アナリストeyes

【次世代スーパーコンピューター】自然災害へ挑む

2016年6月
理事研究員 忌部 佳史

熊本地震が発生し、被災された方々には心よりお御見舞申し上げるとともに、一日も早い復旧と市民生活の再建、地域経済の復興を祈りたい。東日本大震災に続く自然の脅威に、人間の無力さを感じざるを得ない一方、復興に立ち向かう方々から、人間の強さ、たくましさ、勇気を感じさせていただいている。

自然災害に挑む人間の情報通信技術(ICT)に関する取り組みとして、スーパーコンピューターを使ったシミュレーション技術を取り上げたい。

文部科学省では、スーパーコンピューター「京」の後継機となるポスト「京」の開発に着手。「京」は2011年に性能ランキングトップ500で世界一を獲得したスーパーコンピューターである。世界で初めて10ペタフロップス超えを果たしており、日本が誇る名機といってよい(ペタは10の15乗、フロップスはコンピュータの性能指標の一つ)。

その後継機が目指す性能は「京」の100倍、1エクサフロップスであり、その性能を持つコンピューターは、「エクサスケール・コンピューティング」と呼ばれる。われわれ素人には、その価値がイメージできないが、スーパーコンピューターの専門家である齊藤元章氏は著書「エクサスケールの衝撃」の中で「エクサスケール・コンピューティングが現実のものとなったとき、それによってもたらされる変革は、これまでわれわれ人類が経験してきたあらゆる変革よりもはるかに巨大で、本質的で、根源的なものになる」と指摘。その圧倒的なシミュレーション能力、最適化構造探索により、例えば超高性能な蓄電池などが短期間で開発できるようになり、現代のエネルギー問題なども解消できるとしている。

このポスト「京」だが、20年度からの本格稼働を目指すという。わが国の貴重なコンピューター資源として、国家的に解決を目指す社会、科学的課題に利用されることが期待されている。昨年、九つの重点課題が選定され、その中に「地震・津波による複合災害の統合的予測システムの構築」が含まれた。

ここで行われるのは、地震・津波による災害・被害シミュレーションの解析手法の開発だ。ポスト「京」では、津波による構造物の被害、避難・交通・経済活動の影響などを詳細な都市モデルを使って計算することで、都市全体の一次・二次被害のシミュレーションを行うことを予定。こうした実験にはスーパーコンピューターが欠かせない。「京」で数年かかる計算をポスト「京」では数十日に短縮できるという。

これまで災害対策は経験則に基づき行われていたが、シミュレーションで予測することができれば、重点地域や対策方法の考え方などにも大きな影響を及ぼすだろう。避難・交通といった災害対応のための社会科学シミュレーションも視野に入っており、被災後の迅速な復旧に向けた効果的、効率的な取組スケジューリングなどにも役立つものと考えられる。

自然の脅威に対し、人間は確かに無力である。これからも地震を防ぐことはできない。しかし、人間にはその脅威に対応して生きてゆく力があり、こうした取り組みもその一つといえるだろう。

株式会社共同通信社「Kyodo Weekly」2016年5月16日号掲載