アナリストeyes

「建てる」から「活用」・「サービス」の時代へ

2018年2月
主席研究員 菅原 章

「新設住宅着工」頼りの住宅産業

2010年代に入る頃、それはリーマンショックの影響で新設住宅着工数が70万戸台になった後である。このまま新設住宅着工が低迷すれば、2010年代は住宅産業の転換期として今後を占う10年になると見込んでいた。

新築(フロー)から既築(ストック)へと住宅政策も変更となり、住宅ストック(中古住宅)について様々な有識者の議論が重ねられ、次々と新たな政策が打ち出されるようになった。「中古住宅=安かろう、悪かろう」というイメージから脱却し、リノベーション住宅のような再生住宅が登場し、「中古住宅2.0」といった市場が形成されつつある。住宅ストックの話題で盛り上がっている2010年代といえる。

「しかし」である。
新設住宅着工数は、2010年以降多少の凸凹があるにせよ平均着工数は約90万戸台となっていて、直近では単年度で100万戸に迫る着工数まで回復をしている。したがって、住宅産業全体では「新築から既築へ」という温度が少しトーンダウンし、再び新設住宅着工「頼り」となり、基本的な産業構造に大きな変化はあまり見受けられなくなった。

今後、2019年10月には消費税の再増税、2020年以降には新築住宅における省エネ基準の義務化といった着工数の減少に向けたターニングポイントとなりうる事象が予定されている。また、少子高齢化という人口動態の影響もより濃く反映されることもあり、結果的に2020年代に住宅産業の転換期が「後送り」されたと考えられる。

住宅着工統計の長期時系列(年度計)

新設着工数で約2割減少 ~ 新築住宅事業以外の一手とは ~

次のように統計データをみると、インパクトの大きさが単年度の70万戸よりも大きく感じていただけるだろうか。

新設住宅着工数は単年度をみると、直近実績としか比べないため、然程減ったように感じないが、10年間の平均着工数として時系列にみると、明らかな減少傾向がみて取れる。仮に、2017年度以降110万戸台で推移しても、10年間の平均着工数は100万戸に満たない。2000年代と比較すると年間平均で約20万戸近くの減少となる。これは、ハウスメーカーや主要なマンションデベロッパーが年間に供給する戸数よりも大きい。したがって、住宅関連産業の事業者は、新築での売上規模は、単純計算で2000年代と比較すると2割程度低くなっている計算となる。

市場規模でみると、新築市場だけで戸当たり約1,700万円(建築着工統計より)の工事費を掛け合わせると、約3.4兆円もの市場規模が縮小した計算となる。その金額と等しいだけの住宅ストック市場が形成されていればよいのであるが、住宅リフォームや中古住宅流通量を加えてみても、失われた新築相当の市場規模には及ばない。

住宅着工統計の10年間の平均着工数(年度系)

もちろん、省エネ・創エネに対応したスマートハウス、長期優良住宅、ZEH(ゼット・エネルギー・ハウス)など、次世代の新築住宅の魅力を提案し、1戸あたりの住宅価格の向上を図っている。また、海外事業を拡大したり、住宅リフォーム部門を拡大したり、戸建事業から集合住宅事業へ展開したり(もしくはその逆)、非住宅の建築事業分野を拡大したり等々、新築事業の減少分を様々な形で補っている。

「建てる」から「活用」・「サービス」の時代へ

日本のGDPを経済活動別のシェアを時系列で比較すると、1970年にはサービス産業の合計は47%であったが、2010年71%、2014年70.6%と圧倒的に「広義のサービス産業」(第1次・第2次産業以外を指す)の構成比が高くなっている。

したがって、住宅関連産業も「住宅建設」セグメントのウエイトが減っていく中で、どのようにサービス産業をビジネスとして取り組むのかという点に、企業や産業構造の変革が求められてきていると考える。「モノ」である住宅を建てて供給するという産業構造から、「コト」や「時間」を提供する産業に対応する必要がある。企業の大小はあっても、供給してきたストックを効果的に活用するビジネスモデルの拡大が、住宅産業の「2.5次産業化」となって発展していくものと考えられる。

経済活動別のGDP 経済活動別のGDP(2014年)

例えば、今後注目される住宅関連産業としては、次のようなサービスが注目されている。

<住生活サービス>

  • 家事代行サービス:働き方改革によって、家事もシェアする時代へ
  • 戸建住宅管理:マンションのように戸建の建物を管理するサービス
  • 宅配等のシェアサービス:Doormanやスマートカーへの宅配など

<活用サービス>

  • シェアハウス:「1世帯1戸」ではない住まい方
  • タイムシェア:駐車場の時間貸しのように住宅・部屋の時間貸しサービス
  • 空家空室活用:民泊(Airbnb等)、住居を宿泊施設として活用

働き方改革や少子高齢化社会といった社会構造の変革によって、ライフスタイルそのものが大きく変革する時代に突入していく。生活者の様々なニーズを個々にサービス提供することは難しいが、このようなサービスを「面」展開することで事業性が確保されることが期待される。そもそも住宅産業は、地域に根ざした産業である。それぞれの地域の特性にあった様々なサービスが台頭していくものと考えられる。