高齢化社会で注目される低栄養の問題

2017年10月
理事研究員 加藤 肇

日本は世界第2位の長寿国(2016年の平均寿命は男性が80.98歳、女性が87.14歳)で、多くの日本人は健康的な生活を送り寿命を全うする。飽食の時代とも言われる程に日本人の食生活は豊かである。

そんな日本で話題になるのが『低栄養』である。健康的に生きるために必要な量の栄養素が摂れていない状態を低栄養と言うが、特にたんぱく質とエネルギーが充分に摂れていない状態を『PEM(Protein energy malnutriton)』(たんぱく質・エネルギー欠乏(症))と言い、長寿大国日本の高齢者の間でこれが増加しており、医療や介護の世界で注目されている。

一般に高齢になると、食事の量が少なくなり、あっさりしたものを好むようになるため、食事に偏りが生じやすくなる。このような食生活を長く続けると、たんぱく質やエネルギーが不足し、PEMとなるリスクが高まる。また、果物や生野菜、肉類を余り食べず、野菜類も煮物しか食べなくなると、ビタミンやミネラル類も不足しがちとなる。固い食べ物や繊維質の多い食べ物を食べるのが難しくなり、食物繊維が不足することもある。特に寝たきりの高齢者でその割合が高くなっている。

厚生労働省の「平成27年 国民健康・栄養調査」によると、65歳以上の高齢者に占める低栄養の割合は16.7%で、年齢が上がるに連れ低栄養の割合が増える傾向にあり、85歳以上では29.1%、3人に1人が低栄養の状態にある。

低栄養傾向(BMI<18.5 kg/m2)の高齢者の割合(65歳以上、男女計・年齢階級別)

この様に統計的にも日本の高齢者の低栄養は顕著であり、食事を通じた栄養改善が喫緊の課題となっている。

加齢に伴い筋繊維の質が変化し筋肉量が減少し脂肪の量が増加する。このことで、敏捷性が失われ、加齢とともに加速度的にこれが進行する。筋力低下とそれに伴う様々な障害が積み重なることで、日常の行動に大きな障害が発生するが、これを『ロコモティブシンドローム』と言う。

低栄養が原因となるロコモティブシンドロームであるが、加齢による筋肉量の減少は避けられず、その減少速度を遅めたり、ある程度回復させるには適度な運動と良質なたんぱく質の摂取、及び筋力を維持するためにビタミンDの摂取が必要となる。適度な運動とは、運動による刺激を筋肉に与えることで、筋肉組織中のたんぱく質の増加維持を図る運動である。筋力は一定の負荷をかけることで維持・向上するが、ウォーキングや健康体操だけでは心肺機能を高めたり、柔軟性を高めるだけに留まり、筋力の低下を食い止めることは難しく、ここで注目されるのが「レジスタンス運動(筋力トレーニング)」である。高齢者にとっては適度な負荷による筋肉トレーニングで筋肉量を維持し、介護に至らない体作りが必要となる。また、この筋力運動に加え、良質なたんぱく質を摂取することで筋肉量が維持され脂肪量が減少することが実証されている。

以上の様に、高齢者の低栄養問題は運動と栄養改善により予防、改善が図れると言われる。なお、低栄養の問題は高齢者に限ったものではなく、特に若年女性における過度なダイエット(食事制限)は、年齢に関係なく問題視されている。高齢者と同様に、運動と栄養改善は男女、年齢に関わらず、現在の日本人には重要な課題であり、日々の健康管理に努めたいものである。