要

日本に来日する訪日外国人の数は、日本政府観光局(JNTO)によると2013年で1,036万人、その内イスラム教徒の多いマレーシアやインドネシアからの来日は30万人を超えており、その伸び率は共に30%を超える高成長となっている。

訪日するムスリム(イスラム教徒)が困るのはお祈りの場所やハラール対応の食事だといわれている。最近は、関西国際空港でいち早く、ターミナル内に祈祷室を複数個所準備、室内は全て「男女別室」とし、礼拝前に身体を清めるための「小浄施設」も設置するなどムスリムフレンドリーを打ち出した。また、隣接するホテル日航関西でも全客室(576室)内にキブラ(お祈りをする方向)を表示し、礼拝に必要な備品(礼拝衣装、礼拝マット等)の貸し出しや、ポークフリー・アルコールフリーメニューをレストラン内に揃えた。

そもそもハラールとはどういった意味かというと、イスラム法に基づく「ハラール=許された」という意味で、反対の言葉として「ハラーム=許されない」や「ナジス=不浄」といった言葉がある。豚肉やお酒はハラームとして有名であるが、豚肉由来のものやお酒由来の食品原料なども「ハラーム」の対象となる。彼らの基準は非常に厳しく、日本人には馴染みが薄いが、世界人口の3割近い16億人を超えるイスラム教徒を今後マーケットに取り込んでいくためには、ハラールへの理解が必要となってくる。

ハラール認証の難しさ

ハラールは、自分たちで気をつければよいという問題ではなく、インドネシアやマレーシアの正式な機関が審査をして認証する「ハラール認証」を取得しなければならない。

インドネシアとマレーシアの認証機関はそれぞれ違い、独自で運用管理がなされているが、インドネシアの認証機関が、LPPOM-MUI、マレーシアの認証機関がJAKIMである。

訪日イスラム教徒だけでなく、海外で彼らに食品や化粧品を販売していくためには、ハラール認証を取得しなければならない。

先日弊社は、LPPOM-MUIトップであるディレクター、ハキム氏と副ディレクター、ムティ氏をインドネシアから招聘し、ハラール認証取得のためのセミナーを実施した。2日間にわたるセミナーだったが、食品関連、化粧品関連、外食関連企業様が130名以上聴講され、日本企業のハラールへの関心の高さが伺われた。

セミナーの中で、食品原料、製造方法、物流、倉庫、容器にいたるまで何が「ハラール」で何が「ハラーム」なのかを詳しく解説して頂いたが、私たちが普通に口にする、酵素原料やアミノ酸、香料や着色料などにおいてもハラールである証明が必要とされ、取得に至る道筋は容易ではない。

海外マーケットで成功するために

日本は2050年には65歳以上の人口が35%を超え、GDPはインドやブラジル、インドネシアに抜かれて世界8位となるという予測もある。日本企業はイスラムに限らず新たな販路と巨大マーケットを求めて世界市場へどう対応していくのか、進出していくのかを考えなければ成長は難しい。ただ、一口に世界市場と言っても、各国毎に現地における消費事情や商慣習、文化や宗教などが違い、それを理解しなければ、成功は難しい。今までの日本企業のビジネスにおける常識が通用しないこともしばしばである。一方で、海外における日本ブランドの信頼性や日本企業への期待は決して小さくない。クールジャパンの認知度合いはまだ決して世界規模大ではないが、もっと日本を知れば文化や経済交流は活発に行われるはずである。その意味で、自分たちをPRし、相手を知るという相互のマーケティング活動は益々重要になってくるだろう。

研究員紹介

理事研究員 深澤 裕

ファッション、リテール、宝飾分野などに多数の調査実績を持つとともに、国内外で講演活動を行う。
特に2000年より同分野の中国での市場調査、コンサルティング活動や日系企業の中国進出支援にも注力している。2014年よりアジアグローバルグループの責任者として海外マーケティング活動に従事している。