注目を浴びる遺伝子検査キット市場

2017年9月
理事研究員 大仲 均

近年、「遺伝子検査キット」市場への参入企業が増加し、活況を呈してきた。
遺伝子検査には、医療機関での診断目的のもの、一般消費者がインターネットなどを介して購入する「DTC(Direct To Consumer)」と呼ばれるものがある。このDTCのキットは、人が生まれつき持っている遺伝子の特徴を調べる「ヒト遺伝学的検査」の一種であり、ちまたで多く目にするのは、このタイプのものが多い。

利用者は、まずインターネット、バラエティショップ、スポーツ施設などのチャネルでキットを購入する。検査方法は簡易で、綿棒を使い唾液や口腔粘膜を採取し、専用の容器で送るものが多い。採取の際の痛みや危険性は無い。その後、数週間から2ヶ月程度で検査結果のレポートが郵送されるか、Web上で検査結果を閲覧するような仕組みとなっている。価格は数千円から5万円程度といったところ。この価格差は、分析するメニュー数等に因る。検査項目は、疾患リスクやアルコール耐性、肥満のタイプなど、体質に関連するものが多い。

参入企業として、DeNAライフサイエンス(マイコード)、ジーンクエスト、ジェネシスヘルスケア(Gene Life)、エバージーン(Dear Gene)、イービーエスなどが挙げられる。

これら企業を、グループ構成や提携関係から見ると興味深い。エバージーンは、コンテンツ配信事業を展開するエムティーアイのグループ企業である。ジェネシスヘルスケアは、三井物産が出資しており、両社は食品分野の商品開発でパートナーシップを組んでいる。さらに今年8月には、楽天が同社に出資したことを発表した。

ジーンクエストは、ヤフージャパンが展開する事業「ヘルスデータラボ」での遺伝子検査を受託している。同事業は、多くの人のデータを解析することにより、各人の体質に合った病気の予防法や治療法の根拠を見つけるというものである。その後同社は、ユーグレナの完全子会社になることが今年8月に発表されたばかりである。

業界参入を果たしたこれら企業の顔ぶれを見る限り、単に遺伝子検査に留まらず、関連事業との相乗効果を生み出しながら、他の健康サービスや予防医療へ取り組む姿勢がうかがえる。

このように多様な動きを見せる当業界であるが、課題も存在する。
2014年の経済産業省の報告書では、今後業界として議論すべき重要な課題として、分析の質の担保、科学的根拠の担保、情報提供の方法が挙げられている。

NPO法人個人遺伝情報取扱協議会(CPIGI)では、適正な遺伝子検査サービスの品質確保に向けた枠組みとして、経産省ガイドラインを踏まえた業界自主基準と、遵守状況の認定制度を設けた。その後第1期として、9社10サービスが同制度の認定を受けている。

分析の質の担保および科学的根拠の担保については、検査の実施体制、分析対象となる遺伝子や学術論文、または判定のアルゴリズム等が大きく影響してくる。

これら課題に対し積極的に取り組んでいる企業もある。検査を海外企業に委託する企業もあるなかで、イービーエスでは自社の検査体制を構築している。また検査対象とする遺伝子についても、多くの企業では数種類を分析しているが、同社では肥満系のキットで5種、肌質系のキットで15種を対象とするなど、精度向上に取り組んでいる。

しかし、当該市場全体の見通しは不透明である。拡大基調にはあるものの、市場規模はまだ数十億円と見られ、一部の企業の取り組みだけでは、市場規模の拡大は見込めない。また、消費者の信頼を損なうようなことが一部でも存在すれば、業界全体のイメージが大きく損なわれるリスクもはらんでいる。

また、当該市場を急成長していると見る向きもあるが、ライフサイクルからいえば、まだ成長期とはいえない。参入企業は多くなってきたものの、キット自体の認知度は高いとはいえず、まだ導入期であると考える。であれは、業界全体で消費者または法人ユーザーへの普及や啓蒙活動、信頼度向上を目的としたマーケティング活動を展開していくことが、市場の拡大および健全な成長に繋がるであろう。